結城リトと夕崎梨子ととの出会いから数日が経ったある日、結城リトは自宅にあるアルバムや妹の結城美柑の話を聞いて夕崎梨子の正体が分かった。
どうやら夕崎梨子の話は本当のようで、結城家の親戚で小さい頃からの付きあいでいつも結城リトや結城美柑と三人で泥まみれになってでも遊びつくしていたというのだ。
しかし、だがしかし、結城リトにはそんな記憶は全くない、経験すらしていない。
だけど、だからといって彼女を突き放す訳にもいかない。
ーーだから
「もう一度友達になってくれ。リコ」
彼女との仲をやり直す。今からでも遅くはない。知らぬ存じぬでは彼女には悪いのだろう。だからケジメをつけなければならない。
「ああ、分かったよ。よろしく、リト」
彼女は彼の欲求を快く受け、固く握手を交わす。
だが、彼は顔を真っ赤にさせ、そっぽを向かせた。
「ご、ごごご、ごめん、なんか、急に触っちゃって!」
「ふふふ。その反応、久しぶりに見たなぁ-。」
実は結城リトは、女の子に非常に免疫がない。
水着アイドルの写真を見ると顔を真っ赤になるという非常にシャイでウブな男だ。
「ま、思春期だし、当然だけど、彼女なんか出来たら大変だと思うよ?どうにかならないのかい?」
「か、か、かかかか彼女!?」
結城リトの頭からボンッと煙が出た。彼の脳裏に密かの想い人、西連寺春菜と呼ばれる彼女が過ぎった。
そんな彼女に惚れた理由は自分を信用し、信頼し、頼ってくれた。ただそれだけ、否、その理由で充分と結城リトは心に決めていた。
「オイオイ、挙動不審だね。まさかとは思うが、リトに好きな子がいるのかい?ボクで良ければ協力するよ」
「い、いや!いないから!ホントにいないから!」
「・・ふふ。そういうことにしておくよ。今は、ね」
夕崎梨子は邪の笑みを浮かべ結城リトを見つめるが、結城リトはポーカーフェイスが出来ないので顔を反らすしかないのだ。
「それはそうと、ボクには慣れたかい?」
「う、う~ん、ま、まだかなぁ?だけど、リコはなんだか赤の他人とは思えないし、友達なんだけど、う~ん、美柑といるみたいでそこに居るのは当たり前な・・妹?みたいな・・」
「へぇ、なるほど。要するにボクはリトの妹だと?」
「へ?!いやいや!ものの例えで!」
「ふふ、リトお兄ちゃんったらシスコンなのかい?」
「おおお、おお、お兄ちゃんって言うなー!!あとシスコンも!」
結城リトの顔は真っ赤になり無我夢中で何処かへと消え去っていった。そんな結城リトをニコニコとした笑顔で夕崎梨子は見送った。
「ふふふ。からかいがあるねぇ。それこそリトだよ」
ポツリと独り言をこぼし、夕崎梨子は学校へと向かっていき、通学路を一人でとぼとぼと歩いていくと一人の興奮気味の男子高校生が夕崎梨子に近づいてきた。
「おはよーー!リコちゃん!」
「やぁ、サルくん。おはよう」
夕崎梨子に話しかけた男子高校生の名は猿山ケンイチで、顔が猿に似ているし名字も猿山だからと彼女は親しみを込めて『サルくん』と呼んでいた。
その猿山ケンイチは密かに夕崎梨子に片思いしているのだが、なかなか告白も出来ず友達として仲良くしている。
「あれ?リトは?遅刻なのか?」
「いや、リトは先程学校へと急いでいたよ」
「んだよ。リコちゃんを一人にして危ないだろ!もう」
「ふふふ。自分の身は自分で守るよ。こう見えてもそこそこ強いんだ」
「くぅー!勇ましいなぁー!リコちゃんは!その勇ましさをリトの奴に分けてくれ!」
他愛のない世間話が彼にとっての幸せであった。もし万が一告白でもして失恋でもしたらこの関係が崩れるかもしれない、だけど、それでも彼女をモノにしたい猿山ケンイチはその心に静かに燃える恋心が滾っていた。
今だ、誰も居ないから告白するチャンスは、と。
でも、もし断れたら、しかし、告白したいと心が揺さぶり、結局告白出来ないのである。
「あ、そうだリコちゃん。借りてたBlu-ray返すわ」
「無駄に発音がいいねサルくん」
「はっ、姫さまにお褒めに預かり恐縮であります」
「ふふふ。豊臣秀吉じゃあるまいし、天下獲ったらダメだよ?」
「あはは。それはどうでしょう姫さま・・はっ!このままじゃ姫が裏切られるじゃん!明智光秀となんやかんやあって!」
「へぇ、よく勉強しているね。フワフワしてるけど。というか、ボクは織田信長じゃないんだが」
