忙しい時期が過ぎたので、しばらくは執筆に専念できると思います
強大な“リヴァイアサン”を、いかにして叩くのか
人類最後の砲撃戦、ご期待ください
惨劇は、もっとも先頭にいた駆逐艦隊から始まった。
“リヴァイアサン”が放った五十発近い
「砲術、急げ!」
諸元算出中の砲術長を、艦長が急かす。
そうこうする間に、
もはや一方的な破壊だ。アイオワの額を汗が伝う。あれほどの弾量に耐えられる軍艦が、果たして存在するのであろうか。
『射撃準備よし』
「
砲術長の報告に、すぐさまスプルーアンスが応える。射撃指揮所にてトリガーが引かれ、三基の主砲塔から一斉に炎が沸き出す。右砲を用いた、観測射撃用の交互撃ち方だ。
同じタイミングで、“アイオワ”の前に位置取る二隻の重巡も砲炎を上げる。“ムーン”所属の軽巡や駆逐艦もだ。大中小様々な砲弾が、“リヴァイアサン”に向けて放たれた。
無数とも思われる水柱が上がる。しかしながら、命中弾の炎は上がらない。いかに“リヴァイアサン”が巨大といえども、そうそう簡単に命中弾を得られるはずもなかった。
報復はすぐに始まる。各艦が第二射を放つ中、“リヴァイアサン”艦上の複数個所から
「衝撃に備えろ!」
スプルーアンスの指示に、アイオワも身構えた。
“リヴァイアサン”艦上に、オレンジ色の爆炎が確認できた。身を乗り出さんばかりに、その正体を見定める。
爆炎の大きさからして、命中したのは駆逐艦の砲撃だ。速射能力にものを言わせて放たれるその砲撃は、残念ながら“リヴァイアサン”に何の被害も与えなかった。全てが艦体表面で弾かれてしまう。
“スティンガー”ですら、有効打を与えられたのは巡洋艦以上の砲撃である。とてつもなく巨大な“リヴァイアサン”に、駆逐艦の砲撃が通る道理がなかった。
あれだけ巨大だと、“アイオワ”の一六インチ砲をもってしても撃破不可能なのではないか。そんな思いを抱かせるほど、“リヴァイアサン”の存在は圧倒的だった。
軽巡洋艦とはいえ、“クリーブランド”級は重巡洋艦と遜色ない艦体規模と防御能力を誇る。全長百八十六メートル、全幅二十メートル、基準排水量一万一千八百トン。
その艦体が、一瞬浮かび上がったかのように見えた。爆炎に包まれた甲板が、見えざる手で持ち上げられ、真っ二つに叩き割られる。
「“コロンビア”轟沈!」
青ざめた声で見張り員が報告する。急速に波間へと没していく“コロンビア”の轟音が、“アイオワ”の艦橋までも震わせた。轟沈の衝撃の大きさを物語っている。
轟沈というよりも瞬沈という表現に近い。おそらくあれでは、乗員も多くが艦と運命を共にしたことだろう。
「撃ち続けろ!」
スプルーアンスが命じる。アイオワも心得ていた。
ここで退いたら、合衆国だけでなく、地球人類にどれほど大きな損害が出るか、想像もつかなかった。
止められるのは、“アイオワ”たちしかいないのだ。
“アイオワ”の主砲が再び射弾を放つ。その砲撃は交互撃ち方のままだ。彼女たちは、いまだに“リヴァイアサン”を捉えていない。
“リヴァイアサン”から、四度目となる
およそ一万メートルの距離を飛翔した一六インチ砲弾は、今度も命中弾を得ることがない。空しく上がる水柱と、こちらを嘲笑うかのような“リヴァイアサン”のたたずまい。
やはり悪魔に、砲撃は届かないのか。
飛翔してくる
だが。
彼女は思い出すことになる。
神から人類が手にした、火という知恵。
神のいないこの世界で、人類の叡智が産み出した、神の雷。
その威力を。
その頼もしさを。
神々しいまでのその美しさを。
突如として、“リヴァイアサン”の周囲に水柱が上がった。タイミングからして、米艦隊のものではない。
