舞ーHIME 宿命の紅星   作:スーパーくるみ

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少し時間が空いてしまいましたが、何とか投稿できました


新しい我が家へ

「……おかしい」

 

先程からずっとバスを待っているがいっこうに来ない

予定表の時刻は過ぎている

もう一度時間を確認するために時刻表をみると……

 

「あっ!今日は運行してないのか!」

 

時刻表の下に小さく

『5月3日~5月5日の間。運行休止』

と書かれていた

考えてみたら当たり前か

この学園には学生寮がある

夏休みならともかくゴールデンウィークのような連休中に家に帰る学生は限られるだろうし、坂の下にもバス停があった

わざわざ坂の上のバス停を使う市民もいないだろう

 

 

「……徒歩で行くしかないか」

 

まあ、坂のしたまでだし、登りよりは楽か

 

「残念だったね」

 

「え?」

 

自分の後ろから急に声を掛けれた

振り返るとそこには一人の男の子がたっていた。

白髪に赤い瞳。

服装から学園の中等部の生徒だろう。

 

「見ない顔だね。名前は?」

 

年上にタメ口。

しかも人をなめ腐ったような態度。

 

「馴れ馴れしいヤツだな。お前」

 

そう言って恭司は目の前の後輩を睨み付けた。

年下に対し大人げない気はするが、コイツからは関わってはいけない匂いがぷんぶんする

だが、平然と目の前の後輩は喋りかけてきた。

 

「僕は凪。炎凪。見ての通り唯の学生さ……そう……唯のね」

 

普通のヤツは『唯の学生』何て言わない

もしかして……中二病?

 

 

「高村恭司。休み明けからここの学生だ。」

 

一応自己紹介はした。

触らぬ神にナンとやらだ。

恭司は凪に背を向け、スマートフォンに視線を落とした

あからさまに関わらない事を凪に行動で見せつけた。

しかし、凪は口を閉ざすことはなかった。

 

「ここはいい学園だよ。可愛い子も沢山いるし、面白いことも沢山始まるからね」

 

中二病と言うよりナチュラルに空気の読めないやつらしいが……

先程からの上からの態度……

年上に対する礼儀の無さ……

いくら空気の読めないヤツであっても流石に頭にきた。

 

「だから!馴れ馴れしいって……」

 

一言文句を言ってやろうと勢い良く振り向いたがそこには誰もいない……

少し前まで声がしていたはずなのに……

振り向いたら凪は居なくなっていた

 

「どこ行った~~~!!」

 

あまりの怒りで叫んではみたが、叫び声は自分以外誰もいない坂道に木霊するだけ……

 

「……行くか」

 

あんなヤツの事は忘れよう。

意識を切り替え、先程までの可愛そうな自分とはお別れし、唯、目的地に付くことだけに意識を向け、坂道を下っていった。

 

 

 

 

 

 

「この辺は変わらないな」

 

学園から徒歩で来たためすでに空は青から橙色に移り変わっていた。

時間はかかったがやっと自分の知る景色に変わり、不思議と足取りも軽くなる。

学園周辺には土地勘はないが、少しはなれたこの住宅地は別だ。

自分が幼いとき、母とよくこの辺に遊びに来ていた

理由は目の前にある一軒家だ

 

「この家も久しぶりだ」

 

これから住むところが見つかるまでの仮住まい。

幼なじみの実家。天河宅だ。

最後に来たのは小学生くらいだった気がする

久しぶりに会う幼なじみはどうなっているだろう……

そんな淡い期待も胸にチャイムを押した

 

 

「はい。どちら様でしょうか?」

 

玄関に出てきたのは可愛らしいエプロンをした幼なじみ……ではなくエプロンが不釣り合いな強面の男だった

 

「……すみません家を間違えました」

 

どうやら家を間違えてしまったようだ。

今度はアプリで確認しよう

住所を入力し、案内をスタート

すると音声ガイダンスが起動した

『目的地に到着しました。案内を終了します。』

歩かずに目的地に着いたようだ。

再び玄関に向かい強面の男と再度対峙した

 

「どちら様でしょうか?」

「あの……こちらは天河さんの家でお待ちがいないでしょうか?」

「左様でございます。御用件は何でしょうか?」

 

あってる……あってるけど……

誰!?

前、来たときには居なかったよ! 

俺の幼なじみはこんなにエプロンが似合わない強面じゃなかったはずだよ!!

そもそも性別が違う!!!

自分の頭の中が完全にパニックだ。

強面の男が放つオーラに圧倒され、冷や汗が止まらない……

 

「お兄ちゃん?」

 

背後から聞こえる声に気が付き、振り向いた。

そこに立つ一人の少女には見覚えがあった……

 

「もしかして……朔夜か?」 

 

少女は夕焼けが綺麗な空にピンクの髪をなびかせていた。

その光景にかつての面影をみた……

何時も父親にしがみつきながら、こちらを見ている少女……

だが今、目の前にいるのは年相応に成長し、恥ずかしながら胸が高鳴るってしてしまうほど綺麗になっている。

自分の幼なじみ。

天河朔夜がそこにいた。

 

「お兄ちゃん!」

 

朔夜はこちらに向かい走りだし、飛び付いてきた

急な事で驚いたが何とか朔夜を受け止めることができた。

 

「久しぶりだな。」

「あと、『お兄ちゃん』って呼ぶのは止めてくれないか。同じ一年生だろ」

「でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」

 

