バトルシップ1945   作:瑞穂国

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初めましての方は初めまして。瑞穂国と申します

今回の作品は、友人とのひょんな会話から始まりました

「バトルシップの敵艦を、一九四五年四月七日の沖縄に落としたら面白いんじゃないか?」

それぐらいの、軽い気持ちで読んでいただけるとありがたいです。もちろん、戦闘は本気で書かせていただきますけど

短い話(八話くらい?)の予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします


飛来

それは(そら)からやってきた。

 

曇天と呼べる天気。低く垂れこめる灰色の雲。それを強烈な光が透過して、その下に広がる太平洋を照らした。光源が時折雲間を通り抜けると、直視できないほどの光が空を白く染める。

 

隕石か、はたまた彗星か。赤く燃えるような尾を引きながら、それは降り注ぐ。数は全部で七本。目にも止まらぬ速さで高空を通り抜け―――

 

()()()()()()()()()()

 

丈高い水柱が立ち上る。太平洋の海水が巻き上げられて、その辺にいた魚も含めて天を高く突く。戦艦の主砲弾弾着など、子どもの遊びにしか思えないほどの海水の量であった。

 

しかしながら、慌てず、立ち止まって、よく考えてみてほしい。

 

海に激突したその物体は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんなものが遥かなる天空から降ってきたのなら。この程度の衝撃で済むはずがないのだから。

 

舞い上がった海水が霧状になって辺りを覆う。乳白色のカーテンの内側、密かに蠢く影が、戦いの始まりを告げていた。

 

 

一九四五年四月七日。〇九四五。

 

 

 

「全艦被害を報告せよ」

 

航空母艦“バンカー・ヒル”の艦隊指揮所にて、マーク・ミッチャー中将は報告を求めた。その声に応えるのは、同じように指揮所に立つ女性。

 

「艦隊に被害なし。上手く避けられたみたいですね」

 

流れるような黒髪に鳥の羽でできた髪飾りをつけるのは、“バンカー・ヒル”の艦娘、バンカー・ヒルだ。古来より、あらゆる船に宿ると言われる船魂(ふなだま)、彼女もまた、その船魂が女性の姿で実体化したものである。

 

彼女の報告に、ミッチャーは不敵な笑みで答えた。

 

「それは何より」

 

上空から降り注ぐ謎の物体を発見したミッチャー率いる第五八任務部隊(T・F58)は、至近への落下を悟り回避運動を取った。その判断は正しく、謎の物体はまさにミッチャーたちが進もうとしていた海域の先に落下したのだ。あのまま進んでいたら、直撃はせずともそれなりの被害を受けていた可能性が高い。

 

「隕石でしょうか・・・?」

 

参謀の一人が呟くが、ミッチャーは首を捻るだけに留めた。航空機―――空飛ぶものがミッチャーの専門だが、さすがに隕石だのというものは専門外だ。

 

「隕石にしては・・・ちょっと、衝撃が小さいんじゃない?」

 

バンカー・ヒルも首を傾げた。どこか幼さの残るその顔立ちが、ミッチャーを窺う。

 

「どうする?攻撃隊の準備はできてるけど。風上に立たないとだから、隕石の落下地点に向かわないと」

 

「・・・しばらく様子を見よう。ひとまず、あの霧が晴れるまでだ」

 

隕石が突入した位置には、宙空に巻き上げられた海水の飛沫が漂い、視界を奪っている。内部の状況がわからない以上、無暗にそちらへ進路を向けるべきではないだろう。

 

了解です(アイアイサー)

 

ミッチャーの判断に了承の意を示したバンカー・ヒルだが、その目が糸のように細められた。

 

「ちょっと、じれったいわね。せっかく、()()()を撃沈できるチャンスなのに」

 

()()()。太平洋の白鯨(モビー・ディック)日本人(ジャップ)が作り上げた、とてつもなく巨大な戦艦。

 

名を“大和(ヤマト)”。今回、ミッチャーとバンカー・ヒルが狙いを付けた、この戦争最後にして最大の獲物だ。

 

