コードギアス もし脳筋の兄がいたら   作:オリーシュ

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魔人と痴人

 ルルーシュは賭けチェスの帰りにひょんなことからテロ組織のトラックの荷台に乗ってしまった。トラックは毒ガスを運んでいるとされ、純血派が中心となって捕獲に追いかける。しかし毒ガスを刺激してはならぬので攻撃を当てることはできず、攻めあぐねる。

 

 やがてトラックからグラスゴーが出てきた。第四世代のナイトメアであり今は旧型の扱いで性能は今ひとつ。

 純血派からは第五世代のサザーランドに乗るジェレミアと第三世代のガニメデに乗るピエールが現れる。

 

「此度は私にやらせてもらう。部下ばかりにいい格好はさせんぞ」

「いいでしょう。ジェレミアさんならば」

 

 ジェレミアが一対一を希望したことでピエールはトラックの方を追いかける。ジェレミアは優勢に戦いを進めるがグラスゴーの操縦者も大したもの。なんとか致命傷を逃れ裏路地へ逃げる。

 

 ルルーシュは相変わらずトラックの荷台にいた。誰にも気付かれることなく、トラックは走り続け地下道へ突っ込む。ピエールもガニメデで突っ込むが、狭いので体勢を崩さなければ入ることができず、バランスを取るためにスピードが落ちた。

 真っ暗な地下道。タイヤのパンクしていたトラックは真っ直ぐに進めず、溝にはまって停止する。

 そこへピエールが追いついた。

 

 ピエールはガスマスクをしてコクピットを降り、ハンドガン片手にトラックへ接近する。

 

「くっくっく。今回も一番いいところは俺がもらってしまうようだな」

 

 もう任務はこなせるものだと思っていた。サーモグラフィで探知したところトラック内には人間は2人。うち一人はドライバーだが気絶しているようでぐったりして動かない。

 不意に、側面のドアが開き、中から人影が出てきた。周囲に対してほぼ無警戒で両手を挙げている。

 

「結局命乞いか。情けないテロリストだ」

 

 ピエールは銃口を男の頭に向けながらため息をつく。

 

「その声、ピエールか?」

 

 しかし、男が発したのは知った声だった。

 

「うん? ルルーシュか?」

 

 サーモグラフィを外してみてみると、確かにルルーシュの顔。学生服を着ている。

 

「なぜお前が荷台から? まさか人質か?」

「いや、運悪く巻き込まれただけだ」

「そうなのか。じゃあ他の兵士に見つかる前に早いとこガニメデに乗っておけ。途中で保護した少年ということにしておく」

 

 その時、別方面から懐中電灯の光が差す。

 

「あ、ヴァルトシュタイン大尉。と、まさかルルーシュ?」

 

 枢木スザクだった。

 スザクはルルーシュに驚くが、ピエールがいるので真面目な表情に改める。ピエールを見る目は若干の敵意を含む。ピエールが父親を殺したことは本人からも桐原からも聞いているからだ。

 

「その声、スザクか? 軍にいたのか……」

 

 唖然とするルルーシュ。ピエールは軍内部でスザクに会ったことがなかったが、噂は耳にしていた。元首相の息子が軍に入っていると。

 その時、不意に毒ガス装置が起動する。程なく煙が噴出し始める。

 

 ピエールは自身のガスマスクを外し、ルルーシュの顔に押し付ける。

 

「あれは毒ガスだ! 吸うなよ!」

「なに!?」

 

 ピエールは言うや否や自身のナイトメアへ駆け、コクピットに飛び乗り、起動し、大慌てで去っていく。

 

 毒ガス装置から煙が噴出し終わる。不意に、毒ガス装置がパカリと開いた。

 

「え?」

「女?」

 

 毒ガス装置の中には拘束着の女が入っていた。17歳くらいに見える緑色の髪の美しい女だった。

 ルルーシュとスザクはきょとんとして女を見る。ピエールは一目散に逃げており後ろを見る余裕がない。

 

「毒ガスじゃない。まさか、ブリタニアは人体実験を?」

「非道なことをする。これじゃあテロリストと同じじゃないか! スザク! 何故お前は軍なんかに入った!」

 

