───『なぁ虎蔵、狐っていったら何を思い出す?』
『狐? お稲荷様とかあるけどやっぱりズル賢い、化かす、悪女とかそっちのイメージが強いね。職業柄的にも』
『そう、白面金毛九尾や玉藻の前とかその典型的な例だ。だけど他の民話では狐が嫁入りしたり、お礼をしたりなどの良い話が結構な数であるじゃないか』
『あぁ、確かに』
『なので私は考えたんだ。狐ってやつは愛する者を見つけると一生付いて行く最高の嫁さんになるんじゃないかってね。
虎蔵、まるでお前さんが今の時代に求めているような女性の存在なんじゃないのか?』
『生憎、畜生の存在は経験済みでな、酷い目に合った。なんで一度で十分だ。しっかし唐突にどうした?』
『なに、只の世間話だよ』ソロソロイクノデシテー
『芳乃が呼んでるかもう行くぞ。じゃあまた1ヶ月後に』
『楽しんで行ってきな。お前さんの事だから波瀾万丈になるだろうけど』
『ほっとけ!!!』
「つっ~、寒い。やっぱ京都は冷えるな」
「京の底冷えでしてー」
「京都の冬は冷えるというもんなー。盆地やけん冷気がたまってしまうんよ」
12月の京都。
身体の奥底から冷えていく感覚が京都の冬を示し出す。
バスは無事に旅館に到着。
これから明日の15時まで、346のアイドル達は夕食の時間と明日の朝食の時間以外、自由時間となる。
自由時間となった各アイドル達は互いにグループを作り京都の町に繰り出す事になるがもちろんそれは虎蔵達も例外ではなく、何時も一緒に居る芳乃以外にバスの中で盛り上がっていた高垣楓、川島瑞樹の成人アイドル二名と案内役の小早川紗枝も一緒に観光へ出向く事になった。
実際の所、虎蔵はスカウト活動と言う名の仕事があったが観光の片手間でも出来る仕事である。そこまで仕事に気を入れず自由時間を楽しむつもりである。
実は当初、このメンバーに紗枝がリアクション芸人顔負けのアイドルであるお友達の輿水幸子を呼んでいたが芳乃が雀を食べに行くと伝えると「僕、ちょっとお腹が…」と言い残し、姫川友紀と一緒に別行動となった。
仕事とプライベートは別けるプロの鏡である。
さて、京都観光と言っても一般人よりも長く生きてきた虎蔵にとって京都は何度も訪れた場所である。
しかしながらここ数十年の京都を知っている訳ではないのでここ最近の京都で生まれ育った紗枝に比べると今の京都についての知識は乏しい。
なのでここ数十年で一気に近代化した京都の街を虎蔵が把握している訳がなく、紗枝の案内で京都の街を回ることになった。
京都駅の壮大さや京都タワーの場違い感に一同ため息。
「なんで京都にこんな塔が突っ立ているんだ? 駅も何だか近代的だし」
「…塔が突っ立っとう…ふふ」
「寒いでしてー」
「…楓ちゃんの親父ギャグは放っておいて」
東寺で五重塔を観光しながらみたらし団子で休憩。
「五重の塔が突っ立っ…ムグゥ!」
「楓ちゃんもう同じネタはいいから!」
「修羅場でしてー」
「しょーもない修羅場ですなー」
伏見稲荷で話題の雀の丸焼きを頂く。
「スズメ☆オトメ…」ボソォ
「楓ちゃん…」
「Be My でしてー」
「よ、芳乃はん?」
このようにアイドル4人は姦しく盛り上がり、虎蔵が一歩後ろを半目で疲れきった顔のまま猫背で付いていく。その時の虎蔵は魂が抜けきった姿をしていた。女性のパワーは恐ろしい…
そして伏見稲荷の所で成人アイドル二人組は酒蔵巡りに行くからと虎蔵達と別れる。よって3人は虎蔵のお仕事であるアイドル探しに専念する事にしたのであった。
さてアイドル探しであるが虎蔵は先程の観光地巡りの時から目ぼしい女の子を見つけてはチェックしていたののだが「ティン!」とした感覚が訪れない。
もともと「ティン!」とした感覚が良く分からないのだ。直感を表すという意味だと思うのだがそのような人材に出会っていないのも事実である。
このツアーに参加するに当たって他の346プロのアイドルのトレーニング等色々と拝見したが確かになにかしら彼女達は何かを持っているのが自覚できる。
しかしながらそれと似たような感覚を抱く女の子と出会うのは結構な苦労かもしれない。そんな事をつらつらと考える虎蔵であった。
