とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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「ブラック・ブレッド」編第一章を終えることができました。


想い

 「里見くん、今日の主賓は君なのよ。お願いだからお上りさんみたいにきょろきょろしないで。社長である私の方が恥ずかしいわ」

 

 「おい、でも木更さん、アンタ一言もこんな大事な行事だなんて言わなかっただろ」

 

 「あら、昨日言わなかった?今回の戦いで目覚ましい戦果をあげた民警には、聖天子様直々の叙勲式があるからビシッと決めてねって」

 

 「言ってねぇよッ!面倒くさそうに地図とスーツ投げられてそれで終わりだっただろ」

 

 「そうだったかしら?まあいいわ。あ、里見くんネクタイが曲がってるわよ。早く直して」

 

 「ああ、サンキュ」

 

 「うん、いいわね。それと新しい義手、まだ出来ないの?」

 

 「ああ、もう少しらしい」

 

 「そう言えばこの前、菫先生に会ったんだけどね、『ロケットパンチでステージⅤ退治とはね。ただのゆとりじゃなくて、ゆとり馬鹿だな。ファハハハハ』だって」

 

 「・・・・俺、東京エリアを救ったよな、なんで馬鹿にされてんだ?」

 

 「知らないわよ」

 

 木更がポケットから懐中時計を取り出す。

 

 「時間ね。いいわね?基本的にこういう式典は、貴重な聖天子様の財務の時間を削って行われるんだから、なるべく早く終わらせるのが暗黙の了解なの。だから質問されても『はい』か『いいえ』とか、なるべく簡潔な受け答えをして、決して時間を挟まないこと」

 

 「『はい』」

 

 「いい返事ね」

 

 

 

 蓮太郎は大扉の前に立って深呼吸をし、意を決してそっと扉を押し開ける。

 奥から帯状の光が差し込んでくる。背後を振り返ると、木更が優しく微笑んでいた。

 

 「今回の顛末、里見くんにしては良くやったわね、偉いわよ。これからも頑張って戦ってね、私のナイト様」

 

 胸からこみ上げてくるものを感じて、なにか言おうと思ったがとっさに言葉が出てこなかった。大扉が閉まり、首を巡らせると、正面にはカーペットと大理石の階段が伸びており、頂上の玉座には聖天使がゆったりと腰掛けている。

聖天子は薄い微笑みを湛えながら階段を降りてくる。

 生で見るのは初めてだが、モニターを介した姿よりも数倍神々しい美しさだ。聖室。背筋が伸びるのを感じたの女王は代々美人で有名だが歴代で随一なんじゃないのか。

 

 「怪我は大丈夫なのですか?」

 

 「はい。おかげさまで大分良くなりました」

 

 「どうですか、東京エリアの救世主になった感想は?」

 

 あれから数日経つ。作戦には大規模の民警がかかわったにもかかわらず、詳細は大衆に伏せられたままだ。『なぜか』突然東京エリアに攻め込んできたガストレア・スコーピオンを、『偶然』そこにいた民警が超長距離狙撃にて仕留めた、ということになっていた。

 

 「はい、周りの反応が少し変わったので、こそばゆいです」

 

 「でしょうね。当然です。あの光景は思い出すたびに身震いします」

 

 蓮太郎たちの放った神速の狙撃弾は狙い違わずスコーピオンの頭部に巨大な風穴を開け脳髄を吹き飛ばした。

 

 バラ二ウムの再生阻害が働き、即死のはずだった。だが、いかなる超常の力か、ぐるんと上体を傾けて、スコーピオンは蓮太郎の方を向いた。

 半分塞がった黒い眼窩は、蓮太郎に何かを訴えようと揺れたが、スコーピオンの背後から蓮太郎が撃った狙撃弾より数倍の威力を持った狙撃弾がスコーピオンの胸部を撃ち抜き、ガストレアは横向きに倒れ込むように着水して、東京湾に巨大な津波を打ち寄せた。

 

 「あなたたちのような有為な人材があの場にいてくれたことを私は誇りに思います。里見さん、あなたはこれからも東京エリアのために尽力してくださいますね?」

 

