古手川唯を筆頭とした風紀委員の鬼チェックが今日から始まり、風紀行事が更に強まったのだが、その鉄の掟が非常に多かったのだ。
例えばーー
通学路を歩く際はダラダラしない
勉強用具や学校で必要な物以外の物を全て没収
男子と女子は必要以上にくっつかない
学校の中や学校の近くの公園や商店街のゴミ拾いの徹底
暴力行為や恐喝、その他に準ずる凶悪な犯罪の取り締まり
女子は女子らしく正しく美しく優雅であれ
男子は男子らしく学力や運動に育め
宿題の増加などなど数え切れない掟が発令された。
その掟も日に日に増し女子のスカートは膝上数センチまでよかったのがなんと足首辺りまでしか認めないという何世代前の着こなしなのかと疑問するほどの長さであった。そんな軍隊のような数々の掟に皆嫌々になっていたのだが、ただ一人にこやかに笑う少女がいた。
「ふふふ。まるで独裁国家だね」
夕崎梨子だ。
その顔は満面の笑みなのだがその顔にどこかがイラついているような気がしないでもないが、その表情を唯一読み取れる男子生徒がいた。
(リコちゃん怒ってる!笑っているけどすげー怒ってる!)
彼女を好いている猿山ケンイチ
彼は彼女とずっと傍にいたのだから些細な事でもすぐに気づけるのだ。そんな彼女を止められる事が出来るのは猿山ケンイチなのだが、あそこまで激怒しているのは初めてかもしれない。
「あ、あのリコちゃん?だ、大丈夫?もしかして怒ってる?」
「いーやサルくん怒ってないよ?ぜーんぜん」
声がどこか震えているようで怒りを我慢している様子だったのだ。
(やっぱ怒ってる-!)
内心で盛大にツッコミをいれる猿山ケンイチは慌てて物陰に隠れてしまった。そんな彼を見つけては目をギラリと輝かせニッコリと笑みを浮かべるが、その笑みが非常に恐ろしいのだ。
「オイオイ、サルくんボクはね、ちょーっと唯ちゃんと話がしたいなぁ、なんてしか思っていないんだよ?」
「あわあわあわあわ」
「ただ・・ただね・・ちゃーんとこのケジメつけさせようかなぁとしか思っていない訳なんだよ。手伝ってくれるよね?サルくん?」
「ひぃぃー!仰せのままにー!」
夕崎梨子の笑みに怯えに怯えその要求に応えなければならないと本能で悟り、二人は古手川唯が居るであろう風紀委員が集まる会議室へと向かっていき、夕崎梨子はその扉を満面の笑みで力強く開き、古手川唯と対面した。
「やぁ、唯ちゃんこんにちわ。ボクだよ。あとそれとサルくんね」
「親しくしないでって言ったでしょ?それで何の用かしら?」
「ヤクザの言葉で言うとカチコミ、というところかな?暴力は振るわないけど」
夕崎梨子の言葉にあわあわと慌てる猿山ケンイチを放っておき、前へ前へと古手川唯の前に近づいた。
「それでそのカチコミ、というの?いったいそれは何をする事なのかしら?私、優等生で真面目だから分かんないわ」
「なに、ただの誇張表現なのさ。ボクはキミと話したいだけに過ぎない。だから気にしなくてもいいよ」
「私はあなたと話したくはないの。忙しいからあっちにいって」
「オイオイ、キミは風紀委員なのだろう?ボクは悩みと用事があるからここに来たんだよ。そんな迷える生徒の悩みと用事を解決してくれるのだろう?」
「違うわ。ここは相談室でも占いの館でもないわ」
「おっとウッカリしてたなぁ、ボクとしたことが」
「はい、お話はお開きという事で解散ね」
古手川唯は自分の両手をパンッと叩き、会話の終了を促し、忙しい忙しいと小言を言いながらこれまで生徒から没収していた物を整理していた。
「あぁ、一つだけ注意事項・・いや、警告したいんだが・・聞いてはいないね」
夕崎梨子が古手川唯に話しかけても無視の一点張りで会議室をあちらこちらをウロチョロと駆け回っていた。
「もしキミ自身が自分を正義だと主張するならば、キミはそれ以上悪に関わるならば碌な事にはならないと宣言しておくよ」
「・・ふん」
古手川唯は不機嫌な顔をしてそっぽを向く。
そんな彼女に用事が済んだからか夕崎梨子は猿山ケンイチを連れて自分のクラスへと戻っていった。すると彼女の帰りを待っていたからなのか西連寺春菜が不安そうな表情を浮かべていた。
「あ、リコちゃんお帰り。今までどうしてたの?」
「あぁ、ちょっとね。ほんの少しばかり口喧嘩をね」
「口喧嘩?リコちゃんの口喧嘩なんて想像出来ないな」
「ふふふ。ボクだって口喧嘩くらいするよ。ただムカッとしただけ・・それを若気の至りというのかな?」
「あ、あはは・・実はリコちゃんって思ったより精神年齢が若いのかな?口調もそうなんだけど見た目も大人なのに子供っぽいっていうか・・」
「最近の子供はすぐに大人の真似をしたがるからね・・ボクの精神もその延長線にいるのだろう」
「子供だからというコンプレックスが引き起こしたからそうなった・・ということかな?」
「ふふふ。大正解だよ春菜ちゃん」
夕崎梨子との話が弾んで西連寺春菜はニッコリと微笑んだ。彼女となぜこんな小難しい話に花を咲かせるのだろうと不思議でたまらない。彼女は正真正銘の美少女といっても過言ではない美貌とスタイルをしているのにも関わらずなぜ同い年の女子と話している気にはならないのだろう?西連寺春菜は最初に出会った彼女の事を事細かに思い出した。最初はなんてこともない挨拶程度だった。
