宵闇偶像草紙 ~人外魔境 346プロ~   作:ミキマル

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閑話みたいなお話。次回は京都編。


閑話 師走時

 東名高速道路を走る一台のバス。

 

 『346production The First Anniversary LIVE TriCastle Story』と銘打ったこのツアーは名古屋、大阪、福岡、仙台、埼玉の5つの都市を回る全国ツアーであり、346プロに所属しているアイドル全員が出演する大規模なツアーである。

 芸能界では美城の時から有名な346プロだがアイドル業界ではまだまだ新座物。ここでブイブイ言わせて知名度をさらに挙げる心算である。

 またこの全国ツアーはアイドル達の慰安旅行も兼ねており、プライベートでの休息も兼ねた大規模なものであった。なので上記5都市以外にも停車、宿泊する予定だ。

 アイドル各自が途中で停車、宿泊する観光地で何を食べるか、何処に行くかとワイワイと貸し切りバスの中で盛り上がる。

 

 そんな中、左前の方の座席に不機嫌な顔をしながら座る黒スーツに隻眼の男。

 彼こそ新人プロデューサーである長谷川虎蔵である。

 

 トントン拍子で話が決まり、上司に逆らう訳には行かない虎蔵は女性ばかりキャッキャッと騒がしいバスの中で不束にため息を吐く。他に乗っている男は運転手と自分とは別のプロデューサーであり、そのプロデューサーも「すみませんが私は仕事があるので…」と言ってそうそうと自分の世界へ入り込んでしまった。

 今回のツアーでの虎蔵の仕事はアイドルの勧誘の他にこの業界の見学である。つまり仕事と言えるものは各都市でのスカウトぐらいしかない。なのでバスの中などでは虎蔵は暇なのであった。

 

「あぁ~暇だー」

「カレー煎餅でも食べますー?」

「おう、頂こう」

 

 そう言って隣に座る芳乃からお菓子を貰う虎蔵。346プロに入社してからの二人はプロデュース、プロデューサーの関係でよく二人で一緒でいるのであった。

 

「芳乃、お前は一体何をしているんだ?」

「ちょっと色々と準備でしてー。私の得意技をお見せしましょー」

 

 そう言って革製のトランクから取り出していた地図を折り畳みテーブルの上に広げる。

 広げた先は関西圏の地図だった。すると芳乃は懐から一つのペンダントを取り出す。先に水晶が括り付けられたそのペンダント。それをテーブルの地図の上へ翳す。そして暫くするとバスの揺れでブランブランと揺れていたペンダントが一ヶ所で止まった。

 

「ダウンジングの結果、この場所がそなたの運命の人と出会う場所ですー」

「運命の人!?」

「アイドルでしてー」

「あぁ成る程」

 

 芳乃の手に握られていた物、それはダウンジング・ペンデュラムであり一般的に魔法使いなどが探し物をするときに使用する手段である。失せ物探しが得意な芳乃はこのように色々な手段や知識を保持しているのである。

 

「しかしお前さんは何者なんだ? それをみるからに魔法使いだが気が何とかと言って五行思想にも詳しそうだし…」

「さぁ? 女は謎深い生き物でしてー」

 

 そう言って人差し指で唇を押さえる。美津里の旧友を名乗るこの依田芳乃は美津里同様に注意しなくてはならない存在かもしれない。そう心の中で思う。

 しかし彼女は虎蔵へ顔間近に身を乗り出すと今度はその人差し指を虎蔵の唇に押し付けた。

 

「安心するのですー。私はあいどるとして人を導いてる間は変な事をしないつもりでしてー、そなたの力になるつもりですー。ソッフィーとは違いますー」

「わ、わかったから退いてくれ」

「はいですー」

 

 そう言って席に戻る芳乃。味方になるのは心強いが基本、このような人種は気まぐれである。話し半分に聞いていた方が丁度良いだろう。そう思い依れたスーツを正す。

 その時気づいたのだ。

 さっきまで姦しく騒いでいたアイドル達が静かなのである。

 虎蔵の背中に冷たい汗が流れる。恐る恐る後ろを振り替える。そこにはヒソヒソと小さな会話をしながら冷たい目線を浴びせるアイドル達。

 

「あれって新人さん…」

「あの恐そうな新人さんって…」

「「「ロリコン?」」」

 

 新人プロデューサー、長谷川虎蔵がロリコン疑惑を掛けられた最初の事案であった。

 

 

 

 その後芳乃が回りに勘違いを正し、自分と虎蔵を紹介して回る。

 一見、焦眼に黒ずくめのスーツと恐い印象を与える虎蔵であったが芳乃が説明する事によって彼のイメージが払拭される。

 曰くナイスガイでとても頼りになりその腕から今西部長からスカウトされたプロデューサーであり独身である事や自分は虎蔵の家で居候中など。要らんことまで言っている気がするが知らんぷりしておく。気にしない事にしたのであった。

 そうして一人、窓の外を眺めていると後ろの席に座っていた一人の女性が虎蔵に話しかけた。

 