 蓮太郎は教わった通りにひざまずき、答える。

 

 「はい、この命に替えても」

 

 聖天使は大きく両手を上げると、厳かに告げた。

 

 「お集まりの皆様、お聞きになられたでしょうか?ここにいる英雄はこれからも東京エリアのために戦ってくれることを誓いました。ゾディアック・ガストレア『天蠍宮(スコーピオン)』の撃破、並びにIP序列元百三十四位蛭子影胤、蛭子小比奈ペアの撃破。以上のことから、私とIISOは協議の結果、今回の戦果を『特一級戦果』と見なし、里見蓮太郎と相原延珠ペアをIP序列千番に、昇格することを決めました」

 

 観衆がどっと喜びに沸く。彼女は連太郎に視線を移しながら微笑む。

 

 「里見蓮太郎、あなたはこの決定を受けてくれますか?」

 

 「はい、喜んで」

 

 「では最後に、なにか言っておきたい事はありますか?」

 

 『いいえ、ありません』、一言そう言えばこの場は万事滞りなく終えることができただろう。

 

 「あります」

 

 あたりの空気が張り詰めたのを肌で感じながらも会話は続く。

 

 「聞きましょう」

 

 「・・・・俺は、ケースの中身を見た」

 

 聖天子が瞳を見開き、周囲の人間は話の流れが読めず、困惑したようなざわめきを生むが、蓮太郎は続ける。

 

 「悪いとは思ってる。ガストレアゾディアックを倒した、ミサイルに協会が焼き払われるまでの短い間に、取り返したケースを開けて中を見たんだ。あの中には・・・・」

 

 蓮太郎は一瞬言い淀んだ。

 

 「・・・・・壊れた、三輪車が入っていた。どういうことだよッ。何故、あれがガストレアステージⅤを呼び出す触媒になり得たんだ?そもそも、突如世界に現れた敵性生物ガストレアとはなんなんだ?十年前、この世界に一体何が起こった!教えてくれ、聖天子様」

 

場にぶちまけられた喧噪は、もはや収拾がつかなくなるほど大きくなっていた。

 聖天子は表情を消すと、蓮太郎にだけ聞こえる小さな呟きを漏らした。

 

 「七星の遺産は東京エリアの外未踏査領域のとある場所に隠していたものなのですが、その一つが今回奪われてしまったのです。あれは、本来破壊した場合どうなるか予想がつかないものでした。ゾディアックがそれを取り戻しに来たのです。それ以上はお教えできません」

 

 「彼女たちイニシエーターは可能性です。知っての通り序列が向上すれば民警のペアには様々な特権が与えられます。擬似的な階級もそうですが、わけても機密情報アクセスキーは魅力的なものでしょう。あなたは序列千番なので、アクセスレベルは三です。そして並み居るライバルを倒しIP序列十番内になる事が出来れば、最高のアクセスキーであるレベル十二が与えられます。里見さん、勝ち取りなさい。欠番の巨蟹宮(キャンサー)を除く十一体、現存するゾディアック八体すべてを倒し、相原延珠と共に序列の階梯を駆け上がるのです。その時里見さんは知るでしょう。自分が何者でなにを為すために生まれてきたのかを。強くなってください、そして最強を目指すのです。あなたが里見貴春と里見舞風優の息子を名乗るなら、あなたには『この街』の真実を知る義務がある」

 

 蓮太郎は弾かれたように立ち上がり、聖天子に詰め寄った。

 

 「どういうことだよ!どうしてここで父さんと母さんの名前が出でくるんだッ!」

 

 いつまで待っても答えが返ってこず、蓮太郎にはこの場を去ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎は天童の屋敷に来ていた。

