転生チート、特典。
私はこの言葉が嫌いだ。
例えば、とてつもない身体能力、膨大な魔力、本来あり得ない技術、どこまでも成長できる肉体、高性能な武器、理不尽な展開をひっくり返す運命力、アニメや漫画の特殊な力、全知のような知識、努力が必ず実を結ぶエトセトラ。
だけど考えてみてほしい。そんな力を手にして身に余るとでも思わないのか?
制御しきれない力、扱いきれない能力に武器、活かせない知識。
元々凡人だった人間にはそれ相応の力がある。それなのに転生出来るという特別性に流されて自分の容量を超えた力を望む。
どんなに力を手に入れたって心はただの凡人。調子に乗るだけ。
ああ、あああ、何て愚かなんだろう。何て愚かだったんだ。
私みたいな凡人がチートになって好き放題できる?
そんな訳ないだろう。そんなはずはないだろう。
そんな良い世界なら、そんな優しい世界なら、そんな甘い世界なら―――
私はこんな目に合わなかった。私は普通の幸せを手に入られた。
なにより、私は―――
あの子を泣かせることなんてなかった。
◇◇◇
「大丈夫、デスカ?」
『大丈夫だ、問題ない』
「大丈夫です。お兄様」
今日は学年別トーナメントの初日です。2人1組のタッグバトル戦だそうで、ラウちゃんと組むことになりました。
時系列がおかしい? ああ、特に何もなかったのでカットしました。
あれから特に変りもなく、そう、変わりなく。私達はボッチのまま学園生活を送りました。可笑しい。私が最初に想像した学園生活では友達100人に囲まれてリア充ライフを送るという至って普通の学園生活だったんですが。何故か皆遠巻きに見るだけで誰も近づいてこないのですよ。何か怯えてるみたいだし、一夏君とラウちゃんは雰囲気悪いし、会話したのはラウちゃんと織斑せんせーくらいですよ。妹と教師だけですよ。
「その、本当に大丈夫なのですか? あっいえ信じていないわけではないのですが、もしもの事があれば、あれ、ば―――」
うん。ラウちゃんの目がどんどん淀んでいくね......ワァー! 大丈夫、大丈夫だからぁ!
心配なのは分かりますけどね。私は色々とハンデがありますからね。眼帯にヘッドホン型補聴器、杖に加えて常時デバフが掛かっているみたいなものですからね。まあ、特に問題はないでしょう。自分の身くらいは守れますよ。妹に任せっぱなしというのも兄として情けないですからね。頑張りますよ。
「ラウちゃんの好きにする、デス」
『見敵必殺! 見敵必殺だ!!』
「お任せください。必ず勝利をお兄様に」
うんうん。ラウちゃんもやる気になったし、あとは勝つだけですな。あ、そういえば。
「対戦相手は。どうなった、デスカ?」
『関係ない、行け』
「お待ちください」
そういってラウちゃんが端末をポチポチする。少しして一覧が表示される。
【第一回戦
ラウラ・ユーリ
対
一夏・シャルル】
「ほう」
わあ、何か運命的な何かが関与してる気がする。一夏君とラウちゃん最近雰囲気悪かったからなぁ。因縁の対決みたいなものかな?
「油断、ダメ、デス」
『慢心、ダメ、絶対』
「分っています、お兄様」
うん、分かってるならいいんだよ。それじゃあ、行こうか。
ユーリ、行っきマース。
◇◇◇
「その、ユーリ君は大丈夫なの?」
すでにISを展開して戦闘開始のカウントダウンを待つ間、シャルル君にそんなことを聞かれた。一夏君と無言で睨み合っていたラウちゃんがジロりと睨んだせいで若干震えていたけど。
それにしても『大丈夫』ねえ?
