天条院紗姫は憤怒していた。
かつて美の頂点に君臨していたはずの自分が転校して間もないララと奇妙な口癖をもつ夕崎梨子によって頂点の座を奪われたようだった。
天条院紗姫の付き人藤原綾と九条凜らの話によれば、学校一の美少女はララであり、その影に見え隠れする美少女である夕崎梨子も人気急上昇中だそうだ。
あのララは絶対に認めたくないが美ではある事は分からない事も無いけど、夕崎梨子の存在が目障りで仕方無いのである。
(私よりも目立つだなんて!まるで主人公みたいですわ!脇役の分際で!)
天条院紗姫は目立ちだかりであり、自分の人気が霞むなんて事があればすぐさまそれ相応の対応を取らなければならないのだ。
その対応を取るべく彼女達をぎゃふんと言わせる為に考えに考え、天条院紗姫の脳に電流が流れる。
(そ、そうだ!ミスコンよ!ミスコンを開催しましょう!まだ文化祭の時期じゃないですけど関係無いですわ!)
美を競うミスコンテストならば独壇場で天条院紗姫がトップになる事は間違いない。
そう思う瞬間その身体は動き始めていて校長のもとへ歩き出し、無類の女好きの校長は即日採用を言い渡し、ミスコンテストへの開催が決定されていた。
翌日、異例の時期のミスコンテストの開催の参加募集の知らせのチラシが学校中にばらまかれて大騒ぎになっていた。
そのミスコンテストでやる事は大きく二つであり、自己アピールと水着審査のみであったので男子生徒は大盛り上がりだった。
「ふふふ、あの紗姫ちゃんが主催か・・やってくれるね」
そのチラシを眺め、普段のニコニコフェイスで驚いているようだった。
そんな彼女のもとへ憤怒の表情を浮かべた天条院紗姫が現れ、指を指して宣誓した。
「勝負よ!夕崎梨子!ララ・サタリン・デビルーク!」
突然の宣戦布告に戸惑いつつ、ララは両腕を上に真っ直ぐ伸ばし右脚を曲げる謎のファイティングポーズをとり、夕崎梨子は首を傾げ両腕を左右に開き手の平を開きやれやれといったポーズをとっていた。
「違いますわー!っていうかデジャヴですわー!」
天条院紗姫のツッコミを受けてララは謎のファイティングポーズを止め、夕崎梨子は『やはりボケに向いてるかな』などとブツブツと思考している反応に腹が立った。
「お二人にミスコンテストへの強制参加を申しつけます!異議反論不参加ボイコットストライキは一切受けつけません以上!」
ララはミスコンテストの意味が分からずいいよと答えたが、夕崎梨子は顎に手を添えて考えるような仕草をしてその口がニヤリとした瞬間を見た天条院紗姫は鳥肌がたってしまった
「ではボクも賛成させてもらうとし、ルール改変及び勝者への報酬の約束を申し込みたい」
「ちょ、ちょっと!何を勝手に・・」
「いやいや、今さっき言っただろう?参加以外は認めないとね?ならば参加したと同時にその約束は無くなるだろう?」
「くっ!!あなた生意気で嫌いですわ!」
「オイオイ、ボクは紗姫ちゃんの言う事をちゃんと聞いただろう?だから生意気でも何でも無いし、逆に良い子なんだよ」
次から次へと頭と口が回る夕崎梨子が嫌いだ。
天条院紗姫が聞いた噂では最近夕崎梨子は口下手だと聞いたはずだったのに口達者で子供みたいに挙げ足をとるのも嫌いの要因であった。
「・・分かりましたわ、要求を呑みましょう」
「うん、まずミスコンテストにおけるルールだが、水着審査を排除とし、制服のままで審査するとする」
「あらぁ?まさか、スタイルに自信が無いのですの?おーほっほっほ」
「さらに追加として、ミスコンテストの参加者は授業中や普段通りの日常を送ってもらい、投票者はそれを配慮する事。さらに投票者は一人一票を原則とし、自分の名前を書き参加者自身に渡すとする。」
「なるほど?そういう事ですのね?普段からの美は明日の美になるのですから」
「ミスコンテスト参加者は他の参加者の邪魔を禁じ、投票者の票を破るまたは奪う等の行為を禁ずる事とし、投票者自身の意思のみの投票しか認めない。以上」
