亜夜乃は俗に言う超お嬢様である。正にマンガに出てくるような性悪お嬢様の外見といった感じで、つり上がった目にどうやって固定されてるかわからないドリルのようなおさげ(?)、校則で禁止されてる筈なのに、原材料のよくわからん高そうなイヤリング(本人はピアスと言い張っているが、本当は怖くて耳に穴が開けられなかった)。昔はもう少し地味だった印象があるけれど、どんどん派手に、だけど上品に綺麗に成長した。
厄介なことになまじ顔面が良く、尚且つ運動もでき頭も良いとくれば、この女子率8割を誇るこの高校では高嶺の花、いやもはや神のように扱われていた。これは今に始まったわけではなく、小学生から持て囃されて順調に育った亜夜乃の天狗の鼻は知らず知らず伸びに伸び、現在もご覧のように・・・
「喉が渇きましたわ。ちょっとあなた・・・紅茶を入れてきてくださる?」
「は、はい!ありがとうございます亜夜乃様!」
「・・・礼を言うのはどちらかと言えばわたくしだと思うのですけど・・・ま、まぁお早めにお願いしますわ」
このようにめちゃくちゃパシりまくりのお代官様みたいな立ち位置になってしまっている。亜夜乃自体はいい子なのだが、少し他人との付き合い方がおかしな子になってしまったのだ。
さて、そんないつものお昼の情景はともかく、放課後。
ホームルームが終わるや否や、僕はそそくさと自分の荷物を纏め、こっそりと教室を出ようとする。
「ちょっとアナタ、何帰ろうとしてるの待ちなさい」
亜夜乃ストップがかかってしまう。ここで強引に、やりたいゲームがあるからとダッシュで帰ろうとすれば、亜夜乃信者にあっという間に捕獲されるだけなのである。バレたら大人しく連行されるしかない。
「今日もわたくしの家よ、会議があると昨日も言ったでしょう」
「・・・はぁ、僕ゲームしたいんだけどダメ?」
「ダメに決まってますわ!!幼馴染とゲームどちらが大事なんですの!」
「ゲーム」
「そ、即答しないで下さいます・・・?」
これだけの冗談で涙目である。なんだそのメンタルは。世界一可愛い。とにかく取り巻きの目がやばいことになっているから、早く脱出しないと僕が異端審問されてしまう。
「わかったわかった、行くよ」
「ほ、ホントでっ・・・さ、最初から素直にそう言えばいいんですわ!」
「あーはいはいごめんね、早く行こう」
ドリル髪がぴょこぴょこ動いている。何故か昔から、亜夜乃は嬉しいことがあると髪がぴょこるのだ。世界一可愛い。
所変わって馬鹿でかい亜夜乃家。リビングだけで僕の家の2倍はある。さて、会議の内容はどんなものかと言うと、
「何故ですの・・・何故ですの・・・今日も友達出来ませんでしたわ・・・」
「そりゃできないでしょ、性格悪いお嬢様だよあのままじゃ」
「あ、アナタが昨日、クラスメイトに甘えてみればって言ったんじゃありませんの!?」
「いや、甘えるというか、親しみやすく接してみなよって話だよ」
「それが出来ていれば苦労していませんわ・・・」
そう、亜夜乃の悩みは、下僕は出来ても友達ができないことにあった。
「もうわたくしはまた中学校と同じ灰色の青春生活を過ごすのですわ・・・放課後にお友達とビーチにヘリで行く夢は叶わないのですわ・・・」
「なにそのブルジョワな青春」
亜夜乃の滲み出る高貴お嬢様オーラは、下僕をうみだしこそすれ、友達としては付き合いづらいことこの上ないのだ。その上人見知りと来ているので、慣れている僕以外に亜夜乃がまともに会話できる相手はなかなかいない。
「まぁでも僕は羨ましいけどね、みんな亜夜乃の手の下って感じじゃん、ある意味学内カーストは高いよ」
「カーストなんか高すぎてもなにもいい事なんかありませんわ!無駄に能力が高くても絶対に不幸せしか生まないですわ!」
「うわ、すっげぇ自信だ。まぁこの世で最も重要なコミュ力だけが絶望的にないもんね」
「うるさいですわぁーー!!!」
ソファーにおいてあるクッションでぽふぽふと叩かれるけど、クッションが良質すぎてまったく痛くない。
「それに・・・」
「それに?」
「・・・1番欲しいものは手の下に入ってはくれませんもの」
「へぇ、亜夜乃でもゲット出来ないものがあるんだね、色違いポケモン?」
「違いますわよ!!あなたじゃあるまいし!!」
こんな感じで、亜夜乃は遠まわしに何回もアピールしてくる。なぜだかわからないけど、ド庶民の僕に執着してくれているのだ。僕も亜夜乃は世界一可愛いし大好きだが、認めたら最後家ごと囲われて永遠と相手をさせられそうなので気が付かないふりをしている。まだ僕は悠々自適ゲームライフを楽しんでいたいのだ。
「それじゃ、友達作り計画の新案をだすよ」
「まだありますの?もうだいぶやり尽くした感が否めませんわ」
「敢えて、亜夜乃の配下に加わってない、亜夜乃アンチ派の男友達を作るってのはどう?意外と対等な立場で会話できるかもよ」
「それは無理ですわ、アナタ意外の殿方に微塵も興味ありませんの」
「・・・」
・・・こういう直球がほんとにずるい。狙ってアピールしてるというよりは反射で口にしてるのがずるすぎる。
「・・・まぁいいや、とりあえず映画でも観ようか」
「そうですわね!今回は取っておきをお父様が用意してくださったのよ!」
そんなこんなでバカでかい壁上スクリーンの映画を、ソファで隣合って観る。僕には少し古く感じる映画は、ゲームで寝不足の僕のまぶたには良い子守唄にしかならなかった。
だから、亜夜乃の隣でついうたた寝してしまったのもしょうがない。
「・・・つん、つんつん・・・おーい、寝てしまいましたの?」
頬を軽くつつかれる感触で、微睡みながら聞こえてくる声に耳を傾けた。
「・・・ふふっ、寝顔も案外可愛いですわね。・・・・・・本当はわたくし、友達なんか要りませんの。下僕も要りませんの。大好きな、だいすきなアナタだけがわたくしのものになってくれれば、わたくしはこれ以上の幸せはないですわ。・・・いつか絶対に、わたくしに振り向かせて見せますわ。だから、もっと頑張りますの。もっと綺麗になって、もっと勉強も運動も頑張りますの。・・・それで、それでいつか・・・」
「・・・アナタに胸を張って、もらって貰えるような女性になりますの。」
・・・だめだ、やっぱり僕の幼馴染は世界一可愛い。
お久し振りです、、、久々に浮かんだので書いてみました、、、またなにか投稿するかもです。