「大丈夫ですよ」
「えっ、お前」
普通に返しただけなのに一夏君に驚かれた。解せぬ。
ちなみに私のISはラウちゃんとお揃いなのだ。違う点は私のには武器が一切ないことでしょうね。待機状態はいつも使っている杖だったりします。ですが特に問題はありません。
なので―――
「手加減などは無用です」
カウントが鳴り響く。
5、4、3
「本気で来なさい。でないと―――」
2、1
「すぐに終わっちゃいますよ?」
開始を告げるブザーが鳴る。
「魄翼展開」
そう呟いた私の背中から赤黒い炎がまるで翼のように広がる。それを一夏君とシャルル君の間に伸ばして一時的に分裂させる。魄翼の向こうで一夏君が驚いているのが見えますね。そんな隙をラウちゃんは逃しませんよ。
「お前の相手は私だ」
「一夏っ⁉」
そう言ってラウちゃんは固まっていた一夏君へ突撃していった。それじゃあ私はシャルル君の相手でもしようかな。
戦っているラウちゃん達とシャルル君の間に挟んだ片翼を更に伸ばして簡単には進ませないと分からせる。
「ラウちゃんはどうやら一夏君にご執心みたいなので、貴方のお相手は私がさせていただきます」
「くっ! どうやら君を倒さないと一夏の方へは行けなさそうだね」
シャルル君がライフルを構えて連射してくる。私は動かない。いや、動けないと言った方が正しいですね。
この魄翼は転生した時のチート特典で本来なら世界を崩壊出来るほどの力なのですが、それほどの力を行使するとなると私の体は簡単に壊れるでしょう。今だって使えるのは全力の零点零数パーセント。それでも圧倒的な力であることには変わりはないのですが、その代わり反動があるんですよ。これは身に余る力を望んだ罰なんでしょうかね。今はどうでもいいことですが。
「ぬるい」
魄翼を前に丸めて繭のようにして覆う。銃弾は魄翼に阻まれシールドエネルギーにはダメージを与えずに終わる。
多分このままライフルで牽制しつつ、一夏君の元へ行こうとしてるのかな? もしくは様子見だったり。関係ないけど。ハイパーセンサーでシャルル君を確認すると移動しつつライフルを撃ちまくっていますね。隙間でも探ってるんでしょうか?
「ナパームブレスっと」
「え?」
私はそのまま繭のように球体状になっている魄翼をそのままシャルル君に撃ち出します。驚いたのは魄翼が私から離れたせいですかね? 一瞬動きが止まりましたが、流石と言うのかすぐさま持ち直して回避しますね。そのまま一見無防備に見える私に銃口を向けますが、
「っ⁉」
後ろから襲い掛かってきたナパームブレスを咄嗟に躱す。そのまま私の背中に魄翼が戻ってくる。今度は翼の形状ではなく背後に球体のような形で宙に浮いている。某弾幕ゲーみたいな感じですね。
「......ずいぶんトリッキーだね」
「そうでもないですよ? 注意すれば簡単に回避されるものですよ。それよりもう少しお付き合いください。向こうで中々決着がついてないようなので」
ハイパーセンサーでラウちゃんの方を確認すると一夏君が予想以上に強くてラウちゃんとやりあっていた。これが主人公だとかそういう人間の持つ能力何でしょうかね。あれでISに乗って1年も経っていないのにラウちゃんといい勝負が出来るなんて、本当に才能とかを恨みますよ。本当に、うらやましい、ずるいです。
「さて、そろそろ再開しましょうか。もう手加減などは要らないと分かりましたよね?」
「これは、奥の手とか言ってられないよね」
「ええ、奥の手隠し玉切り札奥義必殺技裏技お好きにどうぞ。私はその全てを飲み込んで砕き伏せましょう」
ニッコリと笑ってそう宣言する。うん、今のは決まったね。
「だからと言って私から攻めないわけじゃないんですよ? エターナルセイバー」
魄翼を前に持ってきて翼ではなく剣の状態で際限なく広げる。まるで開いた鋏のようなそれの間にはシャルル君が居る。ここまで言えば分かりますよね?
「せいっ」
そのまま剣の形状をした魄翼をクロスさせる。
そのまま私は魄翼を背中に戻して翼の形状に戻す。思えばさっきからちょくちょく空に飛んで逃げられるんですよね。別に私だって飛べないわけじゃないんですよ? 反動があると言っても抑えて使えば大丈夫ですし、むしろ飛んでる方が得意だったりします。というわけで魄翼を羽ばたかせて飛ぶ。形だけですけどね。
「さて、何だか対戦型ゲームみたいですね」
「僕としてはRPGやってるみたいだよっ!」
魄翼を警戒してるのか遠距離からチマチマと撃ちこんでくるのを翼で薙ぎ払って防いでいるんですが、RPG?
