聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-が放映され、さらにゼロ魔の続刊が決定したのを知り、こつこつと書いた短編です。
嘆きの壁を壊す為、ジュデッカに黄金の十二人が終結し、『
しかし、その場に十二人の姿はなかった。
嘆きの壁で消滅した筈の『
【こ…これは一体!?】
今の状況に戸惑い、声を出そうにも出るのは泣き声のみ…。
そう、カミュは赤ん坊になっており、そして自分を産んだと思われる女性に抱かれていた。
「おお、カリーヌ、でかしたぞ。ついに待望の跡継ぎを産んでくれたな」
「はい。この子を貴方の跡継ぎに相応しい立派な貴族に育ててみせますわ」
【まさか…私は転生したのか?前世の記憶を持ったまま……】
「貴方……子供が生まれて嬉しいのは解りますが、そろそろこの子に名前をつけてあげて下さい」
「心配するな。もう考えてある。いつか跡取りが生まれた時にと、直ぐに思い浮かんだ」
「…直ぐにですか?」
「うむ。男の子が生まれたら、この名前にしなければならない…という気がしてな」
何故だかはわからないが……などと父は苦笑していた。
「この子の名前は、カミュだ。『カミュ・ド・ラ・ヴァリエール』だ」
「まあ、カミュですか……確かに何故かこの子に相応しい名前の様に感じられますわ」
【……まさか生まれ変わっても、その名前を付けられるとはな……。まあ前世の記憶がある以上、今更別の名前を付けられても違和感があるから、丁度良いな】
こうして『水瓶座』のカミュは、異世界ハルケギニア、トリステイン王国最大の名門貴族、『ラ・ヴァリエール公爵家』の跡取り息子として、生まれ変わった。
カミュが生まれ変わってから半年が過ぎた。
既にカミュは四つん這いではなく、二本の足でしっかりと歩けるようになっていた。
「すごいぞカミュよ。もう歩けるようになっているとは!」
「ええ。エレオノールもカトレアもこの時期に立つ事など出来なかったのに…男の子というのはこんなにも手が掛からないのでしょうか?」
「いえ、奥様。私も息子がおりますが、これほど早くは歩けませんでした。カミュ様が稀なだけですわ」
カミュの乳母がカリーヌの疑問に答える。
カミュにしてみれば、今の状況はかなり屈辱的である。
肉体はともかく精神は20歳。
20歳の精神でオムツの中に排泄物を出すというのは中々に堪える。
なので早く、オムツや母乳に頼らない様になりたいのであった。
生まれ変わって3年が過ぎ、カミュはここが地球ではない別の世界である事を知った。
まず、トリステインという国など地球にはない。
魔法が存在し、それを使える者たちが貴族となっている。
キリスト教、イスラム教、仏教といった宗教が存在せず、ブリミル教という宗教が唯一無二の宗教で、それ以外の宗教は認められておらず、ブリミル教徒以外はすべて異端とされる。
何よりも決定的なのは、夜空に月が二つある…という事だ。
【
更に年月が流れ、カミュと一年後に生まれた妹ルイズは魔法を学び始めた。
カミュは直ぐに魔法を理解し、学び始めて僅か1年で水系統のスクエアに、風系統ではトライアングルに達していた。
「本当にカミュ様は素晴らしい。この年でスクエア達するとは、将来はトリステインが誇る伝説のメイジである『烈風』カリンすら上回る偉大なメイジになられるでしょう」
教師として雇われたメイジの言葉を聞き、カリーヌは喜んでいた。
実は『烈風』カリンとは、カリーヌのことであり、元々は貧乏貴族の出であるが、自分を助けてくれた騎士に憧れ魔法衛士隊を目指し王都に出てきたが、衛士隊は女人禁制な為、男装し『カリン』と名乗っていた。
先王フィリップ三世から直々にシュバリエに叙せられ、マンティコア隊の隊長を務める程まで栄達した。
夫であるヴァリエール公爵との結婚を機に引退したが、現在でも英雄として語り継がれている。
そんな自分を息子は超えられる可能性がある。
親として、我が子が自分を超えてくれる事に何よりも喜びを抱いていた。
「…ですが……ルイズお嬢様は……」
妹のルイズは一切魔法が使えなかった。
いや、使えないというよりも何の魔法を使っても爆発してしまうという、奇妙な現象であった。
魔法をもって貴族と為す……ハルケギニアの理からすれば、魔法が使えないメイジなど、貴族と認められない。
その為、カリーヌは元より、父・ピエールも長姉エレオノールは焦った。
ただでさえ次女であるカトレアが原因不明の病を患った事で悲嘆にくれていたのに、更に末娘であるルイズが魔法が使えないともなれば、ルイズの将来を考えれば一刻も早く解決しなければならない。