そんなこんなで人が集まる駅やショッピングセンターや観光地を中心に張り付く虎蔵ら三人。
時に京都の街をブラブラしながら練り歩いていると不意に一緒についていた紗枝が声を掛けた。
「なーなー虎蔵はん。ちょっと寄って欲しい所があるんや」
「寄って欲しい所?」
「そーや、バスで話したと思うけど、周子はんの所に顔を出そうとな」
「あぁ、なるほど。いいぞ」
「やった! おおきに~」
そう言って嬉しそうに「こっちや!」と芳乃の腕を引く紗枝。
そうして嬉しそうに手を引きながら自分の持ち歌を鼻唄で歌う紗枝に虎蔵は訪ねる。
「周子ってバスで言ってたお姉さんみたいな人だっけ?」
「そうどすえ。
和菓子屋さんの娘さんで美人さんなんよ。小さい頃、身体が悪かったうちはね、あまり外で遊ぶ事が出来なかったんよ」
そして紗枝は語る。
「そんで何時も縁側で本を読みながら詰まらん顔をしとったん。
そんな時に庭の苗木の間から顔がピョコと出て来てなぁ。うちはビックリしたんやけどその子、まぁ周子はんなんやけどうちに
『何時もつまらない顔してどうしたん?』って聞いてきたんよ」
「そんで事情を説明したらね、しゅーこはんが
『そんなら私と友達になろ』って言ってくれてな。そこからがしゅーこはんとの出会いやったんや」
「ふーん、大切な人なんだな」
「でしてー」
「そうなんよ。
それからしゅーこはんとは大切なお友だちなでな。
ただうちがあいどるになる時、しゅーこはんは難色を見せて反対したんよ。
でもうちは何時までもしゅーこはんに構って貰ってもいかんと思ってな、『とっぷあいどるになるけんね!』と言って飛びだしたんよ」
「しゅーこはんは半場納得した形やったけどこう…やっぱり寂しくなってな。顔を出しとこうと思った訳よ」
長々と芳乃と虎蔵に周子について説明する紗枝はアイドルをしている時の笑顔とはまた違う笑顔を浮かべており、如何に周子と言う人が大切な人なのか一目瞭然であった。
すると紗枝はハッと何か思い付いた顔をすると虎蔵の袖を引っ張る。
「虎蔵はん、虎蔵はん。良いこと思いついたん」
「良いこと?」
「そうそう、周子はんをスカウトするのはどうやろ? しゅーこはんならきっとあいどるになれるで! なぁ一度会ってみいよ」
「まぁ、会ってみないと良いか悪いか分からないからな。いいぞ」
「ホンマ! やったでどすえ!」
そう言って喜びに小躍りする紗枝。
「しゅーこはんと一緒にあいどる…」とさっきの鼻唄に加え、スキップを追加しながら道を進む。
芳乃はそんな紗枝に合わせてセカセカと小刻みに足を動かしており、その後ろで虎蔵は彼女の機嫌の良いその背中を見て、何だかとても微笑ましい物を見ている気分になる。
そして自分もアイドル候補がいないイライラから感化され、一緒に鼻唄を歌うまで気分が良くなっていた。
そうして歩きながら胸ポケットに閉まってあるタバコを取りだし火を付ける。
その作業をしながらふと虎蔵は「周子…どっかで聞いた事があるような…」と呟き考えるが思い当たらず、その呟きは頭の隅に追いやったのであった。
太陽が次第に回りの景色を夕焼け色に染め上げる。時刻は逢魔時になろうとしていた。
京都らしい長屋が並ぶ小路を進む三人。
変わらない建物を眺めながら暫く歩いていると目の前に十字路が目に入る。そしてその先は小川の上を通る石橋となっており、三人はそこを渡ると直ぐその角の長屋の前で紗枝が立ち止まった。
「ここよ、ここ。虎蔵はんと芳乃はんはここで待っといてーな。驚かせないとあかんもん♪」
そう言って中から二人が見えないように横開きの玄関の端の方で待つように伝える。
そして「しゅーこはんおりますかー!」と言って玄関を開ける紗枝。すると家の奥の方から「紗枝ちゃん!? どうしたの!!」と若い女性の声が聞こえる。
この声こそ紗枝の言っていた周子と言う子であろう。二人はどうやら玄関先で久しぶりの再開で話に花を咲かせているのが声だけで虎蔵達に伝わってくる。そんなはしゃぎっぷりでであった。
しかしながら玄関の隅で待機していた虎蔵と芳乃は二人のはしゃぎっぷりをを聞き流し、別の事で思考を働かせている。
「芳乃、気づいたか?」
「はい、地表がズレていましてー。ここは異界ですー」
