休日、結城家の長男である結城リトは買い物へと向かっていった。
それを付き添うように夕崎梨子も付き合っていたのだ。
「ごめんなリコ。買い物に付き合ってもらって」
「いいんだよリト。ボクだってちょうど欲しい物があったからついでに、と思っていてね」
彼らは近くのデパートやスーパーへと食料などを買い進め、それが終わったので帰る途中だったのだ。
「それに夕食は美柑ちゃんの手料理も食べられるし、それが報酬ならば飛びついて参加せざるを得ないんだよ」
「ははは、それが狙いか」
親戚で友人といえど女である夕崎梨子が隣にいる事で女に免疫がない自分の通常ならば胸の鼓動が早くなって顔が真っ赤になるはずなのに、彼女ならばなぜかそうはならなかった。
他人の女の子なのに、どうしても女の子であるという認識が出来ないような・・でも正真正銘の女の子なのに緊張が全くしない。
かつて夕崎梨子の事を妹のようだと冗談のつもりで言った事があるのだが、まさか無意識的にそう思うようになってしまったのだろうか?
だけど知り合って時間は経っていない・・ララとの出会いとほとんど同じタイミングで知り合ったというのに、ララの方はまさに女の子女の子らしくハッキリと女と認識してしまう程の反応をしてしまう。
なのに夕崎梨子は気がついたら慣れてしまった事に驚きを隠せない。
だから、もう一度だけ彼女の事を尋ねたい。
「なぁ、リコ。お前、本当に誰なんだ?」
夕崎梨子は非常に驚いた表情を浮かべ、数秒経ったのちにその顔に笑みを浮かべこう答えた。
「ふふふ、改めましてボクの名は夕崎梨子。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」
まさにいつも通りといったところか、ただその名を言うだけであってそれ以上の答えは言わない・・否、それが答えだと言わんばかりにそう答えた。
「そっか、そうだよな。お前はリコでリコはお前なんだな」
「オイオイ、勝手にボクを分かった気になるのかい?」
「だけどそうだろ?」
「・・ふふふ、参ったな・・こんな事は初めてだ。この口下手なボクが言い負かされただなんて」
「口下手だからこそだろ?」
「なるほど?確かにそうなんだろうけど、こんな圧倒的な敗北感は初めてだ」
「ていうか、勝った事があるのか?」
「ふふふ、ボクは常に敗北者だよ。誰よりも劣って、誰よりも口下手で、誰よりも風変わりで、誰よりも弱いんだよ」
「誰かに勝ちたいって思ったりはしないのか?」
「・・多分無いのかな?というよりも勝利とは一体何をもって勝利と言えるのだろうね?それを知らなければボクはずっと敗北者なのだろう」
「それならジャンケンとかは?あれならハッキリ勝利と敗者が決まるだろ?」
「ボクはそういうのが嫌いなんだ。ボクとしては、うやむやのまま勝負が長引く事の方が好きなんだ」
「つまり、あいこの状態が続く方が好きなのか?」
「そう。だって・・だってその方がずっとその人と戦えるからね」
夕崎梨子は満面の笑みを浮かべた。
これだ・・この負けず嫌いでもあるけど勝てる事にも興味が無いし、口下手で素直ではないこの奇妙な夕崎梨子の性格が結城リトに違和感無く接してくる・・この奇妙で独特な感性が分け隔てがなく接する夕崎梨子が結城リトの傍に居ても浄化してくれる。
「でもね、ボクは挑戦者でもある。さすがにチャンピオン席なんかボクの柄じゃないのでね」
「それは勝利を知らないから?」
「いやいや、そうじゃないんだ。チャンピオンは挑戦が来るまで待たないといけないんだろ?ボクは待つのも嫌いなんだよ・・まるでご主人から貰えるはずの餌をいつまでも待てと躾けられる小腹空いた犬のようにね」
「なるほど、戦いに餓えていて待ちきれないという意味なのか?」
「ふふふ、大正解。ボクもユーモア溢れる言葉が言えるようになっていたようだよ」
「本当にいちいち回りくどい説明だな」
