も、文字数ががが
一話で九千字も書いたの久しぶりです・・・はい
人類対宇宙人。最後の戦いが始まります
翌一九四五年四月八日〇八一五。
太陽が昇りきった時刻。“
打ち合わせの結果、“アイオワ”と二隻の重巡(“ボストン”、“セントポール”)が“スティンガー”への攻撃を担当することとなった。軽巡以下は“スティンガー”の動きを抑える役目だ。速射能力の高い後者の砲撃の方が“スティンガー”の行動を制限しやすく、前者の重量級の砲弾の方が“スティンガー”に確実にダメージを与えられるという判断である。
昨日の戦闘では、“ニュージャージー”の一六インチ砲弾一発で“スティンガー”の動きを大きく鈍らせることができていた。重巡の八インチ砲弾でも、多数を撃ち込めばある程度ダメージは通るはずだ。
さらに、工夫はもう一つ。それは、スプルーアンスとアイオワが立つ艦橋ではなく、階下のCICに準備されていた。
防空戦闘時等に使うクリアボード。その予備品にマス目を引いた、特製品だ。丁度ボードゲームの盤面のようになっている。一マスは五百メートル四方で、それが縦横二十五マス、一万二千五百メートル四方の海域を表すボードだ。縦軸にはアルファベット、横軸には数字が振られている。同じものが四枚用意されており、こちらは
物標のない地点への砲撃。これを可能にするべく、“アイオワ”砲術科と第五艦隊司令部が編み出した、いわば奇策だ。その考え方は至ってシンプル。
「あらかじめ諸元を算出しておけばいい」
“アイオワ”以下砲撃担当の艦と“スティンガー”の位置をこのマス目に記入。マス目間のお互いの位置関係からあらかじめ計算済みの射撃諸元を入力して発砲するというものである。
敵艦に対して直接測距を行わない分、射撃精度が落ちるとの意見はあった。が、そもそも砲撃というのは運要素が高いし、何より“スティンガー”の動きに追随するには、現状でこれ以上の得策はない。正確さよりも、数で戦うことにしたのだ。
もちろん、少しでも命中率を上げるために、砲撃担当艦は初弾から斉射を行う。
前例のないこの作戦に、各艦乗組員が緊張感の中準備を進めている。その雰囲気をひしひしと感じながらも、アイオワはただ真っ直ぐに、
「“スティンガー”です!」
ついに見張り員が“スティンガー”を見つけた。
「“スティンガー”の位置は?」
「本艦正面、距離二万。
そこから、三隻の“スティンガー”それぞれの位置が割り出され、ボードに書き込まれる。
『ボード
『司令、一万二千メートルより砲撃を始めてください』
階下のCICでボードを睨んでいるムーアが、スプルーアンスに具申する。スプルーアンスはそれを了承した。
「砲術長」
艦橋に立っているアイオワは、射撃指揮所の砲術長を呼んだ。
『なんだ、アイオワ?』
「任せたわよ。あなたの腕、信頼するわ」
『やってやるぜ。任せときな』
不敵に笑う彼の顔が見えた気がして、アイオワは頬を綻ばせる。
「“スティンガー”、動きだしました!」
こちらの動きを察知したのだろう。海面に半ば身を埋めて、まるで寝ているかのような状態だった“スティンガー”たちが、やおら艦体を持ち上げ、こちらを睨む。爬虫類の頭のような黒光りする艦首が、海面から浮き上がった。
その艦上、例の
ところが、“スティンガー”たちは、そのまま動くこともなく、ジッとこちらを窺うにとどまった。
「・・・やはり、そういうことか」
スプルーアンスが呟く。
作戦前に参謀の一人が指摘していたのだ。
その代償として、射程距離が短いのではないかというのが、参謀の指摘だ。事実として、先の戦闘でも、“スティンガー”は三マイル―――約五千五百メートルを切ってから攻撃を始めていた。
判断材料が少なすぎるために、断じることはできなかったが、今回も敵艦は撃ってこない。
「距離一万五千メートル」
“アイオワ”もまた、発砲しない。必中をきすため、今はただ、距離を詰める。
『以後、
階下でボードと睨めっこを続けているムーアが、最初の目標を示した。丁度その時、三隻の“スティンガー”が新たな動きを見せた。
「“サターン”、移動を開始!“マーズ”、“ジュピター”も続きます!」
こちらの意図を察したのだろう。アイオワたちを迎え撃つべく、“スティンガー”は距離を詰め始めた。何が何でも、あの
―――やっぱり、あれが“
沖縄沖には、機動部隊や戦艦部隊、無数と言っていい連合軍艦艇が集結している。それらが連携をとれば、いかに“スティンガー”といえども簡単に撃破されてしまうだろう。それを不可能にしているのは、“
それに。あれだけの“
「全艦逐次回頭、針路三〇五」
ともかく、その辺の考察は後回しだ。今アイオワに求められているのは、目の前の“スティンガー”を撃破し、
『
その指示を受けて、各艦の主砲塔が旋回を始めた。“アイオワ”の艦上でも、重厚な音と共に、巨大な三連装砲塔が駆動する。納められた五〇口径一六インチ砲は、およそ一万二千メートル先の“スティンガー”に向けて、その砲門を開いた。
「“ムーン”、撃ち方始めました!」
後方から軽快な炸裂音が響く。一万二千メートル先、ムーアが指定した
“ムーン”は撃ち続ける。速射能力の高い主砲にものを言わせ、実に六秒に一回の猛射を浴びせかける。“スティンガー”の周囲には、常に水柱が立ち上り、それから逃れるように、跳躍した。
跳躍した先は―――
―――来た・・・!
