コードギアス もし脳筋の兄がいたら 作:オリーシュ
クロヴィスのまさかの死。護衛達は記憶がないという。
とかく今回の戦いでは裏切り者が多すぎた。軍内部が腐敗しきっているということ。
「金か女か。理由は分からんがイレブンの犬に成り下がった裏切り者共が多すぎる」
「ここは我々純血派が政権を握り、浄化しなければ」
「まずは名誉という名の猿を軍から追い出す」
ジェレミア等の純血派はクーデターを起こし、クロヴィスの配下から政庁の実権を奪う。主を失った失望を責任感、親衛隊の全滅、もともとクロヴィス配下に武闘派が少なく純血派が武闘派だったこと、などの理由でクーデターはあっさり成功した。
ピエールは謹慎中なのでクーデターに加わらなかった。謹慎の理由はナナリーと赤髪の女だ。ピエールが戦場に素人を参加させ、且つ終盤ではその素人がブリタニア軍の邪魔をした。ピエールはこの責任を取った。無罪というわけにはいかない。とは言え、軍にはピエールの味方が多く、彼が女を庇うなら女は見逃そう、という雰囲気なった。ジェレミアも納得した。ピエールの戦場での活躍もあり、罰は1週間自宅謹慎というとても緩いものになった。
ピエールの実家はアッシュフォード学園内にある。ピエールはガニメデのテストパイロットであり、アッシュフォード家がガニメデの後継機を開発しているので、ここに居を構えるのは都合がよかった。ルルーシュとナナリーを守るにもここが都合がよかった。
ピエールは謹慎中のため学園内のトイレの清掃やトレーニングに精を出した。ピエールはブリタニアでは人気者なので、彼を見つけた生徒達はきゃーきゃー騒いだ。
ルルーシュは学園内で赤髪の女を見つけた髪型や雰囲気は違うが顔はテロリストの女にそっくりだった。ルルーシュは昼休みに女が一人になったタイミングを狙い、ギアスをかけた。
当たりだった。カレン・シュタットフェルト。日本名紅月カレンは扇グループに属するテロリストだった。日本人の母とブリタニア人の父を持つハーフであり兄の遺志を受け継いでテロ活動をしている。ピエールのガニメデに乗っていたのも彼女。ピエールが彼女を特派に連れて行き、放置したからガニメデを盗むことができた。ピエールがなぜ彼女を放置したかは分からない。
「まあいいだろう。ああそうだ、新宿のことは誰にも言うな。それとピエールには近づくな」
「新宿? ピエール? それって……」
効かない? ルルーシュはギアスで命じたつもりだったが、カレンは素の状態で返してきた。
ルルーシュは咄嗟に言い訳を作る。
「ピエールはああ見えて軟派な男なんだ。危ないから近づかない方がいい」
「へえ。ルルーシュ君ってあのピエールについて詳しいんだ」
カレンは険しい表情でルルーシュを睨んでいたが、ふと気付いて猫を被った。
「俺は生徒会に入っていてな。ピエールと会長が幼馴染で、俺もそのつながりで」
「ふーん。で、新宿は?」
「それは……」
カレンはルルーシュににじり寄っていく。逃がさない。しかしそこで横槍が入る。
「ルルー! 次の授業実験室だよー! 早くー! カレンさんもー!」
同級生のシャーリーだった。ルルーシュは助かったと思い、実験室に駆けた。
その日の昼休み、ルルーシュは話があると言ってカレンをパーティホールに呼んだ。いつも誰にも使われておらず、秘密の話をするのにうってつけ。
「で、なんであんたが新宿の話を?」
「カレンさん、病気がちなんだろ? 最近のゲームで……」
しかし、そこでまた横槍が入る。
「あれ? お兄様も手伝いに?」
「ナナリー。それに会長も」
「あれ? ルルーシュに言ってたっけ。今日カレンさんの歓迎パーティを開くってこと」
「歓迎パーティ?」
「そう。うちって必ずどこかの部活に入らないとダメでしょう? カレンさん体が弱いからうちが都合いいだろうってお爺ちゃんが」
「なるほどな」
その後、リヴァルの持ってきたシャンパンをシャーリーとリヴァルが取り合い、最終的にシャンパンの蓋が外れ中身がカレンの頭にかかってしまった。
カレンはクラブハウスのシャワー室で体を洗い、代えにナナリーの服を借りる。この服はナナリーが持っていったので、一時的にカレンとナナリーは二人きりになった。
「ナナリー、だっけ? ルルーシュの妹の」
「はいそうです」
「ここに住んでるの?」
「昔は住んでましたけど、今は寮生活です」
「どうして昔はここに?」
「もともと日本にいたのですが、戦争で家を失ってしまって。そこをアッシュフォード家に拾ってもらって、ご好意でこの場所に住まわせてもらいました」
「もともと日本にいたんだ。ハーフなの?」
