かっこいいのかかっこわるいのかわからない、それが先生。
12話です。
謎の襖から現れた線の細い上半身裸の男。
左手には鍔のない刀を握りしめ、刃がギラリと輝く。
男はオカルト研究部の三人を斬るべき敵と見定めた。
鋭く研ぎ澄まされた殺気を、目が合った仁へ強く向ける。
無意識に拳に力が入った仁は俺が相手と言わんばかりに構えた。
「さぁ先生! このクソ悪魔とおトモダチしてる神々しい腕のおばかさんをスパッとザシュッとやっちゃってくだぁさいっ!」
フリードの言葉を受けた男、先生は返事の代わりに行動で答えた。
仁へと走り寄る先生。刀を躊躇無く仁へと振るわれる。
「コノヤロォ-!!」
首を目掛けた斬撃は、仁が上体を反らしたことで空振りに終わった。
片言の日本語で気が抜けそうになるが、その殺意を込めた剣気たるや祐斗に匹敵、或いは上を行くかというもの。
仁の眼前に黒髪がはらりと落ちてくる。
避けたつもりの彼であったが、実際は間一髪だ。片言を気にしてばかりいたら斬られかねない。
返すよう振るわれる剣は、独特の軌道描きながら仁を追い詰める。先生などと言われた男が剣士としての技量はまさしく本物なのだと、祐斗は仁へ言葉を投げ掛けた。
「神薙君、何があっても気を抜いてはいけない! 彼は本物の強者だ!」
「そ、そうは言ってもですね……」
「シニタイカ!」
「こんな風に珍妙な片言で喋られると、耳に残るっていうか……!」
どこか日本かぶれ感が否めない容姿の先生は、それはもう至って真面目に戦っているのだろう。
串刺しにしてくれると無言の圧力を込めた突きは、仁が避けた先にあった木に刺さるどころか木っ端微塵にしている。いったいどんな剣技だと文句を言いたくなる恐るべき攻撃だが、それを片言で叫びながら繰り出すのだ。
ちょっと間抜けな感じが戦意をほんの僅かにジワジワと削ってくるのだ。
しかし戦意全てを萎えさて戦える相手ではない事は確か。
仁に拳撃が届かないぎりぎりの距離を保ち、その長い腕に握られた分リーチが更に長い斬撃を奇怪な剣技で繰り出してくる。
封じられようとゴッドハンドの力そのものは肉体に影響して人を逸脱し始めてる仁の身体能力に食らい付くこの先生は人間なのか。
いや、先生は人間では無いのかも知れない。
「何だコイツ……」
先生の暗い色を宿した眼差しもだが、仁には何かの影がぶれて見えている。
それは彼のよく知る悪霊の影であった。
なんだ今のはと、疑問を抱きながら仁は刃の嵐を潜り抜けて漸く入った射程を逃さず、右ストレートを繰り出した。
「かたっ!?」
防がれていた。刀を盾にして。
フリードに狙われた祐斗も、火消しに追われる小猫も驚いた。左の龍の手ならともかく、右のゴッドハンドで金属同士が打ち合ったような音が響いたからだ。
先生が握るのは鍔がないだけで妖刀の類いでもなんでもない、無銘の刀。
切れ味鋭くとも頑丈ではないのが刀の筈。それが右のストレート、ゴッドハンドの拳に折られることなく止めていた。この世のものではない硬さが右腕を駆けめぐる。
二人の距離は必然的、至近まで近寄る形になる。
先生の肉体から怪しいオーラがうっすらと立ち上っていた。人間には出せない邪悪な気配。
さっきの影は見間違いではなかった。
この男は、人ではない。
「人間辞めてやがるなこの野郎、誰に魂売りやがった?」
「イヤァーッッ!!」
鍔迫り合いのように押し合っていたのを先生が弾き、仕切り直された。僅かに罅が入っていた刀だが、先生が素振りすれば何事も無く綺麗な刀身が月夜に照らされる。
ゴッドハンドが倒せと言っているのか、右腕に熱がこもるのを仁は感じていた。悪霊と、その裏にいる何者かに並々ならぬ因縁があるのを彼はまだ知らない。
今はただ男を倒さなくてはと、拘束具を外し手刀に構え、振り下ろす。
それは悪を切り裂く黄金の刃、両断破。
「キリステ、ゴメン!!」
まさか、真っ向から両断破を迎え撃つというのか、先生は刀を居合い抜くかのように構えだす。片言が本人にそんな気が無くてもやはり可笑しさを誘いこむ。本人が元からそうなのか、人間辞めても根底は変わらないのかも知れない。
銀線一条、黄金を断たんと闇に閃く。
結果は果たして――――。
「シヌゥーッ!!」
「えぇぇぇっ!?」
「痛ぁぁぁい!?」
ズバッと吹き出す鮮血。
ぽっきり折れる刀。
身体に一筋の赤が刻まれ先生は悶絶していた。
仁もその結果に驚いてしまう。
フリードも突然悲鳴を上げて悶絶しだす。
祐斗はフリードの奇行に固まってる。
