ボーイ・ミーツ・ガール   作:クレナイ

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お団子

「おーい、三人とも。いったん勉強の手を止めて、お茶にしないか?」

 とある休日の事務所に、プロデューサーさんの声が響く。

 ボクは小梅さんの宿題を手伝っていました。ボクたちのことを、横から輝子さんはヌボーッというような様子で眺めている。

 プロデューサーさんは、両手になにかが入った箱を乗せて来た。

「ぷ、プロデューサー・・・・・・その箱には、なにが入ってるのかなー、フヒヒヒッ」

 輝子さんが、興味深そうにしながらプロデューサーさんに尋ねる。

 宿題に取り掛かっていた小梅さんも、輝子さんの言葉につられてその箱に注目しています。どうやら集中力は宿題から離れつつありますね。

まったく、プロデューサーさんは・・・・・・。まあ、いいですよ。なんたって、かわいいボクは心も寛大ですからね、許してあげますよ。

「ああ、これか?」そう言って、プロデューサーさんが箱のふたを開けると「実はな、今度かな子にもってくる予定の仕事先が有名な和菓子店でさ。店舗PRに協力してくれるお礼ってわけでもらってきたんだ」

 箱の中には串に刺さった三つの小さなお餅――お団子が入っていた。

 

                    ***

 

 ボクたちがCGプロダクションに所属して、アイドル活動をするようになったきっかけは、街中で偶然プロデューサーさんに声をかけられ、スカウトされたというように似通っていた。

 もともと自己主張が強かったボクに比べて、所属当初の二人は今と比べて口数も少なく、積極的に誰かとかかわろうとする様子もなかった。

 自分たちから意識的に交流を拒んでいるようにも見えた。対面したときの第一印象として、あまり好意的に受け入れられていないという感じはあったので、あまり気にはしていなかった。

 それに、二人の趣味をすんなりと受け入れられるだけの寛大さが、そのときのボクにはなかった。それが無意識のうちに、二人との間に距離のようなものを作っていた原因かもしれない。

 思い出してみると、当時の二人は事務所にいるようで、いない――本当に存在感が希薄だったと思う。

 

                     ***

 

 プロデューサーさんがお団子の入った箱をテーブルの上において、それから給湯室に姿を消した。たぶんお茶を準備しに行ったのだと思う。

「あ、わ、私も……お、お手伝い、します……」

 と、立ち上がった小梅さんが、その背中についていくようにした。

 ソファーに座り、ボクと輝子さんは二人が戻ってくるのを待っていた。

 春を告げるようにして開花した桜もすっかり散ってしまい、つい数日前までは梅雨の期間ということで雨が降り、ジメジメとした日が続いていた。でも、そんな梅雨が終わってしまえば、すぐに夏の季節がやってくる。

「うぅー……ギラギラ、太陽の光は苦手……フヒッ」

 そんな弱気なセリフを口にしている輝子さん。また家に引きこもらないか、なんだか今から心配になりますね。

 休日ということもあって、ボクたち以外のアイドルや関係者の姿はない。

普段個性的な人たちであふれていますからね。まあ、その中でも当然かわいいのはボクですけどね。

にぎやかさに慣れているからか、打って変わって静けさ漂う雰囲気の中にいるのは、妙な居心地の悪さを感じていた。

「だんごー、だんごー」一本の串団子を手に取りながら、輝子さんが気分良く歌う。「三つ並んで仲良しだんごー、フヒヒッ」

 ボクも彼女に習って一本を手に取って見る。白い団子が三つ並んでいる、いたってシンプルなものだ。他にはあんこや豆、みたらしとあるのに、これだけはなににも包まれていない。どうしてなんだろうか。

「ふむ……」気になり、ボクは一足先に口をつけた。お団子の一つをかみ締める――甘く、とろりとした食感が口いっぱいに広がった。

 

                     ***

 

