舞ーHIME 宿命の紅星   作:スーパーくるみ

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プロローグ

世間はゴールデンウィーク。

旅行や娯楽施設などで羽を伸ばしているなか、自分は山の中に続く長い坂を上っていた。

まだ春の涼しい風が吹きはするが、流石にこの道のりを歩けば汗もしたたる。

回りを見渡すと道路の両脇に広がる街路樹の桜はほぼ散り落ち、葉桜になっている。

見慣れない道のりを手に持ったスマートフォンを見ながら進んで行く。

長く続くこの坂道をこれから毎日のぼるとなると少し憂鬱になりそうだ。

学園の資料にはバスがあることが書いてあったからこれからはバスを使うことにしよう。

そんな事を考えているうちに目的の場所が見えてきた。

 

「あれが風華学園か」

 

坂の上には今まで見てきた風景とはまるで違っていた。

山の中腹に広がる広大な敷地。

その敷地内に歴史を感じさせる校舎と近代的な校舎をガラス張り構造物を挟むようにたてられている。

あれは教会だろうか

他にもテニスコートに実技棟。

学校案内にはバラの庭園もあると書いてあった。

自分が通っていた高校とは規模から違う

これが自分が通うことになる学園

とりあえず理事長に挨拶をするために約束した理事長室に向かうことにした。

 

「今の時間は……げっ!!約束の時間過ぎてる!!」

 

時間を確認するためにスマートフォンに目線を移した。

その瞬間、自分の頭上から声が聞こえてきた。

 

「ちょっと!どいてどいて~~!!」

「はぁ?」

 

顔をあげるとそこには一人の女の子がいた。

だが、彼女は止まる様子もなく自分のほうにむかってきた。

あまりのことで咄嗟に反応することもできず、女の子は真っ正面から突進してきた。

ぶつかった反動で自分は後ろへ倒れ、ぶつかってきた女の子は足がもつれたようで、止まることは出来たがそのまま体の上に倒れてきた。

 

「!危ない!!」

 

自分の上に倒れてくる彼女に反射的に手を伸ばし、何とか彼女を受け止めた。

 

「大丈夫……」

 

体から血の気が引いていく

 

「あ……」

 

逆に彼女は自分がどういう状況か気がついたようで、顔が紅くなっていった

理由は単純。

自分の左手が生温かく柔らかいものを掴んでいる……

受け止めた時の場所が悪かった……

右手をスマートフォンが塞いでいたため、とっさに左手に伸ばしたため、彼女を受け止めることは出来たが……

結果、彼女の胸を思い切り掴んでいた……

 

「い……」

 

 

彼女は直ぐに起き上がると口から一言、言葉を漏らし恭司から離れて体を震わせながら右手を強く握り閉めていく……

次に何が起こるかなど見るに明らかだ

 

「一端落ち着こう!!な!!」

「いやあぁぁ~~!!」

 

悲鳴をあげながら彼女がノーモーションで放たれた右ストレートは顔の右側にクリーンヒットした。

 

「アガァッ!!」

 

目に閃光がはしり、彼女に倒れこんだが、彼女は直ぐに払い落とし、自分を道路に置き去りにしたまま、何処かへ走り去っていった…

道路に置き去りにされた……

意識はあるが体が言うことを聞かない……

今日は日曜日。

回りには誰もいない……

ここで死ぬのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~もしかして高村恭司さんでしょうか?」

 

不意に頭上から現れた女性の顔

ピンクの髪にカチューシャをした女性

メイドさん?

何で道路にメイドさん?

なんで自分の名前を?

学園の関係者?

色々な思考が頭の中を駆け巡ったがこの状況で自分の口から出た言葉は……

 

 

「すみません……助けてください……」

「かしこまりました」

 

 

道路に置き去りにされた男子が不意に現れたメイドに助けられた。

 

 

 

 

 

……何故メイドさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイドさんは理事長の身の回りのお世話をしている人物らしい。

恭司の到着が予定より遅いため体の不自由な理事長に変わり、彼女が恭司を向かえに来たらしい。

彼女に連れられて、恭司は目的地の理事長室の前までたどり着くことが出来た。

扉の前で深呼吸をしてから恭司は理事長室の扉を叩いた

 

 

「失礼します」

 

理事長室に入るとそこには車椅子に乗る一人の少女がいた。

白い髪が印象的な自分より幼い少女

学園のホームページに載っていた少女だ。

冗談かと思っていたが、実際に見て冗談では無いことを理解した。

この風華学園の理事長。風花真白本人だ

 

「貴方が高村恭司さんですね。お顔が少し赤いような……」

「そこは触れないで下さい……」

 

言いたくても言えない……

恥ずかしくて言えない……

『名前も知らない女の子の胸を揉み殴られました』

恥ずかしさもあるが普通に警察沙汰。

自ら停学になりたいほど学校生活がきらいな人間ではない。

当然黙秘する

 

「貴方がよろしいのでしたら……」

 

