ハイスクール右手は×ゴッドハンド   作:S4nobu

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俺の左手はロンギヌス2

 

 

 オカルト研究部の部員になって以来、兵藤一誠は二つの顔を持つようになった。

 

 表では、いつもと変わらない人間の顔としての兵藤一誠。

 学園に通い、適度に勉学に励みつつ松田と元浜、後輩の神薙仁と猥談に興じる平穏な日々。

 以前の一件で懲りたのか、押っ広げにエロスに走ることは無くなったが、まぁやっぱり女子生徒からの受けは悪い。おっぱいへの情熱は暴力如きで冷めることは無いのだ。

 木場祐斗と歩く姿を目撃した腐った女子生徒からの怪しい視線が怖かったりするが。

 

 裏では、新たに始まった悪魔の顔としての兵藤一誠。

 叶えたい野望のため、現実にあるなんて知らなかったファンタジーの世界へ自ら身を投じるようになった。

 先日は主が治める領土に侵入したはぐれ悪魔を筆頭とした討伐の仕事と戦いの空気、ついでに駒としての自身を知った。

 契約の仕事は、自転車での通勤というちょっと間抜けな姿だし、契約そのものは中々取れなかったが、お客様からは好評。いずれ自身の手で契約を取れる日が来るだろうと主に太鼓判を押されている。

 そして神器を使いこなすため、戦う、ということを学び鍛えている。

 

 二つの顔を両立しながらというのは中々大変であるが、彼の人生、いや悪魔生は充実の日々であった。

 

 すっかり朝に弱くなってしまった一誠は、寝惚け眼を擦りながら、登校の支度を済ませて頬を叩き、気合いを入れる。

 

「いよしっ、今日も一日頑張るぞ」

 

 居間へと向かい、両親と共に朝食を取っていた時だった。テレビを見ていると朝に似つかわしくないニュースが流れ、妙に関心を引いたのだ。

 一言で言えば猟奇的。

 事件の舞台は隣町。被害者が何者かに右腕を切り落とされるという恐ろしい事件が、僅かな期間で立て続けに三件も起きたという。

 被害者の中にはそのまま命を落とした者もいる。警察が必死に捜査をしているが、尻尾を掴めていないどころか影さえ見えないという。

 次はいつ起こるのか、隣町は少しばかり物々しい状態になっているようだった。

 

「場所も近いし、恐ろしいわ」

「ああ、早く捕まってほしいものだ」

 

 両親の言葉にその通りだと思う一誠は、何故か年下の友人である後輩の姿が思い浮かんでいた。

 きっと、下僕として歓迎されたあの日に仁が語った過去のせいなのかもしれない。

 

『なあジン、どうしてお前は伝説って言われてるゴッドハンドを手に入れたんだ?』

『手に入れたんじゃなくてゴッドハンドで命を繋いで貰ったんすよ、オリヴィアに。見たことのないはぐれ悪魔に右腕を切られかけたオリヴィアを見つけちゃって、助けようとしたら俺が右腕を切られたんです。助けるつもりだったオリヴィアは命の恩人ですよ』

 

 手斧を振りかざすオリヴィアを押さえ付け、彼女のお尻を愉しそうに叩いて鳴かす姿から本当に恩人と仰いでいるように見えないことに目を瞑りつつ、その右腕を切り落とすはぐれ悪魔というのが引っ掛かった。

 

 この事件は仁が関わったはぐれ悪魔の仕業なのではないか?

 

 そんなことを考えつつ、時計の針を見た一誠は急いで朝食を終えて家を出るのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

「悪霊退治、ですか?」

 

 グレモリー眷属の騎士、木場祐斗の言葉にこくりと頷くリアスは一枚の紙を持ってくるとテーブルの上に広げて見せた。

 描かれてるのは駒王町、一部の区域を中心にズームアップしたものだ。

 ただの地図では無く、ある一点を中心にバツ印が放射状に広がっているのが分かる。

 

「この印はね、ここ最近の討伐した悪霊達の分布図なの。日付ごとに分けてるし、ジンが部活に入部してから提供してくれた、彼が退治した箇所を含めてみると過去に類を見ない発生数になっているわ」

 

 覗き込んだ朱乃がわざわざ指で数えて口にしたのは、十五体。駒王町では年に一体か二体出る程度であったのだが、今年ばかりは事情が違っているようである。

 リアス付き添いの元、巫女としての技能も持つ朱乃が、悪霊を生まないように町の澱みを定期的に祓っているのだが……。

 

