とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社 作:怠惰ご都合
「・・・・オイ、一体何やらかしに来やがった」
転移したと思ったら、今度は聞き慣れた声がした。
しかし、辺りを見渡しても声の主が見当たらない。
目の前では、何故か蓮太郎が両手で足元をアピールしている。
指示通りに、ゆっくりと足元を見てみると・・・・
「・・・・・・早くどけ」
言葉では表現しにくい体勢の、
「・・・・・・やぁ兄ちゃん」
そして何もなかったかのように、レイはその場を退いて、声をかけた。
「・・・・・・この状況で『やぁ』なんて言えるのは、お前かアイツぐらいだな」
「お褒めに写かり光栄で~す」
「どこをどう捉えれば、褒められてるなンて思えるんですかねェ」
アクセラレータの愚痴を聞き流しつつ、状況を確認する。
どうやら、現在はリムジンに乗っているようで、付近にはウェディングドレスに似た白い礼装を着た聖天子と、不幸そうな顔の蓮太郎、蓮太郎に膝枕されたまま気持ちよさそうに寝ている延珠、更にはこの空間で一番不機嫌な兄が揃っている。
「で、今回のお仕事は護衛なの蓮太郎?」
渋々と
「ああ、名指しでな」
「わお、蓮太郎君は絶賛モテ期ですか」
「・・・・断じて違う」
直後、延珠が勢いよく起きる。
これにより、蓮太郎の下顎に激痛が走る。
「・・・・うるせェ」
「兄ちゃん、お疲れ様です」
「・・・困らせてる本人に同情されたかねェよ」
「はは。んで、今日の会談相手は?」
「三下以下の悪党・・・・だと、そいつらに失礼だな。そいつら以下か」
「うわ、ばっさりしてる」
「どうでも・・・・・・・・おい、イニシエーター」
「・・・・・・む」
それまで騒いでいた二人が突然、静かになった。
「ねぇ兄ちゃん、何が・・・・むぐっ!?」
「邪魔だから伏せてろ」
「蓮太郎、嫌な感じがする」
突然、レイは頭を抑えつけられる。
そして、延珠の呟きに促されるままに、蓮太郎は窓の外を見る。
何もない。
そう言おうとした途端、一瞬だけ何かが閃いた。
蓮太郎は咄嗟に、延珠の頭を伏せさせ、聖天子に覆い被さる。
そして、窓ガラスが破砕された。
直ぐに狙撃によるものだと解る。
リムジンは急ブレーキ音を上げながら、標識へと激突した。
「・・・・チッ」
既に延珠はドライバーを連れて外へと出ている。
蓮太郎は恐怖で動けない聖天子を連れ出そうとしている。
しかし、無情にも次弾が聖天子目掛けて襲いかかる。
「ハアアアアァァァァッ!」
延珠が叫びながら靴の裏で銃弾を弾く。
弾き飛ばされた延珠と入れ違いになるように、聖天子の護衛らしき人達が彼女の周りに現れる。
「・・・・面倒くせェ」
ため息をつく
そんな二人に小さい影が一つ近づき、声をかける。
「もっしもーしって、ミサカはミサカは白いモヤシなあなたに声をかけてみる!」
「あァ?」
「・・・・ん?」
二人が見たのは、頭から毛布を被った奇妙な人間だった。
身長は小さく、一〇歳前後といったところか。
「・・・・・・」
「・・・・あはは、それじゃ。もう迷子にならないでね~」
「やっと見つけたと思ったのに、今度はスルーなんて、いくらなんでも傷付くなーってミサカミサカはそれっぽく凹んでみたり」
その場を離れてようと歩き出す二人に、その少女は解りやすくしゃがみこんだ。
「・・・・ねぇ」
「・・・・ほっとけ」
「酷いなーってミサカはミサカは聞こえるように声を上げてみたり!」
「・・・・お客様」
「・・誰が客だオイ」
「・・・・ミサカはミサカは」
その名を聞いた途端、二人は足を止める。
「“ミサカ”だってさ」
「・・・・・・チッ、先に行ってろ」
「了解です、ロリコンお兄様~」
「・・・・さっさと行け。後で覚えてろよ」
一言二言告げて、二人は共に歩いていった。
