とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社 作:怠惰ご都合
モチベは維持しつつ、今回は普段と違って少しシリアスめです。
いつの間にか1万字越えてる事に自分自身が驚いてたりするのは、作者だけの秘密です(最近このパターン多いなこいつ)
壁を背もたれにして座って目を閉じていると、突然に右の頬がつん、と押された。
「なんで、そんなになるまで彼女に協力したんですか」
「・・・・・・夏世」
静かに目を開けると、その顔はどこか不満そうな雰囲気を漂わせていた。
「一体何があったのか、無理に問い詰めようとかは思ってませんけど、それでも話してくれないのは・・・・・・・・少し、寂しいです」
その声は次第に小さくなっていくが、頬を押す力はぐいぐいと、寧ろどんどん強くなっている。
い、痛い痛いぃ!なんで、すんごい圧(物理)があるのなんでこれ!?
「ライさんは大したことないって言ってましたけど、それでも私は心配しました。ひょっとしたらレイさんがどこかへ消えてしまうんじゃないかって」
頬を押す力が弱まる。そしてその手は僕の頬を撫でる・・・
「あと、これはライさんに聞いた時から思ってたんですけど、なんでレイさんはすぐ誰でも助けたり手伝おうとするんですか!?自分の事を優先したりとか考えないんですか!?甘い言葉で私を安心させるのはこの口ですか、この口ですね、この口なんですね!?」
と思ってたら今度はつねってきた。や、やめへ!?いひゃいいひゃい伸びる、伸びちゃう!?
「人を助ける前に自分が無事じゃないと意味ないじゃないですか!?それともなんですか、自分の身を案じる人なんていないとか思ってるんですか!?」
「そ・・・・れ、は」
すぐに、返事できないのは図星だからか。
それとも巻き込みたくないがための反応か。
どっちかを答えたとしても、きっと夏世は許してくれないだろう。
自分の両頬はその小さな手に包まれ、顔を向き合わせる形になる。
「だったらはっきり言います。私は、少なくとも私とライさんは、例え世界中が敵対したとしても、ずっとレイさんの味方でいますし、心配だってします。だって・・・・・それぐらいお二人のことを大事に想ってますから!あの日から・・・・私だけじゃなくて、将監さんも救ってくれたあの瞬間から、ずっと、大切なん・・・・で・・・」
しかし、最後まで言い切るより先に夏世の目から、大粒の涙が溢れ出す。
「だ、から・・・・・私だ・・・け、置いて・・・いかないで!もう一人ぼっち・・・は、嫌なんですっ!うっ、うぅ・・・・ああぁぁぁあ、ぐすッ、うぅ!」
それでも自分の気持ちを口にすると、彼女は堪らず泣き崩れた。それは、普段冷静な彼女、千寿夏世からは想像できない光景だった。そしてすぐに自らの過ちに気付く。彼女は10歳で、少し前まで一緒に行動していた伊熊将監を亡くし、一人で戦った果てにガストレアになりかけていたところを救われた。そうして僕らと行動することになったが、では仮にその
「・・・・」
自分の口からは何の言葉も出てこない。ただ黙って、彼女を抱き締めるしか出来ない、この愚か者に一体何が出来るのか。
「・・・・・ごめんね。夏世を放ってどこかに行ったりしない。今だって、ちょっと慣れないことして疲れただけだからどうってことないよ」
半分、嘘だ。確かに彼女を置いていなくなることはないが、『ただ疲れただけ』は違う。本当は佐天の記憶を探った際に、全ての情報を受け流すことができなくて酔った。それ自体は今までだって何度も経験してきたから慣れてはいたが、深いところに仕舞われてしまった記憶から、能力ひいてはAIM拡散力場を探り当てるのは初めてだったこともあり、普段のより数倍の情報を処理しなければならなかった。
