お待たせしました。
八話目になります。
そして書いてて話の区切り間違えたと思うこの頃。
三対二。
数の面で見れば、祐斗ら屋敷攻略チームが有利だ。
いや、実力を見ても祐斗と仁が頭ひとつ飛び抜けている。彼らなら最凶の双子悪魔を倒せるだろう。
しかし立ち塞がる悪魔は今も健在。
双子特有とも言える息の合ったコンビネーションが、数の不利、実力差を埋めている。
一進一退の攻防は、金と銀が戦略的に一誠を狙いだしたところから動き出す。
「くっそ! 俺ばっかり狙いやがって!」
「弱い子から叩き潰した方がいいのは当たり前でしょぉ?」
今まで足技だけしか使わなかった金と銀は拳による殴打も混ぜ始める。
何とか紙一重で躱す一誠。ひたすら自身の生存だけに集中するしかない。
こうなれば残る二人は一誠から引き離さそうとするが、これが上手くいかない。
両手にそれぞれ雷と炎の魔剣を持った祐斗が肉薄してみるが、金と銀が一誠を盾にするように戦って魔剣の力を満足に振るえないでいる。
祐斗が再び切れ味に特化した魔剣へ創造し直そうとしたときだ。
金と銀が同じタイミングでぐりんと首を曲げて振り向いたのは。
銀が仁目掛けて一誠を蹴り飛ばし、金が祐斗に襲い掛かる。
女の子走りする筋肉達磨の絵面から想像できないスピード。
予想外の速さ。苦し紛れに完成した左の魔剣で祐斗は斬りかかる。
対して金から繰り出されたのは早業だった。
振るわれた拳が左の魔剣の刀身を砕き、下から振り上げる足が右の魔剣の柄を蹴り飛ばす。
「つぅ!?」
「行くわよボウヤ!!」
掴まる祐斗。突如視界が空高く。彼は倉庫の天井近くまで投げ飛ばされた。
覆い被さる影は、飛び上がってきた銀の姿。
衝撃で痺れる右手は使えない。祐斗はまだ握っていた左手の魔剣を三度創造し直す。切れ味度外視のただただ硬くした板きれのような魔剣。叩き込まれそうなかかと落としの盾にする。
聞こえた嫌な音は、剣か、それとも己の骨か。
落ちる祐斗を下では金が待ち受ける。
そんな祐斗を救ったのはグレモリー眷属の兵士、兵藤一誠。蹴られて後輩諸共木箱の山に突っ込んだ後、一誠は仁に投げてもらい、慣れない翼を広げて横からかっ攫う。
「大丈夫か木場!」
「ごめん、イッセー君。油断したつもりはないけど……」
口の端から垂れる血。左脇腹を抑える右手を離さない。悪魔は見た目以上に頑丈なのだが、祐斗の様子に一誠は一層悔しさを覚えてく。
今の流れは確実に一誠自身の不利を使って他二人の隙を作らせたのだ。仲間意識から来る一種の隙。餌扱いされ始めた自身の至らなさに一誠は地面を拳で殴り付けた。
悪くなっていく戦況。仁はここで切り札を使う決心を付けた。
エルヴィスなる悪魔との戦いに向けて温存しておきたかったが、このままでは誰かが脱落する可能性を彼は見過ごせなかった。
一誠と纏めて吹き飛ばされた後、木箱の屑山で棒立ちになっていた仁を次なる標的にと定めたマッチョなオカマ二人。
嫌悪感を隠さぬまま仁は右手の力を呼び覚ます。
それはゴッドハンドを用いた必殺の一撃とは違う、もう一つの真価。
「う、ぉぉぉ……!!」
「なに!?」
「これはまさか!?」
右腕の拘束具がいつもとは違う勢いで弾け飛んでいく。内側から抑えられぬ力が破裂した様な回りに気を使わない暴力的な解放。風が倉庫の中を吹き荒れた。
燦然とした輝く右腕。一誠と祐斗は掻き消すことの出来ない曇り無き黄金に見惚れる。悪魔であるのにその聖なる力は暖かみと感じさせる一方、推し量ることの出来ない異様な力強さが肌を刺した。
一瞬一瞬の技ではない、これこそがゴッドハンドという伝説の真骨頂。
「行くぞオカマ野郎!!」
