ティアーユ・ルナティークは急いで御門涼子が居るであろう保健室へと直行していた。
ティアーユは御門涼子に会いたい気持ちが高まり、歩くスピードが早くなり駆け足となっていた。そして保健室の前へと到着し、緊張と駆け足による荒い呼吸となっていたので気分を落ち着かせる為に、軽く深呼吸をしての扉を力強く開いた。
「っ!?ティア!?どうしてここに!?」
白衣を着た御門涼子が驚いた表情を浮かべ、目を見開いていた。かつて学生時代で共に勉強し、数年間別々の道へと歩み出した友人がいきなり目の前に現れたので御門涼子は度肝を抜いた。
「やっぱり御門なのね?会えて良かった」
「そうね、ずいぶんと久しぶりに会ったけど元気そうでなりよりだわ。それよりも、私に再会する為だけに来た訳じゃないわよね?込み入った話ならこっちにおいで」
御門涼子はティアーユを手招きし、ティアーユを椅子に座らせ、ティアーユは静かに語った。これまでティアーユが過ごした過去の話、イヴが金色の闇と恐れられている間に星々を転々としてとある組織から逃げていて、そのとある組織はテビルーク王のギドにより壊滅され、ようやく自由になれて落ち着いたから、とある情報屋から御門涼子が地球に居てこの彩南高校の養護教授を引き受けているという話を聞き、ティアーユ自身も教師となり御門涼子と共にまた一緒に学ぼうとしたので今に至ると話した。
「そう・・・色々と大変そうだったけどよく頑張ったわね?そのイヴはヤミと呼ばれてみんなに好かれているわ?良かったわねティア」
「うん、あのイヴがこの学校に来ていたのもビックリしていたけどそれ以上に親友が出来たって、顔には出してないけどものスゴくはしゃいでいたよ・・本当に、本当に良かった」
「うふふ、それでその子と会ったのかしら?」
「うん、その子は女の子だけど自分の事をボクって言う不思議な女の子でね?それもどこか男の子の口調みたいで独特な話し方だったわ」
御門涼子はティアーユがいう人物に心当たりがあった。その人物の名は夕崎梨子であり、御門涼子自身も少し気になる女性であった。口下手で素直じゃない子供のような彼女ならば同じような子供であるヤミの心を開かせる事は動作もないのだろう。
「うふふ、夕崎梨子ちゃんね?その子の名前」
「え!?御門も知っているの!?顔が広いのね?あの子は宇宙人なの?」
「いいえ地球人よ?しかも限りなく地球で一番弱い子よ?素直じゃなくて口下手で人懐っこい子供なのよ」
「そ、そんな子だったらどうして兵器と恐れられていたイヴを・・・いえ金色の闇を受け入れられるの?」
「あの子は・・・リコちゃんは元から金色の闇を兵器として見ていなくただの一人の女の子として見てたんじゃない?」
御門涼子の報告にティアーユは心が晴れていた。イヴが金色の闇として荒れていたのに一人の女の子によってイヴがヤミが救われていたのを感じて思わず涙を流していた。
「うふふ、そうでしょ?リコちゃん」
ティアーユは振り返るとそこに夕崎梨子とヤミが立ち尽くしていた。どうやら彼女達は御門涼子に用事があるらしく保健室へとたまたま立ち寄っていたのだ。途中からだがティアーユの話を聞いてしまった彼女達はばつが悪そうに夕崎梨子は苦笑いを浮かべ、ヤミは悲しげな表情を浮かべ俯いていた。
「確かにね、ヤミちゃんはかつて兵器だったかもしれないよ?その過去は変えられないからね」
「リコの言う通りです、トランス能力は私が死ぬまで消える事はありませんでしょう。だから私はずっと兵器なのです」
「でもね?そのトランス能力は今、大切な友達を護る武器になったんだ。兵器と武器は使い道が同じようで違うんだ。兵器は無闇に人を傷つける物ばかりだろう。だけどね?武器は大切な何かを護る物になれるんだよ」
「なら今の私は兵器ではありませんね?だったらその大切な何かを護る剣となり盾となります。私がやれるのはそれだけですよ・・・ティア」
ティアーユはヤミの言葉に感動した。人として育てたがどうしても兵器として育てたくなかった。だけど、ヤミは兵器として受け入れるどころか大切な何かの為に護る武器として大事に想っている事がティアーユにとって救いの報告であったのだ。