そもそも、
米海軍最大最強の火砲たる、“アイオワ”の一六インチ砲。その水柱よりも、さらに一回りはデカい。
―――いったい、誰が。
両用砲の迎撃網をかいくぐって自らに命中した
否、すでに気づいていた。
『新たな艦影!方位三三〇、距離二万!』
衝撃が収まるころ、レーダーマンが報告した。見張り員がすぐさま確認する。双眼鏡が向いた先を、アイオワとスプルーアンスも凝視した。
水平線に艦影が見える。丈高い艦橋と、頼もしい艦上構造物が、その重厚な姿を見せていた。
「艦影視認!」
四度目となる観測射の轟音に負けじと、見張り員が叫んだ。
「艦影は
太平洋の怪物。それは日本海軍が産み出した史上最大の軍艦。宇宙人よりも先に、この海に君臨していた、
アイオワは息を呑む。同時に、言いようのない興奮と力が、体の内側から湧き上がってくるのを感じていた。
それはあるいは、初めて自らの砲声を聞いた時の感覚に、似ていたかもしれない。
「イトー・・・」
スプルーアンスがポツリと呟いた。沖縄を目指して進撃していたという日本艦隊の指揮を執っているのが、彼の旧友であったことを思い出す。
新たな敵の出現に、“リヴァイアサン”も戸惑っているらしかった。“アイオワ”たちの第四射が降り注ぐ中、
「・・・“ムーン”を離脱させる。駆逐艦では“リヴァイアサン”にダメージを与えられない。このままでは、無駄に艦を失うだけだ。以後は“アース”のみで戦闘を続行する」
スプルーアンスが、決意を滲ませて言った。彼は、この“アイオワ”をもって、なおも“リヴァイアサン”と戦うつもりだ。
スプルーアンスの視線に、アイオワも頷いた。“大和”は自らがライバルと目してきた相手だ。そんな彼女と共に戦えることが、これ以上なく闘志を掻き立てる。
「“ムーン”宛てに、離脱を打電します!」
復唱して無線室に伝えようとした通信員を、スプルーアンスが引き止める。
「待て。最後にこう付け加えろ」
彼には珍しく、その口元は挑戦的に吊り上がっていた。
「
◇
「諸元修正急げ!」
第一射の結果を確認した有賀幸作“大和”艦長の声を聞きながら、大和は内から湧き上がる軍艦としての本能を確かに感じていた。
時代に取り残された私は、もはやその務めを果たすことなく、消えゆくものだと思っていた。
与えられたこの力を、お国のために役立てることなく、沈みゆくものだと思っていた。
―――「私と共に、死んではくれないか」
それが、私に与えられた、最後の仕事。お国のために、死んで来いという命令。それが
多くの命を、投げうつことになる。納得などできようはずもない。私が、“大和”が大日本帝国を象徴する戦艦で、生き残ってしまっていたがために、彼らは私と共に水底への旅路に着くのだ。
だが、それでも。
―――「死ニ方用意」
長官の決意に触れた。決して悲観しない乗組員たちに触れた。艦内に溢れる、「同期の桜」の歌声に、胸が洗われる心地だった。
すでに未練はない。
残った私にできることは。
明日のために戦う意味は。
ともに赴く彼らの想いは。
大和は前を見て、進むことを選んだ。それが、たった二日前の朝。
―――今、私は。
諸元修正の報告を聞きながら、大和は胸の内で呟いた。
今、大和は戦っているのだ。それは、軍艦としての本懐。私があるべき姿。私を必要としてくれる場所。
―――見ててね、武蔵、信濃。
お姉ちゃん、戦うから。
あちらで待つ妹たちをふり仰ぎ、大和は閉じていたまぶたを開いた。まだ低い太陽が照らす海面は、キラキラと反射して、彼女が思っていたよりもずっと眩しかった。
甲板員の退避を促すブザーが鳴る。
『第二射、てーっ!』