 叫ぶルルーシュ。スザクはギリと歯をかみ締める。

 

 その時、スザクのやってきた方向から再び光が差した。

 

「残念だったな、枢木一等兵。毒ガスの第一発見者はピエール。君は何も見ていなかったことに決まった」

 

 クロヴィスの親衛隊がズラりと並んでいた。親衛隊隊長はニヒルな笑みを浮かべてスザクとルルーシュを見る。ルルーシュはガスマスクをつけているが、服は制服だ。

 

「ブリタニアの学生が何故ここに? テロリストか? 人質か? まあいいか。どうせ死ぬからな」

 

 親衛隊の一人がスザクに近づき、銃を手渡す。

 毒ガスの正体の目撃者は殺さなければならない。しかし、自身がブリタニア人の人質を殺しては昇進に響くので、スザクに殺させようという魂胆だ。

 

「殺れ。枢木一等兵」

「え、彼はテロリストではありません!」

「名誉風情にこの場での発言は許されていない。お前はただ私の命令に従えばいい」

 

 隊長の言葉にルルーシュとスザクの両方が衝撃を受ける。

 スザクは葛藤する。相手は父親の敵の弟。自身もピエールの手によって入院させられた。しかしその時に、ルルーシュだけは見舞いに来て、頭を下げて謝ってくれた。元はと言えば自身がルルーシュに殴りかかったのが原因なのに。戦争が始まり、ルルーシュとナナリーと自身の3人で逃げている時は、彼の誘導と自身の力で数々の困難を打ち破った。生まれて始めての親友といえるかもしれない相手だった。

 ルルーシュも葛藤していた。自身の正体を打ち明けるべきか否か。ピエールの名を出せば多少時間が稼げる可能性はある。

 

「できません。彼は無関係」

「実は私はピエールの旧知であり」

 

 スザクとルルーシュ、ほぼ同時に語り始める。しかし続きは銃声にさえぎられた。

 

「なっ。スザクッ!」

「イレブン如きが二度も口答えするからだ」

 

 親衛隊隊長がスザクを撃ったのだった。撃たれたスザクは崩れ落ちる。

 

「貴様等ぁ!」

 

 ルルーシュは怒り、隊長を睨む。

 

「貴様はあれか。ピエールくんの知り合いなのか。まあ毒ガスで死んだことにしておけばいいだろう」

「なにっ!?」

 

 隊長は面倒そうにため息をつくと、ルルーシュに銃口を向ける。

 引き金に指がかかる。ルルーシュはグッと歯をかみ締める。

 

「にっぽん、万歳」

 

 しかしその時、不意にトラックが大きな爆発を起こした。かろうじて意識を取り戻した運転手が自爆装置を起動させたのだった。

 

 その頃、ピエールはオープンチャンネルで全方位に警告を出していた。

 

「毒ガス装置の起動を確認! 毒ガス装置の起動を確認! 場所は○○△□の地下通路!」

 

 そんなピエールの元にクロヴィスから通信が入る。

 

「ピエール! お前は見たのか! 毒ガスが出るところを!」

「ええ、ガスが噴出していました!」

「他は!?」

「他? い、いえ。特には」

 

 ピエールは素直に見たままを答える。一瞬ルルーシュのことが頭をよぎったが、言わなければ知られることはないだろう。

 クロヴィスは密かに胸をなでおろす。

 

「そうか。毒ガスの処理は私に任せてくれ。君はテロリストの駆除を」

「イエス。ユア・ハイネス」

 

 その頃、ルルーシュは地下道を走っていた。毒ガス装置に入っていた謎の娘もルルーシュの横を走っている。

 ルルーシュは走りながらピエールに電話を入れるが、電源を切っておりつながらない。

 

「こんな時に。あのバカがっ」

 

 作戦行動中に携帯の電源を切るのはマニュアル通りだが、ルルーシュの身の安全を考えると点けておくべきだろう。ピエールはそういうところに頭が回らないのである。

 ルルーシュはしょうがないのでナナリーに電話をかけた。すぐに出た。

 