「そんな事心配しなくてもいいですわ。でも、あなたがそんなマネするかもしれないのでいいですね」
ミスコンテストのルールにしては細かいルールだが彼女らが公平な立場になるにはちょうど良いルール設定だろう。
「続いて勝者への報酬の件だが、投票数が一番多い者が勝者とするのは・・まぁ、当たり前だろうね」
「ええ、当然ですわ」
「まず勝者への報酬の権限をもった者がルールを破るもしくは生徒を脅すような行動した場合が無いと判断された時のみ、その勝者への報酬の権限を授与されるとする」
「勝者権限を失う場合もあるのですわね」
「勝者権限をもった者に最下位の者からの報酬または約束がされるとし、以下の条件が揃えば最下位の者はその報酬を払わなければならない」
「あなた悪徳企業の社長みたいですわね?怖いですわ」
悪徳企業の社長と言われてムカッと腹を立てた夕崎梨子はコホンと咳払いをして話を続ける。
「一、その個人・団体において出来る事ならばその報酬を払うまたは約束をする事を宣言し実行する事。
二、勝者権限が使えるのは必ず一つまでとし、その一つの報酬または約束を永遠または半永久的に続けさせるようなものにはしないが一日それを続かせる事ならば可能とする。
三、その個人・団体において報酬を払わせる際、その者の人生に左右されない程の心の傷や身体の傷を一切つけてはならずその時点で報酬を貰えず今後このようなコンテストは開かない事を約束とする 以上」
夕崎梨子は西蓮寺春菜の席にあったいちごミルクを取り上げ、ちゅうちゅうと飲んでいた。
あれだけ喋れば喉が渇くのも頷ける訳なのだが・・
(私のいちごミルク・・・とられちゃった)
西蓮寺春菜は空っぽになったいちごミルクを悲しそうな目で眺めるしかなかった。
先程からのやりとりは教室で行われていたので結城リトをはじめとしたクラスメイトは唖然としていた。
だけど唯一デジャヴを感じている結城リトは、以前ヤ ミと出会った事を思い出していた・・あの長々とした契約がまた聞けるなんて思ってもいなかったのだから。
そんな彼女の悪徳企業のような契約を交わし、天条院紗姫は教室へと出ていった代わりに古手川唯が夕崎梨子の前へと現れた。
「あらあら悪徳企業の夕崎社長こんにちわ、あんな契約するなんて普段からあんな契約をなさっているのですか?クーリングオフとかしても何とかならないような気がする契約でお見事ですね」
「おやおや唯ちゃんこんにちわ。実はあの契約には穴があるんだよ?ボクは必ず勝つ為にわざと穴をあけたんだ」
「へぇ~?一般人には分からない穴なんですものね?社長しか分からない非常に小さい穴なのでしょう?いいえ、そもそも穴なんてないのでしょう?夕崎社長」
「いやいや唯ちゃん、頭を柔らかくしないと解けない知識指数を計る問題みたいなものなんだよ。だから唯ちゃんみたいな頭が堅い優等生には解けない問題なんだよ」
夕崎梨子には勝機がありその勝機に向けて下準備をするだけだ。
まず夕崎梨子は校長公認だというミスコンテストなの事で校長室へと向かい、小太りな校長は堂々とエロ本を呼んでいたが突然の来訪者に気づきエロ本を隠した。
「ご、ごほん、あーあー、大変ですなぁ、いそいそ」
校長のバレバレな行動に冷たい視線を送る夕崎梨子。
だけどそんな反応をする時間も無く、校長先生にとあるお願いをする事にした。
「校長先生にちょっとしたお願いと確認があるのだがいいかい?」
「むひょっ?!いいですともいいですともぉ!」
ーーーーーーーーーーー
ミスコンテスト当日となった。
ミスコンテストの参加者である天条院紗姫は男子生徒に媚びを売るように色目を使って生徒が所持する投票券を稼いでいた。
二人目の参加者ララはミスコンテストのなんたるかを知らないので通常通りに天真爛漫な雰囲気で登校していた。
三人目の参加者夕崎梨子は満面に笑みを浮かべてはいるがどこか小悪魔系のような雰囲気をもっていた。
