ルン・エルシ・ジュエリアは覚悟していた。
彼女は男女両方の人格を持つメモルゼ星人という宇宙人の王族であり、男の時はレン・エルシ・ジュエリアという名となり常に一心同体という訳で生きていた。
(よし!早速リコちゃんとお友達になろう!)
女へと変わっていたルンは颯爽と夕崎梨子が居る教室へと向かい、その教室の扉を開き、無防備な夕崎梨子に飛びつくように後ろから抱きついた。
「んぅぅひゃあっ?!」
夕崎梨子は突然ルンに抱きつかれた事に驚きを隠せず、女の子のような可愛い声で叫び恥ずかしそうに俯いていた。
「んっ、んんっ!で、キミは誰なんだい?」
夕崎梨子は恥ずかしさを誤魔化すように咳払いし、始めてみたルンの姿に困惑した反応を示していた。
しかしルンは宇宙人なんです、だなんて他の生徒に聞かれては困るので小声で二人きりで大事な話したいからどこかに行こうと囁き、それを夕崎梨子は了承した。
「・・・ああ、分かったよ。ならば屋上で話そうか?そこならばおそらく生徒は居ないだろう・・」
「・・・うんっ、いいよ・・・」
二人はこそこそと話し、屋上へと向かい生徒が居ないのでそこで話し込む事にした。
ルンは手始めと自分が宇宙人である事を明かして、夕崎梨子は当然戸惑った。しかし、ルンは持っていたティッシュで紙縒(こよ)りを作り、自らの鼻を刺激して盛大にクシャミをした。
するとどうだろう、女の子だったルンが見知っている男の子のレンへと変貌していた。
「・・・・・・驚いたよ、まさかレンくんだったとは」
いつもの満面に笑みは消え去りおっかなびっくりな表情でレンを観察するようにジロジロと見ていた。
どうやらトリックか何かだと思ったらしいが、この男女逆転には仕掛けも何も無いのだから見つけられない事は無かったのだ。
「ごめんよリコさん、僕も宇宙人なんだよ」
「・・・?レンくんも宇宙人ということは、さっきの女の子も宇宙人、という事になるのかな?」
「ああ、そうだ。ついでに言うとアレは僕でもあり、僕はアレでもある・・つまりは同一人物なんだよ」
「・・・な、る、ほ、ど、ねぇ」
夕崎梨子の思考回路はショートした。
いきなりの非現実的の出来事に驚きしかなかったのだ。宇宙人を信じるとか信じないとか男女逆転がトリックとかやらせとかそういう問題ではなかった。
(・・・本当にそんな事があるなんて、ね)
夕崎梨子は変だと自負しているけど常識人でもあり、いつもの理由や理屈による一切の説明が考えられなかったのだ。
(でも、彼らはボクに話してくれたのは一体・・・?)
疑問を抱く夕崎梨子だけど、答えは見当たらなく、諦めモードになり、仕方なくその現実を受け止めるようにし、彼らの話を聞く事にした。
彼らが正体を明かした理由はただ一つ、夕崎梨子との友情の交渉であった。
ーー僕と私と友達になってくれ
その願いをしかと承った夕崎梨子は普段の満面に笑みで彼らと固く握手し、三人は友好な関係になっていた。
「で、レンくんにルンちゃんはーー」
「いや、僕になっている時はレンでいい。逆の場合はルンでいいんだ」
「おっと失礼、レンくんはボクと友達になったし、他の子と友達になる気はないかい?」
「友達ならいるよ、ララと・・いまいましいが結城リトと知り合いでね、多分僕の事を知っているよ」
「そうか、ならいいね」
夕崎梨子の通常より笑みが深くなった気がしたレンは不覚にもドキリと胸をときめかせ、顔を赤くした。
ーー可愛い
そう思えば思うほど彼女が愛しくて愛しくて胸が張り裂けそうな苦しい恋心は留まる事もなく、強く強くその恋心は動き始めていた。
「オイオイ、顔が赤いが風邪かい?いや、さっきルンちゃんだったからその影響なのかい?どちらにしても保健室に行った方がいいと思うよ?」
夕崎梨子は覗き込むようにレンの顔を近くで見た。
(ち、ち、ち、近いっ!と、と、と、吐息が当たるくらい近い!)
遠くから見たら彼らはキスをしているような構図であり、そこに彼ら以外の生徒は居ないので奇妙な噂は流れないだろう。
それよりも夕崎梨子の顔は近かった。だからレンは興奮して顔を徐々に、本当に少しずつ真っ赤になりつつあった。
「・・・本当に大丈夫かい?」とずいっと顔を近づけた夕崎梨子。
(キレイな目だっ!キレイな長いマツゲだ!吸い込まれそうだ!鼻もすっと細くてキレイだし、口もキレイなチェリー色でプルプルと震えている!そしてその不安そうな顔!か、可愛いっ!)
夕崎梨子の顔をずっと見ていたかった。
だけど、そうする根性も無いし、そうする気力も無い。でもレンに対してこの経験だけでも満足だった。
「そ、そうだね!ほ、ほ、保健室に行かなくちゃ!」
「大丈夫かい?なんなら肩を貸そうか?ほら」
夕崎梨子はそっと手を差しのばしてくる。
この手にレンも応じたいが、その手をとって何処かに連れ出したい、その手をとってずっと離したくないと強く思ったレン。
守りたいその手を持つ彼女を騙しても良いのだろうか?それは王族としても男としてもレンとしても決して許せられないのだ。
「ーーいいよ、リコさん。僕は一人で大丈夫だから気にしないで?それじゃあ!」
それだけ言い残し屋上から走って立ち去るレンを見送り、夕崎梨子は小さく笑い、肩をすくめる動作をした後、屋上にあるベンチに腰を掛け、軽くため息を吐いた。
「ふふふ、元気そうだったねぇ・・・ボクも風邪の時にあれくらいの元気があればいいのに・・・なかなかそうはいかないようだよ」
夕崎梨子は風邪になった際、体力が落ちて一人では何も出来ないし、頭がボーッとして頭が回らず得意な回りくどい喋りも疎かになってしまうのだ。
「レンくんにルンちゃん、か・・・うんっ、いい友達になりそうだっ」
夕崎梨子は無邪気な笑みでにぱっと笑い、空に自由に羽ばたく三匹の鳥を見上げながら、その笑みは深くなっていた。
「ーーーまるでボクたちみたいだね」
レン・エルシ・ジュエリアとルン・エルシ・ジュエリアは夕崎梨子と自由となっていたのであった。
次は体育祭回です。んで次が金色の闇回となっていますのでお待ちを~!