口下手な夕崎梨子とこんなに話込めるのは不思議ではあったが、彼女が織り成す世界観に引っ張られ、いつの間にか、もっと会話を続けたいと思うようになっていた結城リトは心の底から楽しんでいた。
友達以上の関係なんだけど、恋人の関係でもない・・まさに親友と胸を張っていえる間柄となれるのだろう。
近くにいるのは当たり前で、好きだとか嫌いだとかそんな些細な言葉では済まされない関係。
ーー絆ーー
そう、絆が芽生えたような気がしていた。
そこにいるのが当たり前、そこに恋心は存在しないが夕崎梨子ともっとずっと傍にいるべきだと感じるようになっていた。
「なぁ、リコ」
そんな彼女の名を呼ぶ事なんて何の障害なんて無い。
女の子の名だから恥ずかしいとかそんな生易しい理由や理屈なんかはいつの間にか吹き飛んでしまった。
「俺たちはずっと親友だ」
自分に言い聞かせるように、彼女に言い聞かせるように約束をした。これからも傍にいて口下手な彼女の会話が当たり前な宝物になるのだから。
「ああ、ボク達は親友だ」
互いに笑い合い絆を深めていく。
彼らが恋人関係になる心配もないし、その必要も皆無となった今は互いを信頼していたのだ。
結城リトは口下手な夕崎梨子を、夕崎梨子は親友の結城リトを信じているのだから。
二人が絆を認識した後、近くにあったたいやき屋を見つけた夕崎梨子は走るように向かいたいやきを数個買った。
「ふふふ、美柑ちゃんへのお土産にと思ってね」
「ありがとう、きっと喜ぶよ」
土産を買って喜ぶ二人を無感情な顔で見ていた少女がいた。
その少女は小柄でかつ細身で長いストレートの金髪を持った少女。瞳の色は紅色で黒い戦闘服を着た少女だった。
「・・・」
その少女はたいやきを凝視しているかのようで目が離せないでいた。
夕崎梨子はたいやきがたくさん入っている袋からたいやきを一つ取り出し、少女に渡した。
少女はたいやきを黙々と食べ、ポツリと一言呟いた。
「地球の食べ物は変わっていますね」
少女の言葉に疑問を抱いた結城リトと夕崎梨子。
普通ならば、この辺のたいやきは美味しいと言うべきなのにわざわざ地球単位で言うなんておかしい。
「オイオイ、まるでキミが宇宙からやって来たような口ぶりじゃないかい?」
夕崎梨子の言葉にドキリと結城リトは驚いた。
まだララが宇宙人だという事を皆にバラしてはいないのに、なぜこうも夕崎梨子は頭が回るのだろうと疑問を抱いた。彼女自身が宇宙人であるはずもないのに、と
「・・あなたの外見から思いもしれない口調も変わっていますね・・」
「ふふふ、よく言われるよ。ボクに対してその言葉は褒め言葉だということを教えておこう」
「本当に変わっていますね。何もかもが」
「ボクは変ではないんだ。ボクからしたらみんなが変に見えるんだよ」
「ワガママでもあるのですね?子供みたいです」
「ああ、ボクはまだ子供なんだよ。だから、狭い世界観に囚われずに広い世界を知りたいからこそ大人になるんだよ。そんなキミは子供なのかい?大人なのかい?それとも・・・まだ世界を知らない赤ん坊かい?」
「・・・」
少女は思案していた。
実はこの少女は宇宙からの刺客であり、結城リトを抹殺するべく現れたのだが、最初から出鼻を挫かれた。
こんな事は初めてであり、任務とあらば最速で標的を抹殺するだけの作業でしかなかった。
結城リトを殺すように言った依頼者の話では結城リトが最悪で災厄の人でありデビルーク星のララを捕らえる事で全ての宇宙を支配する極悪非道の人物であると。
しかし少女はその不思議な存在の少女の知り合いである結城リトを問答無用で抹殺してもよいのだろうかと初めて思ってしまった。
(・・だけど、依頼があった以上、結城リトを殺さないといけない)
プロとして仕事はキッチリと果たさなければならないのだから、どんな理由があれ結城リトを亡き者にしなければならないのだから。
