とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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実は前回から1月も経っていないのに、投稿できてしまった自分に驚きを隠せない作者です。どもどもお久しぶりです。
意味でと比べて速い間隔での投稿に、実は偽物なのではないかと自分を疑ってしまいますが、そんな事はないはずですよ・・・・ね?ちなみにここ最近、作者のモチベがあるのは読んでいる方には内緒です・・・・・・・ハッ!?


誰かを救えるようになりたくて

 聖天子様護衛の日から数日後、授業が終わりその日の下校途中、蓮太郎が再び護衛につくという話を本人の口から聞いた。

 しかしそんな彼の目からは自身のかけらも感じられなかった。

 

 「えっ、でも蓮太郎それ大丈夫?」

 

 「何がだよ?」

 

 「レイ、やめときなさい。それは本人がよくわかってることなんだから私達が口出しするのはおかしいわ」

 

 思わず聞きそうになってしまったが、それを口にする前に隣を歩く姉が遮る。

 

 「えぇ、いやでもさ〜」

 

 「だからなんなんだよ!?」

 

 お預けをくらい続け段々と口調が強くなる蓮太郎。

 そんな彼に対して姉が口にしたのは、

 

 「確か、相手の方が遥かに格上なんでしょ?それに、事務所を荒らされ、追い詰められたとかって。そんな相手にどうやって立ち向かうっていうのよ。アンタより動ける延珠ちゃんだって歯が立たなかったらしいじゃない?」

 

 蓮太郎の実力不足という現実だった。

 

 「うっ!?いやでも、対応策が無いっていう訳でもないし、ひょっとしたらなんとかなるかもしれないだろっ!?」

 

 「そんな行き当たりばったりでどうにかなってるなら、アンタのランクはとっくに一桁になってるでしょ」

 

 「落ち込むのは早いよ蓮太郎。今まで姉ちゃんは確かに冷たいこと言ってきたけど、なんだかんだで助けてくれるツンデレキャラ。ということは態々冷たくするってことはきっと考えがあるってことだよ。でしょ姉ちゃん、方法がないって訳じゃないんでしょ!?」

 

 「誰がツンデレよ。・・・・・そうね、イニシエーターってモデルになった動物の因子が能力に関係してるじゃない?夏世ちゃんはイルカだったりするし。ってことは相手のモデル因子を知っておけばある程度はマシに動けるんじゃないかしら。モデル因子なんて、大抵は登録されてるし、調べればすぐに出てくるでしょ」

 

 「・・・・でも、それだけじゃ」

 

 蓮太郎の声にいつものような覇気がない。

 それもそうだろう。普段から共に行動しているイニシエーターが先日敗北し今尚、病院のベッドで眠り続けている。そして、今度はその相手に自分一人で挑まなければならないのだから。

 

 「それに、ただ延珠ちゃんの仇を取りたい・・・・って訳じゃないんでしょ。どうせ蓮太郎のことだもの、相手の事もどうにかしたいとかそんな感じのことを考えてんでしょう」

 

 「・・・・・ああ」

 

 さっきまで下を向いていた蓮太郎の顔がやっと、姉ちゃんと向き合った。それはきっと、彼の覚悟が決まった事を意味しているのだろう。

 

 「だったらいっそのこと両方ともやり遂げた方が、いつも学校で私達と騒いでる蓮太郎らしいじゃないの」

 

 「そう、だな。うん」

 

 「さっきまでのアンタ、正直昔のレイを見てるみたいでつい口出ししちゃったわ。あんま手間かけさせないでよね」

 

 一方的に話を終えると、姉ちゃんはさっさと歩いていってしまった。相変わらず、こういう時の姉ちゃんは一方的に相手を励ましてしまう。それは相手が望んでいようが望んでいまいが関係なく、だ。

 

 「だってさ、なんかゴメンね蓮太郎」

 

 「いや、寧ろありがたいよ。きっと慰められてたら俺は落ち込んだままだったからな。用事ができたから俺は戻るな」

 

 「・・・・うん」

 

 「レイにありがとうって伝えといてくれ!」

 

 そう言って蓮太郎は来た道を引き返し、走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎の姿が見えなくなったのを確認して、僕は姉ちゃんの後を追いかける。幸い、姉ちゃんは待っていてくれたようで、距離的にはそんなに離れていなかった。

