結城リトはのほほんとしていた。
結城家に花壇が存在し、彼は花や植物の水やりが趣味となり、休日やヒマな時にはその花壇の世話をしているのだ。
(ララは用事があるってどこかに出かけたし、美柑は学校の友達と遊びに行くって言っていたし、静かな一日だ)
いつもは自由奔放なララにずっと抱きつかれては、なんとか拘束を解くが、やはりララは結城リトの事が好きなので愛情表現せずにはいられない。
結城美柑は結城リトには結構厳しい目で見られる事があり、兄だからちゃんとしなさいとか兄だからあれこれ手伝ってくれなどなど小学五年生とは思えないしっかりした出来た妹であり、その妹の言う通りに聞くとなんだか兄として尊厳が失われそうな気がしていた。
しかし、今の自由時間はほんの些細な自由でしかなかったのだ。突然の金色の闇ことヤミの訪問によりその自由は失われていた。
「結城リト、あなたの命が危ないかもしれません。ですので護衛しないといけません、不本意ですが」
命が狙われる。
そう耳にした結城リトは大きく大きくため息を吐いた。ララとの婚約によって望まれない宇宙人による攻撃にハラハラしない訳がない。
「は、ははは、不本意なのか?だとしたらごめんな?ヤミ、俺が弱いせいで・・・でもヤミが危なかったら逃げろよ?」
結城リトの心配はご無用と言いたいような雰囲気で、そっぽを向いた。しかし、ヤミは何かを思い出した様子で結城リトに向かい、淡々と話した。
「その場にいる提案も取り入れる、という契約でしたね。そうでした、そうするべきですね?」
どこか目を光らせるような煌やかな視線であった。その純粋無垢のようなヤミを見て思わず結城リトは笑みを浮かべていた。ヤミはまだ子供みたいだな、と。
「う~ん、あ、そうだ。俺もヤミを出来る範囲で守るからヤミも俺を守る、てのはどうだ?ほら、お互い手を取り合う、というか」
結城リトの言葉にヤミは目を見開いて驚いた表情を浮かべた。金色の闇として誰かに守られるとして絶対考えられない行為そのものであり、またはそう言われる事すら思わなかったのである。
一人で大群を相手にした時もあったし、その時は淡々とした仕事でありその始末も心を無にして戦いに投じた気がしていた。
だけど、今は護衛の任務だ。その任務は夕崎梨子の滅茶苦茶な契約内容だったけど、それでもその任務はどこか心晴れやかな気持ちになっていた。
助けて欲しい・・・そんな願いをしている金色の闇を信頼している甘い地球人にはどうにか出来ないだろうか?花壇を世話して楽しいのか阿呆のような顔をしている結城リトをヤミは観察するようにジロジロ見ていたが、やはりといったところか貧弱で貧相な地球人なんだけど、それでもどこか強さを感じていた。
(戦闘能力は低そうなのに、この強さはいったい何なんでしょうか?少し試しましょう)
未だに花壇の世話をしているのをよそに、ヤミはトランス能力を使い、髪型を巨大な握り拳を作り、結城リトを後ろから軽くコツンとするつもりであった。
しかし、ヤミが手加減を間違えたのかあるいは地球人である結城リトが思ったよりも貧弱なのか花壇を避けるように仰向けで倒れ込んだ。
「あ」とやってしまったとヤミは純粋な心でそう思いつつソロリソロリと結城リトへと近づき、大丈夫かと腹の辺りを指先一つでチョンチョンと突いて彼は気がつき身体をムクリと起き上がらせた。
「な、何すんだよ!本当に命の危険があったよ!ヤミによって訪れたよ!何やってんだよ、いててて・・・」
結城リトは頭を擦りながら目に涙を浮かべていて、その痛みがいつしか引いたのか微笑みながら、ヤミの行動を理由も聞かずに許した。しかし、空のどこからかザスティンが登場し、刀をヤミに向けて戦闘を試みるような行動をしていた。
「金色の闇!貴様、やはり婿殿のお命を狙っていたんだな!?やっと正体を現したか!」
ザスティンは怒りの表情を浮かべ、ヤミへと刀を持ちジリジリと距離を詰めるも、ヤミは微動だにせずどうしたものかと思案している様子でどこか困った表情を浮かべて、少し落ち着くと何かを思い出したような様子で、「あ」とヤミの口からそういう言葉が出ていた。
「私は金色の闇です、気軽にヤミちゃんと呼んでくださいね」
夕崎梨子の得意技の夕崎流自己紹介であり、ザスティンは金色の闇を知っているがヤミとして知らないのでと自己紹介をした。その突然の自己紹介を聞いたザスティンは自分の名を名乗り、またも勝負を申しつけて刀を向けるのでヤミも困った表情を浮かべ、また少し考えた。
「・・・あ、そうでした。私自身にも危害が加わろうとした時にも金色の闇として仕事が発令されますね」
ヤミは契約内容を思い出し、トランス能力で髪や手を刀にして戦闘態勢を整えるも、結城リトによって二人ともやめろと催促し、二人は仕方ないと戦闘態勢を解消し、二人を結城家のリビングへと誘った。
ヤミとザスティンは客なのでお茶や茶請けを適当に用意し、二人はそろってお茶を啜り、和やかな表情を浮かべるのであった。
「あ、ところで婿殿。ちょうど話があったんですよ。宇宙人からの刺客の事・・・あと、言ってはいけないと申しつけられた事なんですが」
ザスティンはお茶を置き、正座できちんと座り真面目な顔をして雰囲気をガラリと変える。彼の言う話では、やはりといったところかララや結城リトとの婚約を快く思わない宇宙人がまだまだ居る事は当然であった。