「いえ、両親共にブリタニア人です」
「ハーフじゃないの? ハーフじゃないブリタニア人もいたのね」
「ええ。カレンさんは?」
「私は……」
カレンは言いよどむ。
「すみません。言いづらいことを聞いてしまって」
「いえ、いいのよ。そうだ。ピエールについて何か知ってる?」
「ピエールとは、ピエール・ヴァルトシュタインさんのことですか?」
「ええ。ルルーシュが何か言っていて」
「ピエールさんは私の剣の師匠です」
「え?」
「ピエールさんはこの学園に住まわれてまして、ときどき私に剣を教えてくれるんです」
「ナナリー、戦えるの?」
「大したことないですよ。まだまだピエールさんには適いません」
「そ、そう」
着替え終えたカレンは、猫を被って歓迎パーティに戻る。しかし、生徒会メンバーはクロヴィスが暗殺されたというニュースに夢中になっていた。新総督にはジェレミア・ゴットバルトが就くという。
そのジェレミアは、クロヴィスを殺した犯人が見つかったと宣言する。犯人は名誉ブリタニア人の枢木スザク。日本最後の総理大臣である枢木首相の長男だという。
「スザクさんが、まさか」
衝撃を受けるナナリー。ルルーシュは悔しそうに歯噛みしている。
その日の夕方、ナナリー、ルルーシュ、ピエールの三人がクラブハウスに集まっていた。
「ウソですよね。スザクさんが犯人だなんて」
「俺はあいつが特派で寝ていたのを見ている。ロイドも寝ていたと言っているし、まあウソだろう」
「だったら」
「お前はジェレミアと仲がよかったはずだ。説得できるんじゃないか?」
「うーん。でも俺、スザクのこと嫌いだからなあ」
「ピエール兄様!」
「ピエール! お前は!」
「チッ、面倒臭えなあ」
ピエールは携帯電話を取り出す。ジェレミアに電話をつなげる。出ない。メールを打つ。出ない。純血派の秘書のような役目をしているヴィレッタに電話をする。出た。
「なんでしょうか?」
「ニュースを見た。クロヴィス殿下を殺した犯人が見つかったってな。だが、俺は枢木スザクが特派で寝ているのを見ちゃってるからさ。あいつ犯人じゃないだろう」
「そんなことですか。犯人が誰かというのは現在問題ではありません。重要なのはイレブンを軍部から追い出し軍の規律を正すことです。枢木スザクにはその生贄になってもらう」
「必要なのか? その生贄が」
「ええ」
「絶対に?」
「ピエール殿は、枢木スザクに何か弱みを握られているのですか?」
ピエールは枢木首相殺害の真実を思い浮かべた。しかし知られても問題ないだろうと考えた。
「いや別に。むしろどうでもいい存在だ」
「では何故彼に肩入れを?」
「俺の知り合いにやつを助けたいやつがいてな」
「大切な知り合いですか?」
「まあな」
「誰ですか?」
「ちょっと待ってくれ」
ピエールは一旦電話を切る。
「お前達、正体を晒す覚悟はあるか? あんな男のために」
ピエールはルルーシュとナナリーを見て言う。
ルルーシュは悩み、チラとナナリーを見た。ナナリーもチラとルルーシュの方を見た。お互いにお互いのためを思うと、今の生活を壊すとは言えないようだ。
「まあ、その程度の男なんだろう。それよりも、ジェレミアさんが総督になった。次はいよいよ俺の番だ。俺が総督になったらお前達がこんなところで怯えて暮らすことは無くなる」
ルルーシュ、ナナリー共に黙ってしまった。ナナリーは不意に目を充血させていく。ぽとりと涙が落ちる。
ピエールは罰の悪そうな顔で部屋を出る。部屋にはルルーシュとナナリーだけが残された。
「俺は」
「私は」
ルルーシュ、ナナリーは小さく独り言をつぶやく。二人の左目には赤いギアスの紋章が浮かび上がっていた。
ジェレミアはスザクの処刑をショーにするつもりだった。裁判所まで護送する道のりで一般人を集め、罵倒を浴びせさせる。スザクは特殊な首輪をかけられて口を開くこともできない。
まるでパレードのように人だかりができていた。軍に逆らう命知らずはおらず、真ん中の道はきっちり開いている。
しかし、その道へ想定外の異物が侵入する。
「不敬な。あれはクロヴィス殿下の……」
クロヴィスの派手な車、いや、それを模した張りぼての車が前方からスザクの乗る護送車へ接近してきていた。
ジェレミア含めた純血派は怒り、ナイトメアで車を包囲する。
車の上部が開き、真っ黒なスーツと仮面に身を包んだ男が現れる。男はゼロと名乗り、枢木スザクを開放せよと言う。ジェレミアはクロヴィス殿下を殺した大罪人を逃がすわけにはいかないと断る。しかしゼロは自分こそがクロヴィスを殺したのだと言った。
