一撃世界の人造人間   作:慧春

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第1話

 

 

 

 【孫悟空】という『英雄(ヒーロー)』が居た。

 

 彼は、七つ集めると何でも願いの叶う神造の秘宝――『ドラゴンボール』を中心とした戦いの中心に居た。

 

 彼には一片の悪意もなく、また欲望も無しに英雄として多くの人々を救って見せた。

 

 しかし――英雄というのは、その対極の存在である明確な『悪』――敵があってこそだ。

 

 以下に彼に悪意は無く、孫悟空本人が明確な善人で、正義であったとしても、彼が英雄(ヒーロー)である以上は、戦い、そしてその果てに倒した敵から憎まれ、恨まれることは必然である。

 

 『ドクターゲロ』……彼もまた、その『正義の味方』である英雄――孫悟空を明確に憎む悪の一人。

 彼はかつて『レッドリボン軍』という武力をもって世界征服を企むというこれ以上無いぐらいの明確な悪の組織に身を置いていた。

 しかし、レッドリボン軍はドラゴンボールを巡る戦いで孫悟空に敗北し、壊滅している。

 

 当時のドクターゲロにとっては、研究者としての自分を高く買ってくれるレッドリボン軍は、研究に必要な莫大な資金を提供してくれるありがたい存在であり、それ以上に天才であるがゆえに生まれながらに世界の在り方に疑問を抱いていたゲロにとっては、己の異端の研究を理解し、組織の力で世界を武力で統一しようとしていたレッドリボン軍総帥の『レッド将軍』は崇拝の対象ですらあった。

 

 それであるが故に、ドクターゲロはレッドリボン軍を壊滅に追いやった孫悟空を憎んだ。

 

 ――そして、復讐を誓った彼は、地下に潜り、自分の研究テーマである『人造人間』を完成させるべく日夜研究を続けた――

 

 孫悟空を越える人造人間を産み出す――その為の研究は困難を極めた。

 

 ドクターゲロは天才だ。

 その頭脳は、様々な発明を世に送り出し、一代で世界で最も有名と言われる『カプセル・コーポレーション』を築き上げた万能の発明家『ブリーフ博士』をして、己よりも優れた研究者であると言わしめたほどだ。

 しかし、その彼の頭脳をもってしても孫悟空を越える力を持った人造人間を作り上げるというのは難しいことだった。

 なんせ、彼はレッドリボン軍を滅ぼした時点では、何と幼少期に過ぎず、日々修行と戦いを繰り返すことで強くなり続けているのだから……

 

 改良に改良を繰り返し、ようやく越えたと確信しても、その度に孫悟空の強さは、その時の最高傑作の一歩先をいくのだから溜まった物ではないというのが彼の本音だった。

 

 ある時は、入念にシュミレーションを繰り返し、人造人間10号の戦闘能力が悟空を越えたことを確信して、送り出そうとしたら、スパイロボットの拾ってきた天下一武道会でのピッコロ大魔王と孫悟空の戦いを見て、絶望した。

 

 同じように11号を送り出そうとしたら、ベジータと孫悟空の戦いを見て歯軋りしながら、もう本当にいい加減にしろよと叫んでみたり……

 どれ程必死に研究しても、孫悟空はいつもドクターゲロの先をいく。

 何度も『こいつを越えるなんて無理じゃね?』『成長速度出鱈目すぎだろ、なめてんのか!?』と思った。

 

 だが、ドクターゲロは諦めなかった。

 その執念や妄執は、スパイロボが孫悟空の周辺の人間の情報を集めるついでで『孫悟空はナメック星でフリーザとかいう宇宙人と相討ちで死んだ』という情報を拾ってきても、けして衰えることはなく、彼は日夜孫悟空を越える史上最強の人造人間を造り上げるべく、日夜寝る間も惜しんで研究に励んだ――その頃には、ゲロの中には孫悟空への圧倒的な殺意と憎悪は鳴りを潜め、代わりに自分自身の手で最強の存在を作るという歪んだ想いが募っていった。

 

 そして、彼はやがて機械や無機物で一から人造人間を作り上げるという事とは別の研究に着手する――それは、生きた人間を研究材料にして、改造するという方向に研究を切り替えたのだ。

 

 彼は秘密裏に人造人間計画の素体を探し――そして、とある国で二人の双子の兄妹を拐って、自らが持てる全ての研究の成果をその双子施した――そして、とうとう完成した。

 

 その戦闘能力は、孫悟空を優に越えて余りあると確信できる圧倒的な強さ持った最強の2体の人造人間――その名は【人造人間17号】――そして、その双子の妹を改造した【人造人間18号】。

 