朔夜は嬉しそうに言うと、自分の胸に顔を埋めた。

朔夜の温もりが伝わってくる

そんな状況に恥ずかしくなり直ぐに朔夜を引き剥がすと彼女は少し名残惜しそうな顔をした。

 

 

「朔夜様。彼が先生が話されていた方ですか?」

 

こちらの様子を伺っていた強面の男は朔夜に自分の事をたずねてきた

 

「そうだよ!サギー」

「サギー?」

 

そんな可愛い名前なの……

顔からして『ジョセフ』とか、『セバスチャン』の方がまだしっくりくる……

そんな事を考えているとサギーなる人物はこちらに手を向け、握手を求めてきた

 

「お初にお目にかけます。天河家の執事。嵯峨野孝也ともうします。」

「初めまして。高村恭司です。」

 

恭司も手をだし、握手に応じた

『嵯峨野』で『サギー』ね……

何となく納得……

色々とインパクトが強い人みたいだけど優しい人柄がしゃべり方から滲み出ている。

悪い人では無さそうで先程まで顔だけで判断していた自分を少し恥じた。

嵯峨野は挨拶を済ますと、直ぐに恭司を自分の部屋に案内をした。

 

 

朔夜の居間でパソコンを開いていた

どうやら先程の事を画面の向こう側の人物に説明しているようだ

 

「いや~すまない。嵯峨野君に会うのは初めてだったな。混乱させてしまった」

「ご無沙汰しています。天河教授」

 

パソコンの画面に映し出されたのはテンガロンハットに無精髭をしたまるで冒険家の洋画に出てきそうな風貌をした男性。

彼こそがこの家の主であり、朔夜の父親。

天河諭である。

母の友人であり同時にライバルであった人だ

天真爛漫だった母とは一緒に研究をした時に馬があったようでそれから家族ぐるみの付き合いになった。

仕事柄、母が研究で遠出するときよくこの天河宅にあずけられていた。

そのため、恭司にとって天河教授は父親のような存在だ

今回の転校もこの天河教授がいる街だからという所も大きな理由でもあった。

 

 

「そう言えば実家から電話があったぞ」

「……何と言っていましたか?」

「……『自分の立場を理解するように』だそうだ」

「そうですか……」

 

挨拶程度の電話だろうが、自分に対しての伝言を残す辺りに相手の嫌らしさを感じ、怒りがわく……

事情を知っている朔夜は隣にいる恭司が放つ雰囲気が変わったのを感じた……

 

「天河先生にご迷惑はかけません。住むところも直ぐに見つけます」

「ははは!気にすることはないよ!君ならずっとこの家にいても構わん!」

「そうだよ~お兄ちゃんなら大歓迎だよ!ね!サギー」

「ええ。それは勿論」

「でも……若い男女が同じ家にいるのは……その~」

 

いくら幼なじみとはいえ、前回会ったときより数年時が流れている

正直、あの泣き虫でいつも天河教授にくっついていた時の朔夜とは別物ではないかと思うくらいに綺麗になっていた。

自分だって年頃の男の子だ……

やましい気持ちが芽生えても不思議はない

 

「家には嵯峨野君がいるし、万が一の時は君が嫁に貰ってくれればいい!!」

「お父さん!!」

 

天河教授の発言に朔夜は顔を紅くして怒鳴ったが、当の本人はそんなことは何のその。

ははは!とまた高笑いをあげていた

 

「前向きに検討させてもらいます」

「私も研究で家を空けることが多いからな。よろしく頼むよ」

 

そう言って天河教授はテレビ電話のスイッチを切った

実際、天河教授の提案は願ってもないことだ

学生が住むところを探すのは一苦労だ 

ソレをしなくていいと言うのは学生にとっては嬉しい限りだ。

だが、同時に迷惑をかけてしまうのではないかという考えも頭に浮かぶ…… 

まぁ、天河教授がああ言っていたわけだし、結論は直ぐにつけなくても大丈夫だろう。

お金の心配は無い、気長にいこう

 

そんな事を考えながらソファーに深く体を沈めた

そんな時、自分の足に違和感を覚えた。

足に生暖かいものを感じ足元に目をやると、そこには綺麗な毛並みをしあ小動物が自分の足にすり寄っていた

 

「みゃあ~」

「何だコイツ。猫?犬?」

 

見た目は子犬のような、子猫のような姿をしているが、本来、猫科や犬科の種類の動物に有るはずのない角が生えてる。

初めて見る謎の生物がそこにいた

 

「可愛いでしょ~ツキヨミっていうの」

 

朔夜はツキヨミと呼ぶ生物を抱き抱え、柔らかそうな毛並みに頬を擦りよせた

 

「何て言う動物なんだ?」

「さぁ?」

 

さぁって……ソレくらいは調べろよ……

浅い考えに呆れはするがどんなものにも優しい所は朔夜の美点の1つだ。

それに、ツキヨミ自身が朔夜にとてもなついている様子を見る限りでは害のある生物ではないだろう

 

「よろしくな」

 

そう言って、ツキヨミの頭を撫でた

頭を撫でられているツキヨミも気持ち良さそうに目を細めた

 

「みゃ~!」

「ツキヨミもよろしくって」

 

よくわからない生物にも歓迎され、恭司の新しい町で始まる新しい生活が始まった

 

 

 

 


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