だけど、今日はそんな気分がでなかった。こんな気持ちになるのもあの不思議な雰囲気の夕崎梨子のせいなのだから。
「あなたは結城リト、ですね?」
「えぇ?!な、なんで俺の名を!?」
「実はあなたを殺すようにと言われたのですが、少々お話があります」
「・・まさか、宇宙からの刺客とかなんとかなのか?」
「有り体に言えば、ですが。そんな事より、あなたは無理矢理プリンセスララを誘惑しデビルーク星を思いのままにしているのは本当ですか?」
「嘘だよ!そんなの!第一、こんな弱い俺がそんなヒドい事なんて出来る訳がないだろ!地球の文明じゃデビルーク星がどこにあるかなんて認知も出来ないよ!」
結城リトの必死の説得に二人はそれぞれの反応を起こす。
金髪の少女は、それもそうかと納得している様子で夕崎梨子は耳を疑うような怪訝した顔をしていた。
「・・リト、やっぱりこの子は宇宙人なのかい?何をもってそう思うのかい?」
夕崎梨子は宇宙人を信じてはいなかった。
漫画や映画ではよく地球に宇宙人が登場し侵略するシーンは数多くあるのだが、それはあくまでもフィクションであり、作品であった。
だけど、先ほどの少女が言っていた地球の食べ物が変わっているとかデビルーク星とか、まるで宇宙から来たかのような口ぶりで冗談のつもりだと思っていたのだが、どうやら少女は宇宙人のようだった。
「ああ、この子は宇宙人で確定だ。あとそれと黙っていていたけどララもあと多分だけどレンも宇宙人なんだ」
「・・・へぇ、理解するのに三秒もかかったけど、どうやら本当の事らしいね」
「宇宙人だとバラすと色々面倒くさい事があるからなかなか言えなかったんだ。ごめん、リコ」
「いやいや、大丈夫だよ。多分ボクもリトの立場だったら黙秘を続けたと思うからお互い様だよ」
二人は互いに微笑みあって許し合っている姿をみた少女は不思議な感覚を覚えた。
これまでの自分の生活は騙しに騙され、いつも周りは血だらけで何も感じはしなかった。
殺さなければ殺される、殺す前に殺されるかもしれない生活が日常だった。
なのに、あの関係はなんなのだろうか?許すとか許されないとかそんなレベルの話ではなかった。
「あなたたちは一体、なんなのですか?」
聞かずにはいられなかった。
彼らが織り成す関係が一体なんなのか少女は知らなかったのだ・・そんな少女はまだ大人でも子供でもないのだから。
「「親友」」
二人は同時に満面に笑みを浮かべハッキリとそう答えた。
少女は親友はおろか友達という存在は居ないし知らないでいたのだ。
少女は生まれながらにして戦いに身を投じた戦闘兵器で、宇宙中から恐れられていて敵無しの状態で恐れるという感情はどこかに消えていた金色の闇は・・彼らが眩しく見えて直視出来ないのだ。
「しん・・ゆう・・ですか」
その言葉の本当の意味は知らないけど、どこか温かい気持ちになれたのは初めての気持ちだった。
「私も・・なれますか?その・・しんゆうという関係に」
少女はまだ子供にもなれていない、言うなれば赤ん坊のままであった。
存在意義も戦う理由も今までは誰かに依頼されてそれを排除するだけだった。
その後は何も無い。ただの空白で無だったけどどこか黒色や灰色の時間だった。
だけど、彼らは虹色のような色鮮やかな関係な事には間違いないのだ。
「ふふふ、難しいと思うけど、なれるよ」
「ああ、リコの言う通りだ!俺たちを信じろ」
誰かを信じる事なんてなかった。
信じようとする気持ちもなかった。
だけど、彼らならばほんの少しだけならと信じてみる価値があると思うのだから。
「私は金色の闇です。どうかよろしくお願いします」
自分の名を告げた。
今まで使ってきたコードネームなんだけど殺し屋としての金色の闇は多分今日でお終いなのだから。
今日からは彼らの親友、金色の闇として動き出すのだと考えると、心の底のどこからか楽しいの気持ちが芽生えてきたのだからこの名を告げたのだ。
次回に続きます