 この2体の戦闘能力は圧倒的であった。

 それもその筈だ。天才であるドクターゲロが孫悟空を越えるという目的のために、彼の持つあらゆる技術が使われたのだから。

 

 半永久的に稼働し続ける『永久エネルギー炉』を搭載し、鶴仙流の奥義である武空術を再現する『浮遊加速装置』――その他にも『バリア発生装置』等の他の完全機械製の人造人間の持つ多くの装置を取り付けながらも、人間の持つ多様性と成長性をも保持した『人間ベース』の人造人間。

 

 計算では、2体ともがナメック星出発前の孫悟空の百倍以上の戦闘能力――最早、勝ち目など有ろう筈がない戦力差である。

 

 この2体は人間をベースに造っているため、素体となった人間の人格と記憶をそのまま保持している。

 その為、2体は創造者であるドクターゲロに反抗的であり、以前に稼働させた際は、命令を無視して彼を殺しに来る位にゲロは2体に恨まれている。

 

 当然だ。なんせ『2体』――二人の人造人間にとっては、ドクターゲロは自分達を突如として拐った挙げ句に、散々肉体を弄くって改造した憎き誘拐犯である。

 恨まれて当然だが、ドクターゲロの心情は寧ろ、人知を越えた力を与えたというのに、恩知らずにも父にも等しい筈の自分を殺しに来るとは――この出来損ないめっ!であった。

 

 つくづく性根の腐りきった彼は、2体の人造人間の精神と人格を機械によって破壊し、代わりに自分にとって都合の良い『忠誠心』を持った人格を植え付けようとしていた。

 

「クックック……既に精神と人格の初期化(リセット)は終わった……後は、このソフトにプログラミングされている人格を『ダウンロード』すれば――クッ、ハッハッハッ!!」

 

 そう言いながら、ゲロは頭に装置をつけた2体の人造人間を見ながら、高笑いする――そう、彼は確信していた。

 今日、この日――自分が理想とする最強の存在がこの世に誕生する事を――

 

 しかし――やはり、彼はどこまで行っても『悪』であり、野望を果たせぬままに消え行く定めであった――

 

 

 

 

「おのれ! おのれ! おのれぇっ!!」

 

 

 ドクターゲロは、戦慄と共に歯噛みしていた。

 彼は、怒りの言葉を吐きながら、焦った様子で必死に研究室を動きながら作業していた。

 

「一体何なのだ!? アイツは何者だ!? あのような人間などデータには無いぞっ!!?」

 

 彼の目の前のモニターには一つの映像が映っていた。

 それは、彼の研究所の『内部(・・・)』を映した監視カメラの映像だった――そこには、二人の人影が映っていた。

 

 一人……いや『1体』は、彼の少し前までの最高傑作のと言える機械――【人造人間13号】だ。

 13号は、ゲロが突如として侵入してきた襲撃者に対して、迎撃を命じて、その場にいる。

 ということは、その場に居るもう一つの人影は必然、侵入者ということになる――

 

『……ふ、驚いたな……まさか、宇宙人でもないただの人間(・・・・・・・・・)が、14号と15号を破壊するとは――貴様は何者だ?』

 

 映像の中で、人造人間13号は、全く驚いた様子を見せず、表情を変えないまま淡々と言葉を繋ぐ――その側にはバラバラに破壊された2体【人造人間14号】と【人造人間15号】の残骸が散らばっていた。

 

「俺か? 俺は――」

 

 画面の中で、かなり適当な造りの『ヒーロー衣装』を身に纏った特徴らしい特徴を持たない男は、13号に掛けられた問いに答えようと口を開く……

 

(ぬぅ…確かに……あの頭部(・・・・)を見て、天津飯かクリリン辺りを連想したが、やはり違うな――奴は一体!?)

 

 13号と相対する侵入者の頭部には毛が無かった(・・・・・・・・・・・・)――まるで毛根が存在しないかのような見事な輝き……彼がソレを見て連想したのは、孫悟空の一味である三つ目族の天津飯と兄弟子であるクリリンだった。

 だが、違うとゲロは判断した。確かにあの二人は『太陽拳』という技をより効果的に使うためか、今回の侵入者にも勝るとも劣らない見事な輝きを放つ頭部をしているが、顔の特徴が一致しない。

 ドクターゲロは、緊張した様子で男の答えを待つ――

 

「趣味で『ヒーロー』をしている。『サイタマ』という者だ――」

 

 かなりの棒読み口調で、緊張感のないあっけらかんとした声量で言い放たれたその言葉……適当な格好に、適当な容姿、更には自己紹介までも適当――ゲロは激怒した。

 