まぁ結局全てを処理し切れなかった訳だが。
『もっと素直になれないの?きっと彼女は頼ってもらえないのは自分が不甲斐ないから、とか思ってるのよ。“そんな事ない”って直接伝えてあげたらいいじゃない』
姉ちゃんの声が脳内で響く。
きっと壁を超えた隣の部屋から様子を見ているのだろう。
『僕はもうずっとそう思ってるよ。こんな無茶をあっさりやろうとする位、夏世を、姉ちゃんを信じてる。だって二人が心配して止めようとしてくれるから、僕は心置きなく行動できる』
『・・・・そう思ってるなら、最初からそれを言葉で伝えなさいっての』
姉ちゃんのお説教は終わった。でも、夏世は未だに泣き続けたまま。大丈夫、伝えるのは別に今すぐでなくてもいい。いつだって、伝えたいって時に伝えればいい。まだそんなに焦る必要はない。
夏世の頭を優しく撫でながら壁に背中を預けていると、いつの間にか夏世の嗚咽が聞こえなくなっている事に気づいた。代わりに聞こえてきたのは規則正しい呼吸音。泣き疲れた夏世はしがみついた体勢のまま、寝ていた。
すごく心配してくれていたのだろう。時間にして僅か十分足らず、場所も壁一枚挟んだ隣の部屋。にもかかわらず、彼女は僕らのことを心配していた。
「しょうがないなぁ」
それは誰に対しての言葉だったのか。自分の事を大切に想ってくれる夏世にだろうか。それとも、自分の事を優先せずに、周りのことばかり気にかける愚か者にだろうか。
夏世を起こさないように静かに抱きかかえて立ち上がる。
ようやく静かになり始めた隣の部屋に入る。
「あっ、レイさん聞いて下さいよ!佐天さんってば・・・・・・・!?」
未だ興奮が冷めない初春が、佐天の事を伝えようとするも、隣に立っていた固法先輩が、様子を察して彼女の口を塞いでくれる。
「・・・・無粋ですわよ初春」
「いいわ。今日はもう3人とも帰りなさい。後のことは私達でやっておくから」
姉ちゃんが何か言おうとするも、固法先輩がそれを視線で断る。結局、僕らは大人しくその指示に従うことにした。
「固法先輩・・・・・ありがとう、ございます」
「お言葉に、甘えさせてもらいます」
僕らは静かに部屋を出て、寮に向かった。
「それにしても佐天さん、あなたが騒がないのは珍しいですわね?」
「そうね。私も白井さんと同じ意見よ」
「ふっふっふ、いくら私でも騒ぎませんよ。だって、さっきまで散々手伝ってもらってたんですもん!それなのに迷惑かけちゃうのは申し訳ないですって!」
「えーっ!?さ、さささ佐天さん!それ、どういう意味ですか!?だってそれってつまり、レイさんに能力を引き出してもらったって事ですか!?」
「ふっふっふっふ、それは秘密!」
「いっ、一体いつからそんな約束を!?」
「だから秘密だって」
「佐天さーん!」
だから、その後支部の中で彼女たちが再び賑やかになっていたのを僕らは知らない。
「・・・・到着っと〜」
途中で夕飯の食材を買い、ようやく寮に着いたときには、太陽が沈み始めていた。今は夏休みの真っ只中だし、蓮太郎と別れた支部に向かったのは昼過ぎだったこともあり、窓の外はまだ少し明るい。
「さっ、支度するから夏世ちゃん起こして」
「はいは〜い。夏世、着いたよもうすぐご飯だよ起きないとだよ」
「・・・・・ぅ」
「ほ〜ら、起きないと」
「ん・・・・・レイ、さ・・・・ん!?」
「おはよ、っていっても夕方だけどね〜」
夕方、そう聞いた途端、夏世は周囲を見渡した。
ちなみに途中で“おんぶ”に変更したため、夏世は背中で慌ただしく首を動かしている。そして、状況を理解したのか、彼女は小さな声で話しかける。
「その・・・・重くなかった、ですか?」