 天童本家は東京エリア第一句の一等地に立つ豪邸で、屋敷と言うよりカントリーハウスを思わせる巨大な洋風建築だ。幼い蓮太郎が引き取られ、育ったのもこの家だった。

 蓮太郎は合鍵で中に入ると、まっすぐに二階に上がり、目標の部屋を目指す。

 途中の廊下で、老年のハウスキーパーとすれ違う。

 久闊を叙したいが、蓮太郎は顔を伏せると知らないフリをして足早に通り過ぎた。

 やがて目的の部屋の前まで来るとXD拳銃を抜き、歯と膝を使い来ようにサイレンサーを取りつけて連続して発砲、蝶番を撃ち抜く。空薬莢を拾い集めるとドアを破って部屋に入る。

 奴が返ってくる前に手早くすませよう、そう思って机の引き出しを開け書類を検めようとするが、蓮太郎の携帯電話が震える。

 

 『やあ里見くん、元気かい?』

 

 蓮太郎は暴れ出しそうな心臓をどうにか押さえつける。

 

 「・・・・生きていたのか、影胤」

 

 『ああ、なんとかね。いや、大分効いたよ。今は安静にしろと言われていてね。しばらく仕事ができなくて困っている』

 

 「人殺しの仕事か?この機会にやめたらどうだ?」

 

 『残念だが、表の仕事だ。その内また、どこかで会うだろう。今日はその挨拶だ。次に会った時は負けないよ』

 

 「ああ。俺も、負けねぇ」

 

 『もう一つ、そろそろ里見くんに私の依頼主を紹介しようと思ってね』

 

 背後で拳銃の撃鉄を起こす音がして、蓮太郎は携帯電話を捨てると後ろも見ずにXDをドロウ。

 

 「こそこそと賊のまねか、蓮太郎」

 

 「・・・・もう帰ったのかよ、夜まで帰らないと思ってたぜ。天童閣下」

 

 「ここで何をしている?」

 

 「証拠になりそうなものを探してたんだ。もういい、本人に聞くのが一番早い。天童菊之丞、今回の事件は轡田大臣の暴走ということで決着がついている。だが俺は、今回の事件の黒幕はアンタだと思ってる」

 

 「木更の差し金か?」

 

 「俺の独断だよ」

 

 「ふん、どうして私が怪しいと思った」

 

 「ッ。アンタ・・・・否定しねぇのか?」

 

 「しても信じまい」

 

 「轡田大臣が首を吊って死んだ」

 

 「知っているとも。それがどうした?」

 

 「どうした?傘連判をみた。確かに、連判状に名前が書かれていた奴らは全員逮捕された・・・かれど、本当の首謀者は、あの場に書いてすらいねぇ。俺は連判状に書かれた名前を見て驚いたよ。どれも、アンタの派閥に居るか、過去に派閥に所属していた人たちじゃねぇか。俺が小さい頃、この屋敷で開いた晩餐会で全員に挨拶したことがある。これはどういうことだ!」

 

 「みんないい人だったッ。みんなアンタを尊敬してた・・・・・ッ。どうして、親玉のアンタだけが今回の計画に加わわっていないなんて信じられるッ?轡田さんもアンタに追及の手が及ぶのを防ぐために首をくくったんだ。彼が死んだ途端、捕まった連中はみんな測ったようなタイミングで彼を贖罪の羊(スケープゴート)にした。俺はアンタのことなんて知ったこっちゃねぇ。だけど、ここまでしといてふんぞり返っていて恥ずかしくないのか天童菊之丞!」

 

 息を急き切らせながら言い放つが、彼は顔を自嘲気味にわずかにゆがめただけだった。

 

 「なにゆえ私がそんなことをしなければならない?だとすれば私は東京エリアを破滅させるのが目的だったわけか?馬鹿らしい」

 

 「俺も最初はそこがわからなかった。けれど、影胤がケースを奪ってステージⅤ召還の為に未踏査領域に逃げ込んだ時、なぜかその情報が組織的にリークされる寸前だったんだよ。もしそんなことになれば、東京エリアが壊滅的なパニックに陥って、だれにもメリットがないはずなのに」

 

 「貴様は答えを見つけたというのか?」

 

 「『ガストレア新法』」

 

 その一言だけで菊之丞の眉が動いた。

 