 

 「どうしたの姉ちゃん?いつもより優しいじゃん?」

 

 「別に、ただの気まぐれよ」

 

 「・・・・そっか」

 

 「ところでレイ、アンタこのあと暇?」

 

 「・・・・そりゃあ暇だけど」

 

 「ちょっと私の用事に付き合いなさい」

 

 「内容は?」

 

 姉ちゃんがこう聞いてくるときは大抵、自分たちに関わることだ。そんで、そんなときは素直に協力する方があとあと楽なだということを知っている。

 

 「この前、あの二人が『木原から逃げて自由になりたい』って言ってたの、覚えてる?」

 

 あの二人というのは、先日訪ねてきたリフとメイのことだろう。もちろん覚えてる。だってあの二人から聞いた話は、過去に自分たちが受けてきた実験と何ら変わらないものだったから。

 

 「忘れられるはず、ないよ」

 

 「彼らの話、どこまで事実だと思う?」

 

 「半分くらい」

 

 「おしいわね。たぶん私の考えだと、最初から嘘が混じってるから。でもホントのことでもある」

 

 「どういうことさ?」

 

 「相手に話を信じさせるにはね、事実が100%でも、嘘が100%でも駄目なの。事実に嘘を混ぜてそれっぽく伝えるのが、相手に信じさせる手段なのよ」

 

 「じゃあ、どの部分に嘘の要素があったの?」

 

 「1つ目は『木原から逃げて自由になりたい』かしらね。逃げたいというなら、真っ先に私達のところに来たことの説明がつかないのよ」

 

 「たまたまじゃないの?もしくは尾けてきたとか」

 

 話しながら、姉の顔を見る。その視線に気づいたのか、姉も視線を合わせてくる。

 

 「偶然だというなら、もの凄い確率なのよ。学園都市は魔族もいるとはいえ、学生がほとんどでしょう。つまりそれだけの数が寮に住んでるのよ。しかも私達のいる寮にだって、他にも生活してる学生がいる。そんな中でピンポイントで私達のところに来るのって不可能に近いわ。尾行も同じ理由ね」

 

 それは、確かにそうだ。

 それこそ誰かに聞いたか、調べてきたかでなければ不可能だろう。

 

 「2つ目は、責任者ね。私達の時はあの木原幻生(狸爺)だったけど、今もそうかなんてわかりっこない。そもそもあの子達が知ってたかどうかすらも怪しい。そうなると誰かが教えたってことになる。それも私達のことを知ってる人物ね」

 

 きっと名前を口にするのも嫌なのだろう。その名前を告げる際に姉ちゃんは静かに拳を握りしめていた。

 

 「それから3つ目。あの二人は最後に『帰る』って言った。逃げ出してきたならそんな事を言わない。だって帰る場所がまだないんだもの」

 

 その3つから導き出されるのは、一人の男。

 僕たちの居場所を知ってる程度には闇にいて、直接実験を引き継げるくらい木原幻生(狸爺)と知り合いで、リフとメイの帰る唯一の居場所。

 

 「この条件から該当するのはただ一人、あの男だけなのよ」

 

 あの日あの時、僕たちを逃してくれたあの木原だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままの足で姉弟は一七七支部へと向かった。それは夏世を迎えに行くため。そもそも、学生とはいえ姉弟が外に出ているのに、夏世が一人で寮で留守番をするというのは、いくら彼女がイニシエーターとはいえ、それでも10歳の少女に変わりなく、日中一人きりでは心配だと姉ちゃんから相談を受けたからである。まぁその点に関しては僕も同感である。

 しかし、ではどこにいてもらうのが良いのだろうか。そんな事を風紀委員の仕事中に話し込んでいたら、仕事が手につかなくなり、寧ろ増えていく一方だった。

 その様子に見かねた固法先輩が告げたのだ。

 

 「ならここで待っててもらえばいいじゃない。もちろん私達も日中は学校だから一人での留守番には変わりないけど、それでも学生寮で過ごすより安心できると思うわよ。支部の中なら冷蔵庫とか好きに使っていいし、何よりセキュリティに関しては問題もない。それに夕方なら私達がいるからあなた達も心配するようなことは起きないはずよ」

