時は流れ、文化祭が始まろうとした時期となった。
各クラスで展示物や劇などの催し物を決めていく会議があり、その実行委員らしい古手川唯は教室の教卓の前に凜とした姿で催し物を決めていくのである。
「はい、と言う事でこのクラスの出し物はこの彩南学校や街の歴史か書道の展示にしたいと思っていますが、いかがでしょうか?」
古手川唯の意見に総ブーイングの嵐だった。
何が悲しくてそんな堅苦しい展示物を出さなければならないのかとクラス一同は声を揃えてそう言う。確かに、文化祭の催し物としては些か地味であり、その地味な展示物を一体どの層の人間が興味津々に見るのだろうか?
それならばと、猿山ケンイチはアニマル喫茶をやろうとクラスに言い渡し、その概要は犬や猫などの動物の格好して接客し飲食物を売ろうとするというので、そのアニマル喫茶をクラス一同はそれを快く受け、その準備を始めていくのである。
古手川唯はそのアニマル喫茶に興味を失い、困っていた。何故そんなコスプレのような格好をしなければならないのだろうか?何故展示物はダメだと反対するのだろうか?と次々と疑問が渦巻き悩みに悩んだ。
そんな悩みを持っている古手川唯はみんなにバレないようにそっと教室から出て、教室の扉近くに寄り添うように身体を預けた。
(何がしたいんだろう?私・・・文化祭楽しみだったのに今は何だか楽しみじゃなくなった)
古手川唯はまるでオモチャを取り上げられた子供のような悲しそうな表情を浮かべ、俯いていた。
一方、クラスの出し物としてアニマル喫茶を催す事に決定したのでその喫茶店のコスチュームを、西連寺春菜をはじめ数人の女子生徒達が服を作るという事になり、アニマル喫茶のウエイトレスを籾岡理沙の推薦で決めようとしていた。
「ウエイトレスは十人ぐらいでいいかな?って事で!ララっちは当然として、リコっちもいいよね!」
ララは無邪気に「やったー」と喜んでいたが、夕崎梨子は微動だにしなかったのでそんな彼女を心配した西連寺春菜が近寄り、彼女の目の前で手を振っても微動だにしなかったのだ。
「き、き、気絶している?」と西連寺春菜の声にクラス一同は「えーっ!」と声を揃えて驚いた様子だった。夕崎梨子は極端な恥ずかしがり屋ではないが、まさかコスプレして人前で接客するとは思わなかったのだ。
気絶から目覚めた夕崎梨子は「はっ!」と大きな声を出し、辺りをキョロキョロとして、ふっと小さな笑いをこぼした。
「う、うむ、そうか夢か。ボクがこんな性格だし給仕係だなんて向いていないしね」
どうやら夢を見ていた気がしている夕崎梨子だが、今は現実だし、夕崎梨子がウエイトレスをしなければならないという運命からは逃れなかったのだ。何故ならば、教室に残る男子生徒を外に叩き出し、女に女による女の為の女のスタイルチェックをメジャーで測る事にされるのだから。
ララは沢田未央からスタイルチェックされ、たまに「すげースタイル!」と連呼されながら、どさくさに胸や尻を触られララは満更でもない顔ではしゃいでいた。
「リコっち?ちょーっと、動かないでねぇ?」
夕崎梨子を後ろから籾岡理沙がハァハァと荒い息を出し
、ソロリソロリと近寄ってくるのでジリジリと逃げていくけど、すぐに夕崎梨子の身体が壁に当たり逃げ場が無くなってしまったのだ。
「お、お、オイオイ、止めてくれないかい?ほらボクってそんなに可愛くもないし、スタイルも良くないだろう?だからコスプレみたいなのは無理な気がーー」
「だまらっしゃい!可愛くない?スタイルが良くない?どの口とどの身体が言うかー!」
籾岡理沙は目を輝かせ、夕崎梨子に抱きつきメジャーでスタイルを測ろうとするとジタバタと抵抗するように夕崎梨子は動きまくっていた。
「みんな!手伝って!」の籾岡理沙の一言で、他女子生徒は夕崎梨子を拘束し、身動き出来ないようにしていた。夕崎梨子は顔を真っ赤にし、涙目で籾岡理沙を見つめて「助けてくれ」と頼むが、ニッコリした顔でダメと言われ、その後無抵抗のままスタイルを測られた。