全身に行き渡る神の力が与える高揚感に釣られて仁は叫ぶと走り出した。
決して騎士の駒に届かない速さで、しかし迎え撃つにはあまりにも巨大過ぎるプレッシャーを持って金と銀を襲う。双子悪魔の殺気なぞ、ゴッドハンドと比べたらちっぽけすぎる。
「なによ、ゴッドハンドなんて、恐くないわ!」
「私達二人にかかればこんなもの!」
そう言うも金と銀は全身から汗が噴き出すのを隠せない。疾駆した黄金の軌跡との距離はあっという間に縮んだ。
二人がかりで攻撃、しかし殴り合いを恐れたか、どちらも取った手段は魔力弾。人間なら容易に消し炭にする一撃は、そも攻撃にならず潰れた。
手だけが間抜けに突き出され、二人の顔が、体が後ろに仰け反る。
見えない。避けれない。防げない。
金と銀は抵抗できなかった。
一誠と祐斗はぽかんと口を開けるだけ。
仁の腕がぶれるごとに倉庫に響く重々しい殴打音を奏でていく。
くるりと回る仁が、回し蹴りで纏めて蹴っ飛ばしたのは、目まぐるしく動く中でハッキリと見えたのは祐斗のみ。
「く、こんな、ボウヤにやられるなんて……」
「メチャクチャ、メチャクチャよ……」
それでも立ち上がるのは、金と銀が優れた能力を持つ悪魔だからか。まだ終わらないと、戦う姿勢を解く様子は無い。
しかし、決着の時は金と銀の意思なんて関係なく訪れようとしていた。
「ピ、ピッチャーフォーム?」
仁が片手に何かを摑みながら片足立ちしている姿。
一誠の呟き通り、野球中継で見慣れた動きをしていた。こんな時に何をしているのか。
仁は勢いよく何かを放り投げる。野球なんてやったことない癖に無駄にこなれたフォーム、ワイルドピッチ。
それはゴッドハンドの力がこもったボール。
金と銀は馬鹿にしてるのかと殴り返そうとして触れてしまった。
「「ほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」」
「え!? えぇ!?」
仁の右腕よりもさらに白く眩い光。目が潰されてしまいそうな閃光は熱と風を伴って倉庫を吹き抜けていった。
大爆発。
ゴッドハンドの力がこもったボールは、爆弾だったのか。こいつとは野球したくないな、なんて仲間に勘違いされてるのを仁は知らない。
両腕で光を遮る一誠と祐斗は、もくもくと黒煙に紛れる倉庫の一角を見守るばかり。
ふらり出て来たのは、元々黒々としていた肌がさらに黒くなった大男二人。元々双子だったせいで最早どっちが金で銀だったか判別がつかない。あの爆発で吹き飛んでいないカーニバル衣装は一体どこで買ったのか。吹き飛んでいたら吹き飛んでいたで三人共消えぬトラウマが出来そうだが。
ぷるぷると震える金と銀、立っていたのがやっとだったか、口から黒煙を吐き出して前のめりに倒れ臥す。
「爆発オチなんて……」
「サイテーよ……」
金と銀の双子悪魔、敗北の瞬間だった。
◆◆◆
倉庫の隅にあるもう一つの扉を越えた先。
やはり元の姿とは違うおかしな外観になった屋敷が待ち構えていた。
「門番に手間取ってしまったけど、悪霊に出くわすことなくここまで来れたのは良かったかもね。きっとその方がもっと消耗してただろうし」
そういう祐斗が後ろを見れば、疲労感を隠せない仁の姿。
彼が行ったゴッドハンドの解放は、どうやら身体に負担を強いるらしい。曰く、身体が完成してないから、力に振り回されそうになるとかなんとか。
「こんなのちょっと休めばすぐに回復しますよ」
「お前、それどっから取ってきたんだよ……」
バナナとオレンジ、チェリーを頬張る仁。
