バトルシップ1945   作:瑞穂国

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どうもです

正体不明の敵に、人類はどのようにして立ち向かうのか


会敵

同日一二三〇。

 

 

 

アメリカ海軍所属、戦艦“アイオワ”は、十数隻の僚艦を伴って沖縄北方の海域を航行していた。その艦橋には、輝くような金髪を流す艦娘のアイオワと、険しい表情のまま艦首を見つめているレイモンド・スプルーアンス大将の姿があった。

 

アイスバーグ作戦の総指揮を執るスプルーアンスだが、戦艦“大和”以下日本海軍最後の艦隊が出撃したとの報告を受け取った時、自らの率いる戦艦部隊をもってこれを迎撃するべく、“大和”が来ると予想された沖縄北方海域にて待ち受けていた。

 

“大和”部隊を率いるのは、伊藤整一大将。友人でもある彼と、尊崇する東郷平八郎(アドミラル・トーゴー)の弟子たちに、戦艦同士の砲戦をもって応えることが、最大の礼節であるとスプルーアンスは考えていた。

 

状況が変わったのは、三時間ほど前のことだ。ミッチャー率いるT・F58が、何者か(・・・)の襲撃を受けたと報告を寄越し、直後通信を断った。新たな報告が入ったのは、それから三十分が経過してからだ。それも、報告してきたのはミッチャー座乗の“バンカー・ヒル”ではなく、T・F58・3所属の戦艦“アラバマ”だった。

 

―――『謎の敵艦(スティンガー)の襲撃を受け、空母二、巡洋艦一、駆逐艦四撃沈。空母一、巡洋艦二、駆逐艦三損傷。マーク・ミッチャー中将以下、T・F58司令部壊滅』

 

真っ先に入ってきたその報告に、スプルーアンスは天を振り仰いだ。

 

その後の報告から判明した“スティンガー”の情報は以下の通り。

 

・沖縄周辺海域に降り注いだ隕石と関係する可能性が高いこと。

 

円筒(バレル)による攻撃を行うこと。

 

・跳躍等を駆使し、非常に素早い動きをすること。

 

・潜航能力を有すること。

 

・レーダーに映らないこと。

 

・攻撃後、北西方面へ移動したこと。

 

これを受け、スプルーアンスは機動部隊に、南下して部隊の再編を行い、沖縄攻略の支援に集中するよう通達した。また、モートン・デヨ少将麾下の第五十四任務部隊(T・F54)にも、隕石落下地点から距離を取るよう指示している。

 

一方、自らが直率する“アイオワ”と“ニュージャージー”の二戦艦が、隕石の落下位置に近かったこともあり、随伴艦を抽出してこれの調査に向かうこととした。

 

参謀には反対意見もあったが、迅速な事態の調査が必要であること、接近する“大和”艦隊にも備えなければならないことからその意見を退け、スプルーアンスは“アイオワ”以下の艦隊を沖縄北方へ向けて舵を切らせた。

 

「もうそろそろ、隕石の落下地点よ」

 

艦橋中央に立つアイオワが、どこか好奇心に満ちた声で言った。四人姉妹の中では、アイオワが最も自由奔放なで好奇心旺盛だ。スプルーアンス自身は、娘ほどの見た目の少女が、何にでも興味を示すのは非常に好ましいことだと考えていた。

 

「見張り、何か見えるか?」

 

敵艦はレーダーに映らないとのことで、発見は人間の目に頼るしかない。“アイオワ”艦橋の見張り所には多くの水兵が立ち、双眼鏡を覗きこんで周囲の海面を見つめいていた。

 

程なく、一人の水兵が報告する。

 

「右舷一ポイント十マイル、何か見えます」

 

曇天を映す海面に、何かが突き出ている。一瞬、目の錯覚ではないかと、スプルーアンスは思った。それほどに不思議な形の物体が、海面に見えている。

 

(タワー)のようなものだろうか。人工物であることに間違いはない。ニューヨーク、マンハッタン島の摩天楼にでも混じっていそうな物体だ。この距離であの大きさということは、この“アイオワ”の艦橋よりも高いだろうか。