しかし、その原因がさっぱり解らない。
焦る余り、皆ルイズに対しきつく当たる様になった。
いくらやっても上手くならず、家族に叱責され、その事に耐えかねてルイズが逃げ出すと、全ての使用人がルイズを追いかけ、捕まえるとカリーヌの下に引っ立てられ、逃げ出した事に対する罰を受けるのである。
ちなみに雇われた教師は、優秀なメイジであるのだが、魔法偏重主義の権化であった。
その為、ルイズの事を『兄が魔法の才能を全て持って行ってしまい、妹は残りカス』と陰で嘲っていたのだが、その事がピエールとカリーヌの耳に入り、娘を侮辱された事で怒り狂った夫妻に折檻を受けた後に解雇され、ラ・ヴァリエール領から永久追放された。
その後、国内最大の名門貴族の怒りを買った事を恐れた実家に勘当され、貴族の身分を剥奪、傭兵に身を堕とす結果となった。
両親や長姉が焦る中、次女のカトレアとカミュは特に焦ってはいなかった。
カトレアは魔法が使えないルイズを責めず、よく慰めていた。
その為、ルイズはカトレアによく懐き、『ちい姉さま』と慕っていた。
そして、カミュは前世の記憶がある為、ハルケギニアの理に囚われていないので、魔法が使えないからといって、問題ないと考えている。
貴族……統治者に必要なのは魔法ではなく、領地の運営能力なのだから。
ある日の事。
いつもの様に魔法か使えず、一人で泣いていたルイズは、横に誰かが座り、自分の肩に手を回しているのに気付いた。
見てみるといつも比較される優秀な兄だった。
ルイズは兄に対して劣等感を抱いていたが、嫌ってはいなかった。
兄も次姉同様、ルイズが魔法を失敗しても決して責めないからだ。
それどころか、カトレアが体調を崩している時など、不安になっているルイズに、今の様に隣に座り、ルイズを優しく抱きしめてくれるからだ。
「兄様……私、また魔法を失敗しました…」
優秀な兄に対し、不出来な妹……優しい兄に対し自分は汚点となっている。
そんな自分が嫌いで…でも、どうしようも無くて……。
しかし、兄から思いも寄らない返事を返され、ルイズは驚いた。
「すまない…ルイズ…」
「兄様?」
「人は私の事を、才能溢れる天才だと持て囃すが、私にはお前の魔法が全て爆発してしまう事の原因が突き止められない。苦しんでいるお前を救ってやる事が出来ない…」
カミュは妹のルイズがとても愛おしかった。
そんなルイズの苦しみを救ってやれない事に忸怩たる思いを抱いていた。
ハルケギニアの理に縛られていないカミュは、ルイズの失敗に対しある結論が出ていた。
それは、失われた第5の系統『虚無』。
始祖ブリミルが用いたという伝説の系統。
しかし、それを口に出すわけにはいかなかった。
何よりも皆がその可能性を信じるとは思えないし、仮に信じられても、誰も扱えない『虚無』をどうやって教えれはいいか解らない。
仮に『虚無』が使える様になったとしても、それはルイズを更なる不幸に導くだろう。
『虚無』の力とやらは、このハルケギニアで崇拝される始祖ブリミルの力。
その力を使えるとなれば、それは余計な火種になってしまうだろう。
例えば、始祖の力を受け継いだ娘が誕生したヴァリエール家こそトリステインの正統であるといって反乱勢力の旗印として担ぎ上げられる…しかも本人の意思を無視されて……。
更には始祖の系統を手に入れた事により、それを旗頭にトリステインが他国に戦を仕掛ける可能性がある。
そして、何よりも気をつけなければならないのは、『虚無』を恐れた他国の者にルイズが暗殺される危険性である。
どれほど強大な力を持っていようが、人の身である以上、完璧ではない。
現に、カミュは前世において、強大な力を持った教皇シオンが暗殺にされている。
如何に老いていたとはいえ、暗殺した男が黄金聖闘士の中でも最強を誇るとはいえ、88の聖闘士の頂点に立つ教皇を一撃で暗殺されたのは、不意打ちを仕掛けたからである。
正面から戦っていれば、如何に『
それは冥王に偽りの生を与えられ、
「兄様…」
ルイズはおちこぼれの自分に対し、頭を下げて詫びる兄を見て、心が締め付けられた。
出来の悪い自分の為に、家族を苦しめている事実が哀しかった。
「だが、ルイズ。誤解をしないで欲しい。私やカトレア姉上だけでなく、父上も母上もエレオノール姉上も、皆、お前の事を大切に思っているという事を…」
「……私は父様や母様、エレオノール姉様に見放されたんじゃないんですか?」
