ボーイ・ミーツ・ガール   作:クレナイ

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代打

「新人だからって遠慮する必要はないんだ、一発ガツンッとかましてこい、ガツンッと」

 

 背中を力強く押し出してくれるような、そんな声が飛ぶ。その声にあたしはステージに向かう足を一度止め、被っている野球チームの帽子をスッと軽くあげながら微笑みで応えた。

 最終組のトップ。ここまで何人もの新人アイドルや人気アイドルがステージに立ち、思わず引き込まれるような歌やダンスを魅力的に表現していた。そして、あたしも参加しているこのLIVEバトルもいよいよクライマックスを迎えようとしていた。

 少しだけ頼りなさを感じさせるも、優しさが服を着て歩いているような男性――あたしのプロデューサーがまるで指示を出す監督のように腕組みをして自信ありげに頷いている。全然似合っていないけれど、あたしはそれだけで頑張れるような気がした。

 

「友紀、お前なら一打逆転満塁ホームランを決められるさ」と大々的な注文を付けてきたけど、あたしが勝つにはそれくらいできなければ難しい。でも、不思議と不安や心配はなかった。ギュッと握り締めた手にはジンワリと汗がにじんでいる。小さく震えるそれは――武者震いだ。アナウンスであたしのエントリーナンバーと名前が読み上げられる。会場を埋め尽くすほど集まっている観客からの拍手喝采が地鳴りのように聞こえる。胸から込み上げる高揚感が心地好かった。

 

                 *  *  *

 

 小さい頃からあたしは父親と一緒に野球を観戦していた。夕食を食べてからテレビの前に移動すれば、テレビ画面に映る映像は、年頃の少女が見るようなアニメではなく、大の男性たちが汗と泥にまみれながらプレーしているプロ野球だった。アニメが見られないからといって、泣き喚くということはしなかった。

 子どもというのは純粋そのもので、まるでスポンジが水を吸収するように、あたしも父親が得意げにしてくれる解説や説明を覚えていった。そして、父親の影響からあたしも自然と野球が好きになっていった。

 小学校、中学校と通してあたしは女子でありながら野球部に所属した。でも、ほとんど試合には出してもらえず、選手としては悔しい思い出を残しただけだった。

 中学卒業後、あたしはそれなりに県下でも野球に関しては有名な高校へと進学した。

 高校生になれば、流石に男子も体格が大人のそれへと変わっていく。いくら野球が好きだからといっても、女子のあたしが男子たちに混じって練習したとしても途中で付いていくことができずに、ギブアップすることは目に見えていた。

 それでも、あたしは野球への情熱を捨てることができなかった。だから、選手としては無理なら、マネージャーとして選手たちを後ろから支えてあげようと思った。

 県下でも有名な高校ということもあってか、所属する部員の人数はそれなりにいた。でも、ベンチに入ることができるのはほんの十数人程度。残りの多くは応援に回らざるを得ない。あたしもその経験をしているから、一年生の頃からスタンドから応援しているレギュラーになれなかった部員たちを見ていたし、彼らの気持ちはそれなりに理解していた。

 入学してから二年が経ち、あたしは高校三年生になり、野球部のマネージャーも三年目に突入していた。入学した当時はまだ子どもっぽさを残していた男子同級生たちも、厳しい練習を積み重ねてきたからか、妙に大人っぽく見えた。部員の中に、一年生の頃からレギュラーとして活躍し、女子生徒たちから人気の高かったエースがいた。当然、数人いる女子マネージャーたちも彼に対して熱い視線を向けていた。マネージャーとして選手たちにタオルや飲み物、夜遅くなってからは軽食を配ったり、泥だらけになった選手たちのユニフォームを洗濯したりするけれど、エースの彼に対しては他の選手たちに比べて妙に手厚くしていたように思う。一日置きに誰がエースの彼に持っていくか順番が決められているなど、彼が聞いたら引きかねないほど徹底されていた。

 そんな彼女たちとは違って、あたしはユニフォームに一度も背番号が付いたことがない、何十人もいる補欠の中の一人に対して恋をしていた。かっこよさを絵に描いたようなエースの彼に比べたら特徴のない、どこにでもいるような普通の言葉が当てはまる容姿をしていた。