 

「何なの・・・あれ?」

 

艦橋の窓にへばりつきながら、アイオワが呟く。短いスカートからのぞく引き締まった脚が、いつもの癖で楽しげに揺れていた。

 

「どうするの、アドミラル?このまま接近?」

 

「そうだな。確かめる必要がありそうだ」

 

「OK」

 

艦隊は前進を続ける。“アイオワ”の後ろに続く“ニュージャージー”から通信が入ったのは、その時だった。

 

『ニュージャージよりアイオワ。貴艦の前に出る』

 

生真面目なニュージャージーの声がした。どうやら、旗艦である“アイオワ”が先頭(実際には、前路哨戒の駆逐艦がいるが)に立つのは危険と判断したらしい。

 

「了解。前に出ていいわよ」

 

ニュージャージーに返信して通信を切ったアイオワは、その明るい顔に苦笑を浮かべる。

 

「もう、あの娘は心配性ね」

 

「君を心配する気持ちはわかるかな」

 

おどけて言ったスプルーアンスに、アイオワは頬を膨らます。

 

「アドミラルの意地悪」

 

そう言ったアイオワに、スプルーアンスは微笑を浮かべた。

 

(タワー)までの距離、五マイル。すでにその外見ははっきりとしている。雲間から漏れる太陽光に照らされて、(タワー)は金属的な光を帯びていた。その輝き方は、スプルーアンスが見たことのあるどの金属光沢とも違う。どこか禍々しさすら感じさせる、威圧的なきらめきだ。

 

「一体なんだ、これは・・・」

 

艦橋の窓から(タワー)を観察する。こんなものは、生まれて初めてだ。

 

「全艦に通達、」

 

スプルーアンスが、さらなる接近を命じようとした、まさにその時であった。

 

突然、(タワー)が怪しげな光を放って脈動し、さらなる高みへと伸びていった。否、(タワー)を支える台座の部分、そこにある何か(・・)が、海の中から浮かび上がってきたのだ。

 

海面が大きく盛り上がる。大量の海水と魚を巻き込みながら新たに浮上してきたのは、二つの平らな物体。キノコのように太いアームで支えられているそれが、(タワー)を挟むようにして海上に姿を現す。さながら古代文明の祭壇のようだ。

 

さらに。(タワー)の手前、丁度スプルーアンスたちの前に立ち塞がる位置にも、三つの物体が浮上してきた。(ふね)には違いないが、その艦型はスプルーアンスが知るどれとも似ても似つかない姿をしていた。どちらかと言えば、生物に近い印象を受ける。爬虫類の頭のような部分が海面から鎌首をもたげ、スプルーアンスたちの方を睨んでいた。

 

あれが“スティンガー”。T・F58を襲撃した張本人。

 

「何者よ、あいつ」

 

アイオワの声は、先ほどとは打って変わった、冷たく堅いものになっていた。普段は星のように輝く双眸を細めて、三隻の敵艦を―――T・F58が“スティンガー”と呼んでいたそれを見つめている。呟いた言葉は、彼女のものとは思えない、冷え切ったものだった。

 

「気配がない。・・・船魂がいないわ(・・・・・・・)

 

「・・・まさか」

 

スプルーアンスの考えは、くしくもアイオワと一致したらしかった。覗き込んだ彼女の瞳が、「どうするの?」と聞いている。

 

ともかく、敵の正体云々は後だ。アレ(・・)は間違いなく、スプルーアンスたちに敵対するものなのだから。

 

「全艦戦闘配置」

 

スプルーアンスの指示が、艦隊全体に伝えられる。“アイオワ”以下各艦が“スティンガー”に照準を合わせ、発砲の命令を待つ。アイオワが標的に選んだのは、横陣を敷く“スティンガー”のうち中央の一隻だった。前方に指向可能な一、二番砲塔の左砲が、弾着観測用の交互撃ち方に備えて仰角を上げる。

 

ところが、すぐには何も起こらなかった。“スティンガー”は動かず、その様子を窺う“アイオワ”たちもまた、主砲を撃つことはない。お互いがお互いを牽制し、得体のしれない沈黙が辺りに漂っている。

