バトルシップ1945   作:瑞穂国

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最後は早めに投稿できました

戦いが終わった後。それぞれの艦娘に訪れる未来


未来

一九四五年九月二日。〇九〇二。

 

東京湾に、勇壮な軍艦の影があった。天を睨むかのようにそそり立つ、九門の主砲。塔状の艦橋は朝陽を浴びて鈍色に輝く。紛れもない、それは戦艦の姿であった。

 

だがしかし、その戦艦は日本艦籍ではなかった。

 

戦艦“ミズーリ”。“アイオワ”級戦艦の三番艦だ。

 

東京湾に錨を下ろす“ミズーリ”のメインマストには、海軍元帥を示す将旗と、なぜか陸軍元帥の将旗も掲げられていた。

 

乗艦する最先任将校の旗のみを掲げる軍艦において、このような異例の掲揚が行われているのには、理由がある。

 

日本の夏特有だという生暖かい風を感じながら、艦娘、ミズーリは、艦橋の最頂部から眼下の甲板を眺めていた。姉譲りの金髪は肩で揃えて、顔の右から流れる一房だけを長くしている。普段かけているロイド眼鏡は、今日は制服の胸ポケットに仕舞っていた。

 

元々多くの人間が乗っている“ミズーリ”だが、今日は一段と多い。甲板にわらわらと人が並び、群がる様は、どこか滑稽でもある。

 

人ごみの中央。そこには小さな机が置かれていた。その前には、くたびれた軍服姿の男たち。さらに、軍艦とは不釣り合いなほど上等な服を着る、明らかに軍人とは異なる人の姿も見えた。

 

日本政府の全権代表団。“ミズーリ”艦上で行われる、降伏文書調印式へ参加するためにやって来た、日本政府の高官たちだ。

 

この降伏文書調印をもって、長かった戦争がようやく終わるのだ。

 

マイクの前に立ったのは、連合軍最高司令官のダグラス・マッカーサー陸軍元帥。“ミズーリ”のマストに陸軍元帥の旗が掲げられているのは、彼の要望によるものであった。

 

―――それにしても。

 

ぐるりと辺りを見回し、ミズーリは何とも言えず、深い息を吐いた。

 

そこに、二人の姉の姿はない。彼女の憧れだった二人の姉は、沖縄沖の海底に、仲良く沈んでいる。実質、今はミズーリが、“アイオワ”級の長女だ。

 

この戦争で失われたものは計り知れない。日米、その他多くの国で、数え切れないほどの命が、生活が奪われた。その損失を埋めるのに、果たしてどれだけの時間がかかるのだろうか。

 

―――ここからが、始まりか。

 

粛々と進められていく調印式を眼下に望みながら、ミズーリはそんなことを思う。

 

それでも、戦争が終わろうとしている今この時ぐらいは、亡き二人の姉に思いを馳せることも、許されていいだろうか。

 

 

 

調印式は、二十三分で終了した。全権代表団が“ミズーリ”を後にするまで、彼女の祈りの時間は続いた。

 

 

一九四五年一〇月一五日。一〇三〇。

 

旧舞鶴工廠に、一隻の軍艦が横づけていた。陽光を浴びるその姿は随分とくたびれて、海軍らしい威容も栄光もない。それどころか、あらゆる武装が撤去されている始末だ。

 

自らの艦が、望まぬ形へと作り替えられていく様子を、一人の駆逐艦娘が見守っている。長い銀髪を後頭部で一つにまとめているが、前髪の一部が顔にかかって右目を隠していた。そこに宿る色を窺い知るものは、最早この(ふね)の上にはいない。

 

駆逐艦“朝霜”。“夕雲”型―――否、甲型と呼称される日本海軍駆逐艦の、最後の生き残りだ。その艦娘である朝霜は、羅針艦橋の上に上り、さもつまらなそうに足をプラプラとさせていた。

 

―――結局、誰も帰ってこなかったなあ。

 

後ろにごろりと寝ころび、空を見上げる。あいにく、追いかけるような雲もなく、憎らしいほどの青空だ。

 

朝霜は、大和率いる一遊艦に所属していた。菊水作戦に当たっては、一遊艦の一員として、沖縄への海上特攻に向かう・・・はずであった。

 

幸か不幸か、機関の故障に見舞われた朝霜は、艦隊に続行することが叶わず、取り残される形となった。何とか復旧が終わった時には、すでに例の“壁”ができており、結局一遊艦と合流することはできなかった。彼女は、泣く泣く呉へと帰還した。

 

彼女の他に、出撃していった一遊艦の艦艇は、一隻も戻ってくることはなかった。

 

それでも彼女は、懸命に戦い続けた。とはいっても、最早海軍など影も形もなかったから、やれたことと言えば、敵機に虚しく対空砲火を上げることと、港の中で盆踊りを踊ることのみ。それすらも叶わぬ仲間たちは、片っ端から米機動部隊の餌食になっていった。