「虎蔵さん虎蔵さん。虎蔵さんは成人ですよね?」

「ん、そうだがえ~と?」

「あら、私のことご存じなくて? これでもトップアイドルのつもりだけど」

「た…た…高垣、高垣楓だったけ?」

「知ってるじゃないですか」

 

 そう言ってほっぺたを膨らますボブカットに幼い顔立ちの女性。彼女こそ346プロを代表するアイドルであり、元モデルの高垣楓である。

 トップアイドルさながらのオーラを彼女は醸し出し、回りの空気を圧倒させる。

 

 虎蔵は戦慄した。

 そうか、これがアイドル。

 これがトップアイドルなのか。

 自分は大変な世界に入り込んでしまったのかもしれない。アイドルはいわば偶像。人々に自分と言う存在を流出させる覇道の理。カリスマとオーラに蹴落とされる。

 そんな彼女は「ちょっと待ってて下さいね~」と言うと座席に隠れる。そしてピョコともう一度座席の上に顔を出すと虎蔵に提案した。

 

「一杯飲みませんか? お猪口をちょこっと…フフフフ」

 

 一升瓶片手に寒い親父ギャグを呟く彼女。

 

 カリスマが消滅した。

 

 

 

 楓の座席の下のバックに入っていた一升瓶。曰く「移動時間が勿体ないので持ってきちゃいました」と言うことらしくお猪口を手渡す。

 この日本酒は冷や酒と言うことで常温で注ぐ。熱燗と言う文化は昔からあったが冷酒はここ最近の文化である。最近の子はこの冷や酒と冷酒の違いが分からないらしいがどうやらこの童顔の彼女はお酒に詳しいらしい。頬が少し緩む。

 

「おっとっと、ストップ」

「はいどーぞ。佐賀の鍋島、特別純米ですよ」

「香りが良いな。う~む、旨い!」

「そうでしょう、そうでしょう。なんせIWC2011受賞品ですよ。いやーお酒好きのプロデューサーが入ってよかったです」

 

 IWCはインターナショナル・ワイン・チャレンジの略である。

 その純米酒カテゴリーで受賞したのがこ鍋島であり美味しいお酒に目がない楓は「今日はこのお酒♪」と毎度毎度、遠出のたびに多種多様な種類からおいしいお酒を選出し持って来るのである。

 普段は自分の堅物恐面プロデューサーに進めるが「自分は仕事があるので」と断られており、このように自分に付き合うプロデューサー始めてで、やや興奮ぎみであった。

 

「ちょっと楓ちゃん。また一升瓶なんか持ってきて。私にも一杯寄越しなさい」

「はいどーぞ」

 

 そう言って楓は隣に座っていた女性にもお猪口を渡し、お酒を注ぐ。彼女も虎蔵同様に注がれるとグイッと一杯いった。

 

「これは良いお酒ね。わかるわ」

「キタ、川島さんのわかるわ、頂きました!」

 

 どや顔で「わかるわ」と決める彼女は川島瑞樹。

 楓さん同様のアイドルであり元女子アナの経歴を持つ28歳である。比較的未成年の多いこのアイドル業界で成人組同士、二人は仲が良く、何かあれば一緒に飲みに行く飲み仲間同士であった。

 

「しっかし新プロジェクトのプロデューサーが君ね。どう、自信は?」

「わからん、半場嵌められた形でプロデューサーになったもんでね。未知数だ」

「嵌められたって今西さん?」

「ともう一人、自分の知人だ」

 

 話題はなぜ自分がプロデューサーになったかに移る。真実をすべて話すわけにはいかず『あっち』側のことはお茶を濁しながら説明する。

 すると彼女達が「やっぱり今西さんか」と呟くのでそこを問いただすと今西部長は言わば346の裏のドンと呼ばれており、どうやら社長と同じぐらい偉い人ではないのかともっぱら噂されているらしい。

 そして彼は良く人材をスカウトしており、またそのスカウトされた人材は皆優秀と言う事だった。

 

「ほら、あの向かい側に座ってる恐面の彼。まだまだ若いのにプロデューサーとしてブイブイ言わせているのよ。彼も今西さんのスカウトなの」

 

 「本当、若い子は良いわ~」と呟く28歳独身女性。話題に上がったそのプロデューサーは未だに折り畳みのテーブルの上で首に手を当てながら書類に目を通していた。

 そして話題が切り替わる。

 

「それでさっき芳乃ちゃん? だっけ。芳乃ちゃんはテーブルに地図を広げて何をやってたの?」

「それ、私も気になりま~す。この~木、なんの木。気になる、気になる♪」

 

 そう言って虎蔵の隣の席に広げられた地図に目を写す二人。その地図にはとある場所に赤ペンでグリグリと丸が付けられ「ここでしてー」とコメントが添えられていた。

 虎蔵はその地図を手に取りと座席から乗りだし二人に見やすいように、二人の前で垂らす。そして赤ペンで丸が付けられた場所に指を指し説明する。

 