四月一日から始まった、米軍の沖縄攻略(アイスバーグ)作戦。それに呼応するように、連合艦隊(グランド・フリート)最後の水上部隊が動きだしたことを、米軍はすでに掴んでいた。

 

戦艦“アイオワ”に座乗するアイスバーグ作戦全体の指揮官、レイモンド・スプルーアンス大将は、“大和”を筆頭としたこの艦隊を、自らが率いる戦艦部隊で葬り去ることを望んだ。日本海軍への、最後の(はなむけ)として。

 

戦場において、常に冷静沈着で合理的な戦い方をしてきた彼には珍しい判断であった。そこには少なからず、“大和”部隊を率いている日本海軍の指揮官、伊藤整一(セイイチ・イトー)中将への友誼があるのかもしれない。彼らの間には、伊藤が駐米武官だった頃から親交があったそうだ。

 

―――だからこそ、スプルーアンスにやらせるわけにはいかない。

 

沖縄戦の総指揮を執る彼を、万が一にも失うわけにはいかない。それに世界最大の戦艦を、航空機の力のみで沈めてみたいのも、航空機屋としてのミッチャーの本音だ。だからミッチャーは、自らの機動部隊をもって、“大和”を葬ると決めた。

 

隕石の落下は、まさにその第一次攻撃隊を出そうかという時だった。全くもって間が悪い。

 

「少し遅れるだけだ。何も問題がなければ、攻撃隊を出す」

 

“大和”に待つ運命は変わらない。そう言いたげなミッチャーの言葉を、この時は誰もが信じていた。

 

数分後に、それが始まるまでは。

 

「っ!?“オールト”炎上!?」

 

「何!?」

 

最初に火の手が上がったのは、第五八任務部隊第三群(T・F35・3)に所属する駆逐艦の一隻だった。それに続くようにして、二隻目、三隻目が爆散する。艦首を砕かれ、あるいは中央から真っ二つになった駆逐艦が、輪形陣の各所で燃え上がっていた。

 

「一体何が起こっている!?」

 

艦橋に上がったミッチャーは、自らの目でその様子を確認する。そうしている間にも、新たにもう一隻から火柱が上がった。

 

明らかな攻撃の意志が、そこに込められていた。戦場の勘がミッチャーに敵の存在を告げる。そして裏付けはすぐに取ることができた。

 

「司令、右舷!」

 

叫んだのは、同じく艦橋に上がってきたバンカー・ヒルだった。彼女の示す方向を、ミッチャーは見る。

 

先ほど隕石が落ちた場所。そこに立ち込めていた水蒸気は、すでに霧散している。視界を遮るものはない。その海面から、さらに艦隊に近い位置。穏やかな波の間に、陽光を浴びて怪しく黒光りする何か(・・)があった。

 

「何だ、あれは・・・」

 

そう呟く間に、謎の物体上部の箱型の部分から、円筒形の物体(バレル)が射出された。動きを目で追うことができる。航空機よりは速いが、砲弾よりは遅い。

 

その円筒(バレル)は、クルクルと不思議な動きをしながらも、狙い違わず、軽巡洋艦“パサデナ”の甲板に突き刺さり、盛大に爆ぜた。千切れた破片が宙を舞う。

 

敵艦(エネミー)!」

 

ミッチャーはそう断じた。だが同時に、それが日本軍のものであることも否定している。あんなものを作るのは、変態紳士(イギリス)か小説家だけだ。

 

「反撃しろ!あらゆる砲で応戦するんだ!」

 

ミッチャーのその指示に応えるように、T・F58・3の戦艦二隻―――“サウスダコタ”、“アラバマ”の主砲が旋回する。巡洋艦部隊の動きはそれよりも迅速だ。被弾した“パサデナ”もまた、健在な主砲で反撃を試みる。

 

砲炎が迸った。多数の砲弾が、攻撃してきた謎の物体に対して、飛翔していった。

 

その時、ミッチャーの想像だにしないことが起こった。何と謎の物体が、海面を飛び出して跳躍したのだ。飛翔ではないが、どこかさそりを思わせるその物体が、海面から全貌を表して、移動する。放たれた砲弾は、その全てが空振りに終わっていた。

