ある平日の早朝の事、結城リトは眠りから覚めて自分が寝ているベッドの違和感を感じていた。
両手に小さな膨らみが柔らかく暖かな感触があり、眠り眼を開けると全裸のネメシスが寝ていた。
「またお前かー!!」
結城リトは布団をネメシスに覆い被せ、なんとか全裸よりマシな格好にさせるも、ネメシスは布団を蹴飛ばし堂々と立ちすくんでいた。
「隠せ隠せー!」
結城リトの必死の説得により渋々と黒いワンピースを身に纏い、結城リトの身体に憑依したところでリビングへと降りていくと、結城美柑がちょうど朝食の準備をしていてそれを手伝おうとするが、セリーヌが結城リトに抱きついて遊べ遊べとはしゃいでいるようでセリーヌの相手をする事にした。
しばらくすると全裸のララが登場し、挨拶ついでに結城リトに抱きつくが、結城リトは顔を真っ赤にして慌てていた。
「あらあらお姉様ったら子供みたいね?」
「姉上は私達より心が子供だから仕方ないだろ?」
いつもの日常にモモとナナは冷たい視線を彼らに送り、結城美柑の手伝いをする事にした。その彼らの日常をネメシスは驚いた様子で観察していた。
(あの先端がハートの形をした黒い尻尾はデビルークの特徴・・・そうか、あいつらはララ姫の妹なのか?名前は忘れたが、確か双子だった気がする)
ネメシスはモモとナナをじっくり観察するようにし、結城リトの身体から抜け出さないように双子を見つめるが、何か視線を感じたかその双子は結城リトを見た。
「・・?リトさん?先程私達を見てませんでしたか?」
「ゲッ!マジかよ?私達まで手を出すのか・・ケダモノだな、お前」
冷たい視線を送る双子に結城リトは勘違いだと説得するが渋々といった様子で納得していたが、ネメシスは気配を消して結城美柑を観察した。
(ふむ、コイツは普通の人間だな?特に何もする事もないな・・おい、下僕よ腹が減ったぞ何か食わせろ)
結城リトはネメシスの願いを受け入れ美柑が作った朝食を口に運ぶも、ネメシスの胃の中には入らない。ならばと結城リトの身体から少しだけ出る事にした。
「わぁ!!?な、何!?い、イリュージョン!?」
結城美柑は突如現れたネメシスの姿に驚きを隠せなかった。しかも、結城リトの腹から上半身のみしか現れていないのだ。その姿はその場にいる全員に目撃された。
「おっと、悪い者ではない。私の名はネメシスだ、仲良くしてくれてもかまわんぞ」
いきなり現れて悪い者ではないと豪語するも、怪しすぎるそのネメシスに警戒心を強めていくララ以外の者はネメシスをマジマジと見つめていくが、セリーヌは興味津々の様子で結城リトの身体に居るネメシスにめがけて大ジャンプで抱きついた。
「まう~!まうまうまー!」
「ほう、お前の名前はセリーヌなのか?ふむふむ、仲良くしようね、と言っているのか?嬉しいぞ」
ネメシスはセリーヌの頭を撫でて仲睦まじい様子を彼らは見て、ネメシスがそんなに悪くない人物である事を認識し、素直に彼女達は自己紹介をした。
「ところで、何故リトさんの身体に憑依・・ですか?その・・ひっついているのですか?」
モモの質問にネメシスは心安らみ落ち着く場所であると正直に答えるも、冷たい視線を送るモモとナナと結城美柑は声を揃えて信用出来ないと断言した。
「う~ん、そんな事を言われてもな・・下僕はすぐに私を受け入れたから仕方ないのだ」
ネメシスの下僕宣言にその場は凍り付いた。いつから主従関係になったのか、いやそもそも結城リトが女の子を受け入れる話だって信じられなかった。結城リトは顔を真っ赤にし、誤解だと言い張るもその反応は嘘だという事は明らかであった。
「うぅ・・だってネメシスが消えそうになって可愛そうだったからだよ。あとそれと下僕はネメシスが勝手に言っている事だし、気にしないでくれよ」
結城リトの言葉にネメシスはクスリと笑った。何者か知らない奇妙な女を疑わず普通に受け入れるのは困難であるはずだが、結城リトはそんな些細な考えをせず、可愛そうだからと受け入れるのはありがたい。