「あら、お兄様。どうなさいました?」

「ナナリー、大きな声を出さないで聞いてくれ。実は俺は今、テロに巻き込まれている」

「え?」

「ピエールが近くにいるので助けを求めたい。だがあいつは電源を切っていて今はつながらない。ナナリー、お前の方からあいつに電話してくれないか? 俺は音を隠して逃げなければならないから。俺の位置はメールで伝える。そちらも今後はメールで伝えてくれ」

「はい。はい。分かりました。お兄様、ご無事で……」

 

 ナナリーは兄の危機に顔を青くする。同級生がそんなナナリーを気遣って声をかけるが、ナナリーは無視をしてピエールに電話をかける。しかし、電源を切っておりつながらない。

 

「こうなったら私が……」

 

 ナナリーは走り出す。秘密の地下通路へと。

 

「シンジュクゲットーを殲滅せよ」

 

 クロヴィスの命で新宿は血の海と化していた。老人女子ども問わず日本人は皆殺しである。

 ルルーシュは逃走中に親衛隊に見つかり、緑髪の女ともども銃を持った兵達に囲まれてしまった。

 ルルーシュの眉間へ放たれる銃弾。それを女が庇って受ける。絶望するルルーシュ。しかし不意に女が動き、ルルーシュの手をつかむ。ルルーシュの視界が記憶の世界へ飛び込む。

 

「これは契約。王の力はお前を孤独にする。その覚悟があるのなら」

「結ぶぞ。その契約」

 

 ルルーシュはギアスという名の王の力を手に入れた。感覚の赴くままに親衛隊たちへ命じる。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様等は死ね」

「イエス、ユアハイネスぅー」

 

 なぜかうれしそうに頷く親衛隊たち。笑顔で自分の頭に銃を向け、または隊員同士で銃を向け合い、引き金を引く。

 瞬く間に血の海ができあがった。

 

 目の前にある非現実的な光景。そしてギアスという力。ルルーシュはしばらく呆気にとられていた。

 不意にルルーシュの方へナイトメアサザーランドが近づいてきた。

 

「貴様! そこで何をしている!」

 

 ナイトメアには純血派の紅一点、ヴィレッタが乗っていた。ヴィレッタは尋ねながらナイトメアの銃口をルルーシュに向ける。

 ルルーシュは冷めた表情で目のギアスを発動させる。

 

「そのナイトメアを寄越せ」

「何だと!? 何様のつもりだ! 殺されたいのか!」

 

 効かない!?

 ルルーシュは驚いたが表情には出さない。すさまじい速度で思考を始める。

 直接見て命じる必要があるのかもしれない。ならば次に取るべき手段は。

 

「私はアラン・スペンサー。父は侯爵だ。保護を頼みたい。IDカードは内ポケットに入っている」

「侯爵だと?」

 

 ヴィレッタは出世欲の強い女だ。侯爵に恩を売れるならと、銃を構えながらコクピットを出る。

 ウソだったなら殺せばいいだけだ。

 

「貴様のナイトメアを寄越せ」

 

 しかしルルーシュの目を直接見てしまったことで、ギアスにかかってしまう。

 

「いいだろう。キーはこれだ。暗証番号は……」

 

 ルルーシュはサザーランドを手に入れた。敵のサザーランドには敵味方識別装置が入っており、敵の陣形を把握できた。さらにルルーシュの手にはテロリストのトラックに落ちていた通信機が握られている。何よりギアスという力がある。ルルーシュはこれらを使い一波乱起こすつもりだった。

 

 その頃、ピエールはジェレミアに怒られていた。

 

「ピエール! 私の獲物だと言ったはずだぞ!」

「す、すみません。私はてっきりジェレミアさんならもう終わらせているかと」

「くっ。楽しみたかったのだ。久しぶりに骨のある相手だったからな」

「そ、そうですか。確かに腕はよかったですね。機体は旧型ですが」

 

 ピエールはジェレミアが狙っていたグラスゴーを不意打ちし、捕獲に成功していた。コクピットを後ろから掴んでおり、操縦者は脱出もできない。

 

「まあいい。そいつはくれてやる。だが残りは私がやるぞ」

「ご健闘を祈ります」

 