 気になり始めたのは、彼が練習が終わってからも一人室内練習場に残っているのに気付いた時からだった。

 ある日、他のマネージャーと一緒に帰宅路を歩いていたのだけれど、忘れ物をしたということでそこで彼女たちと別れ、慌てて引き返した。女子マネージャーが使っている更衣室と室内練習場が近かったこともあり、まだ明かりがついていることに疑問を覚えた。最初は消し忘れでもしたのだろうと思っていたけれど、そっと覗き込んだところ、汗びっしょりになりながらも、バッティングマシーンが投げる球に対して必死にバットを振っている彼の姿が目に映った。一球に対して、絶対にレギュラーになるんだという思いが込められた一振りが、空気を切り裂くようなスイング音と室内に響き渡る快音に変わって聞こえた。その時あたしは、響くその音とは違う、心地好い痛みを感じるほどの心臓の鼓動音を確かに聞いていた。耳が熱くなるのを感じた。すぐにはわからなかったけれど、この感覚がきっと――恋をしているってことだったのだろう。

 その後すぐに、あたしは高校近くにあるコンビニに走ってドリンクとおにぎりを買いに走った。戻る際も全力疾走したから、練習場に着いた時には息も絶え絶えだった。マネージャーになってからほとんど運動をしていなかったから、かなり体力が落ちていたのに気付き、少し落ち込んだ。

あたしが練習場に入ると、彼はあからさまに驚いた。自主練習をやめ、二人でベンチに座っておにぎりを食べながら話をした。

 

「俺、みんなより下手糞だからさ……。やっぱり倍練習しないと上手くなれないんだよ」

 

 初めて高校野球を間近で見た時、このままでは駄目だと、彼は感じたとのこと。この自主練習は一年生の頃からずっと続けていた。

 

「先生……監督からも何度か退部を勧められたよ。無理だとわかっていながら無駄を続けている俺のことを思ってのことなんだろうな」

 

 気にしていない様子で話す彼だったけれど、口ぶりからは悔しさと寂しさが感じられた。あたしも女子だからということで、監督にそう助言された時がある――「マネージャーに転向しないか?」この言葉もあたしを思っての言葉だったのはわかる。でも、あたしの選手としてのプライドがそれを許さなかった。なにより、あたしは野球が大好きだったから。だから、試合には出られないとわかっていながら、無駄と見られる練習を続けた。似たもの同士だからか、あたしには彼の気持ちがよくわかった。

 

「でも、俺はやめない。好きで続けてるんだから、最後くらい……試合に出たいし、グラウンドで勝利を味わいたい」夢を語るように話す彼の言葉より、その彼の横顔にあたしは釘付けだった。

「それなら、あたしが協力してあげようか?」これでも野球に小さい頃からかかわっている。実際に練習もしていたから、多少腕は落ちてもできることはあるかもしれない。直接練習の手伝いができなくとも、飲み物や軽食を準備することくらいはできる。

「これは俺が勝手にしてることだぜ? 別にお前がそこまでしてくれなくても」あたしは遠慮がちにしている彼の言葉を遮って「あたしがやりたいって思ってるの。必要ないって言っても、あたしは勝手にやらせてもらうよ~」ニカリッと悪戯っぽい笑みを添えて言う。

 

 それを見て彼は、降参だと言うように小さく息を吐きながら、肩を竦ませた。それからなにかを決意したように気合の入った顔を浮かべて「よぉーっし、絶対にレギュラーになって、甲子園に出るぞ!」と、力強く宣言した。

 彼とならきっと甲子園に行ける――この時あたしは、なぜか確信めいたようにそう思えた。

 

                  *  *  *

 

 翌日の練習後から、彼とあたしの共同練習が始まった。

 あたしはマネージャーの仕事が終わってからいったん家に戻り、軽食としておにぎりを作り、飲み物と一緒に用意してから再度学校に向かった。

 また、中学校の野球部時代に使っていたバッドを物置の奥から引っ張り出し、守備練習をする時、それを使ってあたしがノックをした。最初は久しぶりだったということもあり、放り上げたボールにかすりもせず、バッドの重みに身体を引っ張られて一回転し、「キャンッ!」という悲鳴をあげながら、バッターボックスにしりもちをついてしまうという恥態を晒した。