「くくく、下僕よ嬉しいことを言うではないか?どれ、褒美として踏んでやろうか?頭か?腰か?それとも顔か?下僕よ」
「踏むな!てか褒美じゃねぇよ!」
「おや、残念だな?くくく。でも踏んで欲しいならいつでも歓迎してやるぞ」
結城リトとネメシスのやりとりに冷たい視線を送るララとセリーヌ以外はため息を深く吐いた。朝から踏むとか踏まないとか下品な会話に嫌気が差していた。
「ねぇ、リト?踏まれたら嬉しいの?」
「違うよ、ララ。絶対に踏むなよ?絶対に踏むなよ?ぜ~ったいに踏むなよ?」
「ほう?それが噂に聞くフリというヤツか?どれ、軽く踏んでやろう」
ララとネメシスは無邪気な笑みを浮かび、結城リトに抱きついて倒れ込ませ脚や腹を軽くグリグリと踏んでいた。
「だー!やめろ!そんな趣味ねぇよー!」
結城リトのツッコミは彼女達に響き、モモは苦笑いでナナは「ケダモノ!」と顔を真っ赤にし、結城美柑は深くため息を吐くしかなく、セリーヌは結城リトの足をララとネメシスのマネをして踏んだりとドタバタしていた日常が始まっていたのである。
そんなこんなでララと結城兄妹は学校へと向かい、ララは結城リトの腕に抱きつきながらの登校で何度も抱きつくのを止めろと言っても聞かないので仕方なくそのままの状態で登校するしかない結城リトであった。
しばらく歩くと、西連寺春菜と夕崎梨子の姿が見えたので駆け足でかけより、挨拶交じりで他愛の無い雑談を交わしていくが、夕崎梨子は結城リトの様子が気になったのか結城リトに近寄り耳打ちをした。
「リト、様子がおかしいよ?何かを隠しているのは分かるけど、その何かが分からない。ボクに出来る事ならばその相談を受けるよ」
長年の友人の些細な変化に気づいたからこその気遣いであり、悩みを持つのならば友人として放っておけないのだ。そんな優しい夕崎梨子に結城リトは微笑みを浮かべその提案を受け入れた。
「ふふふ、よろしい」と微笑み返す夕崎梨子。そんな彼らの様子を微笑みながら見つめていた西連寺春菜は晴れやかな気分になっていた。信用しあい、お互いの深い絆が目に見えるようだった。
「もぅ、二人でこそこそしないで?私、気になっちゃうよ」
「おっと、春菜ちゃんごめんね?この通りだから」
夕崎梨子は西連寺春菜の腕に抱きついて仲良くしようと試みると西連寺春菜は「人懐っこいなぁ、もう」と満更では無い表情を浮かべ微笑んでいた。
「ふふふ、ボクは口下手だからね?適当な理由が思いつかないから誤魔化すしかないのさ」
「はいはい、子供みたいなリコちゃんがそう言うと思ってたよ。ダメだよ?ちゃんと話なさい」
「ふふふ、まるでマ・・こほん、お母さんみたいだね」
夕崎梨子はママと言いかけたが誰も気づかなく、西連寺春菜は誰がお母さんなのと軽くツッコミを入れて歩を進めていくと猿山ケンイチが登場し、またも他愛の無い雑談を交わしていき学校へと向かっていた。
時は流れ昼休みとなり結城リトは夕崎梨子に話をしたいと昼食を共にとろうとするが猿山ケンイチが乱入し、更にはララも乱入する事になり、結局は込み入った話が出来なかった。
そして放課後、結城リトはララに適当な理由を言いつけて先に家に帰ってくれと伝え、夕崎梨子にどこかに寄ろうと誘いそれに頷いて結城リトと夕崎梨子は近くの喫茶店へと入店する事にし、適当な席へと座った。
「ふぅ、たまには抜け出すのも悪くないな」
ネメシスは結城リトの身体から抜け出して背伸びをし、店員に適当な飲み物を頼み、黒い笑みを浮かべていた。
夕崎梨子は結城リトの身体から出たネメシスに一瞬驚いた表情を浮かべるも、ネメシスがトランス能力を持っている事を知っているのですぐに落ち着いた。
「ネメシスちゃんか、なるほど。だからリトに何か違和感があったのか」