「“アース”、
スプルーアンスの命令に応えるように、三隻の艨艟が主砲に炎を躍らせた。“アイオワ”もまた、九門の主砲を振り立てて、強烈極まりない咆哮を上げる。合衆国海軍が保有するありとあらゆる軍艦の中で、もっとも偉大で凶悪な破壊力を誇る火器だ。
心を奮わせるような反動にも、アイオワはただ静かに、敵艦を見つめていた。
主砲を放っても、命中しなければ意味がない。
一万二千メートルの距離を砲弾が飛翔する時間は、さして長くない。ほんの十数秒、“スティンガー”が再び跳躍する暇はない。
再度の跳躍のタメに入った“スティンガー”に、八インチ砲弾と一六インチ砲弾が続けざまに降り注いだ。その艦上に、命中弾と思しき閃光が走る。が―――
「“サターン”、再度跳躍!」
火柱の大きさからして、命中したのは“アイオワ”の一六インチ砲弾ではなく、重巡の八インチ砲弾だ。その程度では大した被害にならなかったらしく、“スティンガー”はさらに接近を図ってくる。
「次弾装填急いで!」
“アイオワ”の三砲塔で、主砲弾の再装填作業が急がれる。その間も、“ムーン”と“アース”の重巡洋艦二隻による砲撃は続いた。“スティンガー”の艦体に炎が踊り、陽の光を反射する表面に黒い焦げが生まれる。
対する“スティンガー”はまだ撃たない。
「装填完了!」
『“アース”目標
“ムーン”が砲撃を繰り返す。“スティンガー”は再び跳躍し、“アイオワ”が砲門を向ける先、
頃合い、よし。
「
“アイオワ”の主砲が、今日二度目の砲声を上げた。細く絞られた艦体は巨大な衝撃を受け止めて横に揺れる。空気は容赦なく海面を叩き、さざ波を打ち消してクレーターを作った。
―――今度こそ・・・!
自らが放った主砲弾の行方を、アイオワは固唾を吞んで見守る。十数秒の飛翔時間を終えた砲弾は、
水柱が連続して立ち上り、“スティンガー”の姿を覆い隠す。真っ白なカーテンの内側、赤々と炎が上がるのを、アイオワの相貌は見逃さなかった。
「“サターン”に命中弾!動きが鈍っています!」
間違いない。“アイオワ”がたった今放った斉射は、“スティンガー”を捉えたのだ。盛大に上がった炎が、何よりの証である。
「“アース”、斉射を続けろ!“ムーン”は“マーズ”、“ジュピター”を牽制!」
それまでのお返しとばかりに、全艦が一斉に砲炎を躍らせる。“アイオワ”が主砲弾の再装填を待つ中、一足先に二隻の重巡が斉射を放った。
“アイオワ”の第三斉射は、二隻の重巡が再び斉射を放つのとほぼ同時だ。百雷のごとき轟音が辺りを震わせる。頑丈な司令塔も主砲発射の反動で揺れていた。アイオワは両足を踏ん張って、その衝撃に耐える。
飛翔した一六インチ砲弾九発は、ホームラン王の特大アーチのような軌跡を描いて、“スティンガー”に襲いかかった。長砲身とSHS由来の強力な貫通能力が“スティンガー”の艦体を突き破り、内部で信管を作動させる。周囲をキラキラと覆う水柱の内部で、“スティンガー”の艦体表面が盛り上がり、内側から弾け飛んだ。
「よしっ」
無数の破片をまき散らし、黒煙を噴き上げてズブズブと沈みゆく“スティンガー”の姿に、アイオワは拳を握る。まずは一隻。
「見張り、“マーズ”と“ジュピター”の動きを報せろ」
「両艦、なおも接近!現在位置は、“マーズ”が
―――接近は、ほとんど同時ね。
アドミラルはどうするつもりかしら。チラリとスプルーアンスを窺う。CICへのマイクを取った彼は、階下のムーアに問いかけた。
「参謀長、二隻を同時に狙うことは可能か」
『・・・難しいと考えます』
参謀長の意見はもっともだ。これまでの交戦から、“スティンガー”に対して一撃で有効打を与えられるのは、この“アイオワ”だけ。同型の“ニュージャージー”がすでにいない以上、“スティンガー”の動きを止めることは、“アイオワ”にしかできないはずだ。
「“マーズ”は、重巡と“ムーン”の手数で押す。“ジュピター”は“アイオワ”単艦で相手取る」
『それでは、“ジュピター”の進行方向はどのように限定するのですか?』
「本艦の両用砲を使う」
―――その手があったか・・・!