それとザスティンの話によると、ひょっとしたらひょっとするとララの父親ギド・ルシオン・デビルークが地球に来るかもしれないとの事であった。
「もぐもぐ・・・ギド・ルシオン・デビルークですか?聞いた事・・もぐもぐ・・があります。宇宙の覇者だとか鬼神だとか・・・もぐもぐ」
「食べながら喋るんじゃありません!ヤミ!」
ヤミは茶請けとして出されたたいやきを頬張りながら喋るので結城リトはちゃんと叱るも、そのたいやきが好きなのかまだまだ口に詰め込んでいた。
「もぐもぐ・・・ごくん、けっぷ。やはり美味しいと思います。これは兵器なのでしょうか?なんだか動きにくいような気がします・・・けっぷ」
「それは食べ過ぎてお腹いっぱいになったからでしょうが!そりゃあヤミ、たいやきを20個くらいずっと食べてれば分かる事だろ!」
結城リトとヤミのやりとりにザスティンはクスリと笑い、まだまだボケとツッコミが終わらない彼らの会話にザスティンは金色の闇はどういう訳か改心したのかと思いお茶を啜りながら温かい目で見守っていた。
「ふぅ、平和ですねぇ、金色の闇・・・いえ、ヤミさんは我々の味方となれば心強いですよ」
少しだけヤミを信頼しようとザスティンは心に誓い、ヤミが口に2個のたいやきをいっぺんに詰め込んでリビング辺りを逃げまわり、それを結城リトが「たいやき食いすぎだー!全部食いやがって!ザスティン一個も食ってねぇだろうが!」と叱ってヤミを追いかけていた。
「もぐもぐ・・・おそらくこのたいやきは私に食べられる事を受け入れてそのたいやきを私は涙を飲んで食べているのです。そう、彼らは私の為に生きているのです」
そのヤミの顔の口にはたいやきの残骸とニンマリとした気がする表情だ。
「その割にはホクホク顔だよ!ヤミの涙じゃなくたいやきの涙だよ!それにその顔は嬉しさしかないだろ!」
「私は大切な人物と別れる時は笑って見送るタイプなのです。ですのでそんな気がしているのでしょう」
「そうきたかコンチクショー!」
ヤミはいつしか無邪気になっていた。結城リトと他愛の無いやりとりがいつからか楽しくなり、これからもこんなやりとりをして他愛の無い事で喧嘩するのだろうと思うと心のどこかで強く思いを馳せていたヤミであった。
しばらくすると、ララがやって来て結城リトに奇妙な種を渡された。それはプランタス星だけに自生する超稀少種の奇怪な宇宙植物となる植物の種であり、それをプレゼントされた。
「ララ様?なんでそんな危ない所に?」
ザスティンの問いにララは今日が結城リトの誕生日であり、その誕生日プレゼントで何かいいかと考えた所、いつも花壇の世話をしているから花や植物が好きではないかと思い、奇妙な植物の種をプレゼントにしたという訳であった。
「あ、ヤミも来てたんだー!やっほー!」
「こんにちわ、プリンセスララ」
ララはヤミと最近どんな事をしているかなどと他愛の無い雑談を交わしつつ、ララは満面に笑みで、ヤミはどこか恥ずかしそうな表情を浮かべるがいつもの無表情となり、淡々と会話をする。
「それで婿殿、早速植え付けますか?お手伝いしましょう。あ、ララ様はヤミさんとそのままごゆっくりくつろいでください」
ザスティンの提案のもと、結城リトは庭へと移動し、植木鉢に種を植えようとしたが、ザスティンはその小さな植木鉢に植え付けるのは止めたほうがいいと判断をした。いくら植物の種とはいえ、地球にある普通の植物とは違うであろう宇宙の植物なのだ。どのような植物が生え、どのような大きさの植物へと変貌するのか分からないのだそうだ。
「怖えよ、こんな小さな種に恐怖を感じるの始めてだよ。ま、ララから貰ったから恐らく・・・多分・・・だ、大丈夫、かなぁ?」
結城リトは恐る恐る家から少し離れる距離の庭へとザスティンと共に土を掘り進め、種を植えつけ水を注ぎ、その場から離れようとした結城リトだが、ザスティンの突然の叫び声が聞こえた。
「ぎゃー!!婿殿ー!婿殿ー!」
結城リトは振り返るとそこに奇妙な植物が生えていた。8メートルは超える巨大な植物でありコスモスのような花が咲いているがよくみるとその花に口があった。どうやら、虫食植物の一種のようで不気味であった。
「成長した!?早い成長だよ!芽とか蕾とかの成長をすっとばしたよ!」
結城リトもおっかなびっくりの様子で叫びまくり、何事かとララとヤミも庭に集まり、その巨大で不気味な花を見て圧巻する。
「わー!?綺麗に咲いたー!よかったよかった!」
「美しいですね。よほどこの地球の環境がいいのでしょうか?素晴らしい花です」
二人の感性は地球人とはズレており、虫食植物のような花でも褒め称え、花は口があるからかとギェーと喋っていたのだ。
「しゃ、喋ったー!?もう滅茶苦茶だよ!植物かどうかも怪しいよ!もうこの際、お前のお世話してやんよ!コンチクショー!」
結城リトは考えるのを止めて、花の世話をする事を覚悟し、毎日あの巨大な花に世話をする決意をうやむやでやる事にしたのである。
一方、結城美柑は友達との用事が終わり、我が家へと行くと結城リトが謎の巨大な花に無心で世話を、ザスティンは庭に倒れ気絶し、ララやヤミは謎の巨大な花をずっと褒め称え、その謎の巨大な花はたまにギェーと喜んで喋っている彼らの行動を目の辺りにして反応に困った。
「なんかウチの庭がえらい事になっている」
途方に暮れて結城美柑もその庭のドタバタを見守るしかなかったのである。