 彼がお腹を抱えて笑ったから、恥ずかしさと悔しさが込み上げた。ウサ晴らしということで、思いっきり厳しいノックを打ってやった。かごの中に山積みだったボールがなくなった頃には、二人は息も絶え絶えになっていた。彼のユニフォームは土で汚れて、きれいなところを見つけることの方が難しいというくらいだった。

 ボールを拾い集めてから、室内練習場で休憩を挟んだ。その時軽食として持ってきた手作りのおにぎりを振舞った。普段からあまり料理をしないこともあって、あまり形の良くなかったので、食べてもらえるか若干不安だった。

 

「なんだこれ、ほとんど丸じゃん」手のひらに乗せて転がしながら、彼が言う。

「し、仕方ないでしょー! あたし、あまり料理とかしないから」あたしは必死に言い訳を並べる。でも、かえってあたしに家庭性がないことを暴露することになってしまう。

「おいおい、それって口にしていいのかよ」彼のツッコミに、あたしはまた恥ずかしさと悔しさで顔が赤くなる。「でも、これってライスボール――おにぎりだな」気遣いのつもりだったのだろうか。彼はそんな冗談を言うような口調で言った。大きく開けた口で、丸いおにぎりにかぶりつく。あまりのいい食べっぷりに、あたしは自分の頬が緩んだことに気付いた。

「すっぱ!?」中に入れていたのは梅干だ。彼の見せた子どものような反応に、お返しとばかりにあたしは大声で笑ってやった。

 

 気になる相手と二人きり。それも大好きな野球を通してであるから、まさに至福の一時だった。

 

                 *  *  *

 

 そして、あっという間に夏の甲子園の出場をかけた大会が始まった。例年通り、あたしの学校は決勝戦に駒を進めていた。

 試合開始の前に、あたしは大会のパンフレットを開き、自分の学校の記事を探す。監督、コーチ、選手にマネージャーの集合写真が載せられており、すぐ隣にはベンチ入りの名前が連なっていた。その十数人の中には、とうとう彼の名前と背番号が記されていた。

 ――試合は両校のエースの投手戦となっていた。厳しい練習に裏付けされた硬い守りで、お互いに点を取れぬまま後半戦へと入っていた。

 二桁の背番号を持つ彼は未だにベンチで声援を送っていた。あたしはスタンドから他の選手やマネージャー、この日のために駆けつけてくれた在校生たちとともに応援する傍ら、内心では彼の登場を必死に願っていた。

 ついに試合が動いた。突然こちらのエースが相手打線に掴まり、一気に三点を奪われてしまった。なんとかそれ以上の追加点を与えずに済んだけれども、ここまで完璧な等級と守りができていたからショックも大きかった。十人十色とはいえ、あきらめの顔がちらついていた。

 例年決勝に駒を進めていながら、あと一歩のところで敗れてきた。絶対に甲子園に出るという思いだけが、彼らの切れそうな集中力をつなぎとめていた。

あたしたちにできるのは、あきらめずに精一杯の応援をするだけ。選手たちがあきらめそうだったら、尻を叩くくらいの声援をぶつけてやらないといけない。その思いが届いたのか、フォアボールと適時打、ゴロやフライを挟みながらも二死満塁の一打同点、あわよくば勝ち越しのチャンスが訪れていた。

 ここで打順が回ってきたのは下位の選手だった。こちらまで伝わってくるほど緊張しているのが見てわかった。あたしは手を組んで、神様でも、仏様でも、監督でも対象は何でもいいから願った――この打席に、彼を代打として登場させてほしいと。

 すると、ベンチから中年太りした監督が身をゆっくりと立ち上がらせると、グラウンドへと出た。審判がタイムをかけて、監督へと歩み寄り、何か話を聞いている。選手登録養子を確認すると、バックネット裏の放送担当へとなにかを伝えに向った。それからすぐに選手交代のアナウンスが響いた。そして、次に告げられた名前は――彼の名前だった。応援で呼ぶ名前が、前の選手から彼のものへと変わる。その応援に掻き消されたけれど、あたしは思わず喚起の声を上げていた。

 ヘルメットを被り、握り慣れた金属性バットを片手に持ってゆっくりとベンチからバッターボックスへと向う。途中代打を告げられた選手と交代のタッチをした。どんなことが交わされたのかはわからない。バッターボックスに入る前にヘルメットを取って、軽く一礼した。それからバットをしっかりと握り締め、見慣れたフォームを構える。視線は真っ直ぐに相手投手へと向けられている。

 第一球――空振り!