「聖天子様が周囲の反対を押し切ってねじ込もうとした法案だ。イニシエーターや『呪われた子供たち』の社会的地位を向上させて、共生していくための法律。十年前の大戦中にアンタは奥さんをガストレアに殺されて以来、筋金入りのイニシエーター差別主義者だ。

 アンタと影胤の間でどういう取引があったのかは分からねェし、想像したくもない。だが、人間とイニシエーターの共生を屈辱だと感じるガストレアエリート主義の影胤とアンタのあの法案を潰したいという一点で利害が一致していたんだ。影胤と一緒にいた蛭子小比奈、つまり『呪われた子供たち』が東京エリアを破滅させるためのテロに一枚噛んでいることがマスコミにリークされれば、世論は出れ一人彼女たちに味方をしなくなるからな。アンタは元々東京エリアを破滅させる気なんてなかったんだ。この卑怯者め」

 

 その瞬間、喉元に拳銃が押しつけられる。

 

 「もう一度言ってみるがいい!」

 

 「何度でも言ってやるッ!事件の経過はこうだ。アンタは聖天子様が『七星の遺産』と呼んでいたステージⅤ召還の触媒を、部下の一人に未踏査領域に取りに行かせた。首尾よく触媒を手に入れ、ケースを影胤に受け渡して滞りなく終わるはずだった。しかし、部下は未踏査領域から帰る途中ガストレアに襲われ、体液を送り込まれた。部下は命からがらモノリスの中に逃げ込んだが、そこであえなくガストレア化。モデルスパイダーのガストレアになって人に人間を感染させる事態になった。その証拠に、連判状に名前が書かれたうちの一人が、今もって行方不明だ。きっと俺と延珠が倒した感染源ガストレアがそいつなんだろう。

 最終的に影胤はなんとかケースを取り返したが、今度はリークするはずの情報が、報道管制によって素早く聖天子様に封じられる。アンタはガストレアの恐怖を思い出させるために、ステージⅤ召還を実行させることを是認した。東京エリアの大絶滅を分かっていながらだ」

 

 「そうだとも!」

 

 突如菊之丞は火がついたように叫んだ。

 

 「すべては平和ボケした連中の目を覚まさせるためだ。何故忘れられる?なぜだ。十年前のあの日、日が落ち、地が裂け、この世界から人間が駆逐されようとした!あの虫けら共の血を宿した餓鬼共が何食わぬ顔でこの街を闊歩しているのだぞ。あの赤眼共はこの世すべてを破滅させる悪魔だ。なぜ冷静でいられる?奴等にまともな人権をあたえるだと?ふざけるな」

 

 蓮太郎は一瞬の隙を突いて銃を持った手を払う。直後に銃声が轟き蓮太郎の頬を銃弾がかすめる。蓮太郎は菊之丞の足を払い転倒させると、肋骨の隙間に膝を打ちこむ。みしりという手応えと共に、菊之丞が苦悶の声をあげる。

 

 「みんなそうだ!確かにアンタは奥さんを殺されたかもしれない。だが木更さんも両親を殺された。先生は恋人を失っている。けれど、みんなみんな、自分の過去と折り合いをつけて生きてんだよッ。アンタは亡霊だ天童菊之丞!十年前の憎悪を引きずった亡霊。聖天子様を補佐する立場でありながら、彼女を出し抜こうとした。アンタ聖天使様が嫌いなのか?」

 

 菊之丞は咳き込みながらも告げる。

 

 「馬鹿なことを言うな。敬愛している。彼女こそ、歴代の聖天使の中でも名君と呼ばれる類の人間ぞ。真に私が仕えようと思う女王よ」

 

 「だったら・・・・・」

 

 「だからこそ、許せぬこともある!」

 

 蓮太郎は眉間にXDを照準したまま菊之丞の燃える瞳を見た。そこの虚飾の色はまったく窺えない。この男は、聖天使への忠誠と、ガストレアへの憎悪を等分に持ったまま、狂気へと身を投じたのだ。

 

 「・・・・・きっと木更さんも真実に気付いてるぜ」

 