いつの間にか勉強の話になるも全部夕崎梨子のおかげだ。猿山ケンイチはあまり頭がいいとは言えないが、夕崎梨子の存在があってたまに勉強会を催し一緒に勉強をしていたおかげでそこそこ学力が上がった。
夕崎梨子が猿山ケンイチの人生を大きく変えたと言っても過言ではないだろうーーだから
(俺、やっぱリコちゃんが大好きだ。本気で)
尊敬と好意が胸にいっぱいにつまった。以前の彼ならば所構わずナンパのように告白するのだろうが、その程度の告白では彼女を手に入れることなんて出来ないのだろう。
(いつか、いつか、絶対に告白すんだ)
彼はキッと空を見上げ誰かに誓うように、そしてそれを成し遂げる為に、彼は今も戦い続ける。自分の大きな恋心に・・かけがえのない彼女の為にーー。
「ふふふ。サルくん、今何かを決心したみたいだけど、何を決心したのかい?」
「な!?なな、ななな、なんでもねーよ!」
猿山ケンイチは顔を真っ赤にさせ結城リトのように何処かへと消え去っていった。
「ふぅん。ならいいんだけどね」
彼を満面の笑みで見送り更に歩を進めていく夕崎梨子であった。
ーーーーーーーーーー
学校が始まり、とある体育の授業日。
結城リトと夕崎梨子、猿山ケンイチが同じクラスとなっており、いつもは三人とよくつるんでクラスメイトの認識では仲良し三人組として認知されていた。
そんな彼らとクラスメイトらは体操服を着てグラウンドへと向かっていった。
「オイオイ、このご時世にブルマとかヤバくないかい?」
体操服にブルマ姿の夕崎梨子はブルマをかなり意識していた。
「え、ええ、そうね。ちょっと恥ずかしいかな?」
彼女の親友であり結城リトの想い人である西連寺春菜が頬を赤らめ恥ずかしいそうに俯いていた。
そんな彼女らを遠目で見つめていた二人の狼ーー結城リトと猿山ケンイチが顔を赤らめていた。
想い人が体操服というだけで可愛く、愛しく、なんて綺麗なんだろうと思うのだろう。
それもこれもこの高校に来たからで、彼女らも入学してきたのだから奇跡としか言えないのだろう。
「リト、俺さ、この学校に来てホントに良かった!」
「う、うん、実は俺もそう思っていたとこ・・」
恋する者達は常に仲間となり敵にもなるのだが彼らは互いに好きな者が違うので彼らは仲間となっていた。
結城リトは西連寺春菜を、猿山ケンイチは夕崎梨子をと恋しているのだから。
「負けねぇぜリト!俺はいつか絶対にやってやる」
「お、お、俺だって!」
すでにやる気満々の猿山ケンイチだったが、結城リトは自分に自信がない様子だった。
確かに西連寺春菜の事が好きなのだが、彼女は自分の事をどう思っているのだろうか?実はこれっぽっちも気に留めていないのではないのだろうか?
彼女ととは同じクラスメイトではあるが挨拶程度の事をたまにするかしないかくらいの頻度で接していた。
だが、猿山ケンイチだけは違う。
夕崎梨子が言うにはどうやら猿山ケンイチととも幼なじみなので小さい頃からずっといるのだそうだ。
しかも、親戚でもなんでもないのだから、うまくいけば結婚という可能性も低くはない。
(俺に出来るのか?告白・・そもそもそこまでどうやって進めていくんだ?)
いつしか弱気になっていき、落ち込んでいた。
そんな彼を見た猿山ケンイチは結城リトの肩をポンと叩きニッコリとした笑顔を浮かべた。
「なにションボリしてんだよ。まだフラれてもないのにそんな顔すんなよ」
「・・猿山」
「大丈夫!なんかあれば俺も協力する!ただし、俺の方もフォローしろよな!」
かつてもない喜びに、ほんの少し感動してしまった結城リトは目をこすりながらキリッとした表情を浮かべ不安を取り消した。否、猿山ケンイチが取り消してくれた。
親友の言葉がこれほどにでも勇気をくれるのだろうか、元気をくれるだろうか、根性をくれるのだろうか。
やはり持つものは親友なのだろう。
「ああ!もうどうとでもなれだ!」
「すっげぇ投げやりになったけど、まぁいいか」
そんな彼らの友情は深まった。今までよりも、親友でもあり、恋の好敵手でもあり、何よりも彼らは
「「やってやるぜ!」」
ただの恋する男子高校生なのだから。
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