 離れたスタンドまでブンッというスイング音が聞こえてきそうなくらい鋭いスイングだった。それでもボールには当たらず、ミットに収まっている。

 あたしはみんなと一緒になって応援する。絶対に打って――胸中で手を組んで、祈るようにしていた。

 第二球――ファール!

 鈍い金属音が聞こえた。ボールは高く上がって、反対方向のスタンドへとボトリッと落ちた。相手高校の応援団が散らばるように悲鳴を上げながら避難している姿が見えた。

 両校の応援のボルテージが最高潮へと達した。

あと一球で雌雄が決する――勝つか負けるか……あたしの緊張も、今までにないくらい限界に達していた。多分、彼もだろう。一度バッターボックスから離れて、リラックスしようとしている。最初と同じ動作をして、構える。ピッチャーの足が上がる。彼がギュッとバットへの力をこめる。ピッチャーの指からボールが離れる。彼の足が軽く上がり、踏み込まれる。砂埃が上がる。勝利への思いがこもった白球を迎え打つようにして、負けられない思いがこもったバットが振り抜かれる。一瞬応援が掻き消されたような気がした。代わりに聞こえてきたのは――真芯で捉えた時に響かせた、あの金属製の快音だった。

 カキーンッ――蒼穹に向って昇ってゆく白球。青いキャンパスに白い絵の具で刻まれる一本の軌跡。きっとあたしはそれを一生忘れない。その一本の軌跡は、バックスクリーンを終着点で途切れた。

 代打、逆転満塁ホームラン――その一打で、あたしたちの学校は初めて甲子園出場を決めた。その日のヒーローは誰でもない、彼だった。ダイアモンドを一周する彼が浮かべる笑顔は今までにないくらい輝いて見えた。そして、最後のホームベースを踏んだ時、彼がスタンドに視線を向けた。その時、あたしは彼と目が合ったような気がした。いや多分、合ったんだと思う。その瞬間、あたしは本気で彼のことが好きなんだと、溢れ出る思いとともに自覚した。

 

                 *  *  *

 

 甲子園球場には、電車に乗って数時間揺られながら行った。誰の計らいかは知らないけど、彼と相席になれたのはうれしかった。

 球場入りをして、応援するために席を取っていたスタンドから上を見上げれば、まさに高校野球日和と言わんばかりに、燦々と照りつける太陽が青空に浮かんでいた。

 試合開始。県大会の時とは比べ物にならない気迫が球状全体を包み込んでいた。それに負けじと応援も凄まじかった。あたしはそれに呑まれまいとして、必死に応援した。味方がチャンスになればメガホンをうるさいほど叩き、喉が枯れるほど大声を張り上げた。ピンチになった時は、神様や仏様に対し両手を胸にして祈っていた。

 彼も決勝での活躍とこれまでの努力が認められて、二桁の背番号ながらレギュラーとして先発出場した。――成績は二打数無安打、二エラー。チャンスを潰し、ピンチを招いてしまった彼は、途中で代打を送られ、ベンチに引き下がらざるを得なかった。あたしは、がっくりと肩を落として、項垂れながらベンチに下がると思っていた。でも、彼は堂々としていた。でも、その後姿はとても痛々しかった。顔は見えなかったけど、きっと悔しさと情けなさ、涙を必死に堪えていているものだったのだと思う。

 結果は――応援の甲斐もなく、初出場ということもあってか力を出し切れなかったあたしの学校は初戦で敗退してしまった。

 それでも、あたしはあの夏スタンドで感じた真夏の太陽の日差し、勝負にかける気迫、地鳴りのような応援、悔しさで零した涙を今でも鮮明に思い出すことができる。そして、両手で甲子園の土をすくい上げる彼の涙で震える背中を。