 

 と。いやまぁそれは確かにその通りではあるが、それでは先輩たちの仕事が増えるのではないだろうかなんて思えば。

 

 「何言ってるのよ。この先ずっと不安を抱えたまま、あなた達の仕事が増え続ける方が問題よ」

 

 ・・・・完敗であった。

 夏世の方を見ると、彼女はそれで察したのか

 

 「私も賛成です。寮で一人で待ち続けるより、ここで誰かと話したり手伝っている方が楽しそうですから。それに、お二人が下校する際に、迎えに来てもらえれば一緒に帰れますから」

 

 なんて笑顔で口にしていた。

 彼女がそうならと、僕と姉ちゃんはその案に甘えることにしたのだ。

 だから今日もここに来るまで簡単に見回りを終えて、迎えに来たのだ。

 

 扉を開けると夏世はソファで寝ていた。

 どうやら先程までは起きていたのか、手元には何やら分厚い本が開いたままだった。

 起こさないように静かに入り初春と黒子、そして最近何故か当たり前のように入り浸っている佐天に簡単に合図する。

  

 「ところでなんだけどさレイ、アンタ演算すると、能力ってどこまで使えるの?」

 

 書類整理をしながら姉は声量を落として聞いてくる。

 

 手を動かしながら、僕も声量を落として答える。

 そんなしょっちゅう使う訳でもないしいいだろう、そんな軽い気持ちだった。

 

 「・・・・・・急だね、まぁいいけど。えーっと、自分の体が一部でも接してる場所があれば、そこを伝って射出・・・・・とか」

 

 例えば、レイが立っていたとしよう。通常であれば受けた衝撃を増幅した後にそのまま打ち出すが、演算を用いた場合は足を伝って地面に送り出し、任意の場所から撃ち出すというものだ。

 

 「姉ちゃんは?」

 

 「私は、そうね。ただ覚えるだけは避けることにしか使えないから。相手によってはまったく同じことをやり返す・・・・ぐらいはできるわね」

 

 例えば、相手が発火能力で攻撃してきたとしよう。完全能力は見たものを忘れないと思われやすいが、ライの場合は、相手のAIM拡散力場への干渉すらも(・・・)記憶することができる。しかし流石に相対したもの全てを再現することはできず、イメージしやすい(・・・・・・・)場合に限る。例えば一方通行のベクトル操作や未元物質など、目に見えず、わかりにくい能力に関しては不可能なのだ。

 

 姉ちゃんもやはり普段通りの調子で答えてくれる。

 淡々と仕事をこなすより話しながらの方が飽きないから、そんなつもりで話した内容だったのだ。

 

 「えっ!?お二人ってそんな事まで出来るんですか!?ちょ、もう少し詳しく教えて下さいよ!」

 

 だから佐天が話に食いついたのは少し意外だった。

 その勢いに驚いて、僕も姉ちゃんも思わず作業中の手を止めてしまった。

 

 「ちょっと佐天さん!?静かにしないと夏世ちゃんが起きちゃいますって!それに、ほらお二人も驚いてるじゃないですか!」

 

 慌てて初春が止めに入るもそれで素直に引く佐天ではない。

 

 「でもさ初春!せっかくだし見てみたいじゃん!なんだかんだ私たち、レイさんの能力使うところ一回しか見てないんだよ!?ねっ、白井さんも気になりますよね!?」

 

 「・・・騒がしいですわよ佐天。それにそれを決めるのはお二人ですわ。私達ではありませんの」

 

 「う〜ん、でも見せるわけにもいかないし」

 

 どうしたものか。そう考え込んでいるうちに、次第にある考えが浮かんだ。そしてそれを佐天にだけ聞こえるような距離まで近づき伝える。

 

 「そうだお詫びに佐天さんの能力ちょっと干渉してみようって思うんだけど、どうかな?結局、今までなんの説明もできてなかったし突然になるんだけど。ひょっとしたら何か掴めるかもしれないし、上手くいけばその先も可能性はある」

 

 「・・・・・・へ?」

 

 当然、佐天は反応できなかった。いや、処理が追いつかなかったと表す方が正しいだろうか。

 