と言いはするが気になって仕方がないようだ。

無理もない。

なんとなくだが分かる

恐らく腫れている。かなり腫れている

風が吹いて痛みを感じるくらいなんだから

骨にヒビでもはいってるんじゃないか?と思うほどだ。

見るに見かねて真白の車イスを押していたメイドが部屋を出ていくと数分もしないうちに冷えたタオルを持ってきてくれた。

タオルを顔に当てながら恭司はメイドさんに促され、理事長室の中央に置かれた来賓用のソファーに腰掛けた。

自分の向かいに車椅子に乗った真白が来たとき、恭司はどうしても聞きたかった事を聞いた

 

「事前に事情は説明しましたが本当に良いんですか?」

 

自分で言うのもなんだが彼女が僕を学園に迎え入れるのには何のメリットも存在しない。

自分が仕出かした事を考えればむしろマイナスに成りかねない。

事前に調べたがこの学園の歴史はかなりの物だ

元々が格式高いお嬢様学校。

今は共学になっているもののかつての名残と言うべきか、この学園の生徒には政治家や上流階級のお嬢様が数多く在籍している

地元外でも進学校としても名を馳せているほどの学園だ。

正直、今の自分にはあまり相応しい学園ではない

 

「電話でも申し上げましたとおり、わが校は貴方のお母様に生前お世話になりました。それを鑑みれば転校の手続き位お安いものですよ」

「はぁ……」

 

そう言われても簡単には飲み込めない

そもそも母が何をしたのか全く知らないのだから

母は学者だったが自分が幼いとき一緒に乗った車が事故に遭い、死んでしまった……

自分は奇跡的に無傷で助かった

だから、母の仕事が世間にどんな影響を与えたのか、そもそも与えられたのかすら知らない

だから、いくら恩返しといわれても素直には受け取れなかった。

そんな自分を気に止めることもなく、真白は淡々と話続けた

 

「それに事前に受けてもらったテストの結果から考えてみても貴方の転校を拒む理由はありません」

 

そう言って真白はこちらに向けて満面の笑みを浮かべた

自分より幼いはずの真白が放つ年不相応の雰囲気に恭司は何も言えなくなってしまった。

まるで操られているように書類にサインをしていた。

さすがこの年齢で学園の理事長をしている天才少女。

これが彼女の人身掌握術なのだろう。

 

恭司がサインした書類を側にいたメイドに渡したとき、不意に真白から意外な質問が飛んできた

 

「ところで、貴方はお母様の研究については何かご存知ですか?」

「母の研究ですか?すみません……僕も考古学や歴史学の学者というくらいで詳しくは知りません。研究資料も事故の時に全部……」

 

今でも鮮明に思い出せる事故の光景……

燃え盛る車……焼けるタイヤの悪臭……

何故、自分だけ……

どす黒い記憶が頭の中を支配しかけたとき、恭司の嗅覚が甘い香りを感じた。

目の前には一つのティーカップが置かれていた。

 

「お茶はいかがですか?気持ちが落ち着くと思いますよ」

「ありがとうございます」

 

メイドさんが入れてくれたようだ。

中のミルクティーの水面に自分の顔が写った時、今、自分がどんな酷い顔をしていたかはじめて気がついた

口をつけるとミルクティーの香りと甘味が体に染み渡るのを感じた。

メイドさんが言ったように自分の中にあった黒い感情が薄れていき、穏やかな気分になった。

 

「気分を悪くしてしまいましね……もうこの話はおしまいにして学園生活について話しましょう」

 

そのあとは真白が言った通り、学園生活での注意事項や学園の校則、学費についてなど恭司の生活についての話だけで恭司の母の話は全く出なかった

 

ひとしきりの説明が終わり、引っ越しの荷物の整理もあるため今日はこのぐらいにしておくことになった。

理事長室の扉を開ける前に、恭司はどうしても言いたい事を言うために、扉の前で真白の方に振り向いた

 

「あの!今回は本当にありがとうございます!!」

 

そう言って恭司は部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

彼が学園から出ていくのをこの学園の主である真白は彼が今までいた理事長室のテラスからメイドと共に見ていた

彼の姿が見えなくなった時、車椅子を押しているメイドが口を開いた

 

「真白様……彼が例の……」

 

「えぇ……」

 

「本当に切り札になるのですか?」

 

「それは分かりません……ですが彼の存在は今回の『祭』に大きな影響を与えると私は考えています」

 

 

そう願いながら真白は彼が見えなくなった門を見続けていた。

 

 

学園から少し歩いた所にバス停があった

時刻表を見るとバスは当分来ないようだ。

バス停のベンチに腰を降ろすと空を見上げ、目を奪われた

空にはさんさんと太陽が輝いていた

だが、彼が目を奪われていたのは太陽ではない……

太陽の側で一際は輝く1つの星……

日中にも関わらずまるで当たり前のように……

その星は紅く輝きを放っていた……

何故か自分しか見えない紅く輝く星……

 

「今日も一段と紅くて綺麗だな……」

 

何故、自分にしか見えないのかは分からない……

生前、母にこの事を話したら、何故か母の顔から血の気が引いていくのを見た時、普通ではない事に気が付いた。以後、この事は誰にも話していない……

だが、見えないものが見えるのには何か理由がある筈だとはなんとなく感じでいる……

その『理由』を理解する事に成ることを感じながら……

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