ここからが本番。
の筈がワンクッション入れる羽目に。
我ながらちょっと面白くないかもしれません。
そして酷いネタバレ。
ドーナシークとの再戦は二度とやってきません。
原作の末路的な意味で。
俺の左手はロンギヌス1
『ドーナシーク? 確かにウチの組織に籍は置いていたな。一年前までは』
「一年前までは?」
深夜、異様な空気に包まれたとある河川敷にて仁は耳元の声に疑問符をつけてオウム返しする。
目の前には異形の人影。両手と頭が燃えているそれは仁の背を遥かに超える。しかしその異形は仁を襲うどころか、しきりに仁を気にしながら千鳥足で逃げ出そうとしていた。肉体は所々欠け始め、そのまま粉々になりそうだ。
そんな異形の人影を目前にしておきながら、仁は耳に当てた携帯の声の方に気にしていた。
『レイナーレっていう堕天使が、自分に賛同する堕天使やはぐれのエクソシスト達を掻き集めて非合法の『教会』を取り仕切ってたんだが一年前から忽然と消えやがってな。ドーナシークもレイナーレにくっついていったんだろう。天野夕麻なんて堕天使の名前は聞いたこと無いが……』
「……前から思ってたけど、神器に夢中になりすぎだろオッサン。部下が悪魔の土地でオイタしてんだぞ。ちゃんと面倒見ろってあれだけ周りに言われてたのに。こっちは学校の先輩が一度殺されて頭にキテんだからな」
『げ』という言葉が聞きながら、逃げようとする人影に追い付いた仁は、空いた手の人差し指で壊れ物を触るように人影の背をチョンと触った。
すると人影は地の底から聞こえそうな怨嗟混じりの唸り声を上げながら瞬く間に炭化。そのまま木っ端微塵に霧散し消えてしまう。異様な空気は消え失せ、せせらぎの音が心地よい静かな河川敷が戻ってくる。
「組織を抜け出して何か悪さしてるっぽいし、駒王町を堂々と歩き回ってる奴だっていた。これからもちょっかい出してくるようだったらこっちで潰してしまうだろうけど、別にいいだろ?」
『はあ、こっちの不手際なのにこんなことお前にやらせるのは間違ってるんだろうけどな、任せるよ。こりゃ謝罪は免れんか。よし、今度そっちに行く予定を組んでおくわ。停戦状態の中でいらない火種を持ち込んだこっちが悪い』
「是非そうしてくれ。だがアンタは見つけ次第地面に埋めてやるから覚悟しておけ。きっと悪魔も堕天使も愉しく遊んでくれると思うぜ? そうだ、ついでに天使から貰ったアンタの黒歴史も公開朗読してやるからな」
『ちょ、なに、なんだって!? おい待てソレどういう――――』
顔にかかる煤と火花を右手で払いつつ、やかましくなる携帯を閉じると仁は右腕の肩を回して大きなあくびを一つ。
彼は河川敷を後にしようとして何かを思い出したかのように立ち止まる。
「そういや最近、妙に悪霊退治の手配書が増えてきてるような……。気のせいか?」
振り向いた先にあるのは誰もいない河川敷。
先程まで異形の人影、悪霊が仁と対峙していた場所。今はもうなんのおかしな気配はないのだが。
「駒王町に観光。そんなわけ無いか」
ふん、と鼻をならして彼は今度こそ家路につく。
既に彼の頭からは異形の人影のことよりも自身の大切な友人のことに切り替わっていた。
◆◆◆
ドーナシークなる堕天使を仁がボコボコにし、ついでに悪霊退治した次の日のこと。
放課後、仁はオリヴィアと二人でファッション雑誌の人気男性モデルをメタクソに扱き下ろしていた時だった。
「神薙さん、話があるので少し時間いいですか」
初日の奇行以来、仁のことを避けていたクラスメイト、塔城小猫が彼に声をかけた。今日の今日までなんの接点も無かったのにだ。
未だに帰らずにいたクラスメイト達は戦慄、ざわつくと三人から離れて見守り出す。
小猫ちゃんが――――!?
スパンキングの仁に声を掛けた――――!?
あの鬼畜にか――――!?
逃げてぇ、小猫さーん――――!?
小猫ちゃんのお尻は私が守る――――!!
駄目だお前じゃ堕とされるぞ――――!!
僕を堕としてくれないかな……――――。
好き勝手言われ放題。すっかり身についてしまった悪名の高さに辟易しつつ、仁はすぐに昨日のことだと判断する。塔城小猫もまた人外であると彼は気付いていたから。彼女が二人いるであろう王のウチどちらなのかは分かっていなかったが。駒王町の治めてる悪魔の名前を思い出した仁は誰の使いかの予想があらかたついた。
オリヴィアは何事だと小猫と仁に顔が行ったり来たり。小猫が悪魔だと気付いても今回は殆ど蚊帳の外なので分からないのだろう。
「オリヴィアも連れてっていいか?」
「それは何故?」
「関係者だから」
オリヴィアちゃんもだと――――!?