 

距離三マイル。じりじりとした時間に、誰もがしびれを切らし始めた頃だった。

 

「っ!“スティンガー”発砲!」

 

中央の“スティンガー”上部、赤い光を放った箱型の部分から、円筒(バレル)が射出された。回転しながら飛翔してくるその独特な動きを、スプルーアンスの目が追う。数は三。

 

「各艦応戦しろ!砲撃始め!」

 

砲撃始め(オープン・ファイア)!」

 

スプルーアンスの声に応え、各艦が一斉に砲撃を始める。“アイオワ”の前甲板でも轟音が鳴り響き、長砲身一六インチ砲から装填済みの大重量砲弾(SHS)を撃ち出した。それと入れ替わりにして、最初の円筒(バレル)が先頭にいた駆逐艦に命中して、盛大な炎を上げた。艦首に命中したのだろうか、砲塔の破片と思しきものが、艦上構造物の向こうで飛ぶ。

 

「艦隊逐次回頭、針路三四七」

 

スプルーアンスは転針を指示する。位置取りを変えるためだ。現状前部しか使えない砲を、後部も使えるようにする。

 

程なく、“ニュージャージー”が艦首を右に振り、“アイオワ”もそれに続く。高速戦艦と呼ばれる“アイオワ”だが、五万トンに迫ろうかという艦体が動くには時間がかかる。緩慢な動きは戦艦としての威厳に溢れるが、戦闘時にはもどかしい。

 

こちらの動きに合わせてか、“スティンガー”も動く。その位置取りは、(タワー)を護るようにして変わらない。

 

「回頭完了。いつでもいいわよ、アドミラル」

 

砲撃再開を求めるアイオワの声音には、少しずつだがいつもの色が戻り始めている。艦娘、ひいては軍艦としての本能が、戦いの中で昂っているのかもしれない。

 

「砲撃を再開」

 

撃て(ファイア)!」

 

諸元の算出をやり直した“アイオワ”の主砲、前部の一、二番砲塔と後部の三番砲塔それぞれの中砲が咆哮し、弾着観測用の交互撃ち方を再開する。およそ五千五百メートルという、戦艦の砲戦距離としては近すぎる相手に向けて放たれた砲弾はすぐに飛翔を終え、弾着の水柱を激しくあげた。“アイオワ”のものだけではない。僚艦の“ニュージャージー”や巡洋艦、さらには駆逐艦まで砲撃に参加している。

 

“スティンガー”もまた、円筒(バレル)を撃ちだす。飛翔するそれが艦隊に迫る。狙いは駆逐艦だろうか。

 

目標となった駆逐艦が応戦する。並の航空機より速いとはいえ、音速は越えていないようだ。機銃等で迎撃可能と判断したのだろう、曳光弾が乱れ飛び、円筒(バレル)を絡め取ろうとする。

 

が、ことはそれほど簡単ではなかった。円筒(バレル)は一発も落とされることなく、駆逐艦二隻と巡洋艦一隻に突き刺さった。一拍が開いて、円筒(バレル)が炸裂する。派手な火焔が踊り、弾火薬庫が誘爆したらしい駆逐艦一隻は、砲塔基部から真っ二つに引き裂かれた。

 

“アイオワ”の右砲が、修正された諸元をもとに発砲する。巡洋艦部隊の発射間隔はさらに短い。すでに三射目を放っている艦もあり、二発が命中弾となって、“スティンガー”の艦上に爆炎が生じる。

 

だが、予想以上に砲撃が当たらない。“スティンガー”の動きは縦横無尽で、全く予想ができない。“スティンガー”が跳躍し、相対位置が変わる度に諸元を修正せねばならず、そのロスタイムの間に新たな被害が生じる。

 

“アイオワ”の艦橋には、各艦からの悲鳴のような報告が寄せられるだけだ。“スティンガー”に対して被害らしい被害を与えた様子はない。

 

「司令、このままでは・・・!」

 