「イッセーを襲った堕天使の件もあるけれど、先にこちらの憂いを絶とうと思うの。おそらくここに構えられてる空き屋敷が一番怪しいわ」

 

 指を差したのは、人気の少ない場所にある大きな倉庫を持つ屋敷。

 持ち主だった富豪は、屋敷を売り払い海外へと移住していた。現在は買い手がいないので蛻の殻の筈。

 

「うふふ、実はこのお屋敷、いつの間にかお化け屋敷と言われるようになっていたのよオリヴィアさん」

「な、なんでこっち見て嬉しそうにそれを言うの朱乃さん?」

 

 朱乃が笑顔で見つめる先、オカルト研究部の新しい部員その二であるオリヴィアは新しい部員その三である仁の影に隠れた。ちなみに新しい部員その一は一誠のことである。

 

「お、お化け屋敷なら私のゴッドハンドのジンを突撃させればすぐに壊せるもん!」

「誰がお前のになったんだよ。あとその異名だかなんだか止めろ。恥ずかしい」

「……スパンキングのジン」

「塔城さん、一番傷付くの言わないで。本当にあれは何かの間違いだから」

「近寄らないでください神薙さん」

「塔城さん!?」

 

 

「それで、今日いきなり仕掛けるんですか部長」

「ええ、そのつもりよ祐斗。以前より使い魔の偵察をしていたしね。オリヴィアちゃんはお留守番よろしくね」

「ジンならお貸しします。悪霊退治ならゴッドハンドを持つ人間の方に長じてますし、じゃんじゃん扱き使ってください!」

「え、俺も行くの?」

「行かないとその腕もいじゃうぞ?」

 

 スッと取り出される手斧。ぎらりと光る刃は本物だと示している。一体どうやって懐に忍ばせているのか、右腕を隠す仁どころかリアスと眷属達も分からなかった。

 

「分かった。行けばいいんだろ行けば」

「何もジン一人で行かせるつもりはないわ。むしろ悪霊との戦闘もあるかもしれないから、皆で行くわよ」

 

 そして一人残してぞろぞろと部室を出て行く。

 ところでオリヴィアは恐がりでもあるのだが、皆の帰りを待つにしても少しは部室の雰囲気はなんとかならないものかとそわそわしていた。部室の中は何か這い出しそうな魔法陣があるし。電気ついてるのになんだか薄暗いし。

 

「やっぱりジンを置いてって貰うようにすれば良かったかな……」

 

 オリヴィアの心細い時間の始まりである。

 だからといって留守番する彼女に焦点が当たることはない。

 

 

◆◆◆

 

 

「悪霊……、なんか思ってたのと違うな」

 

 一誠が握る三枚の写真。

 どんな存在か知らない一誠の為に祐斗が持ってきてくれたものだ。遠くからこっそりと撮影された悪霊の姿が写っている。

 燃える両手と頭。その頭は脳が詰まってる筈の部分がないので松明のようになってしまっている。大きさもそこらの長身の大人より大きい。

 他にも片腕に巨大な刃を持つ者、全身から鋭い棘を伸ばす者の写真があった。

 

「大悪霊なんてのもいるけど、現れるのは本当に極稀だからまずはその三体を覚えておいて」

「分かったけど、木場は悪霊と戦ったことあるのか?」

「戦った機会は四回かな。どれもこれも騎士の駒並に素早い動きをするのにワープも使って翻弄してくるんだ。おまけに耐久力や力だって戦車と張り合えるだろうね。こうして改めて口にすると、下手なはぐれより厄介かなぁ」

「俺、ちゃんと戦うの初めてなんだけど、大丈夫かこれ……」

 

 はぐれ悪魔のバイザーを翻弄していた祐斗と怪力で叩き潰した小猫。一誠はあの時魅せられていた勇姿を思い出した。自分もいつかあそこまで戦えるようにならなくては。高笑いしながら雷を落とす朱乃の姿はノーカンで。

 そうこうしてるうちに辿り着いたグレモリーとその眷属、そして仁。

 ただ、リアスだけは片手に持つプリントを見ては周りを見て首をかしげている。その顔はどこか焦りが浮かんでいた。心配になった小猫が尋ねる。

 

