原作では猿山ケンイチの過去話とかなかったのでオリジナル展開として話を作りました。それではどうぞ
レン・エルシ・ジュエリアは嘆いていた。
かつてレンはララと婚約の約束をしたのにも関わらず、他の女性に恋に落ちてしまった事を。
幼い頃に男らしくなったら結婚してくれと頼んだら即日OKの返事が返ってきた為、その婚約は絶対なモノとなっていたはずだった。
しかし、レンやララの両親に一切の関与をもたずに勝手にそう決めつけたのでその婚約は本当の婚約だったのかは知る由もなかった。
もし、もしもその婚約が絶対なものではなく、そもそもまだ婚約自体が成立していなかったら?
それを考えるのは簡単で、レン自体に婚約者が居なくなるという事実が発生される。
もしそうならばレンは自由に恋人を作り、その恋人を伴侶とする事も造作もない事なのだろう。
(本当の恋とは・・本当の愛とはなんだ?)
恋と愛は似て非なるものだ。
誰かを気にしたり、誰かを好きになったり、誰かと一緒に居たいと思ったりとするのが恋と言うならば愛とは何なのだろうか?
(ずっと居たいのは当たり前だし、その人を好きになるのも当たり前・・なのに、それを愛とは言えないような気がする)
レンは再び嘆いていた。
恋の意味は充分に理解していたけど愛との違いが分からなかった。
結婚するから愛が生まれるとか子供を作る事で愛が生まれるなどのそんな話で済む訳がない。
恋するから愛が生まれるのか、その愛が生まれれば何が生まれれるのか分からなかったのだ。
でもそんな事は恋人と付き合えばおのずと分かってくるのだとどこかで理屈ではなく本能でそう理解していたけど自分が正しいのか間違っているのかは今は分からなくなっていた。
「僕は本当の本当にリコさんの事が好きなのか確かめてやる」
だから確認する事にした。
自分の恋が、自分の愛が本物なのかどうかじっくり見定めなければならない・・レンは影ながら夕崎梨子を観察していく事にしていた。
尾行一日目、夕崎梨子の登校を影ながら見ていた。
彼女は結城リトやララに猿山ケンイチらと一緒に登校し、彼女は向日葵のような笑顔のまま彼らと話しこんでいた。
その会話は他愛も無いもので昨日のテレビの感想や今日の予定の確認などで彼女の全容を知る事は出来なかった。
尾行二日目、夕崎梨子は西連寺春菜や近くに居た女子生徒たちと話しこんでいた。
今回の話題はファッションや占いなど普段の彼女がする話題とは思えないが一応は女の子なので普通といえば普通だった。
しかしその会話の中でイケメンモデルやアイドルならば誰が好きかという話題となり、彼女の好みが分かるかもしれないと真剣に耳を澄ませた。
「ボクは外見に囚われないので特に居ないのだが・・ま、強いて言うならばボク自身が気に入った人が好みと言えるだろう。もちろんその人の弱い所も含めて好みになるという場合もあるかもね」
夕崎梨子は外見よりも性格を選んだ。
なんとも彼女らしい答えだが、なんだか漠然とした答えだった。
尾行三日目、夕崎梨子は古手川唯と口喧嘩していた。
もうすでに学校名物となった彼女らの口喧嘩はますますヒートアップして互いが譲れられない喧嘩となっていたのだ。
怒っているようだけれど怒ってはいないあの奇妙な口喧嘩がレンを悩ませた。
(リコさんに天敵がいるのか?)
意外な彼女の大きな弱点を知ったレンはどこか安心したような気持ちを抱いた。
彼女だって怒る事もあるし気にくわない事もあるのだろうが、あそこまでムキになるのは子供みたいで可愛らしい。
(あのリコさんに可愛いと言っても流されそうだけど)
レンの考えは的中しており、夕崎梨子は褒められても素直に受け止められないし、それを回避するように回りくどい喋りで話題をすり替える事が出来るのだ。
(本当に素直じゃなく口下手なんだねリコさん)
学力もあるし運動神経も人並みにはある夕崎梨子は完璧でもあるけどどこか弱点だらけの弱い女の子にしか見えなかった。
(僕は守りたくなるな、あの子の事を)
夕崎梨子は学校内で一番脆くて弱い存在なんだ。
そうレンは思い始めた瞬間胸の鼓動が早く高らかに動いていた。
弱いから守りたいのではなく、夕崎梨子を知り尽くしたこそ・・自分にとってかけがえの無い存在だからこそ守りたいと願い始めていた。
(なるほど、僕は目が覚めたようだ。恋はこういう意味だったのか・・ララちゃんもあの結城リトにこういう気持ちになっているというのならば僕は・・)
ララの事は好きである。
だけど、そんなララの好きよりも、もっともっと大きな好きなのかもしれない。
レンはララの気持ちを理解し、自分自身の気持ちも理解して恋の行く末を自らの手で見つけ出しそれを実行するべきだと、強く、強く、そう思っていた。
(僕は夕崎梨子を好きになってしまった以上、誰にも負けない強い男となって彼女を守らなければならない!)