小猫は発射台で黙々と何か作業してる。
「オレター!」
結構、いや即死物の深手なのだが、傷のことよりも刀を折られたことのほうが男はショックだったようだ。
意外とピンピンしている姿にやはり尋常の存在ではないことを見せ付けているが。
ちなみに折れた刀身はフリードの肩をざっくり切り裂いていた。祐斗を翻弄するのを辞めたフリードが肩をいからせて嘆く先生に詰め寄る。
「何やってんだ先生ボクチン殺す気なの? というかなんでアレを斬れると思ったの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「オレター!」
「見りゃ分かるから耳元で叫ぶなや! いい歳した大人が何泣いちゃってんの!?」
「オ・レ・タァーッッッ!!!!」
「しつけーし、うるせーよ!? てめぇの力で直せないのかよ!? ほらさっきみたいにパッと振ってさあ!」
「ムリ、ジャア……」
「駄目駄目じゃん、使えない術ですなおい!」
それはもう見るからにぐだぐだだ。
二人して血を撒き散らしながら怒鳴り合う。
気付けば二人以外のはぐれエクソシストは全員死屍累々と地に伏せていた。
花火の導火線自体も、二度と着火されることがないよう、小猫に取り外されてしまっている。
もはや二人は敗北したも同然だった。
こうなればと、フリードは懐にしまった例のスイッチに手を伸ばす。
こんなこともあろうかと用意していた強制打ち上げ装置。備えあればなんとやら、押せば花火が打ち上がる。奴らは人質を守れなかったと悔しがるだろう。
そう思ってたフリードは、打ち上げ台の方を見て目を剥いた。
「やった! 導火線なくなった! もう打ち上げられる事はないんだ! ありがとぉぉぉぉぉ…………!!」
「……マジですか」
女性を縛っていた支柱がスポッと気軽く引っこ抜ける。打ち上げられる筈の人質が自力で脱出してるではないか。
しかも痛め付けたはずなのにそのまま元気に猛スピードで走り去って行っちゃう始末。花火取れてないよと、祐斗が慌てて追い掛けていく。フリードが取り出したスイッチを徐に押せば、女性が居なくなった台だけが吹き飛んでいった。
ぬか喜びさせて堕とす筈のスイッチは女性ではなくフリードに牙を剥いた。それのなんと虚しいことか。
「お前、スイッチがあったのか、危ねぇ奴だぜ!」
「卑劣です……!」
導火線が無くても打ち上げれるカラクリを知ったからか真面目に怒る仁と小猫。そんな二人を見てフリードは何もかもどうでも良くなってきた。いったい何処で歯車がずれてしまったのか。
此方は手負いと得物無し、向こうは消耗してもまだ無傷。明らかに分が悪いと判断したフリードは、閃光弾を取り出した。これ以上は戦う必要が無い。
「あーもう、これ以上やってられないっすわー。興醒めということで俺達ここいらでとんずらよっと。ではではっ、はいちゃらばーい!」
あらゆる影を消し飛ばすほどの閃光が広場に広がる。
仁と小猫は自身の目を焼かれないようにするのが精一杯だ。
しかし光は一瞬、すぐにいつもの暗闇が広場に帰ってくる。二人が目を開けられるようになる頃にはフリードの姿は何処にも見当たらない。
「メガァ、メガァァ……ッ!!」
精々目を押さえ苦しみ悶える先生が居たぐらいだが、彼もまた謎の襖に帰っていく。残された二人は結局構えを解くだけだ。後を追う手段は持たないし、近いうちに再びまみえる事になるだろう。
「さっきはありがとうございました神薙さん」
小猫がポツリとお礼を口にする。
何の事だと仁は一瞬分からなかったが、フリードに撃たれそうになった危機を思い出した。
「あれは、咄嗟に剣ぶん投げるぐらいしか出来なかったし、あの野郎がすぐ相手を変えるようなタイプだったからよかったっていうか……」
「そうですね。じゃあさっきのお礼はなかったということで」
「えぇ!?」
「……冗談です。私を助けようとしてくれたことは事実ですから。本当にありがとうございました」
そう言って、ほんの僅かに口角が上がった小猫は残された発射台とはぐれエクソシスト達を処分しにかかった。珍しいものを見たと、仁は少しの間呆けている。彼の記憶にはいつも無表情な小猫しか見ていなかったからだ。
「笑ったらあんなに可愛いんだなあ。あれ、というかもしかしてさっきのちょっと距離が縮まったり?」
セクハラ発言が招いた自業自得で避けられていたが、歩み寄りがあったのを仁は感じていた。
――――これは、もしやするとお近付きになれるチャンス?