「どうしたんですか部長」

「不動産屋にある屋敷の紹介プリントをコピーしてきたのだけど、おかしいわ。屋敷の大きさがまるであっていないの。いいえそれだけじゃない。この区域、家の並び自体も違う。まるで違う町になってるわ……」

 

 え、と困惑する眷属達。

 全員初めて来た区域なのだが、確かに、朧気ながら覚えてる駒王町の地図と比べても見たことのない店があったり、あるはずの交番がなかった。そういえば車の走れる道路が一つも見当たらなかった事に全員気付いた。

 そうなればあるべき信号も標識もない。電柱さえ一本も立っていないのである。コンクリートで舗装された道が途中から砂の大地に変わっている。家屋はひとつかふたつ時代が古く見える。

 

「まるで、昔に遡ったようですわ……」

「……部長、ちょっとあそこに隠れましょう」

 

 何かに気付いた小猫の言葉に従い、全員小さな路地の闇に潜むと、深夜なのに一人の男性が何かに追われるように走ってきた。

 彼は人間である。

 その姿を見た祐斗が「あっ」と声をあげた。

 

「知り合いなの?」

「ええ、僕と契約した方です。剣に名前をつけて可愛がり、一緒にお風呂に入ったり、床についたりするちょっと危ない刀剣マニアである事を除けば普通の方ですよ」

 

 それはちょっと危ない刀剣マニアで済んでいいのか、ツッコみたくなった全員だが、息を潜めてるので出かかった言葉を飲み込んだ。

 見た目の年齢は三十代半ば頃だろうか。寝静まった時間に近所迷惑だと起きてきそうな程の大声を上げ、その顔は恐怖に歪み、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。

 

「何があったんだあのおっさん」

「あれを見てください」

 

 小猫の声に導かれた視線の先、新たに現れたのは三人の男達だ。日本人、と呼ぶには全員彫りが深く厳つい顔つきである。

 鋭い目付きのモヒカン、マスクをつけたチビ、何故か犬を抱えたデブの三人。

 それらはリアスの記憶にない顔触れの悪魔達だ。駒王町にあんな悪魔は住んでいない。しかしあれらが悪霊を増やす元凶とは思えなかった。

 逃げていた男性は足がもつれその場に転び、あっと言う間に三人に囲まれてしまう。腰が抜けてしまったのか、立ち上がれそうにない。

 

「お、お願いだ、もう逃げたりはしない、だから、だから……!!」

「そう言って逃げたのはこれで三回目だよなぁ?」

「お前、仏の顔は三度までって知ってるかぁ?」

「まぁ俺ら仏じゃなくて悪魔だけどな! ギャハハハ! 此処で殺しちゃうか?」

「ひ、ひいぃ」

 

 怯える男性を楽しむ男達の中、どこからか出した椅子に座ったデブが、抱えていた犬を見せ付ける。

 世にも奇妙な紫の体毛を持つチワワだ。背中の斑模様がどこか不吉な印象を与える。

 

「これが何か、分かるよな? どうだ、可愛いだろう?」

「そ、その犬は……!? あ、ああ、ゆ、許して、許してください……」

「そうだな、お前があの場所から逃げたいのはまあ分かる。だから俺はお前を許そう。……だがコイツが許すかな!?」

 

 デブは、ゆっくりとチワワを降ろす。

 するとチワワは男性に駆け寄って小型犬が持つ愛くるしさを男性に見せ付けた。犬好きであれば悶える事間違いなしだ。撫で回してあげたくなる。

 なのに男性は断頭台の紐が手放されたかのような絶望を顔に貼り付けた。

 リアスは犬の姿を見て目を見開く。

 

「まさかあれは、毒チワワ!?」

「毒……、え? な、なんだって??」

 

 自分の耳を疑った仁は思わず素が出る。

 毒チワワ?なんだそれは。どんなチワワだ。

 リアス以外、どう反応を返したらいいのか戸惑っていると、毒チワワの目がギラリ光ったような……。

 

 次の瞬間――――!