「うむ、リコちゃんは繊細なのか?だから気がつくのか?くくく、面白い」
夕崎梨子とネメシスはお互いに笑い合いコーヒーを啜って一息つく。しばらくすると黒崎芽亜とヤミが登場し、結城リトの近くの席へと座っていた。
「お待たせ!マスター!それとリコちゃん!」
「お話があると聞きましたが、何の用でしょうか?」
黒崎芽亜とヤミにネメシスは黒い笑みを浮かべ、ダークネスという能力を知っているかというネメシスの問いに黒崎芽亜とヤミは首を傾げていた。
「金色の闇・・いや今はヤミと呼ばれているのか、とにかくお前の身体に破壊をもって宇宙を混沌へと導くプログラムを意識の中に埋め込まれているんだよ」
「それがダークネス・・ですか?」
「ああ、その時のお前には記憶がないだろうがな」
かつて金色の闇として活動していた数年前に一度覚醒したことがあり、その時は惑星キルドを真っ二つに斬っている。それはとある人物を失い殺し屋に身を堕とし心が荒んでいたため、闘いの中で暴走しダークネスになったものだったが、不完全な覚醒だったため数秒で変身が解け、覚醒時の記憶を失ったというのだ。
「へえ?そのダークネスになったヤミお姉ちゃんはとても強いって事なの?マスター」
「ああ、惑星を破壊出来るんだ。戦闘力において右に出る者は居ないだろうな」
黒崎芽亜の問いに黒い笑みを浮かべクスクスと笑っていたが、地球人の結城リトと夕崎梨子は唖然としていて、ヤミはそれが本当なのか信じられないという表情を浮かべていた。
「それで、そのダークネスをどうするの?マスター」
「もちろん覚醒させたいが・・非常に危険なんだ。本当の殺戮兵器になって暴れるからな」
「え!?ヤミの意識とか無くなるのか?」
結城リトの驚いた声にネメシスは頷く。ヤミは無表情でネメシスの話を聞くもやはりといったところか信じてはいない様子だが、どこか心当たりがあるような気がしているらしい。
「・・・全然覚えていませんが、とある戦場で戦っていたのにとある病室で寝ていた気がします」
ヤミ自身は覚えていないが一度ダークネス化して暴れた後、御門涼子により一命を取り留めた事によりダークネス化が止まり今のヤミへと変貌したというのだ。
「そのダークネス化は今後の為に必要になるんだ。なので、お前達に手伝ってもらいたい。もちろん、お前達は全力で護るので心配はいらん」
ネメシスの頼みに安直には賛成出来ない。そもそも本当にダークネス化になる必要になるのか?もしも作戦がことごとく失敗したらヤミはどうなるのか?結城リトと夕崎梨子はそう考えるとますます賛成出来ずにいた。
「・・ふむ、少しいいかい?ネメシスちゃん」
夕崎梨子は顎に手を添えたまま考える仕草をしつつネメシスにダークネス化をなんとかヤミのモノにするのかを聞き、ネメシスはコクリと頷き肯定の意を表した。
「くくく、やはり頭が回るな?リコちゃんよ。そうだ、ダークネス化を発動させた後、私とメアで精神侵入しつつダークネス化となった金色の闇の魂を表に引っ張りだすが、おそらくそれだけじゃ無理だからお前達の声を聞けば金色の闇の魂は表に出やすくなる」
「ふふふ、なるほど?要はダークネス化となったヤミちゃんは別人だけどそれは関係なく、奥底にいる本当のヤミちゃんの精神を表に出すのが目的なのかい?そんな簡単に出来るのかい?ネメシスちゃん」
夕崎梨子の言葉に大きく頷いてヤミのダークネス化を成功させそれをヤミ自身の力にする自信があるようだ。黒崎芽亜と結城リトはネメシスの言葉を信じるしかない・・他に手段は思いつかなかったので仕方ないのだ。
「それじゃ、いつやるんだ?ネメシス」
「そうだな、明日辺りでもやるか?ちょうど休日だしな。その辺の広い公園でやるとするか?な、メア」
「うん!マスターがそう言うなら!」
こうしてヤミのダークネス化計画が立てられる事となり、不安と少しの恐怖を抱きながら明日の計画の成功に祈るしかなかった。