アイオワは合点がいった。
“アイオワ”両舷には、航空機と軽艦艇への備えとして、三八口径五インチ連装砲が五基ずつ据えられている。威力自体は大したことはないが、速射能力に優れ、分厚い弾幕を形成できる。牽制用の兵装として、これほど適任なものもあるまい。
今まで、その存在をすっかり忘れていた自分を恥じる。冷静であろうと思っていても、やはり知らず知らず、どこかで力が入っていたのかもしれない。心のどこかに、姉妹艦の仇討ちが引っかかっていたのかもしれない。
『・・・わかりました、やってみましょう』
ムーアも承認する。どちらにしろ、片方を撃破している間に、もう片方に交戦距離まで接近される可能性がある。それまでに、両方に損害を与えたい。
彼我の距離は間もなく八千メートルに迫ろうとしている。例の
「全艦逐次回頭、針路二八五」
スプルーアンスの指示で艦隊が動き、“スティンガー”との位置関係が少し変わる。それに合わせるようにして、残った二隻の“スティンガー”が変わった。
『“アイオワ”目標“ジュピター”、
ムーアが目標と予想跳躍位置を指定し、各艦の主砲に諸元が入力される。後はその範囲に、“スティンガー”がやって来るのを待つだけだ。
「両用砲群、
スプルーアンスの号令に応えて、右舷両用砲群が咆哮する。破壊力を装填時間の短さで補う五インチ砲弾が多数、“スティンガー”の動きを妨げるように弾着する。一六インチ砲のそれよりは遥かに小さいが、まるでミシン目のように大量の飛沫が上がる。砲術長は、瞬発信管を選択していた。
“ムーン”の駆逐艦隊も発砲する。二隻の“スティンガー”は、文字通り無数の水柱に包まれることになった。
ところが、“スティンガー”が跳躍した先は、ムーアが予想した
―――そううまくはいかないわね。
アイオワはただ待ち続ける。今は時宜を待つしかなかった。
「“スティンガー”、距離七千を切ります!」
ムーアから新たな目標座標の指示が来ないまま、間もなく“スティンガー”との距離が七千を切ろうとしていた。いつ
『・・・“アイオワ”目標、
ムーアが新たな目標座標を指定した。各砲塔に送られる諸元に変更が加えられ、微旋回と仰角の調整が行われる。
その時。
「“スティンガー”発砲!」
二隻の“スティンガー”の艦体から、
駆逐艦の艦上で爆炎が踊るが、致命傷にはならなかったらしく、両艦とも陣形を維持している。アイオワはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、安心はできなかった。次に放たれた
「衝撃に備えて!」
次の瞬間、降り注いだ
「ダメージコントロール!」
「損害軽微!戦闘続行に支障なし!」
さすがは合衆国最強戦艦だ。この程度ではびくともしない。
被害のなかった両用砲は、なおも“スティンガー”に向けて撃ち続けている。時折砲弾が命中して小さな火炎が生じるが、やはり“スティンガー”の動きを止めるには至っていなかった。
“スティンガー”は次なる跳躍のタメに入っていた。
―――来い・・・!
再び命中した
“スティンガー”が、飛んだ。蠍のような艦体が海面から浮かび上がり、五インチ砲弾の弾幕の中を突っ切って、別の位置へ着水した。
その先は―――
「“ジュピター”、
―――ドンピシャ!