「おーほっほっほ!そんなちんたらしてたら最下位になるわよー?いいのかしらぁー?」
天条院紗姫はララや夕崎梨子を挑発し、ララは元気に頑張るねと言い張るが、夕崎梨子はニタリと黒い笑みを浮かべただけだった。
「・・まぁいいですわ、どんどん票を集めますわ!」
天条院紗姫は何処かへと消えた後、ララにも男子生徒からの大量の投票券を獲得し、夕崎梨子は数票の投票券しか貰えなかった。
このままでは夕崎梨子が負けてしまうと猿山ケンイチとレンも彼女に投票券を渡していた。
「ありがとう、サルくんにレンくん」
「「・・・」」
夕崎梨子は投票券が少ないにも関わらず負ける要素は無いと言わんばかりに堂々としていた。
そんな彼女の狙いが一体なんなのだろうか?それが気になってしまい、猿山ケンイチは重い口を開いた。
「・・あのさ、リコちゃん。今のままじゃもう・・」
「ああ、負けるね?確実的で必然的に」
負けると言い張った夕崎梨子に猿山ケンイチとレンは目を見開いた。
だけど、夕崎梨子にはまだ勝機がある様子で表情は黒い笑顔のままであった。
「だけどね、最後の最後で逆転するのはボクだという事を宣言するよ」
夕崎梨子のこの発言を信じるしかない。
あの夕崎梨子が勝つと言うのならばそうなるはずだと思うしかないのだ。
「ボクはこれからある所に行くから、ここで失礼するよ」
夕崎梨子は彼らから姿を消し、とある手段を用いて大量の投票券を手に入れようと試みようとしたーー。
時は流れ、投票結果発表となった。
投票券掲示場所はグラウンド上とし、そこに女王が座るような煌びやかな紅いフカフカ椅子が存在していてそこに勝者が座るようにとの演出だそうだ。
「覚悟はいいですわね?それでは手に入れた投票券の数を言ってそれを出してくださいまし!」
天条院紗姫の言葉により、自身とララの投票券はその場に提示した。
天条院紗姫の投票数は50でララの投票数は70である事が証明された事を天条院紗姫はララには負けて悔しいけど同時に嬉しくなった。
男子生徒の数は確か150人程であったはずだったので無投票が無くても30そこそこな事は確定的だった。
「おほほ・・おーほっほっほ!!勝ちましたわ!!夕崎梨子に勝ちましたわ!」
コンテストの勝者にはなれなかったけど憎き夕崎梨子に勝てたと思うだけで興奮してしまった。
だけど、夕崎梨子はふふふと笑っている様子でその目は死んではいなかった。
「どうかなさいましたの?負けたショックでそうなったのですの?そうでしょう!」
夕崎梨子は徐々に笑いの声を大きくし、挙げ句の果てには満面に笑みを浮かべていつも通りの夕崎梨子になっていた。
「いやいや、とんでもないねぇ?まさか紗姫ちゃんがそこまでいくなんて、ね」
「当たり前ですわ!さぁ、あなたが最下位ですし罰を受けるべきですわ!」
「ふふふ、その通りにボクが負けていたら、ララちゃんの言う事を聞かなくちゃならないだろう?紗姫ちゃんじゃないよ」
「お黙り!さぁ、勝者の言う事を聞きなさい!」
「まぁまぁ、ボクはまだ提示していないよ?今からボクはそれを出す」
夕崎梨子は懐を探り、投票券を取り出そうとしていた事に怒りを覚えた天条院紗姫。
負けているのに、勝つはずも無いのにまだ戦おうとする夕崎梨子が本当に腹立たしかった。
「いい加減にしてくださいまし!もうあなたの負けですわよ!降参しなさい!」
「ふふふ、嫌だね。だってボクが勝つのだから」
「あなた算数も出来ないですの!?」
夕崎梨子は懐を探る動作をピタリと止め、それに怖じ気づいた様子で驚く天条院紗姫。
だけど相手の投票券も奪えないこの状況で・・もう投票券が増えないこの状況で彼女が勝つなんて不可能と思うだけですぐに強気になった・・絶対に負けるはずはないのだから
「甘いね、甘いよ。まるでショートケーキとチョコレートケーキを同時に食べるくらいに・・甘いよ」
夕崎梨子は獲得した投票券を全て天条院紗姫の前に叩きつけた。