“アイオワ”六度目の砲声を聞きながら、スプルーアンスは参謀の言葉に苦々しく頷くほかなかった。

 

「艦隊、針路反転。駆逐艦隊は煙幕を展張せよ」

 

このまま悪戯に被害を広げるわけにはいかない。然るべき対策を講じる必要があると、スプルーアンスは考えた。幸い、今の戦闘で、ある程度“スティンガー”の動きを見ることはできた。やりようはあるはずだ。

 

「・・・ちょっと、何やってるの、ニュージャージー!?」

 

その時、アイオワの戸惑うような、悲壮な声が艦橋に響いた。駆逐艦隊が煙幕を展張し、艦隊の退避を助ける中、“ニュージャージー”もまた、そこに留まっている。派手な砲炎を上げ、艦隊を護る盾のように“スティンガー”たちの前に立ち塞がり、戦い続ける。

 

『退避の支援に当たります』

 

アイオワの問いかけに返ってきたのは、たったそれだけの、短く生真面目な言葉だった。

 

当然の如く、“スティンガー”の攻撃は“ニュージャージー”に集中する。しかしながら、戦艦である“ニュージャージー”の装甲を抜くのは、円筒(バレル)には厳しいらしく、バイタルパートに突き刺さって派手な爆発が起こっても、大して堪えた様子は見せない。

 

それでも、非装甲区画に命中すれば、被害が生じる。装甲された区画でも、両用砲や機銃といった装甲の薄い構造物は容赦なく薙ぎ払われ、辺りに多数の破片を振りまいた。

 

多数の被弾により、傷ついていく姉妹艦の様子を、アイオワは固唾を呑んで見守っていた。できるならば今すぐにでもここを飛び出したい。ニュージャージーを助けてやりたい。胸に秘めているであろうその声が、ひしひしとスプルーアンスにも伝わってきた。

 

しかし、スプルーアンスにも、どうすることもできなかった。

 

“ニュージャージー”の砲弾が“スティンガー”を捉えた。艦体の奥深くで炸裂したSHSが、巨大な火柱を“スティンガー”に生じさせる。被弾した“スティンガー”の動きは明らかに鈍った。

 

トドメとばかりに、“ニュージャージー”が今日初めての斉射を放つ。それまで一度として敵艦に向けられたことのなかった主砲が、まるで自らの存在意義を主張するかのように、激しく、そして美しく砲炎を上げた。飛翔した九発の一六インチ砲弾は、水柱と共に“スティンガー”に命中し、その装甲を喰い破って情熱の限りを尽くした。

 

“スティンガー”が内側から弾け飛ぶ。派手な爆発が連鎖して艦体を包み、やがて“スティンガー”は海面下に没し始めた。

 

だが同時に、“ニュージャージー”にもまた、最後の時が訪れようとしていた。

 

残った二隻の“スティンガー”から、それまでで最も多い円筒(バレル)が射出された。対する“ニュージャージー”に、それを迎撃する術はない。円筒(バレル)はその全弾が、狙い違わず“ニュージャージー”の甲板に突き刺さった。

 

息を飲む間があった。

 

「やめてええええええっ!!」

 

アイオワの絶叫。

 

甲板に突き刺さった円筒(バレル)が一斉に炸裂した。“ニュージャージー”の甲板はあらゆる箇所が爆発炎で覆われ、その勇壮な姿を窺い知ることはできなかった。次の瞬間、一際巨大な火柱が噴き上がり、堅牢な“ニュージャージー”の艦体をいとも簡単に真っ二つにした。弾火薬庫の誘爆が起きたことは、誰の目にも明らかだった。

 

沈みゆく“ニュージャージー”を置いて、艦隊は現場海域を離脱する。その背中から“スティンガー”が襲ってくることはなかった。我が物顔で(タワー)の前に陣取った奴らは、戦いの疲れを癒すかのように静寂を保っていた。




・・・今回も謝らせてください。ニュージャージーさん本当にすいません

あと、アイオワは原作から乖離しない程度には、少しシリアスっぽいキャラを目指しています

艦これとバトルシップのクロスにシリアスを求めてどうするんだという話ですが
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