新しい友達を増やすぞっと密かに意気込む仁は気付かない。マイナスからゼロに戻っただけということを。
◆◆◆
「フリード! 貴様は、花火を打ち上げるとか言ってイタズラに戦力を減らしてくるとか何考えてるの!?」
そこはとある廃れた教会の地下空間。
扇情的で非常に際どい衣装を纏う女が激昂していた。
かつての純白を忘れた黒い翼を大きく広げ、光力の他に妖しいオーラも入り混じった力を地下空間に満たしていく。女の威圧は墨でポーカーに励む堕天使三人組に冷や汗をかかせていたし、特に戦う力の無い、場違いのようなある少女がびくりと自らの身体を掻き抱いている。
しかし威圧の他に殺気染みた怒気も加えた威圧を一身に浴びてるフリード自身はというと、まるで堪えた様子は無く、それどころか同様に平静な雇われ用心棒、先生と一緒に、どこからともなく用意した炬燵に篭もってミカンを食べていた。
肝が据わっている。というよりもまさしく脅威ではないという彼自身の判断と、もっと強い存在と相対したことのある慣れだからだ。それを分かっているレイナーレはぎりっと歯噛みする。ちょっと強いだけの、たかがはぐれエクソシストに舐められていることは彼女の人間より上位の種であるというプライドを刺激する。
それを見てはぁと、見せ付けるような大きな溜息をつくフリードは皮を剥いたミカンを丸呑みすると、懐から古めかしい携帯を取りだした。
「もー、そうやって美人がカリカリすると台無しだぞっ☆ オカズはもっとこう、くっころ感を出すために堂々としてよね。あんな雑魚はぐれを招く必要なんて何一つ無いんだぜぇ?」
「おかっ……!? この、スケベ猿が!! 我慢ならないわ! 消し炭にしてくれる!」
顔を真っ赤にした女は、禍々しい槍を手に生みだすと足音をならしてフリードに近付いていく。それを見た堕天使三人組がこりゃいかんと、押さえ付けにかかった。離せと暴れる女をケラケラ笑うフリードは、彼を守るように刀(無銘刀マークツーダブルセカンドツヴァイと銘打たれてる)を抜いていた先生を下がらせながらどこかに電話をかけ出す。
地下から携帯の電波が届くのでしょうか?という少女の疑問は、フリード自身がどこかの誰かと楽しそうに会話し始めたところで届く物だと誤って認識されるのであった。
「もちもち? ぼくふりーど! 予想してたトラブルがあったからあの戦力工面よろぴこー! え? 代価はあるかって? そりゃボスが出世払いで払ってくれるっしょ。なんてったって恋する乙女はムキムキムテキングだからネ! ほいほい、そいじゃま、契約成立でありがとねー!」
「戦力工面ですって? あなた何を勝手に……!」
「まあまあ、そうカッカしなさんなって。オレ様って世界中を旅したおかげかその手の伝手には困らないから、はぐれエクソシストよりもっとクソ悪魔ぶち殺すのに特化した奴ら知っててそれ呼んだだけだから」
「はぐれとはいえエクソシストは対悪魔戦のエキスパートよ? それより役に立つというのかしら?」
「そこは指折りつきよん! おまけに愉快な奴らだから、飽きることも無し。ふへへへ、いいことしたフリードくんはカラオケに行きたくなり候。先生夜の町に繰り出そうぜぇい! 具体的には隣町ぐらいのカラオケ屋さん!」
へらへらと、フリードは先生を伴って地下空間から出ていってしまった。
女は舌打ちしながら、槍を消し去り豪奢な椅子に座り込む。
「まったく、あの男はどこか信用ならないわ。勝手に戦力を呼ぶのはいいけど、やはり加護を与えて力を制御できる愚かなはぐれエクソシストの方が御しやすい。同じ部類のくせにどうしてアレはああなのよ……。いっそのことあいつだけは闇討ちして……」
「れ、レイナーレさん……」
「ああ、ごめんなさい私のかわいいアーシア。あなたを怖がらせるつもりはなかったのよ。許してちょうだいね」
「……はい、分かってますレイナーレさん」
震えていた少女アーシアを、レイナーレと呼ばれた女は激情から一転して慈しむように微笑み、優しく抱きしめる。怯えさせたことを詫びるようにその頭を撫でて。
「大丈夫、大丈夫よ。かつて聖女と呼ばれたように、またその力で多くの者を癒していけるわ。もう誰もあなたを傷つけさせないのだから」
「はい……」
例え居場所を無くそうとも、どうか傷付き苦しむ者にこの癒やしの輝きをもたらしてあげたい、そう願っているのは少女だけ。
豊かな胸元に顔を埋める形になったアーシアは見ることがないだろう。優しい言葉とは裏腹に、酷薄な笑みを浮かべていたレイナーレが見下しているのを。
レイナーレの目には、優しい少女よりも宿る癒やしの力だけしか映っていなかった。
ちなみに先生には師匠の大先生がいます。師匠と言うだけあってめっちゃ強いです。
いつか登場させたいですね。
フリードには怪しい知り合いがたくさんいるというか、オリジナル要素いっぱい突っ込むからGODHANDキャラ呼び込み係にもなって貰います。
誰が来るかはお楽しみ。
レイナーレもパワーアップ。
アーシアと百合百合しだしそうだけど、そんなことは無い。たぶん。
時間掛けた割にちょっと不満足感を覚えてるので突っ込みがあったらお願いします。
ちなみに作者は両断破が大好きです。
手刀で斬撃出すシンプルさがたまらないのです。