「見放しているのなら、あそこまで厳しくはならんさ。皆、お前が魔法が使えないままだと、将来、辛い思いをするから何とかしようと焦って必死なのだ。焦っているから、お前の魔法を成功出来る様にさせようと、つい力が入ってお前にきつく当たってしまうのだ…。だから、決して皆を嫌わないでくれ」
こんな風にしか妹を慰められない事にカミュは、内心憤っていた。
「はい。私は…皆に見放されても、父様も母様も姉様も皆、大好きですから…」
「……ありがとう…ルイズ」
★☆★
カミュは外出が多くなっていた。
本来ならば、妹のルイズと共に魔法以外の貴族としての教育を受けなければならないのだが、伊達に20歳までの前世の記憶があるわけではない。
聖闘士しての任地が極寒のソビエト連邦東シベリアとはいえ、最高位の黄金聖闘士である為、貴族並の教養はあった。
世界が違おうが、貴族という存在にそれほどの差異はない。
最もカミュから見れば、この国の貴族は統治者としてのレベルは低いといわざる得ない。
あのサガの『悪』の人格ですら、『力』がある自分が支配する事で、この地上を護りきれると思っていたのに対し、このトリステイン貴族は、『魔法』の力を持つ『貴族』である自分は、平民達に何をしても良い…と勘違いしている。
地球という世界を知っているカミュからしてみれば、別に貴族などいなくても『平民』は生きていける。
地球には貴族階級が無い国もあるのだから…。
しかし、貴族は自分達を支える平民がいなければ、生きていく事が出来ない…という事実に気付いていない。
畑を耕す事も、家畜を育てる事も、料理を作る事も、自分達の仕事ではない…といってやろうともしない貴族たちが、すべての平民がいなくなった後、どう生きていくのだろう?
まあ、6000年も今の状況が続いていた事自体、地球ではありえない事だが、ゲルマニアやガリアなどを見れば、そろそろ今の制度も終焉に向かっているだろう。
平民達がいつかは魔法をを上回る力を手に入れ、今の貴族制度が崩壊し、新しい秩序が生まれる。
魔法と科学が上手く調和すれば、地球のような深刻な環境破壊には繋がらない進化を遂げる事も出来よう。
ただ、それをカミュの生きている内に見れるかどうかは解らないが……。
また来世で、記憶をもって生まれ変わる事が出来るという保障はない。
さて、話を戻そう。
カミュが頻繁に外出する事に少し不信を抱いたカリーヌは、使い魔を通じてカミュが何をしているのか見定める事にした。
使い魔と視覚を共有したカリーヌが見たのは、何の事はない。
ただ身体を鍛えていただけであった。
カリーヌは感心した。
メイジというのは、魔法の勉強には重点を置くが、身体を鍛えるのを疎かにしすぎだ。
魔法衛士隊の様な軍人などは、必要性を把握しているので怠っていないが、一般のメイジはむしろ体術の類を軽蔑している者も多い。
だからこそメイジ殺しと呼ばれる者に付け入る隙を与えてしまうのだ。
長姉のエレオノールと違い、カミュはそれに留意しているのだろう。
カリーヌは使い魔との視覚共有を解除し、今日の仕事に戻った。
それ故、この後のメイジの常識を打ち破るモノを見る事はなかった。
「オーロラ・エクスキューション!!」
カミュが放ったオーロラ・エクスキューションによって辺りが凍結していた。
杖を用いずに魔法のような効果が現れたのだ。
見るものが見ればともかく、無知なる者が見れば、それはエルフなどの亜人などがもちいる先住魔法……精霊魔法の様に見えただろう。
これこそが、「水と氷の魔術師」と謳われる『水瓶座』最大の奥義。
「どうやら、前世の実力にかなり近づいた様だな」
前世の記憶がある故に、『
聖闘士は、天性の資質を持った者が『
聖闘士の力の真髄は小宇宙だが、体も限界まで鍛え上げなければ、小宇宙による力に耐え切れない。
前世の記憶を頼りに体を鍛え上げ、全盛期とまではいかないが、黄金聖闘士級の実力を取り戻す事に成功した。
もともとカミュの世代の黄金聖闘士達は、天才的な才能の持ち主で最初から黄金聖闘士となった者ばかりである。
それまでは、教皇である『
とはいえ、聖闘士としての力はあくまて切り札である。
いくら異世界に生まれ変わって、もはや『カミュ・ド・ラ・ヴァリエール』であって『水瓶座のカミュ』では無くなったとなったとはいえ、聖闘士としての誇りまで無くなったわけではない。
聖闘士としての力は、それを使うに足る場所以外では使用するつもりはなかった。
★☆★
カミュがハルケギニアに生を受けて16年の歳月が流れた。
今年から、カミュと妹のルイズは、トリステインが誇る名門の魔法学院に入学する事になった。