 「だろうな。だが証拠がない。なにもできん」

 

 蓮太郎は随分長い間、菊之丞の瞳を見つめていた。

 やがて膝をどけると、XDをベルトの間に挟み、踵を返す。

 

 「どういうつもりだ。私をいま殺さねば、後悔するぞ」

 

 「もうしてるよッ。アンタは木更さんの最大の敵だかんな」

 

 「貴様は・・・・・・・どうだというのだ蓮太郎よ」

 

 「なに?」

 

 振り返ると、菊之丞は顔中の皺を吊りあげた凄絶な表情を浮かべていた。

 

 「貴様はどうなのだ蓮太郎ッ。お前も手足を食われ、貴春や舞風優を奪われたのだろう?なぜ奴等を許せる?奴等を恨んでないのか?」

 

 「恨んでいたさ!八つ裂きにしても足りない。ガストレアも、『呪われた子供たち』もみんなこの手でぶち殺してやると思っていたッ!」

 

 「ではなぜだ!」

 

 「アンタは彼女たちと一人でも接したことがあんのかよ?彼女たちはつまらないことで泣き、笑い、スネて、柔らかくて人間のぬくもりに満ちている。彼女たちが虫けらだと?アイツ等は人間だ。俺は、里見蓮太郎は相原延珠を信じる!」

 

 「蓮太郎・・・・・・貴様と言う奴は」

 

 蓮太郎はゆっくりと眼をつむり、続ける。

 

 「アンタは俺の命を救ってくれた。『死にたくなければ生きろ、蓮太郎』ってね。簡潔でアンタらしい。絶望に両眼を閉じたとき、折に触れてこの言葉を思い出し乗り切った。

 ・・・・・十年前のあの日のこと、一日たりとも忘れた事はありません。ありがとう・・・・・さようなら、お義父さん」

 

 蓮太郎は屋敷を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様、蓮太郎~」

 

 屋敷を出ると、門の前でレイが待っていた。

 二人で室戸菫のいる病院に行くために待っててもらったのだ。

 

 

 

 菫の話を聞き終わり、待ち合わせ場所に指定した病院前の公園に歩いて行くと、延珠と夏世が駆け寄ってきた。

 

 「蓮太郎、妾たちの検査結果はどうだった?」

 

 「ああ、二人ともほとんど変わってなかったぞ」

 

 「そうですか」

 

 「せっかくだから、二人でアイスを買ってきたら?」

 

 二人には待っててくれた御褒美だと言って、レイは二人にお金を渡した。

 二人が走って行くと、蓮太郎にアクセラレーターから渡すように言われている封筒を渡す。

 

 「蓮太郎~、ガストレア倒した時に警察から報酬を貰うの忘れてたでしょ~?」

 

 「あっ!」

 

 「はい、兄ちゃんから渡すように言われてたから」

 

 「助かった。これで延珠と木更さんから蹴られないですむ」

 

 「いったいどんな立場なの?」

 

 「今度アクセラレータにお礼言っといてくれ」

 

 「それはいいけど」

 

 「それと夏世を救ってくれてありがとう。あの時、俺には夏世を救うことが出来なかった」

 

 蓮太郎はお礼を言って、あの時の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 レールガンモジュール稼働のあと、疲れて泥のように眠ってしまった延珠をそっと床に横たえて、蓮太郎は静かに施設を抜け出していた。

 少し施設から離れて『天の梯子』を仰ぐと、飛翔体を加速したレール部分がひしゃげていた。やはり急激な飛翔体の加速にレールの強度がもたなかったらしい。

 ガストレアは大きな音に敏感だ。影胤と死闘を繰り広げている時や、レールガンモジュール稼働の際に凄まじい轟音が未踏査領域に響き渡ったにも関わらず、ガストレアが寄ってこなかったのは、誰かが津波のように押し寄せてくる夥しい数のガストレアを止めていたからだ。