 ジェレミアはそう言うと戦場を去っていく。残りのテロリストは歩兵がほとんどだったが、まだ戦い自体は続いていた。と言っても、一般人相手に銃を放つ一方的な虐殺がほとんどだったが。

 ピエールはようやく一息つくことができた。携帯電話の電源を入れる。電話とメールが何件も届いていた。

 

「生きていろよ。ルルーシュ」

 

 ピエールはルルーシュに電話をするが、出ない。続いてナナリーに電話をするが、通話中で出ない。

 次にルルーシュから送られてきたメールを見る。10分前のメールだがルルーシュがいた位置が書いている。次にナナリーからのメール。

 

『私がガニメデの試作機でお兄様の救出に向かいます。軍の邪魔が来ないよう口裏を合わせてください』

「まったく」

 

 かなりの問題行為だが、ナナリーはかわいいので許すことにする。それにナナリーの実力は自身が一番よく知っている。この程度の戦場で撃墜されることはない。逆に、ルルーシュはナナリーに任せれば安心だろう、くらいまで思っている。

 

 ピエールはルルーシュを後回しにし、先にグラスゴーの処理を始める。

 まず、グラスゴーのコクピットの周囲を撃っていく。火花が散り、装甲がひしゃげる。

 脆くなったコクピットの周囲にガニメデの手を突っ込む。コクピットを握り、引き抜く。

 

 機体はできれば無傷の方がいい。旧型とは言えそれなりにお金になるから。敵操縦者もできれば生かしておいた方がいい。人質や情報源になるから。しかし壊れたり死んだりしても大きな問題はない。だからこういうぞんざいな扱いだった。

 ひしゃげたコクピットブロック。中に血まみれの若い女がいた。しかも赤髪。パッと見でブリタニア人だと思えた。

 

「ブリタニア人の若い娘がテロリストとは。嘆かわしい」

 

 嘆きつつ、若干ピエールの口が緩む。この娘、なかなか見た目がよかった。処刑するのはもったいない。ナイトメアの操縦技術を考えると、説得して配下に加えたいくらいだ。

 

「ダ、ダメ元で説得してみるか。俺が手に入れた娘なんだ。多少のマニュアル変更は許されるだろう」

 

 ピエールは配下にした赤髪の娘を想像し、顔を赤くする。

 こうなっては止まらない。知人に電話をつなぐ。

 

「はいぃー、ピエール大尉ぃー。もしかして僕のランスロットのデバイスになってくれちゃいますぅー?」

「わけありの急患だ。軍に秘密にしたまま治療してくれたら3回くらいは戦場で乗ってやってもいい」

「うはぁー。了解ですぅー」

「場所は○△△。今すぐ来い。いや、こちらから行った方が早いか」

 

 ピエールはコクピットから女を取り出し、ガニメデの手に乗せる。そして電話の相手の下へ移動する。

 ロイドはピエールをパイロットにするべくガニメデのエネジーが切れるタイミングをうかがっていたので、近くにいた。特派の移動式研究施設と共に。

 

「ロイドさん、うれしそうですね」

「いひひー。枢木一等兵もなかなかいいけど、やっぱり僕のランスロットには最高のデバイスに乗って欲しいからさー」

 

 ピエールが特派に着いたとき、ロイドは片足の爪先立ちでくるくる回っていた。

 ピエールは赤髪の娘をお姫様だっこして特派に入っていく。ベッドが用意されていたのでそこに寝かせる。

 

「じゃあー、早速乗っちゃってー。僕のランスロットにー」

「いいのか? こんなしょうもない戦場で」

「そうでもないかもよー。ナイトメアがコンテナごとテロリストに盗まれたみたい。頭の切れる指揮官がいるのかもねー」

「そんなことになっているのか。上等だ。頭のいいやつは嫌いだからな。力で捻じ伏せてやる」

 

 ピエールはエナジー切れと機体のメンテナンスを理由に機体の乗換えを申請する。特派はクロヴィスの部下ではなく、第二皇子シュナイゼルの部下なので、クロヴィスの支配権が及ばない。しかし逆に、この戦場に特派が関わるにはクロヴィスの許可が必要だった。

 