「リコちゃん!私達の事もそう想ってくれたんだね?素敵だよ!リコちゃん!」
「くくく、リコちゃんよ、嬉しい事言うではないか?どれ、褒美として踏んでやろう」
いつからか黒崎芽亜とネメシスが保健室へと集まり二人は目に微かな涙を浮かべていた。どうやら彼女達はヤミやティアーユが保健室へと行っている話を耳にして遊びに来たようだった。
「貴女達・・・誰なの?一人はこの学校の生徒みたいだけど・・・」
ティアーユは制服を身に纏った黒崎芽亜と黒いワンピースを身に纏ったネメシスを交互に見ていた。そんな彼女達は自己紹介し、ティアーユも自己紹介しお互いに知人へとなっていた。
「はじめましてになるよね?お母さん!私はヤミお姉ちゃんの妹でね?つまりは私達は家族なんだよ!」
「ええ!?そ、そうなの!?でもこの学校の中ではティアーユ先生と呼んで欲しいなぁ。生徒の目もあるし」
「うん!ティアーユせんせー!」
黒崎芽亜は、にぱっと無邪気な笑顔を浮かべてティアーユの手を握り握手を交わしていた。ティアーユはそんな黒崎芽亜の顔を見て思わず笑みをこぼした。かつてのヤミが無邪気な笑みをずっとティアーユに見せていたのを思い出し、ティアーユはヤミがイヴだった時の事を目を閉じて思い出そうとしていた。
「ねぇ、ティア?どうしてひとをころしたらだめなの?わたしは兵器でしょ?なんでなの?」
小さくて幼いイヴは舌っ足らずでいつもティアーユに甘えて色んな事を聞いてくる。そのイヴは赤ん坊のようでいつもいろんな疑問を聞いてくるので優しい言葉を選んでイヴに兵器ではなく人として育てていた。
「あのね?イヴ。今の貴女は兵器なのかもしれない。だけどね?人を傷つけたらダメなの。いい?イヴが心の底から信頼出来るお友達を作りなさい。そしてそのお友達も傷つけずに優しくするのよ?分かった?」
「ん~・・・おともだち?おともだちってなあに?」
「そうねぇ、なんと言えばいいのか・・・あ、そうだ今の私達みたいに相談したり、その相談を解決する人の事よ?出来そう?そのお友達」
「ティアだけじゃだめなの?今のわたしたちは、おともだちなの?」
「確かに今の私達はお友達よ?だけど、たくさんお友達を作ったら絶対に良い事があるから私を信じてイヴ」
「うんっ!わかった!ティアはいつもほんとーのこと言うから信じる!えへへっ」
小さくて幼く可愛いイヴは向日葵のような笑顔を浮かべティアーユに抱きつき約束を交わしていた。そしてその約束は果たされるどころか親友までランクアップされていて、それでいて大勢の友達を作っている事実にティアーユは感動してしまった。
「ところでティアーユよ、感動している最中で悪いが話がある。もちろん、ドクター御門にもだ」
ネメシスの話を聞く為、ティアーユはハンカチで涙を拭い、真剣な眼差しを向けてネメシスの目を直視する。御門涼子も真剣な表情を浮かべ、両手を太股に置いて話を聞く態度をとっていた。
「まず変な事を言うがこれは本当の事だ。だから信用して欲しいとかは言えないがとにかく事実だ。そして他人に言いふらすなよ?後々面倒くさい事になるかもしれんからな」
ネメシスの要求にティアーユと御門涼子は大きくコクリと頷いた。そしてネメシスは語った・・・この世界が何千か何万回ほど繰り返されている事、そしてこの世界で起こった事が今まで繰り返された世界とまるで違うらしい事を、更には夕崎梨子というイレギュラーによってまた更に大きく運命が狂われた事を事細かに語った。
「そして、ヤミはダークネス化を自分のモノにした」
「!!?ま、まさか!そんな!そうなの!?イヴ!あのプログラムはイヴ自身の意思が失われてあらゆる物を壊すのよ!?」
ネメシスの言葉に血相を変えてティアーユは叫んだ。ティアーユ自身そのプログラムをヤミに組み込んだ覚えは無いが、ティアーユを追放した今は存在しない組織エデンによりダークネスというプログラムを組み込まれた話は耳に入れた事があるのだ。
「だ、そうだ・・・見せてやれヤミ。今のお前が兵器ではない事を証明しろ。それがお前が大人になった証拠なのだ」