「やっぱり!?ララっちと同じぐらいいいよ!これ!」
籾岡理沙の言葉に他女子生徒は「いいなー」と羨ましそうな声を出し、未だに拘束されている夕崎梨子の胸やクビレや尻をツンツンと突く者もいた。
「なーにが可愛くなくてスタイルが悪いのよ!この!この!こんなものこーしてやる!」
籾岡理沙は夕崎梨子の頬を左右に伸ばしたり、胸やクビレに尻を弄んだりして堪能し、恥ずかしさとかすかに感じる快感によって夕崎梨子は顔を真っ赤にして甘い吐息を吐いていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、だ、ダメっ、許してっ」
本気で嫌がっていていつもの夕崎梨子らしからぬ口調によってスタイルチェックは終了し、他の女子生徒のスタイルチェックを開始していくのを横目に見た西連寺春菜は大丈夫かと心配して尋ねていたので、何度か深呼吸した後、椅子に座りなんとか普段の夕崎梨子へと戻っていた。
「・・・ふぅーっ、恐ろしいし怖いし、何考えているか分からないし、めんどくさいよね?女の子ってさ」
「そ、そうだね、そうだけどリコちゃんも女の子じゃないのかな?」
「ふふふ、確かにそうだね。身も心も正真正銘の女の子なんだからねボクも」
「あははは・・・(そのボクって言葉も口調も男の子が使うんじゃないの?)」
西連寺春菜は冷静に心の中でツッコミを入れ、夕崎梨子の隣に座り横顔を見て、綺麗な顔だと思い、先程のツッコミの事を思いだしていた。
(今喋ってないリコちゃんは本当に可愛いなぁ、美人って感じで。もし、その美人がそのままの意味で性格が女の子らしかったらどうなっているんだろう?多分、近寄りがたいかもしれないなぁ)
もしも、夕崎梨子が見た目も中身も女の子の中の女の子ならばと考え、目を閉じ頭の中のいろんな性格をもった夕崎梨子が西連寺春菜にどう語るのかと西連寺春菜は妄想した。
夕崎梨子(純粋)が「あら?西連寺さん?ごきげんよう」と麗しい性格は・・なんだか違うような気がする。ならば夕崎梨子(無邪気)が「やっほー元気ー?!私元気だよ!あははっ、うふふふ」と元気いっぱい娘・・も違う気がする。
ならば夕崎梨子(照)が「うぅぅ、わ、私、は、恥ずかしいよぅ」と普段から誰かの背に隠れて恥ずかしそうにしている姿・・も違う気がする。やはり西連寺春菜にとっての夕崎梨子は今の夕崎梨子でしかないと納得していつしか笑みをこぼしていた。
(やっぱりこのリコちゃんが落ち着くかもしれないかな?うん、今変になったらまた困っちゃうかもだし)
ただでさえ変な夕崎梨子が更に変になると西連寺春菜でも太刀打ち出来ないのだろう。彼女は夕崎梨子でありそれ以上でもそれ以下でもないのだから。
「あれ?古手川さんは?」と西連寺春菜は聞き出し、教室をキョロキョロと見回したが、見つからず他の性格に聞いたらションボリと落ち込んだ様子でどこかに行ったというので、夕崎梨子と西連寺春菜は古手川唯を探し続ける事にしたが、近場にはいなかった。
「あれ?どうしちゃったのかな?古手川さん・・・ねぇ、どこに行ったと思う?リコちゃん」
「・・・ふむ、唯ちゃんは落ち込んでいるらしいからね・・・一人になりたい、のかな?」
夕崎梨子の声と表情はどこか切ない様子であり、西連寺春菜は「心配なんだね」と聞くと素直じゃない夕崎梨子は顔を赤くしてそっぽを向いた。
「本当は古手川さんの事が好きなのね?リコちゃん。そんな心配そうな顔しないで」
「っ!ふ、ふん、ボクはライバルが弱くなったらボクも弱くなるタイプなんだよ。ほっといてくれ」
「うふふ、そうなんだ?もー可愛いなぁリコちゃん」
夕崎梨子は更に顔を赤くしてそっぽを向いているけど耳まで真っ赤になっているのを見た西連寺春菜は小さく笑いをこぼした。
(私より年下みたいで可愛いなぁー・・・こんな事、リコちゃんに堂々と言えないけどね)