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レンの行動は迅速であり、結城リトにララを泣かせる事があれば絶対に許さないとだけ宣言した後、夕崎梨子に覚えてもらう為に色んなアプローチを仕掛けていた。
「やぁ、リコさん。バラだよ」
「やぁ、リコさん。荷物を持ってあげよう」
「やぁ、リコさん。今日も美しいね」
「やぁ、リコさん。僕はたくましいだろ?」
そんな感じで夕崎梨子に自分の存在をアピールしていたけど特に変化が訪れず、時間だけが過ぎていた。
無駄な事は一切していないはずだったのに、こうも彼女は適当にあしらっているようで本当の意味では振り向いてくれないのを嘆いていた。
「お、おかしい!な、なぜあんなに必死で頑張っているのに!」
悔しくて悔しくてたまらなかった。
夕崎梨子は自分の事を好いてはいないのだろうか?と考えが過ぎるだけで胸が苦しくなっていた。
そんなレンを心配していた猿山ケンイチは笑みを浮かべやってきた。
「おいお前、あんな無駄な事してもリコちゃんは絶対振り向かないぞ」
「だ、誰だ!お前」
「ん?俺?ま、お前のライバルかな」
レンの事をライバルと称した事で彼も夕崎梨子を好いていると豪語したも当然だ。
なぜそんな彼が自分のもとへ説得しようとするのかレンは分からなかった。
「多分・・いや、お前もリコちゃんの事好きだろ?」
「当然だ」
「なら仲良くなりたいなら普通に話しかければいいだろ」
「何?普通に?告白とかしなくてもいいのか?」
「告白は断じてダメだけど、話しかけるのはいいぞ」
猿山ケンイチはニッコリと笑いかけレンを励ましてくれた。
ライバルであるはずの猿山ケンイチがなぜこうも近寄ってくるかますます分からなくなっていった。
「俺な、リコちゃんに会うまでは街で歩く女の子を片っ端からナンパしてたんだ」
「・・最低だなお前」
「へへへ、だけどな、そんなナンパしていたある日の事だ。あの日にとんでもねー美少女が居たんだ」
「それがリコさんか?」
「ああ、それで早速ナンパしてリコちゃんは何の躊躇いもなくいい返事をくれたんだぜ?普段だったら渋ったり断られたりされるんだけど初めてだったんだ!」
猿山ケンイチは興奮気味で鼻息を荒くし顔を真っ赤にするけど、徐々にその赤みが消えていき落ち着いた。
「それで俺に気があるんじゃねぇか?と思ってよ遊園地とかショッピングとか連れ回していざ告白だ!と思ったんだけどな・・」
「まさか断れたのか?」
「・・そのリコちゃんは『今キミがやっていた事は何の変哲もない誰かの行動だったんだよ。キミ自身の行動じゃない』ていう発言で俺の告白を台無しにしたんだ・・いや、してくれたんだ」
「キミ自身の愚かさを否定しつつキミのフォローをしてくれたんだね」
猿山ケンイチは目を瞑り彼女との思い出を事細かに思い出していた。
『ボクはね、決してマネをするなとは言わないんだよ。マネをする事が世の中の為になるならばマネしていいんだ。ただそのマネする事が自分の為じゃなく他人の為ならどう思うかい?それは自分じゃなくその他人になるって事だろう?だから暗に自分を否定する事と同じなのだろう。ま、極論だけどね。
それでもキミがそうじゃないと思っても正解だよ。先程のナンパを例にするとキミはセオリー通りにしたし、そしてボクに告白するも玉砕する・・これも同じだし、そのセオリーを外して思い切ってサプライズ的に会う。そうする事でいくつもの展開が開かれるだろう。遊園地やショッピングもいいけど展開は一つしかないんだろう。だからキミを・・キミ自身を見たかったんだ』
夕崎梨子は他人ではなく猿山ケンイチ自身を見ていたようだった。猿山ケンイチはその一言を聞いて世界が変わったような気がした。いつしか街を出てナンパをしなくなり、夕崎梨子に惹かれてしまって今に至った。
「言っておくがよレン、リコちゃんは実は誰にも対してガードが甘々なんだよ。だから間違っても告白するなよ」
「甘々なのか?!」
「そうさ、なんてたってナンパを即OKだぜ?甘々だろ」
「くっ!でも僕は負けないぞ!」
「ああ、俺も負ける気はない」
レンと猿山ケンイチは火花を散らすように睨み合い、お互い負けられない戦いになり互いをライバルとしその魂に静かに燃える恋心は決して消える事なく燃え盛っていた。
次はルン回です。