ネメシスの言葉にヤミは頷き、ヤミはダークネス化を発動し、身の回りに漆黒のモヤがヤミを包んだ。そして、漆黒のモヤが消え去るとヤミの頭に二本の角が生えて両手に鋭い爪を生成し、黒い布が胸と股間部分に貼りついていてそれがめくれないように細く黒い紐で全身に括りつけていた姿であった。
「っ!は、恥ずかしいです!なんでこんな格好になるのですか!私に変なプログラムを組んだ人はえっちぃ人ですね!」
ヤミは顔を真っ赤にさせ両腕で身体を巻き付け必死に隠していた。どうやらダークネスを発動するとヤミの心が正常であっても裸に近い格好のようだった。
すぐさまダークネスを解き、制服へと身に纏うヤミの顔は真っ赤になって恥ずかしがっていたのを夕崎梨子は顎に手を添えて考える素振りを見せて観察していた。
「ふふふ、今更思うけどヤミちゃんやメアちゃん、それにネメシスちゃんはみんな可愛くて美少女だよね?造った人はとんでもない変態じゃないのかな?」
夕崎梨子に全員の視線はティアーユに向けた。ティアーユは目を見開いて「違う!違うわ!」と両手と頭を左右に振って必死に誤解を解いていく。
「組織が私の細胞を採ってイヴを造っていたから普通に女の子が造りやすかったと思うし、私自身妹みたいな子が欲しかったけど・・・だけど違うの!」
「つまりはその組織はみんな変態なのかい?ティアーユ先生の言う事が本当ならヤミちゃんだけはその理由でも構わないのだろうね?だけど、一度成功したのなら男性のトランス能力をもった人も造れると思うんだけどどう思うのかい?」
「う、う、うわーんっ!御門~、夕崎さんがイジメる~!助けて~っ!うわーんっ!」
ティアーユは思わず御門涼子に泣きすがり、御門涼子はティアーユの頭を撫でて慰めるが、なかなか泣き止まなかったので、夕崎梨子は苦笑いを浮かべるしかなかった。しばらくしたらティアーユは泣き止み、すんすんと鼻を鳴らしながら頬を膨らませ夕崎梨子を涙目の上目使いで睨んでいた。
「もぅ、夕崎さんのいじわるっ!悪い子ね?御門から聞いてた話と全く違うじゃないの?どこが口下手なのよ御門!ちゃんと説明して!」
「興奮しないでティア、ちゃんと説明してあげるから、ね?リコちゃんは基本的に口下手なのよ。ね?リコちゃん」
「涼子先生の言う通り、ボクは基本的に口下手だよ。ボクは誤解をされやすいからね?実際にティアーユ先生に誤解されたよ。ボクはイジメている訳じゃないのに、ただの好奇心でティアーユを困らせたよ・・・ごめんね?ティアーユ先生」
夕崎梨子は悲しげな表情を浮かべ深々と頭を下げて謝ったのを見たティアーユは御門涼子の言葉をようやく理解した。夕崎梨子は頭や口がよく回るのかもしれない。でも、人の話をちゃんと聞かないとまだ子供の夕崎梨子には理解出来ないのだ。だから、人に確認して自分の認識が正しいかどうかが分からないのだから夕崎梨子は口下手なのだろう。
「いいのよ?夕崎さん。貴女の疑問は当たり前だったのよ?私はその疑問にちょっと驚いただけなのよ。だからそんな悲しい顔しないで」
「ありがとうティアーユ先生許してくれて」
夕崎梨子は満面の笑みを浮かべ、ティアーユもそれにつられ微笑んだ。夕崎梨子と知り合って間も無いのに安らぎを感じるティアーユはヤミの幸せを祝福した。夕崎梨子ならヤミの心をもっともっと浄化して唯一無二の関係へと変化するのだろう。親友の更に上、大親友でありつまりは家族と言っても過言ではないくらいの親しい関係へとなるのだろう。
(あれ?最近イヴが言ってた末っ子っていうのはそういう事なのかな?夕崎さんの事を家族当然として好きという事なのね?うふふ、妬けちゃうわ)
ティアーユの考えは九割当たっていた。ヤミは夕崎梨子との出逢いと付き合いで好きへと変貌し更には夕崎梨子を妹認定するようにもなっていた。だけど、まだ夕崎梨子は妹ではなかったのだ。何故ならばこれからネメシスがティアーユと御門涼子にトランス能力を夕崎梨子に与えさせようとするのだからだ。
「くくく、ティアーユにドクター御門よ。リコちゃんにトランス能力をつけろ」
これからトランス能力三人組による夕崎梨子妹化計画が始まろうとしていた。