 徐々に血の匂いが濃くなってきた。

 蓮太郎は巨岩の裏に回り、息を詰めた。

 目の前には巨大なガストレアの死骸があった。コモドオオトカゲを十倍に巨大化したような固体は、前足がなくなっており、下顎が吹き飛んでいた。

 他にも昆虫に似たガストレア、植物の蔓が巻かれたようなガストレア、ヘビやカエル、元の生物が何なのかわからないくらいに変貌したガストレアがいた。大きさやステージ、形態も様々だ。

 そこで岩を背にして座っている夏世を見つけた。

 

 「どうして・・・・・どうして逃げなかったんだよ。劣勢になったら逃げるって、言ってたじゃねぇか!」

 

 夏世は虚ろな瞳で連太郎を見上げた。 

 白いワンピースは血で汚れ、あちこちに噛み傷と歯型が残っている。

 

  「里見さん・・・・・・私は・・・・・?」

 

 蓮太郎は暴れそうになる心臓を押さえつけて、告げる

 

 「お前は、おそらく体内侵食率が五十%を超えている」

 

 彼女たち『呪われた子供たち』は、絶えず浸食抑制剤を投与して体内のガストレアウイルスを押さえつけているが、『抑制剤』に『抑止』の効果はない。抑制因子を持って居るため一般人のように一瞬でガストレア化することはないが、力を急激に開放したり、ガストレアに体液を送り込まれたりすると、微々たる速度で侵食率は上がっていく。

 そして一般人と同じく、体内侵食率が五十%を超えると、一気に侵食が始まり人の姿を留められなくなる。

 その臨界点(マージナルライン)は、現代の医療技術ではどうしようもない。

 蓮太郎は丁度薬室に一発だけバラ二ウム弾が残っている事を確認し、XD拳銃にサイレンサーを取り付けると、無言で彼女の眉間に照準した。

 

 「里見さん、将監さんは?」

 

 「・・・・・無事だ」

 

 「嘘が下手ですね」

 

 「悪い」

 

 「里見さん、お願いします。人のまま、私を死なせて下さい」

 

 銃口があちこちに飛び跳ね、馬鹿みたいに照準が狂う。

 

 「里見さんは優しいですね。泣かないで」

 

 「泣いてねぇよ」

 

 「私の存在を肯定してくれるあなたを死なせたくなかった。だから頑張った。辛かったけど、私、生きてて良かった」

 

 夏世は続ける。

 

 「・・・・ねぇ、里見さんってあんまり友達いないでしょう?」

 

 「え?」

 

 「・・・・・・しょうがないから、私が友達になってあげます」

 

 「・・・・ああ、友達が少ねぇから助かるよ」

 

 「・・・・・お前は、俺のかけがえのない友達だ。俺はお前を忘れない」

 

 蓮太郎があと少しで引き金を引こうとした時、ライが入って来た。背後にはアクセラレータも立っている。

 

 「悪いけどもう少し頑張ってくれないかな~」

 

 しかしその口調はレイのままだった。

 

 「・・・え?」

 

 夏世は戸惑っていたがレイは続ける。

 

 「君の言う『将監さん』の頭の中を覗いたんだ。だから今から言うのは彼の言葉だ」

 

 「・・・え?」

 

 『やっぱり・・・戦いってのはいいな・・・・。俺みてぇな腕力だけのヤツでも、唯一自分の存在を感じられる。なぁ夏世、俺たちは戦いから離れる程、痛ぇ目を見る。かなうはずもねぇ夢は語る分、辛ぇ思いをする。だったら俺が使ってやる。その時間だけが、お前の存在を正当化できる。なぁ夏世、俺たちは正しいんだ』

 

 「将監さん・・・・ッ!」

 

 夏世の目から涙が零れる。

 

 「本当はまだ生きたいんじゃないの?」

 

 レイから質問が来る。

 

 「当然ですッ!私は将監さんにまだお礼を言えてない。将監さんの分まで生きたい」

 

 レイは夏世の叫びを受け止める。

 

 「わかった。少しだけ体を借りるよ」

 

 「え?」

 

