あれから、何年が経つのか。
少し身体を動かせば、何重にも巻かれた鎖が狭い牢獄にジャラジャラと大きく音を響かせる。手足の枷は鈍く軋み、硬い床は冷んやりとしている。
毎日二回の食事以外に暇を潰せるものはない。空さえ見えないこの地下にそんなものはなかった。
科学を蔑ろにする魔法狂い共を殺したい。だが魔力が込められたこの鎖があっては、立ち上がることすらできない。
流石に兵士皆殺しはまずかったのだろうか、だがこの世界の科学者の中ではそこまで特別な行為ではないはずだ。
天才=キチガイ
この世界の天才は例外なくキチガイだ。国に媚を売って細々と研究している凡人が結果を出したことは未だない。
ま、彼らにとっては魔法狂い共に邪魔されないだけでもありがたいのだろう。結果を出せないゴミに変わりはないが。
ん?足音か?
足音は俺の牢屋の前で止まる。目線を上げれば白衣を着た銀髪の女がこちらをじっと見ているのが分かった。
「シェルベス・アリアイサだな?」
俺に名前を聞いた女は無表情を保っている。
格好で科学者だということは分かるが、俺が上にいた時には見たことも無い女だ。
「確かにそうだが……何しに来た?俺みたいな犯罪者に何の用だ」
その問いかけを女は無視し、さらに言葉を続ける。
「三年前、生物兵器の実験と称し街を襲い、市民を動く肉塊に変えた生物兵器の研究者。捕らえに来た騎士団と魔導大隊と激しい戦闘を行い捕まった歴史上でも五本指に入る大犯罪者」
俺の罪を淡々と口に出す。
「それがどうした?わざわざそんなことを言いに来たのか?」
「私の用件は貴様を解放することだ。私の目的のために協力してくれシェルベス。協力してくれるのならその鎖を解いてやる」
そう言った女は鍵を白衣のポケットから取り出し見せびらかすように揺らす。外に出れば研究が続けられる。損がない契約だ。
「いいぞ、面白そうだ」
俺の返事を聞いた女は満足そうに頷き、牢屋の鍵を開けて入ってくる。手早く鎖の鍵も外した女は牢屋の外に出て行った。
「フンッ!」
枷を力づくで壊し、身体を動かす。三年も座っていたせいか、若干鈍っている。
「確認するのはいいが、早く逃げるぞ。生憎私も追われる身でな。シェル、準備しろ」
「なんだその『シェル』とか言うのは」
「シェルベスは呼びにくい。愛称だ」
女はそう言いながら此方に近づいてくる。身体を密着させて上目遣いをした。
「お姫様抱っこを要求する、運動は苦手なんだ。脱出経路は私が指示するからシェルは走るだけでいい」
脱出は、戦闘が数回あっただけで済んだ。
市街地から離れた俺はお姫様抱っこを継続しながら女が示す通りに森を駆け抜ける。自分で強化した身体だ。このくらいわけない。
「着いたぞ、此処だ」
立ち止まって女を下ろすが、変わったものは見られない。見渡す限り森だ。
「入り口は隠していてな。ほら、見ろ」
女が指差す先を見ると、少し地面がずれていた。
地面を動かすと、梯子が出てくる。
降りた先には、それなりに広い研究室があった。
「私の基地の一つだ。さて、椅子に座ってくれ。私がシェルを解放した詳しい理由を話そう」
俺が席に着くと女が喋り始めた。
「私の名はフレベリア・ラベラ、少し前は隣のアングタ帝国でひっそりと機械を研究していた、兵器に使うためのな。研究費に困って身体を貴族に差し出すだけの普通の美少女だったのだ」
「普通の美少女………?」
「ああ、安心してくれ。膜は残っている」
「いや、何故それを今言った」
「まあ、普通の美少女だったわけだ。だが突然研究の規制が激しくなり、私は職を失った。私は準備をしていたからなんとかなったが、同僚達は悲惨だったよ。まあその私も捕まり、妹が人質になってしまったがな。拷問の傷が鏡に映る度にその時を思い出す」
「………そうか」
「それから私は世界を変えようと思うようになった。穢された妹が帰ってきたのも一因かも知れない。そして、戦力が必要だと考えた」
「だから俺を解放したのか?」
「そうだ、実績、戦闘能力は申し分ないし、魔法使いに厳しく科学者に優しいという噂もあった。生物兵器であれば即戦力になる」
「俺の他には?」
「火山の仙人、放浪者、不死を求める者に協力を取り付けた。3人共気前よく了承してくれたよ」
仙人と放浪者には会ったことがある、不死は噂程度。だが……
「仙人はともかく、放浪者の研究はあまり戦闘に向いていないような気がするが?」
「彼の研究は私達が新しい世界を作った後役に立つ。ただでさえ時間をかける研究だ、早めに協力しておいたほうがいい」
「確かにそうだな」
……………………
喋ることが尽きたのか、二人共黙ってしまう。
俺は自分から話題を出すのが苦手なんだから勘弁してくれ……。
「………今日は疲れた。私は寝るぞ、シェルも今日は寝ろ」
「………見た所ベッドは1つだが?」
「構わん。ちなみに私は寝る時は全裸だが、気になるというのなら下着ぐらいは付ける。さあ寝ろ。私が隣で寝かしつけてやる」
「いらん」
俺はベッドに入り目を閉じる。フレベリアも諦めたのか、電気を消してベッドに潜り込んだ。
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生物兵器は勉強中。
バイオでハザードするゲームなんかいい感じです。
素手縛りで詰みました(半ギレ