とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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新年、明けましておめでとうございます‼
………はい、年明けまでに投稿できず、嘘をついた愚か者です。
それでも待っていてくれた皆さんに感謝を。
前回からの続きになります。


退院パーティ2

 四人は学校に急いで向かった。

暑い、苦しいと叫びながらも必死に足を動かした。遠目にモノリスを、風力発電機を目にしながら。

 その甲斐あって、いつもは二十分弱かかる距離を十分で走破する事が出来た。

 しかし、そんな彼らを待っていたのは労いの言葉・・・・・・・ではなく、不満の声だった。

 

 「遅い!一体何をしていた!」

 

 「・・・・・い、いや~、この気温の中で学校までってのはちょっと」

 

 レイは息を切らしながら那月に答える。

 

 「・・・・フン、まあいいだろう」

 

 滝のように汗をかいている四人を見て、何を思ったのか那月はそれ以上怒らなかった。

 

 「さっさとしろ。始めるぞ」

 

 「・・・・な、何を?」

 

 「お前の退院祝いに決まっているだろう」

 

 当たり前の事を聞くな、そんな顔をされた。

 

 「内容は?」

 

 正直なところ、嫌な予感しかしないのだが、聞かなければ話は進まないだろうとレイは諦めていた。

 

 「せっかく、こんなに人数が集まってるんだ。変則的ではあるが、『三角鬼ごっこ』をやってもらう。・・・・・なんだ、嬉しくないのか?」

 

 「嬉しいわけあるか!こっちは今まさに走ってきたとこなんだぞ!これ以上まだ走らせんのかよ!?」

 

 「では、グループ分けをするぞ」

 

 古城の叫びはあっけなくスルーされてしまった。

 そして、チーム分けは以下の通りとなった。

 

 Aグループ・・・レイ、ライ、夏世、初春、佐天

 Bグループ・・・延珠、雪菜、木更、インデックス、黒子

 Cグループ・・・蓮太郎、上条、古城、美琴、固法、浅葱

 Eグループ・・・那月

 

 「AグループはBグループを、BグループはCチームを、CグループはAグループをそれぞれ捕まえてもらう」

 

 説明の途中で、古城は一つの疑問を口にする。

 

 「なぁ、Eグループってなんだ?」

 

 「なんだ暁古城、知らんのか。エクストラという意味なんだが・・・・・」

 

 「そういうことじゃねぇよ!」

 

 「・・・・・冗談だ。今から説明するからそう慌てるな」

 

 そして那月は一つ咳払いをして、補足説明をし始めた。

 

 「Eグループの私は、お前たち全員を捕まえるのだ。勿論、お前たちが私を捕まえる事も可能。これが、『変則的』である内容だ。学生に関しては、能力の使用は禁止とする。最後にペナルティについてだ。全員生存したグループがあれば、罰はなしで構わない。それと私を捕まえたグループも罰はなしとしよう・・・・だが、もし一人でも私に捕まったところがあるのなら、罰を与える。全員が掴まった場合は、通常の罰に加えて私直々の特別講義を開いてやる。ありがたく思えよ?」

 

 「・・・・・うげ」 

 

 説明を聞き終えたレイは嫌そうな顔をする。

 

 「・・・・まぁ、私からの退院祝いだ。ありがたく受けておけ」

 

 「・・・最後の一言、いらないよね~?」

 

 「現時刻は13時だから、制限時間は16時までとする。この学園の敷地内でのみ行うように。それでは開始!」

 

 レイの感想は、開始の合図によって掻き消された。

 三つのグループはそれぞれ別の方向へと向かう。

 こうして、変則三角鬼ごっこが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・はぁ」

 

 一時的にAグループの拠点としている一階の教材室から静かに、レイは扉を開け、外の様子を見る。

 

 「蓮・太・郎~!」

 

 「待て待て延!・・・つかお前いつもより速くないか!?」

 

 「先・輩~!」

 

 「おわっ!?・・待てって姫柊、雪霞狼(ソレ)を構えて走ってくんなよ!」

 

 外では延珠が蓮太郎を、姫柊が古城を追いかけているのだが、溜め息の原因はそれではない。

 

 「・・・・どうしたのよ?」

 

 横から、ライが訪ねてくる。

 

 「いや~、このルールってさ、『学生の能力使用を禁止』だったよね」

 

 「ええ、確かに那月ちゃんが言ってたわね。だから、夏世ちゃんと延珠ちゃんは引っかからない事になるわね」

 

 「うん。でさ~、『学生は』ってことだから、ねぇ」

 

 「・・・・・・そうよね。『教師』はアリってことになるわね」

 

 ライは、自分の言いたい事を言い当ててくれる。

 

 「正直言って、ずるくない?」

 

 「ずるいかもしれないけど、見方次第ではそうとも言えないと思うわよ」

 

 「・・・・どうしてさ?」

 

 「いくら『空隙の魔女』の異名を持つ攻魔師だからって、16人も捕まえるの能力を使わなきゃ苦しいわよ」

 

 「まぁ、そうなんだけどさ~」

 

 扉の前で話しこんでいる二人を見て、佐天は疑問を口にする。

 

 「・・・ちょっと初春、あの二人ってなんでこんな時に平然としてられんの?」

 

 「・・・・佐天さん、その事については今までに何度も白井さんと話し合ってきましたが、答えは見つかりませんでした」

 

 尋ねられた初春は、どこか遠い目をしながら答える。

 そんな彼女を見て、佐天が理解したのはこの一言だった。

 