 次の瞬間、夏世は意識を失ったがすぐに目を覚ました。

 蓮太郎が声を掛ける。

 

 「おい」

 

 「蓮太郎、俺だ。説明は後で何度でもする。だから、この弾倉を使って撃て!」

 

 だが、返ってきたのはレイの言葉だった。

 

 「迷うなら貸せ!自分でやる」

 

 「いや、俺がやる。・・・・俺にやらせてくれ」

 

 レイは蓮太郎を気遣って自らやろうとするが、蓮太郎はそれでも自分でやることを告げる。

 

 「よし。全て撃ったら、最後は俺と兄ちゃんでやる。やれ!」

 

 レイの言葉に続いて撃った。言われた通りに全弾使った。

 するとアクセラレータが夏世の傷口に手を当て、目をつむる。

 夏世も目をつむる。

 突然、傷口から大量に血液が出て来た。

 レイは苦しみながらも続ける。

 それから五分経過して、作業は終了した。 

 無事、成功した。

 

 「すぐに病院へ行く。当麻がよく行ってる所だ。室戸さんも呼んである」

 

 レイはそう言って夏世を背負い、待機させていたヘリに乗って『学園都市』に戻って行った。

 蓮太郎は延珠を背負って、アクセラレータ、ライと共にヘリに乗ったのだった。

 その後、レイと夏世は治療を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁ、蓮太郎」

 

 「ん?」

 

 「いいのか、検査結果を伝えなくて?」

 

 「ああ、いいんだ。まだ俺は延珠に言いたくない」

 

 「それはエゴだよ~?」

 

 「いいんだよ。俺のエゴで」

 

 「ふ~ん。じゃあ、木更ちゃんに言っとこうかな。『蓮太郎はエゴで出来ているから気を付けなよ~』って」

 

 「ッ!レイ、それはないだろ!」

 

 「蓮太郎、どうしたのだ?」

 

 興奮している連太郎を見て延珠は?を浮かべる。

 

 「それはねぇ~、今回の件でIP序列が千番に上がったからだよ~」

 

 「本当か、蓮太郎!」

 

 延珠の目が輝いていたために、蓮太郎は頷くしかなかった。

 

 「ああ」

 

 「レイさん」

 

 「ん~、どうしたの?僕たちの序列は前と一緒。千五百八十四位だよ~」

 

 「いえ、それもですが・・・」

 

 「どうしたの~」

 

 「今まで私の名前を呼んでくれたことがありませんが、ひょっとして嫌いですか?」

 

 その言葉を聞いた時、蓮太郎は延珠と共にニヤニヤと笑い出した。

 

 「いや~、単純にどう呼んだらいいかわかんなくて」

 

 「そうですか。じゃあ、これからは「夏世」と呼んでくださいね」

 

 夏世は言い終えると延珠と一緒にベンチでアイスを食べ始めた。

 

 蓮太郎のニヤニヤ笑いを視界に捉えたレイは尋ねた。

 

 「なんだよ?」

 

 「別に~」

 

 「おい、それは僕の真似だろう」

 

 「何の事かな~?」

 

 「だからそれの事だ」

 

 「延珠~、俺にも一口くれ~」

 

 「うむ」

 

 「おい、待てって」

 

 「レイさん、一緒に食べませんか?」

 

 「あ、ありがとう。だからそこ、何笑ってんだよ?」

 

 「別に~。なあ、延珠~」

 

 「うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「蓮太郎君は良い友達を持った。だが君は延珠ちゃんにどう伝えるつもりだい?」

 

 菫は一人、薄暗い部屋で『相原延珠、ガストレアウイルスによる体内侵食率四十二.八%』と書かれた診断カルテを片手に呟いていた。

 

 




夏世の治療に関しては、「アクセラレータが血流操作をやり、威力を増してからウイルスに侵された部分を摘出」という感じで書きました。

珍しいペアができました。
ペアと言っても夏世はレイとライ、二人の相棒として書いて行きます。
夏世の想いにレイは気付けるのか?
次回からは「一七七支部」の話になります。

何度も言いますが盗作はしていません。
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