 「ちょっと、アンタそれは・・・・・」

 

 「大丈夫だよ姉ちゃん。きっとなんともないって。ほんの少し辿るだけだからさ」

 

 姉ちゃんの言いたいことはもちろんわかる。

 後のことも考えろと、そう言いたいのだろう。

 それでも、夢をかなえることもできなくなり、それでも明るい彼女を、何か手伝いたいと思ったから。

 

 「・・・・レ、レレレレ、レイさん!?それ本当に本当ですか!?私信じちゃいますよっ!?っていうかそもそも出来るんですか!?だってそれってつまり、あーもう色々言いたいのに上手く言えなーい!でもとにかくやったー!」

 

 「・・・・・ぅ、ん。レイさんと、ライさん戻ってきたんですね。すいません、私寝ちゃってて」

 

 佐天のはしゃぎように寝ていた夏世が目を覚ました。

 

 「ほら佐天さん、夏世ちゃん起こしちゃったじゃないですか!」

 

 「初春の言うとおりですわよ佐天。まったく、少しは淑女らしく振る舞って・・・・」

 

 「ゴメンって初春!でもほらせっかくなんだし大目に見てよ!あーでも、白井さんにはそれ言われても説得力ないんですよねー!」

 

 初春と白井が注意するも、テンションアップ中の佐天はお構いなしである。

 

 「あぁもう、仕方無いわね!止めたってどうせアンタ無駄だし・・・・さっさと終わらせなさいよ!」

 

 「はいは〜い!じゃあ佐天さんよろしくね」

 

 「はい!お願いします!」

 

 そしてレイと佐天は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て、辿り着いた場所はすぐ隣の空き部屋だった。

 

 「それでレイさん、私は何をしたらいいんでしょうか!?」

 

 「う〜んそうだな・・・・・・といってもあんまりやってもらうこともないんだ。ただ目を閉じて、心を落ち着けていてほしい」

 

 「・・・・ホントにあんまりないんですね」

 

 「そうなんだよ~。でも注意することがあってね。落ち着いて少し経ったら、ちょっと佐天さん自身に纏わりつくような気持ちになるんだ。そんで僕の声が聞こえるから、それに従って欲しい。それだけなんだ」

 

 そう、これは僕が憑依出来るという条件があって初めて実現する。姉ちゃんでも出来るけど、ただ姉ちゃんの場合は能力で再現して結果として負担が増えるかもしれない。だからそうならないように僕がやるんだ。

 

 「じゃあ最終確認ね。ホントにいいの?」

 

 絶対の保証がある訳じゃない。彼女がその感覚をモノに出来るか不明だ。

 

 「・・・・・はい」

 

 それでも彼女は、佐天涙子は目を合わせたままそう答えた。

 

 「わかった。じゃあ目を閉じて、逸る心を落ち着けて」

 

 佐天は静かに目を閉じた。

 さぁ、これですべての条件が揃った。

 あとは自分が覚悟を決めるだけ。

 

 (彼女の望みを叶えよう。さぁいくぞ)

 

 そう自分に言い聞かせて、自分の体を脱して佐天に移る。

 感覚としては以前、夏世を救うために憑依した時と同じだ。

 

 『・・・・・ぅ』

 

 (もう少しだけ、堪えて)

 

 『は・・・・・い』

 

 さぁ後は探すだけ。彼女は一度『幻想御手(レベルアッパー)』を使って能力を使用することができた。あれ以降は使うことができないけど、彼女自身の深いところで感覚が、かつて佐天涙子という能力者の発したAIM拡散力場が記録されているはずだ。

 AIM拡散力場、正式名称のAN_Involuntary_Movement拡散力場とは『無自覚』という意味で、能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールドのことを指す。

 通常では精密機器を用いなければ観測できない程に微弱だが、同時に無意識下で現実に干渉している。

 これに通じることで『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を高め、能力の向上に繋がると言われている。

 

 『・・・・う、ぐ』

 

 さっきまで静かだった佐天の心が、少し揺らぎ始める。それも当然か、自分以外の意識が、自分の心を覗いているのだから。誰だっていい気持ちはしないだろう。

 

 ここじゃない。もっと深くに潜らなければ。

 