 

気づけば、ただ一人、生き残っていた。

 

八月一五日を、彼女は宮津湾で迎えた。涙など出てこなかった。ただただ、言いようのない喪失感と、虚無感、無力感。

 

そして、アタイだけが生き残ってしまった、その得体の知れぬ胸の痛み。

 

一遊艦がその後どうなったのか。それを彼女が知ったのは、日本を占領するために入ってきた、米駆逐艦の話からだった。

 

―――「あんなに素晴らしい戦いは、後にも先にも、きっとあれだけよ」

 

彼女は、米海軍が「沖縄沖海戦」と呼んでいる海戦の、数少ない生き残りだという。

 

彼女は、知っている限り全てのことを、話してくれた。

 

異星人の船と戦い、多くの仲間が沈んだこと。一遊艦が現れて、日米が力を合わせ、最後の巨大戦艦を倒したこと。

 

日米最後の海戦が起こったこと。大和とアイオワが、お互いの存在をかけて、死闘を繰り広げたこと。迎撃の砲火をものともせず、美しい単縦陣を維持して突撃してきた駆逐艦のこと。

 

―――「私ね、日本が嫌いだった。でも、理由なんてなかったわ。だって、()()()()()()から。でもね、あの時・・・初めて日本の軍艦を間近で見てね。怖いのに、自分が沈んじゃうかもしれないのに・・・震えるほど、感動したの。あなたたちのことを嫌いだったことなんて、すっかり忘れてしまうぐらい」

 

興奮気味に語るその姿が、どこか末の妹と重なって。朝霜はただジッと、その話を聞いていた。

 

―――「それに、ね。私たち、一緒に戦えたのよ。ほんの短い間だったけど、同じ敵に立ち向かって、勝った。皆、それが何よりも嬉しかったんだと思う」

 

その時、初めて自分が泣いていることに気づいた。戦争が終わって、枯れ果てていた涙が、ポツポツと頬を伝った。

 

無駄ではなかったのだ。少なくとも、目の前の彼女にとって、一遊艦は無駄ではなかった。大和たちは、言葉では言い表すことのできない“何か”を、多くの艦娘たちに残したのだ。

 

それが幸せなことなのか、朝霜にはわからない。けれども、少なくとも靖国の彼女らが、虚しさの中で沈んでいったわけではないことだけが、はっきりとわかった。

 

―――「私は運よく生き残れたわ。だから、何ができるのかを、考えたい」

 

生き残った者にできることは、一体何なのだろうか。

 

「・・・うし。・・・うっし!」

 

おもいっきり頬を張る。くよくよするのはやめだ。辛気臭いのは、アタイの性分じゃない。

 

アタイは、駆逐艦、朝霜。“夕雲”型駆逐艦の朝霜だ。猪突猛進、後ろなど振り返らない。目の前に迫る荒波を乗り越え、ただひたすらに前へ前へと進み続ける。

 

体を起こし、大きく背伸びをする。くすんだ艦体も、こう見れば案外味わい深いものだ。

 

―――アタイにも、まだできることがあるはずだ。

 

だから、見ててくれ、皆。

 

舞鶴の港に風が吹く。強風ではないが、確かに彼女の背中を押してくれる風だ。そこに、微かな仲間たちの息吹が、混じっている気がした。

 

 

 

駆逐艦“朝霜”は、この後復員輸送に従事。彼女の戦後初仕事は、外地に残された多くの人々を、祖国へと連れ帰ることだった。

 

 

それは(そら)からやって来た。

 

では、(そら)のどこからやって来たのか。

 

サルベージされた“スティンガー”や“リヴァイアサン”の研究により、それらが恒星間航行能力を有していないことが判明した。すなわち、奴らは意外に近くから―――()()()()()()()()のどこかからやって来た可能性が高いことがわかってきた。

 

沖縄沖に現れた敵は、尖兵に過ぎない。

 

戦いは、これで終わりとはいかないはずだ。

 

人類は戦わなければならない。その叡智を掻き集め、強大な敵に立ち向かわなくてはならない。

 

「リメンバー・オキナワ」

 

沖縄を忘れるな。

 

例え戦争状態にある国同士であろうと、共通の敵のために、手を取り合って戦うことができる。

 

アイオワと大和。スプルーアンスと伊藤。彼ら彼女らは、確かに世界を動かしたのだ。

 

 

 

そして、それは再びやって来る―――




ようやく完結です・・・!

ものすごく軽いノリで始めた本作でしたが、何だかんだと、いろいろ悩みながら書き上げた作品となりました

一つの「戦争」を描いた結果として、人物や艦娘の考え、行動、言動・・・「これでよかったのか」と思うところもあります

言いたいことは多々ありますが・・・うん、ここで言っても仕方ないしね

ここまでのお付き合い、ありがとうございました
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