既に手遅れだったか……――――!?
見ろよあの目、野獣の眼光だぜ――――!!
なんて残酷な世界ッ――――!!
あいつロリコンなのかな――――?
僕がロリになれば堕としてくれるかな――――。
仁が口を開く度にヒソヒソと、しかし内緒にする気がない声量でクラスメイトが盛り上がる。
勝手にロリコン認定され初めてどんどん鬼畜度合いを上げられていく。仁の眉間に皺が寄り、ニヤニヤと仁を眺めるオリヴィア。
特に最後のさっきから誰だ。とんでもない変態がいるぞ。
「……分かりました。それじゃあ私についてきてください」
「ありがとう、ところでなんでそんな遠いところから話しかけてきたの? わざとなの?」
教室後方窓側の席であった仁の呼びかけに応えない小猫は、教室の黒板側の扉から無言で出て行った。使いとしての役目はともかく、仁のことはやっぱり避けているようだ。少しだけ傷付く仁だが、初日でお尻を眺めて叩きたいとか言っちゃう男なので当たり前である。
「何? もしかして私達何かやらかした?」
「なんもしてねぇよ、昨日まではな」
「何それ、私にも話しなさいよ」
「あとでな」
仁とオリヴィアは小猫を追い掛けて教室を出て行く。
その直前、仁が振り向いて威嚇するように右手を振り上げるとクラスメイト達は戦き悲鳴をあげる。一人だけ熱視線なのは無視しながら仁は改めて小猫のあとを追い掛けた。
連れてこられた場所は駒王学園旧校舎。
中に案内されて辿り着いたのはオカルト研究部なる部活動の本拠地。
はて、そんな部活がこの学園にあったのか?
仁とオリヴィアは仲良く首をかしげる。
「オカルト研究部……。日夜怪しい事をしてるのかしら、なんか怖い」
「何震えてんだお前。人を化け物専門賞金稼ぎにさせてるくせに」
オリヴィアの頭にチョップを入れながら部屋の中に仁が入る。
目についたのは魔法陣と部屋の至る所に刻まれた理解不能な言語。
ソファーには男子二人と今しがた女子が一人座り、奥のデスクには女子が二人。
中にいた人物達の視線が仁とオリヴィアへ一斉に向けられる。
大和撫子という言葉がよく似合う姫島朱乃。
学園一の美男子として黄色い声が絶えない木場祐斗。
案内してくれた一年生のマスコットと名高い塔城小猫。
そして部屋の奥で腰掛ける部屋の主、リアス・グレモリー。
どれもこれも、学園の人気者だ。
もう一人、鼻の下を伸ばしトリップしていた兵藤一誠が仁がいることに驚いたのか現実に戻ってきた。
「……兵藤先輩、さっきのいやらしい顔は?」
「よくぞ聞いてくれた仁! さっきまでグレモリー先輩がシャワー浴びてたんだよ! とてもイイシルエットだったぜ!」
「く、もう少し早く来れば見れたのかっ」
悔しがる仁。その足をオリヴィアが蹴り付けるが、微動だにしない。逆にオリヴィアが足を痛めている。
小猫が一誠と仁を冷たい目で眺め、祐斗は苦笑い。朱乃はニコニコ笑顔を崩さないまま。
「んんっ、これで揃ったようね。ようこそオカルト研究部へ。歓迎するわ、悪魔としてね」
咳払いをしたリアスが歓迎の意を示す。
浮かべた微笑みは、美貌と相まって妖しい美しさがあった。それも当然だろう。彼女は人ではない。
言葉通り、正真正銘悪魔なのだから。
◆◆◆
始まった話は主に一誠の為に行われた。彼はまだ裏の世界に来たばかりの新参者なのだ。昨日のようにまた襲われでもすれば、次は無いに違いない。これは彼が生き抜くのに必要なチュートリアルでもある。
リアス・グレモリーの眷属となった経緯。
転生悪魔となったこと。
彼が殺される原因になったであろう原因、神器のこと。
彼がこれからどう立ち振る舞うかのこと。
そして――――。
「いよし、決めたぞ仁! 俺は悪魔社会で出世してハーレムを作る!!」
「ハーレム……!! なんて欲望に忠実なんだ兵藤先輩!!」
左手の龍の手を発現させたときのように掲げた一誠は、部室で高らかに宣言した。
現代日本では叶えられないハーレムは、悪魔社会でならば叶えられる。辛く困難な道なれど、彼は果ての遠い荒野を歩むと決意した瞬間である。
そんな一誠を羨ましそうに見つめる仁。変態二人を小猫と一緒になって冷たい目で見るオリヴィア。
他の人達は微笑ましい目で見るだけ。朱乃なんて「あらあら」しか言わない。
「さて、これでイッセーを正式に迎え入れたわけだけど……」
リアスの視線が仁とオリヴィアに向けられた。
彼らは人間。このリアス・グレモリーと眷属の集まりでもあるオカルト研究部からすれば、異質なことこの上ない。少し悪い言い方をすれば部外者、異物である。
そんな二人を迎え入れたリアスは今一度聞かねばならない事がある。
「神薙仁、だったわね。貴方がこの町にやってきた目的は何?」