幼い子供のような夕崎梨子は仕方ないと西連寺春菜と学校中古手川唯を探し回り、グラウンドから屋上へと続く非常階段付近で体育座りでガックリと落ち込んでいた古手川唯を見つけた。
「やぁ、唯ちゃん。常識人がサボリとは見上げた根性だよ。だからボクが粛正しにきた」
夕崎梨子が話しかけると、弱々しい様子でそっぽを向き
更に落ち込んで座ったまま身体を丸め両膝で顔を押しつけ両腕で頭を覆い隠した。
「なによ、サボりぐらいいいでしょ?たまには」
「ふふふ、なるほど?傷心しているって事か」
「り、リコちゃん、助けてあげようよ、ね?」
西連寺春菜の心配そうな声を聞いた古手川唯は「なんで夕崎さんが」とブツブツと文句を言っていたので夕崎梨子は大声で「喝っー!」と叫び二人はビクリと身体を震わせた。
「あのさぁ、唯ちゃんは堅いんだよ。なんでそんなに堅いんだい?ボクみたいに柔らかくなりなよ」
「まるで悪魔の囁きだわ。あなたは柔らかくなりすぎてもはやゲル状よ、ゲル状」
「いやぁ、それほどでもぉ、ふふふふ」
「それ褒め言葉じゃないよ!リコちゃん!」
夕崎梨子と古手川唯の会話にガビーンとショックを感じツッコミを入れたので夕崎梨子は親指を立ててグッジョブと目を光らせ「よくやったよ!」と褒め称えた。
そんな彼女達のやりとりに古手川唯は身を震わせ、大声で笑い叫んでいた。
「あははははっ!何をやってんの!あんた達!私を励まそうとしてるのに勝手に盛り上がらないでよ!あははは!だから夕崎さんは変な友人を作りやすいのよ」
「え!?わ、私って変だったの!?」とまたもショックを受ける西連寺春菜。
「もういいわ、もう吹っ切れたわ。私が目を光らせないと私のクラスが変な喫茶店になるに違いないわ!もう手遅れのようだけど、それでも私は頑張るわ」
「まぁ、コスプレ喫茶みたいなモノだしね。変といえば変だし、そんな変なモノを思いついた思考回路しているサルくんは変の頂点に君臨するキングオブ・THE・変な人なのだろうね?ふふふ」
「猿山くんの事そう思っているの!?リコちゃん!」
西連寺春菜の三度のツッコミにより夕崎梨子は笑い、それにつられ古手川唯も笑い、またそれにつられ西連寺春菜も笑い、三人の笑いは大笑いへと変化して、彼女達のその顔はまるで無邪気な笑顔であった。
「はーっ、よく笑ったわ。やっぱり夕崎さんは苦手だわ。非常識で」と古手川唯が
「えー!?良い感じだったのにそこに振り出しなの!?」と西連寺春菜が
「同感だよ、唯ちゃん。常識とかそんなモノに囚われたくないんだよ、ボクはね」と夕崎梨子が
三人の不思議な関係は続くのだ。ずっとこれかもきっと、恐らく続くであろう。
「という事で面倒を掛けた唯ちゃんはケジメとしてウエイトレスをやってもらおうか?」
夕崎梨子は普段の満面の笑みを浮かべ古手川唯に脅しをかけると苦虫を噛むような顔を一瞬浮かべるとすぐに小さくため息を吐き了承した。
「もうなんとでもなれだわ。ついでだし西連寺さんもウエイトレスになりなさい」
「え!?だ、だ、だって私は衣装係だしーー」
「うるさいわ!強制よ!旅は道連れ世は情けって事で、なんと言おうと参加させるわ!」
「そ、そ、そんなぁ・・・私、旅なんかしてないよぉ、はぁっ~・・・」
古手川唯の脅しもあり三人でウエイトレスをやる事になり、どんよりと落ち込む西連寺春菜をよそに彼女達はクラスの手伝いに参加し、文化祭当日まで準備をする事にしたが、夕崎梨子はとある事を思いだしていた。
「・・・文化祭でミスコンテストに参加しなきゃダメだったよ・・・完全に忘れていた」
天上院紗姫主催で開催されるであろうミスコンテストへの参加しなければならないと落ち込むのであった。
ちなみに天上院紗姫がやるクラスは昆虫喫茶という虫のコスプレをして接客するという食品を扱う上で衛生上や接客時のウエイトレスの見た目の気持ち悪さがある最悪コンボの催し物であったというのだ。