 

「がるるぅぅぅっ!!」

「あ、あ、あ、うわあぁぁぁっ!! あああぁぁぁぁっ!!」

 

 男性に猛然と飛びかかり、彼の腕に噛み付いたのだ。

 深々と食い込む、毒チワワなる犬の牙。

 男性は腕を振るって離そうとする。必死とはこのことだろう。最悪拳を叩き付けようとするも、毒チワワの方からあっさり離れ、どこかへと走り去っていく。

 

 しかし男性のさっきの暴れた元気はどこへやら。

 噛まれた腕よりも胸を押さえて蹲り、身体を震わしだしたのだ。

 顔色はみるみる青くなり口の端からは血が零れだしていた。

 

「血清が欲しいか? ほら取ってみせろ」

「あああああ!! がぁぁぁぁぁ!!」

 

 男達は三人の間で赤い液体の入ったビンを投げ回す。

 しかし男性はそれを取れるような状態ではなく、絶叫しながら地面に転がるばかり。

 

「なんて酷い!! 毒チワワに噛まれれば全身に激痛を伴う毒があっと言う間に回って数分で命を落とすわ! 皆、急いで彼を助けるのよ!!」

 

 なんだろう、こう、なんと言えばいいのか、急にテンションの変わったリアスに驚きながら、騎士、戦車、女王、兵士、そしてゴッドハンドは飛び出していった。

 

「な、なんだお前ら! ぐおあっ!!」

「こいつら、グレモリー眷属か!? あがぁっ!!」

 

 誰よりも速い祐斗は生み出した魔剣を手にすると、すばしっこそうなチビを回避する間もなく切り捨てる。

 怪力を誇る小猫は拳を握り締めると「えい」という可愛い掛け声と共にモヒカンを防御の上から殴り倒す。

 

 あっさり倒される二人の悪魔。

 残るデブには一誠、朱乃、仁、リアスが取り囲む。

 

「く、まさかこんなところでグレモリーが出張ってくるとは……」

「駒王町は私の領土、おまけに契約者にまで手を出して、ただでは済まないわよ」

「ふん、小娘が生意気に。見ればどいつもこいつもガキばかり。この俺が負けるものか!」

「あらあら、舐められたものですわね」

「ほげあっ!?」

 

 突如デブの頭上に落ちる雷。

 痺れ焦げたデブに追い打ちを掛けるように龍の手で二倍化した一誠がその頭を思い切り殴りつけた。椅子を壊し、酒場らしき建物の壁に激突する。衝撃か、頭上の屋根が崩れデブは下敷きになってしまった。

 悪魔である以上、この程度で死ぬこと無く立ち上がるも頭の打ち所が悪かったのかふらついている。その隙を逃さず、仁はデブの頭を掴むと、その顔面に何度も何度も素早く膝を蹴り入れる。

 

「えばばばばばばばばばっ!」

「終わりだ!」

 

 脇に頭を挟みこむと、仁は後ろに引かれるように倒れた。

 宙を浮く巨体、轟音を立てて、地面に強打されるデブの頭。

 巨体を生かした戦いを披露することなく、彼は白目を剥いた。デブは決して弱いわけではないのだが、相手が悪すぎた。戦う描写を披露さえ出来ないのだから。

 

「死んでないわよね?」

「全員生きてると思いますよ。たぶん」

「部長、血清です」

 

 祐斗が手にする瓶を受け取るリアス。

 苦しむ男性の元に急いで向かったところで彼女はふと考える。

 

「……血清って、注射器ないと駄目じゃないかしら」

「……どうするんすかこの人!?」

 

 気まずい雰囲気。

 今から注射器を取りに行って間に合う訳が無い。

 どうすればいいのか立ち止まっているリアス。そんな姿を見た男性が瓶を引ったくる。

 放り捨てられる瓶の蓋。男性は血清を一気飲みする。止める間も無かった。それでは毒を治せるわけがない。自棄でも起こしてしまったか。

 

「……治った。治ったぞ! やった! 俺は治った!」

 

 そんなバカな。血清って飲んでいいのか?

 さっきまでの苦しみ様はどこへ行ったし。

 小躍りしてる男性を前にリアス達は立ち尽くすことしか出来ないのだった。

 

 






 ところでなんでボーイズラブ、ガールズラブのタグがあるのか。

 自分にも分かりません(白目)

 一応、いつかそれっぽい描写が出るって事なんですけどね。

 ただこの作品はゴッドハンド成分が含まれています。どう足掻いてもひどいボーイズラブ、ガールズラブが描写されるかもしれません。ご容赦を。


 毒チワワに異様な反応を見せるリアス。
 毒チワワはゴッドハンドが誇るかわいいマスコットキャラ。
 彼女だって可愛い物が好きな女の子。
 つまり……?

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