「ふざッ、ふざけるなッ!? 何が趣味でヒーローだ!! そのような何もかもが適当な貴様ごときが、我が研究を――おのれ、おのれおのれおのれぇッ!? 殺せ! 今すぐそいつを殺すのだ、13号!!」

 

『あの2体を一撃で破壊した(・・・・・・・・・・・・)その戦闘能力は脅威だ。単純な性能ならば、この俺でも貴様には劣るだろう……だが、貴様はミスを犯した――14号と15号を壊した際に、チップとエネルギー炉を破壊しなかったことだ』

 

「おぉ! 13号め、あれを使う気だな……ふぅ、これで安心だ――ふぅ、焦らせおって……」

 

 その様子を見て、ドクターゲロは13号が切り札を使う事を理解して、先程までの焦りを霧散させる。

 いや、それどころか、どこか余裕そうな雰囲気すら醸し出していた。

 

「ククク、あの状態になった13号は、理論上では16号に並ぶ戦闘能力を発揮する……どれだけ強かろうと、地球人に越えることは不可能!」

 

 ゲロのその言葉を裏付ける様に、画面に映る13号は、頭に被ったキャップを外した――そして、14号と15号の残骸の中から、小さなチップの様なものと、丸い楕円形のカプセルのようなものが浮遊し、13号の肉体に取り込まれる――

 

『ハァアアア!!』

 

 変化は劇的だった。

 優男のような細身の肉体は膨れ上がり、筋骨粒々とした人工の筋肉に覆われる。

 そして、肌の色も普通の人間の様に作られた伸縮性の耐久剛皮は青く染まり――その形相は狂気と愉悦に染まる。

 

 合体13号――その真骨頂は三基の永久エネルギー炉と、人造人間3体分の演算チップを、最も汎用性の高く造られた13号に取り付けることにより、最新の永久エネルギー炉に比べると、著しく出力に劣る旧型の初期型エネルギー炉を最新のソレに匹敵するほどの出力に引き上げる。

 更にそれだけではなく、3体分の演算チップによって上がった戦闘能力を完璧に制御するという反則的なパワーアップが成される。

 紛れもなく、現在稼働している人造人間の中では最強の存在――流石に17号と18号、そしてドクターゲロをして『最恐』と言わしめる失敗作(・・・・・)【人造人間16号】に比べれば、一段以上スペックで劣るとはいえ、ナメック星に旅立った時点での孫悟空ならば、指一本で蹴散らせる程の戦闘能力を持っている。

 

 ドクターゲロは勝利を確信し、ほくそ笑む――しかし、その表情は次の瞬間には驚愕に染まる。

 

『待たせたな――』

 

『気にすんな。敵の変身を待ってやるのも『ヒーロー』のお約束だしな』

 

 圧倒的な威圧感を放つ13号を前にしても、対峙する『ハゲマントのヒーロー擬き』は一切動じない。

 それどころか、変身を遂げた13号の姿を見る目には、微かな期待の色が伺える……

 

「行くぞ――ハァッ!」

 

 13号の手加減抜きの一撃が、サイタマの腹に突き刺さる――ドクターゲロの造り上げ、2体の人造人間のエネルギー炉を取り込むことによって肥大し、より強力になった人工の筋肉が人知を越えた怪力は、サイタマを吹き飛ばす。

 

「ハァアアア!! ダラァア!!」

 

 しかし、先程までのサイタマの圧倒的な戦闘能力を見ているからか、13号は攻撃の手を緩めずに、更に連続で攻撃を叩き込む。二本の腕が、二本の足が、それぞれ絶対的な腕力を伴ってサイタマの肉体を傷付けていく――

 

「クックック……圧倒的ではないか――それでこそ私の造り上げた人造人間だ。きっと14号と15号を倒したのも何かの間違いに決まって――」

 

 ドクターゲロが、愉悦の笑みと共にサイタマを扱き下ろそうとした瞬間――轟音と共に、画面の中で13号が吹き飛ばされた――

 

「ふァっ!?」

 

 思わぬ光景に、ゲロの口から予定外の音声が漏れる。

 

 しかし、そこは流石は『現』最強の人造人間――13号は、体の至るところからダメージを窺わせる煙が上がり、放電が起きているにも関わらず、13号は立ち上がった――

 

『おぉ! 起き上がれるのか!!』

 

『……大した攻撃だ……一撃で俺にここまでのダメージを与えるとは……』

 

『一撃で決着が着かなかったのは久々だ……やっぱあんた強いな』

 

『いや、既に肉体(ボディ)の損傷は30%を越え、基礎骨格(フレーム)も数ヶ所歪んでいる……たった一撃でだ』

 

 13号は、構え

 

「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」


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