「殿下ぁー。梃子摺ってますぅー? 僕のランスロット準備万端ですよー。ピエール大尉が乗ってくれましたしぃ」

「ピエールが? 本当か?」

「はいぃー。ガニメデのエナジーは切れたようです」

「そうか。閃光の弟ほど心強いものはないが。……行けるのか? お前のおもちゃは」

「ランスロットとお呼びください」

 

 ピエールがランスロットに乗る許可は降りた。

 ここで、本来ならピエールはジェレミアの小隊に入るのだが、驚くべきことにジェレミアのサザーランドは既にテロリストに破壊されていた。ピエールは一人である程度自由に活動できるようになった。

 

 ルルーシュはギアスを利用してブリタニア軍に同士討ちをさせたり、テロリストにナイトメアを与えて自身の指揮でブリタニア軍を打ち破っていく。旗色は完全にテロリスト側に傾いていた。

 ナナリーには自分は無事だと伝えている。助ける必要はないとも。その代わり、緑色の髪の女を見つけたようなので、回収してもらった。

 ピエールはガニメデのエナジーが切れたようで戦場から消えている。

 もはや憂いはない。この戦い取った。

 

 しかし、不意にテロリスト達から悲鳴が上がる。

 

「うわあ! なんだあいつは!」

「早ぇ! まるで見えねえ!」

「P5P7! どうした!? 何があった!?」

 

 敵味方識別信号、テロリスト側の機体に次々とlostの文字が出る。

 

「まさかピエールか!」

「いや白い機体だ! ぎゃああ!」

「見たことねえやつだ! でも動きはあの悪魔そっくり!」

 

 ルルーシュはピエールに電話をかける。5秒ほどで出た。

 予想通りナイトメアに乗っているようで、金属の軋む音がうるさい。

 

「無事か!」

「ああ! 俺の心配はいらない!」

「ならいい! 今は作戦行動中だ! 切るぞ!」

「待て! 今どこにいる!?」

「うん? 今は、まあ政庁の南に600mくらいだ!」

「そうか!」

 

 機体がlostしている方向に一致する。やはり新型の操縦者はピエールらしい。

 母の乗っていたガニメデ。開発者にしてルルーシュ達を匿っているアッシュフォード家。母と家のつながりからガニメデに拘っていたが、何故か新型に乗ったようだ。

 しかし今はそれよりもどうやってこの局面を乗り切るか。ピエールの規格外の強さはルルーシュもよく分かっている。たった一人で日本の首相を殺した男だ。ナイトメアの腕もピカ一。まともに戦ってはならない。

 

「うわああ! ガニメデ!」

「いや、なんか違う! でも強い! うわあああ!」

 

 さらに、別方向のテロリストもlostが続出した。今度はガニメデらしい。方向と話の内容からすると操縦者はナナリー。

 

「まさかあの2人に苦しめられるとは。だが、勝つのは俺だ。戦術的な勝利などいくらでもくれてやる」

 

 ルルーシュはナイトメアによる勝利を諦めた。テロリスト達には撤退の指示を出す。

 自身も隠れられそうな場所を探す。

 

「お前が大将かぁああああ!」

 

 しかし、予想より遥かに早くピエールの乗る新型がやってきた。

 

「ええい! 俺の足を引っ張るな!」

 

 ルルーシュのサザーランドはビルに隠れている。ルルーシュは機関銃を放つが、新型は最小の動きでかわして接近してくる。不意に手からスラッシュハーケンを放ってきた。

 

「ぐぅっ」

 

 スラッシュハーケンはサザーランドの肩を抉る。衝撃で一瞬ルルーシュの意識が飛ぶ。サザーランドは腕の制御系が壊れて機関銃を撃てなくなる。

 ルルーシュはビルの支柱を縦にしながら逃げる。しかしあまり時間稼ぎにはならない。相手はただでさえ早いのにスラッシュハーケンを利用して三次元的に加速している。

 相手がその気になればルルーシュは今すぐにも撃墜させられてしまうだろう。そうならないのはピエールが捕獲を狙って手加減しているからである。ルルーシュもそのことには気付いていた。

 