ムーアの予想が、完全に当たった。
「
スプルーアンスが命じる。次の瞬間、九門の一六インチ砲が一斉に咆哮し、一・二トンものSHSが吐き出された。砲身に刻まれたライフリングが砲弾に回転をかけ、真っ直ぐに飛翔する力を与える。
その飛翔が終わるのを、アイオワは固唾を呑んで見守る。
砲弾が命中するのを、ただ静かに神に祈る。
時間が、来た。
「命中!」
見張り員が喜色を滲ませて報告した。“アイオワ”の放った一六インチ砲弾九発のうち、二発が“スティンガー”に命中して、火柱が生じる。“アイオワ”の重い一発が、ガツンとその鼻っ面を殴った形だ。
“スティンガー”はまるで糸が切れた操り人形のように、その動きを止めてしまった。
「“ジュピター”、動きが鈍りました!」
「“マーズ”に命中弾多数!“ボストン”、“セントポール”です!」
もう一隻の“スティンガー”にも命中弾の炎が上がっていた。こちらは“アイオワ”と違い、中口径砲弾が雨霰と降り注いでいる。“アイオワ”の砲撃を強力なストレートとするなら、こちらは細かく敵を叩くジャブといったところか。一発一発は小さくとも、その蓄積は時に強敵をダウンさせる。
『次で決める!』
主砲が再装填を終え、射撃指揮所の砲術長が吠えた。アイオワはニヤリと、不敵に頬を吊り上げる。
「
“スティンガー”にとどめを刺すべく、“アイオワ”の主砲が更なる咆哮を上げた。艦が大きく横に揺れ、一六インチ砲の威力を物語る。
水柱が立ち上り、そこに火炎が混じる。“スティンガー”の装甲を突き破り、信管を作動させたSHSは、内部から破壊の限りを尽くす。黒光りする艦体が内側から膨れ上がり、限界に達して弾け飛んだ。無数の破片が飛び散り、艦体各所から炎が噴き出す。艦体がほぼ真っ二つに裂けた“スティンガー”は、急激に沈み始めた。
「“ジュピター”、撃沈!続いて“マーズ”、撃沈確実です!」
もう一隻の“スティンガー”は、中口径砲弾多数を受けて艦体が蜂の巣のような状態になっていた。黒煙を燻らせ、その動きを完全に止めている。生物的な印象を抱かせた頭のような部分が、うなだれて海面に突っ込んでいた。
「“スティンガー”三隻の沈黙を確認!」
見張り員の報告に、艦橋が歓喜に沸いた。
「見たか宇宙人!」
誰もが拳を突き合わせ、腕を肩に回して健闘を称える。長官席に腰掛けるスプルーアンスをチラリと窺うと、その表情もどこか安堵したように和らいでいた。その時初めて、アイオワも口元を緩める。
ようやく、重い肩の荷が下りた気がした。
これでやっと、妹の永遠の不在を、悲しむことができる気がした。
―――でも、もうしばらくお預けね。
天井を仰ぎ見かけた顔を下ろし、再び前を向く。そこには、いまだ健在な姿で洋上にある
「艦隊針路三五〇。
スプルーアンスが命じ、駆逐艦や軽巡、重巡に続いて、最後に“アイオワ”が転針する。その目標は、そびえるような
だがこの時。アイオワも含めた誰もが、重大な見落としをしていた。
“スティンガー”は潜航能力を有すること。
「っ!
見張り員の報告に、艦橋の空気が再び張り詰めた。誰もが窓に張り付くようにして目を凝らし、
初めて
海面が割れた。陽光を受けて黒光りする何かが姿を表し、
―――デカい・・・!
アイオワは息を飲む。とてつもなくデカい。全長だけで三百メートルはくだらないだろう。
もはや何かを言う必要もない。
アレは―――アレも間違いなく
「
誰かがポツリと呟いた。まさしくあれは、海から現れた怪物。人智を遥かに超えた存在。
「砲撃戦用意!目標、敵巨大戦艦―――“リヴァイアサン”!」
スプルーアンスが真っ先に反応した。呆気に取られていた艦橋要員もようやく我に返り、艦隊は慌てて“リヴァイアサン”を捕捉しようと試みる。
“リヴァイアサン”から無数の
本編で書く機会がないので、一応補足をば
“リヴァイアサン”は、“壁”の形成だけでなく、全ての“スティンガー”に対してもエネルギーを供給しています。
“スティンガー”は自らに搭載している機関と、“リヴァイアサン”から供給されるエネルギーを併用して、あれだけの機動性を確保しています。
“スティンガー”が全て行動不能になり、エネルギー供給に余裕ができたため、“リヴァイアサン”が戦闘を行うこととなりました。本来は戦闘向きではなく(質量が大きすぎて、“スティンガー”ほどの機動性を発揮できないため)、あくまでエネルギー供給母艦的位置づけです。
原作では通信専用の艦がいましたが、本作では“リヴァイアサン”がその役割も果たすことになっています。“壁”内部の敵性勢力を排除した後、沖縄に通信設備を揚陸し、そこにエネルギーを供給するのです。
以上、長くなりましたが、本作における超大型戦艦の立ち位置でした
さてさて、いよいよ戦闘も大詰め。人類の未来をかけた戦いは、果たしてどこへ向かうのか
原作ではただのやられ役だった(おい)“リヴァイアサン”の戦いにもご期待ください