ジェレミアはゼロを殺すことに決める。しかしゼロは車の荷台に積んでいた毒ガス装置もどきを見せる。ジェレミアはこの中には女がいただけで毒ガスではないことを知らない。パレードにしたことが裏目に出た。観衆を人質に取られてしまったのだ。
しかしジェレミアはスザクを逃がさず、白兵戦でゼロを殺すことにした。コクピットを開きゼロに近づこうとする。
「いいのか? 公開するぞ。オレンジを」
「オレンジ? 何の話だ?」
「もし公開されたくなければ、全力で私を見逃せ! そっちの男もだ!」
ゼロはギアスを発動させる。ゼロの中にはルルーシュがいた。
ギアスに掛かったジェレミアはルルーシュとスザクを逃がす。純血派がルルーシュ達を捕まえようとするが、それも邪魔をする。
ゼロはとある橋から飛び降りるが、その先にハンモックとナイトメアが用意してあり、そのナイトメアに乗って逃げ切った。
ルルーシュはこの作戦に当たり扇グループに協力を求めていた。扇とカレンとナナリーだけからなるチームだったが、作戦は成功した。ゼロは不可能を可能にする奇跡を見せたのだ。
扇グループは湧きに湧いた。スザクとゼロは少し離れて2人きりになっていた。
「ありがとう。助けてくれて」
「枢木スザクよ、我と共に来い。日本を救うためにはお前の力が必要だ」
「それは間違ったやり方だ。でも、僕のやり方は無駄なのかもしれない。少し考えさせて欲しい。君の人となりも見極めたい。仮面は取れないの?」
「いいだろう。お前になら」
ルルーシュは仮面をとる。その正体にスザクは驚嘆する。
「ルッルーッ!」
「叫ぶな」
スザクが名前を言い切る前にルルーシュがスザクの口をつぐんだ。ルルーシュはホッと一息つく。
「相変わらずのバカだな」
「君も相変わらず偉そうだ」
ルルーシュ、スザクともにクスリと笑いあった。
その頃、ナナリーはパレードの群集の中でも裁判所の近くにいた。自分の正体をさらしてでもスザクを救いたい。しかしその時ルルーシュはどうなるのか。血みどろの皇位継承権争いに巻き込まれてしまうかもしれない。
その2つの間でナナリーは揺れていた。その時、不意に群集がどよめく。高級そうな車が裁判所の前にやってきた。中から黒服の男達が現れ、次いでピンクの髪の姫君が現れる。
「ユフィ姉様。まさか……」
ナナリーの異母姉、ユーフェミアであることは間違いない。しかし何故彼女がこのタイミングでここに来たのか。その理由はすぐに分かった。
「殿下ぁー。スザクくんのことよろしく頼みますねー。大事なデバイス候補ですからー」
「ご協力ありがとうございます」
「いえ、私は当然のことを言いに行くまでです。裁判に不正などあってはなりません」
スザクの仲間のブリタニア人がスザクの助命をユーフェミアに願ったようだった。ユーフェミアはそれを聞き入れたようだ。
ジェレミアは完全に失墜した。スザクはもとより自分がクロヴィスを殺したと自白した男を逃がした。それもナイトメアという兵器を使って。謎のオレンジというものを知られたくないために。
総督代理を続けるのは不可能。内部ではジェレミア粛清論まで巻き起こった。特にクーデターにより実権を奪われたクロヴィスの部下等が激しく抗議した。
「クソッ。こんなときにピエールのやつ!」
「このままでは純血派は終わりだ。だが、謹慎中の男を代表にするわけにもいかん」
純血派の第二位はピエールだったが、純潔派第三位のキューエルはピエールのことが嫌いだった。何事にもやる気がないし適当だからだ。謹慎中だとか理由をつけてキューエルが純血派の代表に就いた。
しかし、ヴィレッタなど目ざとい者はキューエルが代表する組織に価値を見出せず、密かに離反しピエールに擦り寄った。
アッシュフォード学園に純血派の軍人が続々と集結した。純潔派に限らず最強の男に憧れている軍人も多くいた。
「なんだ? こんな夜遅くにいきなり」
ピエールはトレーニング中だった。汗びっしょりのタンクトップで出迎える。
「ニュースはご覧になりましたか? ジェレミア卿が」
「ああ見た。まったく信じられんが、現実のようだ。しかしあのジェレミア卿がなあ」
「純血派はもう終わりです。そこで、ピエール殿には我々と共に新しい派閥を作り、トップについてもらいたい」
「新しい派閥? うーん、まあそれもおもしろそうだな。政治は嫌いだが、人に命令するのは嫌いじゃない」
「よし」
「これで一安心です」
「では、早速新しい派閥の名前は」
「うむ。俺と言えば黒だ。黒の騎士団なんてのはどうかな?」
「真面目に考えてください」
「ダメか?」
「はい」
ピエールは真面目に落ち込んだ。