 

                *  *  *

 

 それから高校を卒業したあたしは東京の大学に進学した。どうして東京かというと、あたしが昔から応援しているキャッツの試合を東京ドームで観戦できるという好条件があるからというもので、それが進学理由の大体を占めていた。

 大学に進学してから二年が経ち、二十歳になってお酒を堂々と飲めるようになったということで、同じく東京に出ていた高校時代の友人を誘って飲み会を催した。

 男女ともに多すぎず、少なすぎない人数が集まった。その中にいた一人のビシッとしたスーツを着込んだ男性を見て、あたしは思わず目を疑った。厳しい練習を重ねていながら、他の選手と比べるとどうしても頼りなさげに見えていた彼は、精悍な顔付きにがっちりとしていながら包み込むような優しさを感じさせる雰囲気をもった容姿へと変わっていた。あたしを前に「よっ、友紀。元気だったか?」と久しぶりに会ったというのになんの抵抗感もなく声をかけてくれた。

 高校時代、告白しておけばよかったと後悔の涙で枕を濡らしたことを忘れることができなかったあたしは、その日の飲み会が終わった後に彼に猛烈アタックをした。ずっと溜め込んでいた思いの丈を、遊び球なしの直球勝負でぶつかった。

 告白を受けた彼は、一瞬驚いた表情を見せたけれど、打ち返すことなく、がっちりとしていながら温かくあたしの身体を抱きしめてくれた。――受けて止めてもらえた。

 

                *  *  *

 

 それから初めてのデートの時。あたしたちは、東京ドームでのキャッツのナイターゲームを観戦しに行った。その帰り道、キャッツの勝利と胸で大きなマスコット人形を抱きしめているあたしはホクホク顔だった。

 人通りの少なくなった道を歩きながら、彼はあたしに話し始めた。

 

「本当は三年生の時野球部をやめようと思ったんだ。お前が初めて自主練の途中で来た時も実際は迷ってたんだ。でも、お前が協力するって言ってくれて、最後くらい足掻いてすっきり終わってみようかなって思ったんだ。だから、県大会でホームランを打つことができたのだって、友紀……お前のおかげなんだよ。

 俺は今、CGプロダクションっていうアイドル事務所でプロデューサーをしてるんだ。それなりに経験も積んで、何人かアイドルを担当させてもらってる。先日社長から一人アイドル候補生のスカウト権を与えてもらったんだ。そこでなんだ――」

 

 そこまで言って、彼は一度言葉を切った。彼の顔を見ると、緊張からの汗が額に浮かんでいた。

 

「友紀、俺にお前をアイドルとしてプロデュースさせてくれないかっ!? 今までお前に支えられていた分、いやそれ以上のバックアップでトップアイドルにしてみせるからさ!」

 

 有無を言わせぬ気迫を見せていた。あたしは完全に彼の気迫に押されていた。でも、どうしたわけか、あたしには不安が感じられなかった。彼と一緒になら甲子園に行ける――そう思った時と同じく、彼とならトップアイドルになれる――確信めいたようにそう思えた。だから、あたしは彼の目を見ながら黙って頷いた。

 

                 *  *  *

 

「練習は裏切らないぞ!」と、彼からの心強い声援が飛ぶ。あたしはバットの代わりにマイクを手にしてステージへと足を進める。頭の上からまるで甲子園で感じた真夏の太陽の日差しのように暑いスポットライトの明かりが降り注ぐ。地鳴りのような観客の拍手喝采が、緊張よりも高揚感を高めていく。気合がこもり、自然と口角が上がるのを感じた。音楽が流れ出し、この日のために練習してきた曲が始まる。

 チラリと舞台裏に立つ彼と目が合った。

 

「俺の代打として、一打逆転満塁ホームランを頼むぞ!」そんな風に言っているような気がした。

「よぉーしっ!」あたしは力強くこぶしを振り上げる「プロデューサーに代わりまして、代打――姫川友紀! みんなー、はりきっていこっー!」あたしの夏は、まだ始まったばかりだ!

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