「ぜ〜んぜん?寧ろ軽いからずっとこのままでもいいぐらいだよ!まぁ、もうすぐご飯だからそれは出来ないんだけどね」
「そ、それは申し訳ないですからいいです・・・・嬉しいですけど」
最後のところだけ、よく聞き取れなかったな。
「どうかした〜?」
「な、なんでもないですっ!いいから下ろしてください」
「夏世ちゃーん、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はい!」
姉ちゃんの呼ぶ声に応じた夏世は、すぐに駆けていった。
「ライさん助かりました」
すぐに寄ってきた夏世ちゃんは小さな声で礼を言う。
「いいのよ。まったくレイってば変なところで鈍いんだから。いつもは鋭すぎる位なのに、困った性格してるわよね」
多分だが、夏世のレイに対する好意には、
「そうですね。・・・・・・・・でも、そんなところがいいんです」
「そうね、そこは同感よ。・・・・じゃあ、起き抜けで悪いんだけど、ちょっと手伝って欲しいの、お願いできるかしら?」
「任せて下さい」
夕食を終え、片付けをしようと立ち上がった時だった。
バタリ、と隣から何かが倒れる音が聞こえた。特に考えず、顔を向けた時には、姉ちゃんが倒れていた。
「ライさん?・・・・・・・ライさんっ!、ライさん!?」
驚いた夏世が何度も呼びかけるが反応はない。
「レイさん、どうしたらっ!?ライさんが、ライさんがっ!?」
慌てる夏世を宥めるも、夏世は止まらない。何度も姉ちゃんの名前を呼ぶうちに、少し反応があった。
「ぅ・・・・・ん」
姉ちゃんが目を覚まし、体を起こす。
「ここ・・・・・は?」
「良かった、心配したんですよ!急に倒れるし、呼びかけても反応がないから!」
夏世が、泣きながら姉ちゃんに駆け寄る。しかし、そんな夏世の涙を止めたのは、予想もしない一言だった。
「えっと・・・・・・お二人はその、どちら様ですか?」
それはまるで、あの日と同じ、あの男の言う仮説が現実とかしたような、いや、全く一緒の、空気を塗り替える一言だった。
「レイさん、これは、まさか・・・」
「うん、あのときと同じだ。もう一度起きるかも、なんて予想はしてたけどそれでも、いざ対峙するとなかなか堪えるものがあるね」
「・・・・・・治ります、よね」
「きっと大丈夫。だってあの時だってすぐに元に戻ったんだから」
震える夏世の消え入りそうな声に、あくまで冷静に対応する。
「・・・・えっと、私は・・・・・その」
その時、目の前で倒れ、起き上がった少女が戸惑いながら声を発する。それはそうだろう。いざ目を覚ますと見知らぬ空間で、自分に声をかける二人は初めて見る顔だ。戸惑わない方が不思議なくらいだ。
「あぁ、そうですよね。いきなりで混乱するのも当然だ。あなた、道端で倒れてたんです。僕たちは偶然買い物帰りに路地裏で発見したんですけど、今は夏休みってこともあって人もいなくて、心配だったんで介抱しようと運んだんです。勝手なことして、すいません」
「そう・・・・・だったんですか」
「それでもまだ顔色が良くないですし、心配なのであなたが良ければもう少しゆっくりしていって下さい。いいかな、夏世?」
「・・・・・はい」
「そうですか。色々とありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
そう言ってる、たった起きたばかりの少女は再び目を閉じる。
もちろん、さっき行ったことは嘘だ。慌てた彼女が、外に出ていってしまわない為の口実でしかない。でも、心配しているのは唯一と言っていい真実だ。
「起きて、いつも通りに戻ってくれますよね?」
夏世が今にも消え入りそうな声で呟く。
「うん。さっきも言ったように、あの時みたいにすぐに目を冷ますよ」
「・・・・・ん。あれ、私いつの間に寝てたの?」