「どういう意味ですか?」
「ラスボスと戦ってるみたいってこと、だよっ!」
ラスボス? 耐久力高めHP高め攻撃力低めの? それを言えば逆ですよ。私なんて耐久力低めHP低め攻撃力高めですからね。全くの真逆ですよ。真のラスボスとは織斑せんせーみたいな人のことを言うんですよ、失礼な。私なんて良い所中ボスですよ。ちょっと私おこです。
「なのでエターナルセイバー」
「んなっ⁉」
片翼を剣に変えて銃弾を薙ぎ払いつつ直接シャルル君を攻撃する。驚きつつも回避される。まあこれだけ離れていれば分かりますよね。でもこれで離れていたとしても関係ないってことが分かってもらえたでしょう。そろそろ飽きてきましたし、もっと積極的に攻撃してきてほしいですね。
「というわけです。早く奥の手が見てみたいですよ?」
「どんなわけなのさ! もうどうなっても知らないよ!」
何か来るのかもと思ったけど普通に射撃されてるだけ。一体何が来るんでしょうかね。
「だからと言って、邪魔しないわけないですよね」
「ちょっ!」
当たり前でしょう。耐久力高めHP高めのラスボスと違って装甲コンニャクレベルですよ? 斬鉄剣は防げても他の攻撃には簡単にやられる自身がありますよ。
「ほら、ドンドン来てもいいですよ」
「くっ、固いっ」
「ヴェスパーリング」
魄翼の片翼をリング状にしてシャルル君に飛ばす。かなり大きめにしましたのでそう簡単には避けられませんよ?
「ん?」
シャルル君は避けるんじゃなくて、リング状になっている魄翼の真ん中に通り抜けるように何かを投げてきた。何かを確認するまでもなくリング状の魄翼一気に小さくなりその何かを捉える、が爆発した。
「手榴弾?」
目くらましにしてもハイパーセンサーで意味はないし、あの距離からは十分対応可能ですし、どうしてでしょうか? もしかしてあれが奥の手でしょうか?
ハイパーセンサーで見るとシャルル君は此方に近づいてライフルで乱れ撃つようにしてきました。まあ残った片翼で防ぐんですが。
「それにしても武器の入れ替えが早いですね。確かラピッドスイッチ? でしたっけ? それでどうするんですか?」
「こうするんだよっ!」
その声はすぐ近くから聞こえてきました。
「
「こっちが本当の僕の奥の手ぇ!」
「―――
やばいです。片翼は打ち出しちゃったし、片翼だけでは最初みたいに繭みたいには出来ないし、大変大変、このままじゃ防げないです。大変大変、
隠し玉使わないといけないです。
「なっ!」
「そりゃ私にだって隠し手くらいありますよ」
私は新たに展開した魄翼を大きな手してに盾殺しを防ぎながらそう言った。別にこれはISの武装ではない、それこそ世界を超えた異能ですからね。新しく出せないわけじゃないんですよ。常識に囚われてはいけないんですよ。
さて、そろそろですかね。
ハイパーセンサーでラウちゃんと一夏君の戦いを確認し、そのまま魄翼でつかんだ盾殺しごとシャルル君をぶん投げる。そのまま私は飛んで行った方向の反対側、つまり2人の元へ移動を開始する。その際プライベート・チャネルでラウちゃんと通信する。
『ラウちゃん、彼は言わなきゃ分からないんですよ。それは十分分かったでしょう? 交代の時間です。時間稼ぎお願いします』
『......分かりました』
『ありがとうございます。私の我が儘で』
そのまま何か言いたげなラウちゃんは何も言わず戦闘から離脱し、私の背後にいるシャルル君に向かって突撃してくれました。
「おいっ! 待てよ! お前の相手は俺だろ!」
「いえ、今の相手は私ですよ。一夏君」
「退いてくれユーリ! 俺はあいつを倒さなきゃいけないんだ!」
まあ、そう思うのも当然ですよね。ラウちゃんが何かしたっぽいのでやり返したいんでしょうね、きっと。
「その前に、いいですか? 何でラウちゃんは貴方に敵意ないし悪意を持っているか分かっていますか?」
「それは......」
「それは?」
言い淀む一夏君。おそらく思い当たる節はあるんでしょうね。だから、私は言いましょう。
「貴方は何も分かっていませんよ。何もね」