 「・・・・・つまり、慣れるしかないと」

 

 「・・・・はい、非常に残念ですけど」

 

 彼女たちが呆れるのも無理はない。

 あの姉弟は扉を一枚隔てた廊下で蓮太郎と古城が騒いでいるにもかかわらず、焦ることなく話し合っているのだから。

夏世には、彼女たちの気持ちが凄く理解できる。

今でこそ慣れた夏世だが、最初は困惑したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの姉弟と夏世の三人でパトロールしていたある日。

スキルアウトの集団に絡まれたことがあったのだ。

三十人はいたであろう状況にも関わらず、あの二人は飄々としていた。

普通、どんなに喧嘩に慣れている人であっても、 相手に絡まれれば多少は強張ったりするものだが、当の二人にはそれが全く見られなかった。

むしろ、それ自体を楽しんでいると言わんばかりの表情をしていた。

その時の夏世にはまるで理解できなかったが、今なら予想が付く。

恐らく、欠如しているのだろう。

元からなのか、途中からなのかは判らないがそれだけは確かだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろ本題に戻るとしよう。

状況は先程と同じだが、変化があるとすればレイの指示で初春が校舎内に設置した小型カメラで他の場所の状況を確認している位だろう。

……因みに、小型カメラはレイが個人的に購入した物なのだが、その事は夏世とレイしか知らず、パトロールで楽をしたいという理由で購入したというのは内緒の話である。特にライには。

 

「レイさん、ライさん!すいません、藍羽先輩にハッキングされました。多分バレたと思います‼」

 

この部屋にいる全員がそれを聞き終えると同時に、扉に圧力がかかり始める。

未だに古城と蓮太郎の声が聞こえてるという事は、今まさに扉を開けようとしているのは上条だろう。

 

「皆、いいわね?手筈通りにやるのよ!」

 

ライの言葉を聞き、全員が首を縦に振る。

それは、予めこうなる事を理解していたライの戦略。

レイ一人で扉を押さえ、その隙に他の四人が窓から脱出する。

教材室は一階にあるので、窓から出ることは可能だ。

四人が脱出したのを確認したレイは勢い良く扉から離れる。

上条の力が強かったのもあって、予想よりも後ろに離れた。

そして、扉を開けた上条はといえば・・・。

 

「へっ、やっと追い詰めたぞレイ。補習を受ける覚悟はできたか?」

 

これで終わりだと言わんばかりの顔をしていた。

 

「………あ~っと、それなんだけどね当麻さんよ」

 

「……どうしたよ」

 

「これって那月ちゃん曰く『退院祝い』らしいんだよね。つまりさ、僕だけ罰はなしってことには……」

 

「なるわけないだろ!」

 

「……だよね」

 

………時間を稼ぐ事は不可能だった。

話をしている間にも当麻はじりじりと距離を詰めてくる。

そして、その距離もあと僅かというところまできた瞬間。

 

「自分だけが無事でいようってんなら………まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条の渾身の右手がレイに触れる…………事はなかった。

 

何故なら、右手が触れる直前に上条の身体がネットに包まれて、天井に吊るされたからである。

 

「…………あれっ?」

 

「くくくく……」

 

上条の気の抜けた声と、レイの笑い声が部屋に、廊下に響く。

 

「…… くくくく、ちょ、ちょい待って。腹、腹痛い!くく…………」

 

そしてレイは腹を抱えて笑い出し、それは数分続いた。

 

「……ふー、やっと落ち着いた。ダメだって当麻。『窮鼠猫を噛む』ってことわざもあるんだからさ、油断してちゃ足下をすくわれるよ~。じゃあね~!」

 

「…………」

 

レイはそれだけ言って窓から出た。

その後、ネットに包まれたままポカーンとしている上条が、呆れられながら『那月ちゃん』に捕まるのは誰もが予想できる話である。

 

 

 

 

 

「あ~笑った笑った。さ~てと、姉ちゃんたちは………」

 

校庭に出て次なる集合地点に向かおうするレイだが、足を止めてしまった。

理由は簡単、目の前から蓮太郎が走ってきたからである。

 

「……」

 

右に左に動けど、蓮太郎の視線はしっかりと自分を捉えている。

 

「やっと見つけたぞ」

 

そうこうしているうちに、背後から声が聞こえてきた。

振り返らなくても誰かは判る。

この『退院祝い』で最高難易度を誇る担任だろう。

偶然が重なっただけのタイミングでは、蓮太郎も那月もお互いの姿は認識していないだろう。

『前門の虎、後門の狼』となっているこの瞬間、レイがとった行動は、蓮太郎に突っ込むことだった。

 

「なっ!?おい待て!?」

 

後ろから那月が慌てたように鎖を追いかけさせる。

前方でも、蓮太郎の焦る表情が見てとれる。

二人とも、こうなるとは予想していなかったのだろう。

そして、蓮太郎と僅かの距離まで近づき、その場に止まった。

蓮太郎が手を伸ばしてくる。

那月の鎖がもう少しのところまで迫ってくる。

両方がレイを捉えるその瞬間、レイは右に右に大きく飛んだ。

飛んだ……というよりは横っ飛びの方が近いが、この際、それはどうでもいいだろう。

とにかく、それが功を奏して、突然目の前に現れた鎖に蓮太郎は手を触れてしまった。

結果、蓮太郎も上条と同じ運命をたどる事となった。

 

 




いろんな意味でしょうもないお年玉になりました。
次回に続きます。
待っていてくれたら嬉しいです。

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