 ボクたち三人の距離、仲がぐっと深まったのは、初めてユニットを組むことがきっかけだったはず。

 ユニット結成の理由が「三人の身長が同じ――――なんだか串に並ぶお団子みたいでかわいいだろう?」なんて暴露してくれたプロデューサーさん。

 あと三年もすれば、ボクだってナイスバディの女性になるんですからね。その小ばかにしたような発言、後悔しても知らないんですからね、ふんだ。

「きょ、今日のライブ……う、うまく……できる、かな?」不安の色が色濃く顔に出ている小梅さんが、消え入りそうな声でつぶやいた。

「ヒャッハアアアッ! そんなチキンハートでライブに勝てるわけねえだろ! もっとテンション上げていけよおおおっ!」普段のヘビメタ風の衣装でないにもかかわらず、緊張からなのか、輝子さんも若干から回りしていた。「ふ、ふひっ!? あ、えっと……は、初めてのユニットライブだから、が、がんばってこー」ハッと気づいた輝子さんはあわてて年長者として引っ張ろうと思ったのか、声をあげた。とはいえ、もともと自己主張の少なかったこともあってか、意識していなければ聞き逃してしまう声だった。

 仕方ない。ここはボクがなんとかしなければいけませんね。

 そう一人納得したボクは、

「二人とも、なにをそう緊張しているんですか?」やれやれといったように首を振りつつ、言葉を続ける。「このボクと一緒のユニットを組んでいるんですよ? 今日のライブが大成功しないはずがないじゃないですか」

 自信満々に言ったけれど、正直なところボクも緊張していた。

 でも、こうでもしないと大成功どころか、凄惨な結果が待っているのは目に見えていた。

 呆気に取られている二人を無視してボクはそれぞれに、

「輝子さんは年長者らしく、ボクと小梅さんを引っ張ってください。大丈夫ですよ。なにかあっても、ボクが後押ししますから。

 小梅さんはもう少し自分に自信をもってください。大丈夫ですよ。仮に失敗しそうになっても、ボクが手を伸ばしますから」

 結果として、初めてのユニットライブは大成功に終わった。あれだけ豪語したボクですが、悔しいことに途中歌詞を忘れたり、ダンスを間違えたりしてしまいました。

 それでも、幾分か緊張の解れた二人がボクのことをサポートしてくれました。

 さすがボクですね。こういうこともあろうかと、始めから予想していたんですよ。それに、ボクの独擅場になるよりも、二人の活躍もあったほうがファンのみんなも喜ぶと思いますからね。せっかくのユニットライブなんですから、二人にも花を持たせようというボクの優しさだったんです。

 

                    ***

 

 給湯室からお盆にお茶の入った湯飲みを乗せたプロデューサーさんと小梅さんが戻ってきた。

「なんだ? 幸子、お前我慢できずにフライングしたな?」

 悪戯っぽい、にやにやとした笑みを浮かべています。

「ボクは特別なんですよ。それより、プロデューサーさん。お茶をください。せっかくなので、ボクがお茶菓子に合うかどうかを判断してあげますよ――――うーん、まあまあですね」プロデューサーさんから湯飲みを受け取り、一口飲みながら感想を口にする。

「あ、ご、ごめんなさい……」すると、なぜか小梅さんが謝罪するように言った。「そ、そのお茶を……入れたの、わ、私」

「フヒッ……、さっちゃん辛口評価だねー」

 知らなかったとはいえ、ついいつもの調子で。それにしても、まさか輝子さんが追い討ちをかけてくるだなんて。

「お、おいしいですよ、小梅さん」苦し紛れになりつつも「まだまだ伸びしろはありますからね。今後の努力に期待してますよ」

「どうして、お前が上から目線で言うんだ。まあ、幸子のそれは今に始まったことじゃないけどな」プロデューサーさんが苦笑いしつつ言った。

 ソファーに座り、テーブルにはお茶とお団子が並べられる。

「いただきます」と手を合わせて挨拶し、甘味を堪能する。

 串に刺さった三つのお団子。年列にするとボクたち三人のようだ。上から輝子さん、ボク、そして小梅さんだ。

 真ん中のボクは上を支えて、下を引っ張る。まさに中心的存在。ボクにぴったりじゃないですか。でも、逆に上に引っ張ってもらったり、下に支えられたりもする。初めてのユニットライブのことを考えると、お団子とボクたちは案外似ているのかもしれない。

 それなら、三つのお団子を並べている串は誰なのか。

「プロデューサーさん。もっとボクたちを輝かせられるように頑張ってくださいね」

 言葉を向けた先のプロデューサーさんは、ゴマダレ団子に舌鼓を打っていた。

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