一誠も一緒になって食べてるのは、祐斗も気にしないことにした。彼もオレンジ食べちゃってるし。悪魔だって美味しい物には勝てないのだ。
「あーん? 何だおめぇら?」
「なんで果物食いながら入ってきてるんだぁ? ここが一体誰の屋敷か分かってんのかぁ? おぉん?」
開かれた豪奢な扉の先にいたのは柄の悪い悪魔達。
そんな悪魔達は、巨大な銅像を警護するように立っている。
銅像は三人をして精巧に造られているのだと一目で分かった。
何故か本を持った恰幅のイイ、ハゲ頭の男の像。
等身大なのか、先の双子悪魔よりもさらに大きい。
「あれってエルヴィス自身の像ですかね」
「エルヴィスってのはナルシストなんじゃねぇか?」
絡んできた悪魔達も特にこれといった苦戦も無く倒しながらの雑談。祐斗が斬り捨て、一誠と仁が二人がかりで殴り飛ばす。
と、吹き飛んだ悪魔の一人がエルヴィスらしき像に激突すると、像が手にする本が落っこちたのが一誠の目に入った。
「!! おいジン見てみろこれ!!」
「どうしました兵藤せんぱ……、こ、これはぁ!!」
像が読んでいた物、それは像の一部に偽造されたエロ本である。うっひょーと興奮するバカ二人。落ち込んでたのと疲れてたんじゃないのかと言わんばかりにみるみる元気になっていた。
「それにしてもなんで像がこんな物を……、まさかエルヴィスの趣味?」
祐斗も祐斗で変な考察をする始末。
エロ本の興奮冷めやらぬ二人と天然を発揮した一人は、倉庫の苦戦なんて無かったと言いたげに役目を果たしにかかる。
それでも、時たま聞こえる悲鳴を聞きつけて屋敷中を駆け巡る三人は、奴隷解放しながらひたすらエロ本の話題で盛り上がってた。やはり彼らも健全な男子なのだ。
しかしふと、あることを思い出したように一誠は口にする。
「それにしても部長達は大丈夫かな……」
「どうしたんだい?」
「いやだって、こうやって結構屋敷の中走り回って悪魔を倒してるけど、注意すべき悪霊と戦ってないんだぜ?」
そういえば、と残る二人は不思議に思った。
悪霊を掘り起こしている筈なのに肝心の悪霊にまるで出会わないことに。
掘り起こされた悪霊を誰かが力を得るために憑依させてるのではと警戒していたが、特に何事もなく次々に悪魔を倒していた。誰も悪霊を顕現しないし、そもそもちょっと鍛えただけの一誠でさえ倍加すれば倒せるレベルの微妙な悪魔ばかり。
舐めているのか、それともこの屋敷には居ないのか。
ともかく三人は三手に分かれて虱潰しに屋敷を荒らし回った。
次々に見つかる奴隷にされた人間達。
妙に女性が多いのは、この屋敷では部下の悪魔や自身の慰安目的なのか。性的な暴行は無かったようだが、もしもの時は閉じ込められた部屋に帰って来ないそうで、そういった奴隷は命を奪われたのだろう。
その中で、一誠はあるひとつの出会いがあった。
始まりはある一人の女性の言葉。
「あ、あの! 金髪の可愛らしい女の子を見ませんでしたか?」
「いや、見てませんけど……」
「外国の方なんですけど、あの子をどうか助けてくれませんか。言葉が通じないのにとても優しくしてくれたんです。だから、不安で不安で……」
もとより奴隷の救出をしていた一誠は、女性の谷間に気を取られながら迷いなく了承。先に悪魔に連れ出されていたそうだった。入れ違いという奴である。
何でも少女はシスターなのだそうだ。そして不思議な輝きでどんな暴力の傷も治してくれるのだという。
自身も悪魔である事は隠しつつ、一誠は連れて行かれたという少女の居る部屋に向かう。
祐斗か仁がいればいいのだが、生憎と先に残りの悪魔を倒しに行っているのでどこに居るかはわからない。
部屋に辿り着けば、一目で分かる金髪の少女が年上の女性を守るように両手を広げる姿。