正直、貴族としてもメイジとしても今のところ非の打ち所もないカミュは、わざわざ魔法学校に通わなくても、立派にヴァリエール家を継げるのだが、妹のルイズの為に同じ学年で入学する事にしたのだ。
ルイズは幼い頃に比べ、それほど追い詰められてはいないが、それでも自分を愛してくれる父や母、姉たちを安心させる為、魔法を成功させたいと考え、魔法学院に入学をする事を決めた。
そして、ルイズが『虚無』である事を疑っており、それ故に爆発を繰り返す事で恐らく学院で笑い者にされるルイズを守る為にカミュも入学する事にしたのだ。
カミュの予想通り、入学当初はトリステイン最大の名門貴族『ヴァリエール家』の三女という立場から擦り寄ってきた子女たちだが、ルイズが魔法を成功させられない事を知ると、掌を返し『ゼロのルイズ』と呼んで蔑む様になり、その都度傷つくルイズを支えてきた。
ルイズを悩ませたのは魔法が失敗するだけではなかった。
あろう事か、隣国ゲルマニアの貴族にして国境を挟んでの隣り合わせで何度も争ったの不倶戴天の仇敵とも言える『ツェルプストー家』の令嬢である『キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー』が、寮の部屋においても隣となった事である。
ツェルプストーは、戦だけでなく色恋沙汰においてもヴァリエールにとって仇敵であり、ヴァリエール家の者たちは何度も恋人や伴侶をツェルプストー家に寝取られている。
そして今回、あろう事が敬愛する兄であるカミュを誘惑し始めたのだ。
「兄様に近づくなツェルプストー!!」
「あら、恋愛は自由のはずよヴァリエール!」
キュルケとしてもカミュが仇敵ヴァリエール家の者という事は解っているが、カミュは他の同級生、否、今まであったどんな男たちと比べても格が違うと感じていた。
妹の方は、自分の事を知るや否や、敵意を剥き出ししてきたが、兄の方は紳士的な態度をまったく崩さず、それどころか此方を淑女として扱ってきた。
そこに家の確執などまったく気にも留めていないようであった。
カミュも今回初めてツェルプストー家の者と会ったわけだが、何故、先祖が今まで恋人を寝取られてきたのか、ルイズの態度で理解したのだ。
おそらく今まで先祖たちは、ルイズの様にツェルプストーを威嚇し、恋人たちに「ツェルプストーには近づくな」と言って来たのだろう。
自分を情熱的に口説いてくる相手に対し、ただ無駄にプライドが高いだけで、相手に近づくなときゃんきゃん喚くだけの恋人…。
どちらが魅力的なのかは自明の理だろう。
恋人に対し、自分の方が相応しいという姿勢を見せれば、ここまで寝取られる事はなかった筈だ。
だからカミュは、キュルケの求愛を礼儀正しく断るも、紳士的に対応し、大貴族の跡取りとして相応しい態度で接していた。
そんなカミュに対し、キュルケも8割ほど本気になり、カミュを口説き、ルイズの怒りを買う事になる。
そして一年の時が経ち、「春の使い魔召喚の儀」が行われる。
トリステイン魔法学院において、二年に進級する為の儀式であり、これに成功し使い魔を得なければ、留年してしまうのだ。
キュルケは火属性として相応しい、火竜山脈に棲息するサラマンダーを召喚し、カミュは水竜を召喚した。
しかし、ルイズはいつもの如く爆発ばかりで、サモン・サーヴァントが成功しなかった。
ついに監督を務めるジャン・コルベール先生に止められるが、最後の一回のチャンスを与えられた。
「――宇宙のどこかにいる、我が僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに、応えなさいッ!」
ルイズの呪文と共に再び爆発が起こる。
しかし、今回はその爆発の中に何かが居た。
「…成功したの?」
煙が晴れ、其処にいたのは背に大きな黄金の箱を背負った金髪の青年だった。
「…あんた誰?」
カミュは驚いた。
ルイズが召喚した青年は、見覚えがある所ではなかった。
前世において自分のすべてを教え、そして自分を超えた愛弟子。
「……
「ま……まさか…貴方は…!?」
そう彼こそは当代の『
時を越え、世界を越え、今、かつての師弟が再会を果たした。
to be continued ?
トリステインは水の国。
そして、主役五人の中で恋人らしいのがいない…(まあ外伝にナターシャ、アニメではフレア、劇場版では相沢絵梨衣がいますけど)…という理由でこの配役になりました。
本編は今のところ書く気はまったくありませんが、気が向いたら書くかも知れません。