「おはよう、ボクの名は夕崎梨子だ。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」
その可愛い彼女の容貌から考えられない女子からぬ口調で話しかけてきて多少驚いた。色んな性格を持った人間が大勢いるから特別変わった子がいてもおかしくはなかったのだが、いざ自分の目の前に現れたとなったら対応が遅れてしまうのも無理があるというのだ。
「お、おはよう。私は西連寺春菜です。仲良くしようね?リコちゃん」
「あぁ、分かったよ春菜ちゃん」
これだけでも印象が深い出来事だというのにも関わらずあの夕崎梨子は西連寺春菜の心に入ろうとしていたのだ。
「やぁ、春菜ちゃん。正義の反対って何だと思う?」
謎の質問だった。
西連寺春菜の友人はいつもコーディネートやアイドルの話、占いの話や料理の話などがメインだったのだが初めてのジャンルの話に戸惑ってしまった。
「え、えっと、対義語で答えるなら不義?」
「へぇ、悪とは言わないなんて勉強出来る子みたいだね」
「そ、そんな事ないと思うけど・・」
「それでは春菜ちゃんの哲学的な答えを知りたいな」
「え、ええ!?え、えーと」
いきなりの哲学に戸惑っていた西連寺春菜。
友人との話は自分の言葉でハッキリと言うタイプであまり考えは働かせる必要もない。しかし、これほどでも頭を悩ませる事がある雑談があろうものだっただろうか?
「う~ん、私なりの正義の反対っていうのは・・その・・ごめん待ってて」
「うんうん。ゆっくりでいいからね」
「う~ん・・また違う正義なのかなぁ、って」
「へぇ、その心はいかに?」
「う~ん・・あ、例えば正義のヒーローがいるでしょ?そのヒーローは街を暴れる怪人をやっつけて街の平和を守る・・まさに正義!なんだけど・・怪人は怪人だって街の人々を襲わないといけない何かの理由があると思うの」
「なるほど、怪人は人がいなくなる事で達成出来る何かがあるという事だね」
「そう。あんまり暴れてはいけないんだけれど・・だけど正直に街を明け渡してください、だなんて言っても許可出来ないでしょ?」
「まぁ、人々の都合もあるし色々と面倒くさいのもあるからね」
「だから怪人だって正義を持っていると思うの」
「それが街の崩壊、もしくは世界が滅んだとしても?」
「・・怪人は自分の正義を貫き通したと思う・・じゃダメなのかな?」
西連寺春菜は自身の言った事に違和感が残っていた。
本来の自分だったならば世界が滅んでも正義は正義と言い張る事はせず、争い事が嫌いだから皆仲良くしようと言うはずだった。だけど、彼女は聞き上手で話し上手でまんまと彼女の手の平の上で踊っていたにすぎなかった。
「ふふ。春菜ちゃんは怪人サイドの敵が好きなのかい?」
「う~ん・・・ほんの少しだけ、かな?」
「理由を聞いてもかまわないかい?」
「うん。うんと小さい頃ね、近くにあるデパートでね?とある戦隊物のヒーローショーをお母さんとお姉ちゃんと見てたの」
「へぇ、春菜ちゃんにお姉ちゃんがいたんだ」
「うん。それでね、怪人が現れて物語を進めるお姉さんを人質にして暴れ回ってもなかなかヒーローは来ないの」
「ヒーローは必然的に遅れてくるからね」
「うん。会場にいた子供達も、もちろん私もヒーローを呼び続けたの。それでヒーローは怪人につかまったお姉さんを解放させたのはよかったんだけど、五人のヒーローが怪人を倒そうとするの。会場のみんなは大盛り上がりだった」
「戦隊物だからそうなるだろう?」
「だけど会場に響くのは五人のヒーローの名前だけだったの。怪人はずっと一人ぼっちで戦っていたの。誰からも誰にも注目されず、期待もされず、ただ必死に五人のヒーローをたった一人で戦っていたの」
「・・・」
「私はいつの間にかその怪人の名を泣きながら叫んでいたの。がんばれ、がんばれって・・これっていけないことなのかな?」
西連寺春菜はその頬に涙を流していた。
意味が分からなかった。特別悲しくも寂しくもないのになぜか涙が止まらないでいた。夕崎梨子はそっとハンカチを渡し、それを受け止める西連寺春菜はただひたすらに涙を拭いていた。
「キミは優しい子だ。相手が悪い事をしてもそれを許すばかりか心配までして応援してくる・・そんなキミに応援された怪人はさぞ嬉しかったんだろう」
「うん。そう言ってもらえると嬉しいな」
「そんな春菜ちゃんは正真正銘の正義だと言えるかもしれないな」
「そ、そんな恐れ多いというか大層な言葉似合わないよリコちゃん」
「ふふ。欲が深くなく純粋で誰にでも優しくなれるキミになら、いつかなれるかもしれないね」
夕崎梨子と西連寺春菜との奇妙な出会いは彼女らにとっても忘れたくても忘れられない思い出となるのだろう。
彼女らの絆はこうして紡ぎだしていくのであった。
オリジナル回みたいな話は好きですか?個人的には好きです!うん!好きです!(大事なことなので二回言いました)