砲術長が下令し、射撃方位盤の引き金が引かれた。各砲塔中砲から、めくるめく閃光が上がり、巨大な砲煙が海面を覆い隠す。艦橋が割れるのではというほどの衝撃は反動もすさまじく、最大幅が三十九メートルに達する“大和”をもってしても、その全てを受け止めることはできなかった。
四五口径四六サンチ砲。日本海軍、否、世界のあらゆる艦砲の中で、最大最強を誇る、恐るべき兵器だ。今現在、この砲を運用できるのは、この“大和”しかいない。
大和は弾着を待つ。その時、見張り員が新たな報告を寄越した。
「“オロチ”に命中弾!」
やったか。前のめりになった大和は、しかし落ち着いて考え直す。第二射が到達するにはまだ早い。
だとすれば、“オロチ”に命中弾を叩き込んだのは。
「米艦隊です!ただ今の砲撃は、“アイオワ”級によるものと思われます!」
“大和”と同じ目標を砲撃するのは、敵であるはずの米軍艦隊だ。その中でも、最も大きな戦艦。
現場海域到着後、“オロチ”と米艦隊の両方を発見した一遊艦だったが、伊藤の指示に迷いはなく、真っ先に“オロチ”を叩くと決断していた。“大和”の主砲は、帝国海軍が長年ライバルと目してきた米戦艦ではなく、異星人の
マストに掲げられている将旗から、“アイオワ”級には沖縄攻略を指揮する司令官が乗っていると思われた。情報によれば、司令官の名前はレイモンド・スプルーアンス。伊藤とは、旧知の仲であると、大和は聞いていた。
―――長官も、大和と同じ想いなのでしょうか。
チラリと窺った伊藤の表情から、何かを読み取ることはできなかった。
『だんちゃーく!』
“大和”の第二射が到達し、丈高い水柱を上げる。三本の白い巨塔は“オロチ”の至近に現出していたが、その艦体を捉えてはいない。まだ修正が必要であった。
“オロチ”もまた、砲火に晒されるのを、座して待つはずはなかった。一遊艦の出現に戸惑っていたようだが、その艦上に新たな動きがあった。
「“オロチ”より、ドラム缶多数接近!」
“オロチ”の側面から箱形の射出機が現れ、赤い発光と共にドラム缶を撃ち出した。見てくれはあれだが、破壊力は本物だ。二水戦を半壊させたそれが、今度は“大和”を標的として迫ってくる。
「対空射撃、始め!」
ドラム缶を迎え撃つべく、“大和”左舷の高角砲と機銃が一斉に発砲した。もっとも、主砲使用中である現在、露天のそれらを使用することはできない。爆風シールドを施した半数ほどが、ドラム缶に向けて連続した火を上げる。
ドラム缶の周囲で次々に黒い花が開く。ドラム缶数発が弾幕に捉えられ、その場で爆発四散した。が、残った十発前後のドラム缶は、独特の縦回転を続けて“大和”の装甲にぶち当たった。
だが、それらが“大和”に被害を与えることはない。
舷側装甲、あるいは甲板装甲に突き立てられようとしたドラム缶は、そのことごとくが弾かれ、空中で炸裂する。“大和”の分厚すぎる装甲は、ドラム缶の貫通を許さなかったのだ。
自らの圧倒的な堅牢さに、大和は改めて驚嘆するしかなかった。
お返しとばかりに、修正の完了した第三射がその轟音を響かせる。あまりに強烈な衝撃が“大和”そのものを震わせた。
砲戦距離はそろそろ一万を切る。次辺りには命中弾を出したいところだ。
以前、サンベルナルジノ海峡では、三万メートル先の米空母に対して、たった一射で夾叉弾を得ることができたのだ。だがその後は、敵駆逐艦の妨害にあい、満足な砲撃を行うことができなかった。
おそらく、帝国海軍最後となる、この海戦。ここで働かずして、いつ働くか。
戦艦としての本分。
海軍の象徴たる誇り。
艦娘に生まれた意地。
負けるわけには、いかないのだ。