女性は顔を殴られていたのか顔を押さえており指の隙間から血が流れている。少女も同じ目に遭うかもしれない。恐怖で震えてるのに勇敢な事か。
そんな二人に下卑た嗤いをあげながら迫る目を血走らせる息の荒い悪魔の男。
性的興奮よりももっと恐ろしい気配があった。
「やめろてめぇ!」
「う、おぉ!? 何だ小僧!?」
飛びかかった一誠は男に体当たり。
意図せず野郎二人でベッドインという残念な絵面だが、一誠は必死なのでこの際突っ込むのは無粋である。
「早くその子を連れて逃げてくれ!」
たった一言、叫ぶ一誠は暴れる悪魔を抑えるので精一杯。
一誠の叫びを理解した女性は空いた手で少女の手を引きこの場から離れていった。
ほんの僅かな邂逅。
しかしこの一瞬が、後に続く縁を結んだ瞬間だった。
そのままベッドの上で激しく暴れる二人。
すると仁が物音を聞きつけやってくる。
「兵藤先輩って野郎もイケるんすか……」
「ちげーよ!? 早くコイツをノしてくれ!!」
ごつん、叩き落とされる拳骨。
一撃で白目を向く男に一誠はつくづく後輩の右腕に驚きながら、男のポケットにあった小さなケースに入れられた妙な十字架を見つけた。
仁も気付くとそれを口笛を吹きながら拾い上げる。
「こいつが持ってたのか、ラッキー」
「それなんか必要あるのか?」
「これは鍵です先輩。あ、悪魔は触っちゃダメですよ? 火傷しますから」
「鍵?」
「鍵です。怨念を使った結界で塞ぐ扉を木場先輩が見付けました。結界を解くにはコイツが必要なんです」
「悪魔なのに変な鍵を用意するな……。触れない鍵って何だよ」
「言われてみれば確かに」
部屋を出て、祐斗が見付けたという扉の前まで行く二人。
ついさっきまで逃げる奴隷と倒される悪魔でごった返していたが、僅か数分で屋敷の中は静かになっていた。
程なくして二人は結界の張られた扉の前に辿り着く。一足先に祐斗が魔剣片手に立っていた。
「やっぱり攻撃じゃ開けられないね。鍵は見つかったかい?」
「ええ、ここに。それじゃさっそく開けますね」
「人間の神薙君がいてくれて助かったよ」
掲げられる十字架。怨念は瞬く間に成仏する。
閉ざされていた最後の部屋に通ずる扉が現れた。
「この先にいるんだろうな。エルヴィスって奴が」
「行こう。今回の幻の町を作り、人を浚って、悪霊を掘り起こした落とし前をつけなくちゃ」
彼らは互いに頷きあうと、意を決して部屋に入る。
大きく広い部屋。赤いカーペットに赤い壁紙。今まで落ち着いた趣のある屋敷の内装とは違う、金がかかってると分かる部屋だった。
最奥にポツンとあるデスク。
そこに巨漢が一人、葉巻を咥えて座っていた。
「おう、ようやっと来たか。待ちくたびれて腹が空くかと思ったわい」
玄関で見た銅像と寸分違わぬ悪魔、エルヴィスがニヤリと笑いながら一誠達に話しかけたのだった。
金さん銀さん戦書きたいこと前回で全部書いちゃってたのに気付いてしまった。
なのでこんな消化試合になるとは……。
いやさゴッドハンド考えれば中ボスだからどう考えても消化試合になるのは仕方ないにしてもね。
今回はこんな形にしました。もうちょっと構成を考えなくてはと自覚させられる結果になってしまいました。
そして堕天使との戦いの前にちょろっとあの子がフライング。きっと持ってた力的に浚われたんですね。レイなんとかさんもびっくりだ。
次で幻の町の話は終わり、ようやくレイなんとかさんとの決着をつける話が書けるというもの。ドーナシークは死ぬ、慈悲はない。
ところで何で俺の左手はロンギヌスなんて題にしてるんでしょうね?(すっとぼけ)