結果的に一人になったレイは、周囲を見渡して呟いた。
「ここ・・・・・・どこ~?」
ライは
「・・・・」
「・・・・・よ、よぉ」
「・・・お久しぶりですライ先輩」
二人の服装を見て微妙な顔になるライと、やや困惑気味の古城と雪菜。
そこは異様な空気に包まれていた。
「ねぇ、一ついいかしら?」
そんな中で先に口を開いたのはライ。
「・・・・お、おう」
周囲の空気が重苦しくなる。
そして、ライの口から出た言葉は・・・・・・
「古城ってさぁ、全っ然タキシード似合わないわよねぇ!あははははは!」
古城の服装についてだった。
普段あれほど面倒くさがりな友人が、真面目な顔してタキシードを着ているというのがトリガーとなった。
ライの笑い声が止んだのは、数分後。
「・・・・気は済んだかよ」
「えぇ、お陰様ですっきりしたわ!」
「そうかよ。・・・・・・くそっ、やっぱり来るんじゃなかったか?」
「・・・・あ、あの先輩。ライ先輩の様子、どこか普段と違いませんか?なんというか、こう陽気というか」
恥ずかしそうにしている古城に、雪菜は訪ねる。
「いやいや姫柊、それ騙されてるから。コイツ、いつもこんなんだから。つーか、普段は猫被り過ぎな位」
「は~、古城ってば失礼ね。素直にオンオフの切り替えが出来てるって言いなさいよ。それに、基本的にはレイを抑える為に動いてるんだからね」
「・・・・ホントに抑えてんのかよ」
「じゃあ普段からオープンにしましょうか?そうなったら誰がレイを制御するのかしらねぇ」
「・・・・悪かったよ、勘弁してくれ」
「そ、それでライ先輩は何故、
今まさに停船しているのは戦王領域の貴族である、
アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーのクルーズ船である。
いくらアレイスターの遣いとはいえ、招待も無しに勝手に乗り込むのはマズイはず。
「・・・・実は仕事で来たんだけどさ、レイが見当たらなくて」
「あぁ、なるほど。・・・・って事は、ひょっとして鬼ごっこの結末は・・・・」
「全滅よ全滅。あんなチート教師に勝てる訳ないもの」
「・・・ですよね。えっと、すいませんライ先輩。私たちはそろそろ」
「そうよね。じゃあ、古城がやらかさないように見張っててね」
「俺はガキ扱いかよ!?」
「じゃあねぇ」
二人が船に乗り込んだのを確認し、ライはその場を離れる。
そんな時。
『姉ちゃん、今どこ~?』
よく知る声が頭に響いた。
「・・・・
『うわ、遠いな~』
「あんたの現在地は?」
『・・・・』
「別に怒らないから素直に」
『・・・・第一区と兄ちゃんの学生寮の間』
「はぁ!?」
『やっぱり怒るじゃん』
「いや、えー・・・・つまり何処?」
『こっちが聞きたい位だよ~。転送陣を通ったと思ったら、急に聖天子様のリムジンの中でさ~』
「・・・・まぁ、いいわ。わからないけどわかったから」
『それ解ってないって言えば?』
「取・り・敢・え・ず‼詳しいことは学生寮に戻ってから整理しましょう。流石に自力で帰れるわよねぇ?」
「う~ん、多分」
弟の曖昧な解答を聞いて、会話を打ち切る。
ため息をついて、レイは学生寮目指して歩き出す。
「・・・・やっと見つけたわぁ、お姉様」
レイが遠ざかると、物陰から一人の少女が姿を現す。
「これでやっと遊べるね。ターゲットは壊してもいいんだっけ?」
更にもう一人、少女が姿を現した。
「えぇ、でもやり過ぎてはダ・メ・よ。直せないし使えなくなるから」
「勿論だよ、すぐに終わったらつまらないからね」
暗闇の中で、二人の少女の瞳は赤く輝いていた。
今回も読んで頂いてありがとうございます。
話を入れ過ぎて混乱してる・・・・なんて事はないですよ。
えぇ、決して。
次の投稿はいつになるかまだ決めてませんが、それでも待っていて頂けたら幸いです。
それでは、また次回