 『はっ、あ』

 

 ここでもない。もっと深層だ。

 深くに潜るたび、佐天の呼吸が荒くなるのが伝わってくる。

 ここではないのなら、もっと、より下に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悔しい、なんで、どうして私には。だって他の人は、あんなに、○○だって持っているのに、

 深層へと潜る度に、彼女の叫びを見つけた。

 それは誰しもが持っているであろう羨望や嫉妬といった感情。

 時々、自分の意識すら飲み込みそうなほど、暗いソレはきっと彼女の本心の1つ。

 学園都市という環境は、超能力という力は、能力開発という研究は残酷だ。

 多くの可能性を持つ少年少女に超能力という夢を見せ、それを願って、欲して、努力して。尚も前を向き続ける彼ら彼女らに与えられるのは数値、データ、ランク。目で理解できる物で示し、現実を突きつける。

 

 こんな能力さえ無ければ孤独にならなかった。

 こんな力さえ持たなければ不幸にはならなかった。

 そう言って、得てしまったソレに振り回される人もいれば。

 

 能力さえあれば、こんなにも惨めな思いをしなかったのに。

 もっと力が強ければ、悩む必要もなかったのに。

 一方で、欲したのに叶うことなく夢破れた人もいる。

 

 本当は皆、幸せを望んだだけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やった!私にも能力があった!

 やっと、使えるようになったのね!

 

 ・・・・・?

 一瞬だが、自分が何か、明るい・楽しいようなモノに触れた気がした。

 周囲は相変わらず、暗い物ばかりなのに、唯一ソレだけが温かい光を発している。

 これか・・・・・やっと見つけた。彼女が、佐天涙子という能力者が初めて目覚めた瞬間を、その時の喜びを。

 なら、きっとこの中にある。もういいと、もう満足したのだと無理矢理押し込まれ、あちこち擦り切れてボロボロになったであろう彼女の夢が。

 静かにソレに触れる。

 

 (・・・・っ!)

 

 流れてくるのは、・・・・・・風。物を浮かせて楽をして遊んで自分に使えて、誰かを休ませ、人の役に立つことのできる、佐天涙子らしい癒やしの風。

 

 (佐天、佐天聞こえる?)

 

 最初は苦しそうにしていたが、今はそれがない。今はどうなっているのだろう。彼女の意識があると願いながら、精一杯呼びかける。

 

 (佐天、・・・・佐天涙子っ!)

 

 『・・・・は、ぃ』

 

 良かった、返事がある。ということは彼女の意識がまだ飲み込まれていないということだ。

 

 (今から、ほんの数秒間体を借りる。それは情報量が多くなることを意味してる。でも耐えてほしい。それが済んだらすぐに入れ替わることを約束する。だから・・・・信じてほしい。自分の考えが間違っていないことを。自分の夢が叶うことを。あの日、自分の抱いた感情は間違っていないことを)

 

 『わかり・・・・・・まし、た』

 

 彼女返事を聞き、僕は彼女の体を借りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (・・・・・ぐっ!?が、あぁ)

 

 「大丈夫、意識を落ち着かせることだけを考えて」

 

 苦しむ佐天に僕は大丈夫だと言い聞かせることしかできない。

 

 (う・・・ぅ、は・・・・・、い)

 

 それでも彼女はその通りにしてくれる。

 後で、沢山謝ろう。後で沢山お礼を言おう。

 さぁ、あとは使うだけ。

 

 さっき触れたモノを思い出す。

 普段、僕らの肌を撫で、体を包む風。その風を手から吹かせる。撃ち出すではなく吹かす。佐天涙子らしい、笑って、怒って、泣いて、すべてを包み込む優しい風を手から吹かせる。

 

 「・・・・・!?」

 

 ほんの一瞬、顔に優しい風が当たる。窓からではなく、今まさに天井に向けている掌から風が吹いた。

 

 (レイ、さん・・・・・今、のって)

 

 「うん。いつか君が、能力で生み出した風が、今また発現したよ」

 

 (じゃあ!)

