右手は焼け爛れ、もはや痛覚もない。
左手は大して才覚もなく神具を使ったせいか血が吹き出し、急速に熱がうばわれた。
草原の大地に血だまりができるほど血を流し、もはや寒気が全身に回っている。立とうとすることさえも出来ない。
ああ、これが死ぬということなのか。
理解できてしまった。
だが、それでもわたしの勝ちだ。
眼前には、燃えるような赤い目と赤い髪、赤髭をした大男。
神話に出てくる軍神の名に恥じない筋肉隆々とした肉体。だがその腹には、不気味な、神すら死に誘う呪いの短剣が深く刺さっていた。
「不遜にも神に向かってただの人の子が素手で挑んできたかと思えば、呪術を使うは俺の武器を奪うはやりたい放題しおって…
全くお主には流儀というものがないのか」
言葉とは裏腹に、神の表情は愉快気だった。
その巨大な体躯の小刻みな揺れはまるで笑うことを我慢しているかのようにさえみえた。
「ふふふ、神殺しに成功する子が手段など選ぶはずがないでしょう。ありとあらゆるものを利用し、奇跡を引きずり寄せ、勝利を掴み取る。それが神殺し、カンピオーネなのですから」
いつの間にかいた女神がその軍神をたしなめる。
「ふん、災禍をもたらす女にして愚者の妻、パンドラか。もう駆けつけて来るなど、うわさ通りの目ざとい女狐だな」
パンドラとはギリシャ神話に登場し、人類に数多の災厄と一抹の希望をもたらしたとされる女神だ。
この場に顕現した彼女は少女でありながら『女』としての蠱惑的な魅力を宿す、そんな女神である。
「この儀式は私の子どもが産まれる儀式ですもの。疾く参じるのは当然のことですわ!」
「やはりこの娘は神殺しになるのか」
「その通り!さあ叔父さま!この子に祝福と憎悪を与えて頂戴!今代7人目たる新たな神殺しに聖なる言霊を捧げて頂戴!」
「***よ、お主はこの俺に勝利したのだ。軍神たる俺を負かしたのだ。最強などと言われたこともあるこの俺に人の子の身で敗北を味わせたのだ。_____なればこそ、お主はこれから修羅の道を歩むことになる。民衆からは魔王とさえ恐れられ、神や同胞と出逢えば争い、そしていずれは敗北する。碌な死にかたは出来まい。魔王の死に様は無惨なものと相場が決まっておるのだ」
詩でも詠むかのように調子をつけて言い切ったその言葉は呪いか或いは予言か何かか。朦朧としてきたわたしの頭では判別がつかない。
「せいぜい、その生き汚なさで足掻くことだな、新たなる神殺しよ。」
その直後とうとうわたしの意識は途絶えた。
いろいろ直しました