私は警戒しています。
そんな印象が部室の誰もが感じ取った。
裏の世界にて領土を預かる者としての役目。
超常に属するものから守らねばならない。
人間は勿論、この町のどこかで暮らす人外達、彼らが何気ない日常を謳歌している。誰も混乱なぞ望まない。
駒王町を管理し守るというのは、そんな者達の日々を守るということなのだ。
「あの、すいません……」
仁が応じる前にそろりと手を上げる者が一人。
隣で小さく縮こまって座るオリヴィアだ。
威圧していた訳ではないが、静かに王として構えるリアスの姿にビクビクしていた彼女は遠慮がちに口を開く。
「えっと、私らはですね、単純にこの学園が引っ越した家から近かったから通うことにしただけなんです」
「……進学先として選んだだけ?」
「残念ながらたまたまです。目的はありますけど、この町にやってきた目的、とかいうのは無いです。本当に」
仁とオリヴィアには確かに目的がある。
しかし別に駒王町でなくてもいいのは確かだろう。
最近なんて碌に進歩無いし、現状人間として必要な教育を受けながらの日々なので、この町にいる間に手掛かりを得られたらいいかなー程度な気持ちしか二人にはないのである。
そもそも果たしたいなら仁の知り合いである堕天使総督を頼ればいいのだから。頼らなかったのは、総督は総督で忙しいから仕事を増やしてやる気は無い仁なりの優しさ。向こうは勝手に調べていてくれてることを仁は知らないが。
「こっちが警戒するだけ無駄だったわけね。ごめんなさい、変な質問して」
「いえ、まあ、自分らが特殊すぎるので警戒するのは当然ですよ……、はは……」
ゴッドハンドの仁が学園に入学した。
リアスとここに居ない生徒会長は、それを知ったとき卒倒したものだ。
きっとゴッドハンドの滅茶苦茶具合なら記録という媒体で知っているリアスと生徒会長のほうが詳しいだろう。現在のゴッドハンドである仁以上に。
(彼もまた、かつてのゴッドハンドのようになってしまうのかしら……)
リアスが幼き日に娯楽として見た古い映像は、実のところすべて加工も何もしていない本物だったと知った時の衝撃を彼女は忘れていない。
空を裂く巨大な黄金の掌。
二条の光が、誰も倒せないと恐れた怪物を粉砕したのを。
愛する兄が言っていた。
あれはきっと、天使や堕天使が使う悪魔を浄化する光とは違う、救世の為の聖なる力。邪悪なるもの全てを滅ぼす究極の光なのだと。
少しだけ興奮混じりに語る兄は一種の憧れを抱いているようだが、リアスは途方も無い力に純粋に戦いた。
そんな代物を彼は真に理解しているのか。ほんの少しだけ、リアスは彼に対して恐怖を抱いている。この恐怖は間違いだと理解している彼女は、心の奥底に誰にも悟られないよう恐怖を隠し、隠しきれないほうの感情を発露することにした。
「それはそうと、昨日貴方は私の下僕を守ってくれたこと感謝しているわ、本当にありがとう。契約とは別に、何かお礼がしたいのだけど」
グレモリーは情愛深い悪魔。次期当主とされるリアスもまた例に漏れず駒達を全て愛している。
勿論、成り立てであろうと一誠に向ける愛情は本物。
そんな可愛い下僕を、大切な友人であり敬愛する先輩を守るため、仁が立ち向かってくれた。
ゴッドハンドを持っていようと仁が人間であることに変わりはない。堕天使と戦った彼に報酬が無いのは、彼女自身が許さないだろう。
リアスが下僕の危機に気付き、急いで駆けつけようとして、既に事が終わっていた。自身の未熟さに恥じ入りながら、今回の件はうんと謝礼をはずむつもりである。
母とメイドに金銭の扱い方が荒いとまた叱られるかもしれないが、なるようになれだ。
「じゃあさっき言った俺達の目的に関することでひとつ」
「ええなんだって言って頂戴。出来るだけ叶えてみせるわ」
「失われた左腕のゴッドハンドの行方、その情報をください」
「失われた、左腕の、ゴッドハンド……???」
「簡単に話しますと、左腕のゴッドハンドが悪党に奪われてるんですけど、犯人は行方不明で……ってあれ? グレモリー先輩?」
恐怖の対象は、二つに分かれていた。
しかも悪党、悪用する気満々である。
朱乃が小突くまでリアスは固まってしまう。
「ふ、ふふ、大丈夫、大丈夫よ私。急に駒王町に現れる事なんてないはずだから」
小声でもらした言葉。
そう遠くない未来に左腕のゴッドハンドを持つ男が来ることになるなど神ならぬリアスには知る由も無いことである。
アーシアの登場はまだまだ先だったりします。
ファンの方はすみません。
そんな自分は黒歌派。
しかし彼女はヒロインではないのです。
ファンの方はすみません。
この話いつか書き直すかな……。