 ルルーシュを守ろうとテロリストのサザーランドが集まってくる。しかし近づくなりそれらのサザーランドは破壊される。わずかばかりの時間稼ぎにしかならない。

 

「チッ、化け物が……」

 

 ルルーシュの頭に投降がチラつく。無論投降した後にギアスで乗り切るつもりだが。

 しかしそこでルルーシュと新型の間に黒い機体が入る。

 

「こんのおおおおおおお!」

「なっ!」

「おいおい!」

 

 ピエールのガニメデだった。操縦者は血まみれの赤髪の女。

 実はこの女、血まみれだったがまだ戦う力が残っていた。ピエールに抱えられている時は意識を失ったフリをして隙を伺っていたのだ。

 

「それは俺の機体だ! 返せ!」

 

 ピエールが外部スピーカーをオンにして叫ぶ。

 

「くうっ! ならば日本を返せ!」

 

 赤髪の女はスピーカーをつけぬままガニメデの中で応じた。

 

 4、5と攻防を繰り返して、ピエールは操縦者の癖や反射速度を理解する。これはグラスゴーに乗っていた赤髪の女のものと一致する。特派に預けていたことからも、彼女が自身の機体を盗んだ可能性が高い。

 

「主人に歯向かうか! 女!」

「弾けろ! ブリタニアー!」

 

 ガニメデという機体はもともと扱いが難しく、代わりに能力の高い機体だ。ピエールのガニメデは何重にもチューンアップされており、操縦者によってはランスロットに近い戦果を出すことができる。ピエールは自身がガニメデを操るならば自身の乗るランスロットと同等の力が出せると思っていた。しかし一般兵が操ればグラスゴーにも劣る。それだけピーキーな機体なのだ。

 カレンのガニメデは、自身には劣るがジェレミアに近い能力を発揮できていた。これが初めてと考えると才能は自身にも近いかもしれない。やはり殺したくない。部下に欲しいと思う。

 

「くっくっく。何秒持つかな?」

「くっ、この! 戦場で遊ぶなんて!」

 

 ピエールはガニメデに対しても捕獲を優先する攻撃を始めた。コクピットへの直撃を避け、手足をじわじわと削ぎ落としていく。

 ルルーシュは隙を見て緊急脱出。コクピットごと飛び出し、着地する。

 ピエールはルルーシュに興味を失ったようで追ってこない。歩兵がルルーシュに近づいてくるが、こちらは全く問題ない。

 

「お前は死ね」

「了解!」

「お前は服を貸せ。お前は俺のボディーガードだ」

 

 歩兵はただただルルーシュの操り人形になるのみ。ルルーシュは服を奪い、歩兵に成りすまして政庁を目指す。

 

 その頃、ナナリーはブリタニア軍の虐殺を妨害していた。

 

「武器を持たない人を撃つのはやめなさい! 撃ちますよ!」

「だ、誰の命令で動いている!? 小娘が!」

「お前テロリストか!? そうなのか!?」

 

 ブリタニア軍はナナリーの獅子奮迅の活躍を見ていた。味方だと思っていたのだが、突然自分達の邪魔をしてきた。

 相手は達人の乗るナイトメア。ブリタニア軍のほとんどが歩兵であり、太刀打ちできない。相手は幼さの残る娘の声だが従わざるをえない。

 

 その時、クロヴィスの声が全軍に響き渡った。

 

「戦いをやめよ。武器の使用を禁じる。クロヴィス・ラ・ブリタニアが命じる。戦いをやめよ。負傷者の手当て、避難民の誘導をせよ」

 

 声の主、クロヴィスはブリタニア兵の格好をしている男に銃口を向けられていた。部屋に護衛は誰もいない。いるのはたった二人、クロヴィスとルルーシュのみ。

 

 ルルーシュは正体を明かした後、ギアスを使い母の暗殺について知らないかとクロヴィスに質問した。クロヴィスはコーネリアとシュナイゼルが知っていると答えた。それ以外は答えなかった。

 ルルーシュはその後クロヴィスを撃ち、殺した。「腹違いとは言え実の兄だぞ!」と命乞いされた時は心が動いた。しかし、多くの日本人の虐殺を命令した男を許すことはできなかった。

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