 

デカい。物体―――仮に蠍の毒針(“スティンガー”)と呼ぶことにしたそれは、アメフトのコート二面分はあるだろうかという大きさをしていた。並の巡洋艦と同じくらいの艦体規模がある。

 

間違いない。あれは(ふね)だ。ミッチャーは直感していた。しかし同時に、(ふね)が海面を跳躍するという突拍子もない現象が、信じられなかった。

 

「砲撃を続行!空母に寄せ付けるな!それからバンカー・ヒル、司令部に事態を打電しろ、文面は任せる!」

 

「はい!」

 

ミッチャーの指示に応え、バンカー・ヒルが通信機を立ち上げた。通信は、スプルーアンス座乗の“アイオワ”に向いている。

 

―――あれは一体何なんだ・・・!?

 

目の前で再び駆逐艦を火達磨に変えた“スティンガー”に目を凝らす。基本は(ふね)だ。しかしその動きは、既存のそれを超越している。兵装にしても、射出された円筒(バレル)がことごとく命中するという、信じられない精度である。

 

ミッチャーにはそれが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

―――まさか・・・!

 

荒唐無稽に過ぎる一つの仮説が、ミッチャーの中で繋がった。

 

あれは宙からこの海に降り立ったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「追加で打電しろ。敵艦は、」

 

「司令、前方!」

 

ミッチャーの言葉は、参謀の声に遮られた。直後、それまで味わったどんな衝撃とも違った種類の振動が、“バンカー・ヒル”の艦橋を揺さぶった。衝撃の方向、艦首甲板をミッチャーは見る。被弾によって大きな穴が穿たれた飛行甲板には、その穴をすっぽりと埋めるように、球形の何か(ボール)が埋もれていた。

 

―――今度はなんだ・・・?

 

次の瞬間、球体(ボール)が高速で回転を始めた。ギラギラとした凶暴極まりない刃が、そこには並んでいる。金属を引き裂く異音が艦体を走り抜け、球体(ボール)は“バンカー・ヒル”の艦体奥深くへと侵入していく。

 

「いやぁ・・・っ!だめっ・・・やっ・・・めて・・・っ!!」

 

“バンカー・ヒル”へのダメージは、艦娘にも痛みとなって伝わる。艦橋の中、バンカー・ヒルは頬を紅潮させ、息を荒くして、その体をかきむしる痛みに耐えていた。

 

「っう・・・くぅぅっ!そ、そこはぁ・・・っ!」

 

―――まずい・・・!

 

彼女の様子から、この(ふね)に残された時間が少ないことを、ミッチャーは悟った。

 

「総員直ちに退艦せよ!」

 

「んぁ・・・くっ・・・ふぅ・・・っ!!」

 

ついに限界を迎えたバンカー・ヒルが、全身から力が抜けたように、膝から崩れ落ちる。その華奢な体をミッチャーが受け止めた時、それまでの衝撃を遥かに超える―――そして今まで何度か経験したことのある衝撃が、“バンカー・ヒル”の艦体を襲った。

 

誘爆した航空機用の爆弾や魚雷は、近くにあった揮発性の高いガソリンと共に、盛大に弾け飛んだ。その爆発エネルギーは衝撃を逃がすための隙間だけでは飽き足らず、容易く“バンカー・ヒル”の装甲をぶち抜き、甲板に噴出する。化け物(ヤマト)を葬るはずだったアメリカ製の武器は、皮肉にもその母艦たる“バンカー・ヒル”と、そこに乗るアメリカ人の命を奪い、その肉体を跡形もなく消し去ってしまった。

 

業火に呑まれていく艦橋の中、腕に抱えたバンカー・ヒルの体が現実味を失っていくのをはっきりと感じながら、ミッチャーはその時を迎える。

 

彼の視界は鮮烈な朱に染まり、やがて常しえの深遠に呑まれていった。




いかがだったでしょうか?

はい、まずは“スティンガー”が降り立ったところからでした

そしてバンカー・ヒルさん、早速ごめんなさい・・・

次回もお楽しみに!
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