“大和”の砲撃が飛翔を終える前に、“アイオワ”級最初の斉射が“オロチ”に降り注ぐ。水柱と共に“オロチ”艦上の二か所で爆発が生じた。“オロチ”は苦悶するように打ち震えている。
そこへ、ついに“大和”の第三射が到達した。三発の四六サンチ砲弾は巨大な水柱を噴き上げ―――
「やりました!“オロチ”に命中弾!」
喜色を滲ませる見張り員の報告に、艦橋が歓声に包まれた。“大和”はついに、敵艦への砲撃を成功させたのだ。
誰もがこの瞬間を待ち望んでいた。世界最強のこの戦艦が、その能力を遺憾なく発揮する時を。その興奮に、拳を突き上げずにはいられなかった。
かくいう大和も、感慨はひとしおだ。静かに拳を握り締める。ようやく私は、その力を存分に示すことができる。嬉しくないはずがなかった。
「次より斉射!」
有賀が叫ぶ。修正十分と判断したことで、“大和”はついに、搭載した四六サンチ砲全九門を用いた砲撃を行おうとしていた。
ドラム缶の第二波が飛来する。その数は先ほどよりも少ない。“アイオワ”級か“大和”の砲撃が、ドラム缶の発射機をいくつか破壊したのかもしれない。
分厚い“大和”の装甲は、やはりドラム缶の貫通を許さない。しかし、今回は二発が、後甲板の非装甲区画に命中した。突き立てられたドラム缶は、数秒の間をおいて炸裂する。
「っ!」
痛みが大和を襲う。しかし、致命傷にはなり得ない。非装甲区画に被害を受けたところで、艦の運行に必要なものは何もないからだ。水線下に被弾すれば戦闘航行に支障が生じることもあるだろうが、ドラム缶は上空から降ってくるのでその心配もない。
とはいえ、被弾は被弾だ。ソロモン海をめぐる戦いでは、米巡洋艦の砲弾を非装甲区画に多数被弾した“比叡”が、最終的に航行不能に追い込まれている。“大和”が同じ事態に陥らないとは言い切れない。
この艦が戦える内に、“オロチ”を倒す必要がある。
『主砲、射撃準備よろし』
待望の報せが、射撃指揮所の砲術長から上げられた。左舷に指向していた“大和”の主砲、そこに収められた全九門の四六サンチ砲は、そのことごとくが巨龍のごとき砲身をもたげ、帝国にあだなす“オロチ”を睨む。
『てーっ!』
次の瞬間、それまでの主砲発射音が小鳥のさえずりに聞こえるほどの爆轟音と衝撃が、大和の鼓膜を叩き、艦橋を容赦なく揺さぶった。その反動だけで艦がひっくり返ってしまうのではと錯覚するほどだ。吐き出された砲炎も、海面に生まれた衝撃波のクレーターも、あらゆるものが既存のそれを遥かに凌ぐ。
砲口から飛び出し、“オロチ”に突き立てられようとしているのは、
“大和”の第一斉射が、いよいよその飛翔を終え、“オロチ”の頭上からその艦体を力任せに叩いた。噴き上がる水柱も、艦上で沸き起こる命中弾炸裂の炎も、“アイオワ”級のそれよりさらに大きい。
これが、私に与えられた力。
開いたり閉じたりした手のひらに、確かに実感がある。今の大和は、親愛なる陛下と帝国臣民のため、そして世界人類のため、持ちうる力を全力で発揮することができているのだ。
気づけば、諦めかけていた心に、再び炎が灯っていた。それはきっと、隣に立つ伊藤も同じだ。艦橋で戦闘を見つめる、参謀たちも同じだ。目を爛々と輝かせる、有賀艦長も同じだ。砲術長、航海長、通信長、機関長、全ての乗組員に共通した想いだ。
「次弾装填急いで!」
自然と声が出ていた。有賀がこちらを振り返り、それから不敵に笑った。その笑顔に、大和も柔らかく微笑んで応えた。
次の瞬間、異様な衝撃が“大和”を襲った。
戦闘自体は、次で終わるかと思います
あ、大和のVR、体験してきました。とんでもなかったです。本当に化け物ですね。あれが本当に海に浮いていたかと思うと、興奮せずにはいられません
それでは、また近いうちに