「何でもここで運命の人に出会えるらしい。運命の人って言ってもアイドルのスカウト先だけど」

「へ~、スゴいわね。占いとか?」

「ダウンジングらしい。なんでも失せ物探しが得意らしいぞ」

 

 それはスゴいと頷く二人。女性は占いやスピリチュアルの類いに理解があると言うがそこまで驚く事なく話を聞き込む。といっても流石に『あっち』側の類いとは知るよしのない二人にとってまじない程度の物だと思われているだろう。

 「私の失った恋の行方も見つけてくれるかしら…」と小さく呟くその声は聞こえないふりをした。

 

「しかしそこは京都の…南側ですか。京都の南は京都じゃないと言いますが伏見稲荷の雀は良いお酒のおつまみに…じゅる」

「ちょ楓ちゃん! あなた雀とか食べるの?」

「あぁ~雀の丸焼きの事やなぁ。伏見稲荷の近くにはぎょうさん、お店があるとです」

 

 そう言ってバスの中心の通路から身を乗りだし、声を掛ける彼女。

 芳乃同様に着物を身にまとい、舞妓・芸妓が使うような独特の京言葉を使う女の子。彼女の名は小早川紗枝、京都出身のアイドルである。

 

「あら、紗枝ちゃんも食べた事があるの?」

「常日頃から食してる訳ではなくお稲荷さんにお参りする時のみやけどまぁ。たしか京都にも一泊する予定やろ。折角なら案内しますえ」

「そう言って本心は?」

「幸子はんの驚く顔が楽しみや」

 

 そう言って笑い会うアイドル三人。

 その横で虎蔵は懐かしい気分に浸っていた。

 女郎通いしていた時、虎蔵は朱乃という女性がお気に入りだった。そんな彼女の廓詞が紗枝の発する京言葉と重なったのである。他の女も抱いたりしたがやはり一番は彼女であった。

 懐かしい気分になった虎蔵は窓に目を向けしみじみと一人で手酌。流れる景色に目を向けながら物思いに更けてると女三人で姦しく盛り上がっていた紗枝が声を掛けてきた。

 

「え~と、虎蔵はんやったかな。虎蔵はんはこの辺でスカウトするんやろ?」

「おう、せっかく芳乃がこの辺で出会えると言うからな。そのつもりだが」

「そんなら、うちらも一緒にいいやろうか? 芳乃はんとも仲良くなりたいもんやし、邪魔にならんつもりや。それにうちの地元やから道案内もお手のものどす」

「うむ…断る理由がないからな。いいぞ」

 

 そう言って虎蔵は紗枝達が付いてくるのを許可する。

 スカウト活動と言う人に出会い、声を掛けていく仕事に地元の人が着いているのは色々と心強い。それに知名度の高いアイドルの女の子が付いているだけで説得力が格段に上がる。メリットが大変大きいのであった。

 

「ほんまや。そうならうちに京都の町はうちに任せるんよ」

「あぁ頼りにさせて貰う」

「任せておいでなす。しっかし久しぶりの里帰りどすえ。周子はんは元気やろうか」

「周子はん?」

「うちが小さいときから遊び相手になってくれたお姉さんみたいな人や。和菓子屋の娘はんですっごい美人なんどすえ。色白で美人さんなんよ」

 

 そう言って「じゃあ、また後で~」とニコニコ笑顔で手を振り、座席に戻る彼女。虎蔵も小さく手を振り返す。

 成人アイドル二人組はその間、京の何処を案内して貰うか芳乃の地図を使って計画しており、彼女らも付いてくるつもりなのか「ふふふ、伏見は酒どころの町。酒蔵が沢山…」とにこやかな笑顔をたやしながら楓は地図とにらめっこ。

 その横で「パワースポットよ。パワースポットでアンチエイジングよ」とぶつぶつ呟きながらガイドブックを凝視する瑞樹と何だか立ち入ることの出来ないサンチュクアリが出来上がっていた。

 その二人に虎蔵はため息をつきながら背もたれに体を預けたのであった。

 

 そしてアイドル達や虎蔵を乗せたバスは次の目的地、京都へ向かう。

 

 

 




京言葉難しい…。紗枝はんの言葉使い、修正できる人は教えてくれ。

この小説で魔改造されるアイドルは何かしら漂わしているアイドル中心になります。なので楓さんと瑞樹、紗枝は一般人です。

実は最初、楓さんを覇道神にでもしてラスボスにしようかと思いましたが正田卿は世界のバランスが崩れるので止めにしました。しかもクロス先の世界観が宵闇じゃなくなってしまいますもんね。

ライブツアーの名前は2016年10月15日に埼玉スーパーアリーナであるモバマスライブを捩ってます。

そう言えばデレステのイベントもツアーイベントですね。(投稿日現在)ちなみに私のツアー名は
『テレ○ラキャノンボール2016』
です。テレクラと打ったら弾かれましたw
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