「玄関先が艮の方角、隣には小川が流れ、橋の先。鬼門と逢魔時。こんな京都で凄いことしているな」
「生憎、ここは京都でも南京都の端の方、裏鬼門でしてー。四神相応の力は弱まるので陰陽道に精通しているなら意外と簡単にできますー」
虎蔵達は伏見稲荷から西の方に向かって歩いていたのだがここは京都のなかでも南西、裏鬼門と呼ばれる鬼門同様、忌み嫌われる場所にこの場所が建ってある。
良くないものが集まるとされているこの方角には怨霊や畜生の類いが集まりやすいのであった。
「生憎、俺はちまちまとやるのは小に会わないからな。アクティブなんだよ」
「そうでしてー? まぁ、何かあったら任せるですー、せんせー」
「はいよ」
そう言って何が起こってもいいように隠し持っている団平や数珠をチェックする。
そんな中、芳乃は何かしら怖がるわけもなく準備する事もない自然体を保っており、それが自分を頼っているのかはたまた美津理同様に物事の先を見通しているのか虎蔵には区別がつかなかった。
そうして暫く二人の会話を待っていると紗枝が「周子はんもあいどるにならないか?」と提案するのが耳に入る。
「えー、周子があいどるー」とノリの軽い返事をし、それを紗枝が「せっかくだから今、プロデューサーを呼んでいるんよ」と周子に伝えた。
虎蔵は芳乃と同様に自然体になった後に社会人、プロデューサーとして動き出す。
何時も違いプロデューサーとして彼女と接する為であるが何かあったら直ぐにでも動き出すつもりである。
そして紗枝に呼ばれると玄関を潜り、直ぐに彼女へ社会人の基本であるご挨拶をした。
「はい、私が346プロでプロデューサーをしております長谷川虎…」
「は、長谷川…」
「…塩見…」
「「……」」
「どうしたん二人とも?」
「どうかしましてー?」
目を合わせた途端に固まる虎蔵と塩見周子と呼ばれる少女。
銀髪のショートヘアと、キツネっぽい大きなつり目が特徴的な彼女は先に口を開く。
「へ?、なんでアンタがここにいるん…?」
「俺がプロデューサーなんだよ…。大体お前こそ何しているんだよ?」
「ここは周子の家だし。大体天狗被れが何やっとるん。笑わせてくれるわ」
「言ってろ牝狐。お前にされたアレの事は忘れないからな」
「うわぁ~、小っこい男や。アンタの自業自得やろ」
「「ふん!」」
そう言って険悪の空気が晴れぬままフン!と目を合わせない様に首を仰け反る二人。そんな中、紗枝と芳乃は付いて来れず首を傾かせていた。
「どうやら二人はお知り合いのようでしてー」
「そうみたいですなー。しかし二人ともどうしたんどすか。しゅーこはんも客人に対して失礼だと思うですけど。
さっき説明した通り、彼がプロデューサーさんの長谷川虎蔵さんや。んでこっちがうちの大切なお友達の塩見周子はんです」
するとその話を聞いていた周子はハッと何か思いついたのか紗枝の方に向く彼女に質問してきた。
「ちょっとまって紗枝ちゃん。プロデューサーってまさかあいつ?」
「う、うん。虎蔵さんはプロデューサーさんやんよ」
すると彼女は直ぐさま、紗枝を抱き抱えると頭の上と腰の方から狐耳と尻尾が表れる。
そして懐に閉まってあったお札を取り出すとそのまま地面に叩きつけた。
虎蔵は瞬時に動き出すが地面に叩き付けられたお札から真っ白な煙幕がモクモクと広がると視野全体が真っ白に染まり、視覚が遮られ、動きも遮られる。
「紗枝ちゃんをアンタみたいな天狗擬きに預けられるか! 紗枝は周子が渡さんよ」
何処からもなく周子の声が聞こえると次第に煙幕は引いてゆく。そして玄関先に取り残されたのは虎蔵と芳乃の二人組。
そして開いていたはずの玄関の先には外の景色は広がっておらず、ただ先にあるのはこの家のであろう、奥まで続く長い廊下が延々と続いているだけであった。
虎蔵と芳乃は塩見周子によって、異界となっているこの長屋に閉じ込められたのである。
「…彼女とはどのような関係でしてー」
「…一度だけ一緒に寝て、直ぐに別れた…」
「でしてー…」
周子魔改造の元ネタはモバマスイベント「あやかし京娘」から。
意外におきつね周子のSSって少ないんですよね。なんでこの小説ではお狐様になってもらいました。
さえしゅうの匂いがする!ハスハス