 

 彼女の声に、もうさっきのような苦しさは感じない。 

 これでいいだろう。

 

 「成功だ。あとは君自身で出来ればすべてクリアだ。さぁ僕は戻るから、君は目を開けて」

 

 (はい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を佐天の体から離し、僕は元の体へと戻り目を開ける。

 

 「や、どうかな最初は慣れないかも、というか発生させるのも感覚だよりで難しいと思うんだ、け・・・・・・ど」

 

 「あ、レイさん見てくださいよ!私、能力が使えるようになりましたぁ!」

 

 目を開けて、どんな様子が聞こうと思ったのだが・・・・・・・なんと佐天涙子は既に能力を発生させる事が出来ていた。

 

 (ま、マジで〜?いや確かに前々から失礼だけど、僕みたいに感覚や思いつきで行動するんじゃないかとは思ってたけど早くないか?)

 

 「なんか、さっきレイさんが生み出してた時の感覚を思い出してやってみたんですけど・・・・・・出来ちゃいましたぁ!」

 

 (お、恐ろしいな)

 

 目の前の少女に畏怖しつつ、本人には隠して質問する。

 

 「・・・・・・・ちなみにさっきまでの苦しさとかって、もう大丈夫?結構な負荷がかかったと思うんだけど」

 

 「全然問題ないです!だって本来だったらもっとキツイはずですよね。それがないってことはつまり!レイさんが大体を代わりに受けてたからだと思うんです!」

 

 確かに彼女の言うとおり。さっきまでは彼女がなるべく情報量という負荷に苦しまないように代わりに受けてたからだが、それでも全てをカットすることは叶わなかった。

 

 「そのレイさんに比べたら私の負荷なんて大したことありません!レイさんこそ大丈夫なんですか?」

 

 それだけでも情けないのに、彼女にまで逆に心配されるとは、ホントに情けないことこの上ない。

 

 「気持ち悪いとか、ぽっかり穴が空いたとかそんな感じもない?」

 

 「全然ないです!寧ろどんどん力が湧いてきますよ!せっかくなんで、初春驚かせてきまーす!」

 

 「・・・・・いってらっしゃ~い」

 

 今尚隣の部屋で仕事中の同級生のもとへ行こうと佐天は勢いよく部屋を出て、扉を閉めようと廊下に出たが、ピタッと足を止めこっちに向き直った。

 

 「・・・・どうかしたの〜?」

 

 「ありがとうございます!私の夢、叶えてくれて!すごくすっごぉーーーーく嬉しいです!!」

 

 「・・・・どういたしまして」

 

 言い終わると、恥ずかしいのかその顔は紅くなっている。それを隠すように素早く向きを変え隣の部屋に消えていった。

 

 ガチャッ、バタンと勢いよく扉の開かれ、そして閉められる音が聞こえる。

 

 『あ、佐天さんどうでしたお話の方は・・・・・・』

 

 『うーいーはーるーっ!』

 

 『ってきゃあああああっ!?何いきなり真正面から仕掛けてくるんですか!って、えぇぇぇぇぇっ!?ど、どどどどうしちゃったんですかっ!?いっ一体何がどうなって!?えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

 『おっ、今日は○○色かぁ。好きだねぇ、偶には別のやつとかさぁ・・・』

 

 『いつまで驚いてるんですの初春?ちょっと佐天が能力で驚かしてきたからって、びっくりし過ぎですわ・・・・・・・・・よおぉぉぉぉぉぉっ!?』

 

 『まったく白井さんまで何をそんなに慌ててるの?ちょっと佐天さんの能力が目覚めたくらいで・・・・・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 壁を隔てているにも関わらず、風紀委員3人の声が聞こえてくる。

 だから、隣の部屋で佐天がどうやって皆を驚かせたのか想像するのは難しくない。

 こうして文字通り風を撒き散らしながら、空力使い(エアロハンド)佐天涙子が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 




今回は以前から後書きで述べていたように『ブラック・ブレット』に話を合わせていますが、実は最初のごく数行だけで大筋には関与してません、ドヤッ!(まぁ、だからどうしたって話なんですけどね)
それから佐天が能力者になりました。実は5年越しの伏線といえるほど大したものではないですがその回収です。なので展開が急なのはその弊害ということでここは一つ。(実は最近まで忘れてて、偶然読み返した際に思い出したのは作者だけの秘密ですとも、えぇハイ)
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