目を覚ますと、そこは見慣れた学生寮の一室。夏世ちゃんとレイと私が、普段生活している空間だった。
少し思い体を起こしながら、そう口にすると夏世ちゃんが抱きついてきた。
「ライさん、良かった!気がついたんですね!」
「えっ何?一体どういう状況?」
当然、私は理解できないで夏世ちゃんを受け止めるしかできない。
「うぅん。熱中症で倒れたんだよ」
レイが説明してくれるが、それが嘘だとすぐに理解した。レイは、嘘をつくときには右手を脇腹に動かす癖がある。つまり、今回もそれがあった。
「・・・・そう、心配かけたわね。ごめんなさい夏世ちゃん、もう大丈夫だから」
「・・・・・・はい」
「さぁ、今日はもう遅いから寝ましょ」
気づけば窓の外は暗くなっていた。先程までは夕日に照らされていた街が、今では街灯に照らされている。
「でも・・・・・・」
「大丈夫よ。この通りなんともないったら」
「・・・・・・」
それでも夏世は離れない。また、倒れるんじゃないかって心配しているのが伝わってくる。僕も、1回目のときは夏世と同じ気持ちだった。それでも2回目である今回は、あまり驚かいていないのは、夏世がいてくれたからだろうか。夏世がいてくれたからだろうか、慌てる彼女を落ち着かせようと冷静でいられたのかもしれない。
「・・・・・困ったわね。どうしたら信じてくれるのかしら?」
「ここで・・・・・・・3人で一緒に、寝てください」
いつも冷静な夏世がここまで甘えるのは珍しい。それほどまでに心配したということなのか。
「ふふっ、仕方ないわね。いつもクールな夏世ちゃんに、ここまで甘えられちゃうと断れないわ」
「そうだね。・・・・・でも、どうして僕も?」
「・・・・レイさんも、倒れないとは限らないから、です」
「そっかぁ。甘えん坊な夏世は、わがままになるんだね」
「・・・・・・」
そう口にしながら寝る準備を始める。それで夏世が安心するなら、それに従おう。
寝る準備を終え、部屋の電気を消して数分も経たないうちに夏世の寝息が聞こえてきた。
「よっぽど心配してくれたのね」
夏世の手が、姉ちゃんの服を掴んでいた。その姿は普段の彼女からはまるで想像がつかない。無理もない。話で聞いているのと、実際に体験するのではかなり差があるものだ。故に、彼女の態度は当然だろう。
「それで、何があったのか説明してくれるんでしょうね。嘘をつく時の癖、治ってないからバレバレなのよ」
「・・・・・・」
「今回ばかりは流石にごまかされてあげないわよ。夏世ちゃんの慌てぶりにあなたの態度、どっちも放置していいわけないわよ。恐らく、私が倒れたのと関係してるんでしょ?」
「・・・・・うん」
「じゃあ、話してくれるわよね」
「姉ちゃんさ、研究所を脱出しようとしたときに倒れたの、覚えてる?」
「・・・・えぇ。でも詳しいことは何も知らないわよ」
「うん、それも含めて話すよ。実は姉ちゃんはあの時、一度起きてるんだよ」
「知らないわよ?だって私が起きたとき、あなた達が扉を開けて入ってきたじゃない」
「そうなんだけど、本当はそれより少し前に起きたの。で、僕とあの男がいる前でこう言ったんだ。『どちら様ですか?』って」
本当は伝えない方が、いいのかもしれない。でも、姉ちゃんに嘘はつきたくない。あの日だって結局伝えないままにして、それで今日の出来事だ。ひょっとしたら伝えることで何かがきっかけになるかも、そう思っての事だ。
「・・・・嘘よ」
「嘘じゃない。その時確かに言ったんだ。『自分の名前もわからない』って」
「・・・・・・」
「その後にあの男がある仮説を立てた。“憑依先の子の意識と、姉ちゃんの意識が融け合って新たな人格が生まれた。生まれたばかりの人格だから記憶がないことにも納得ができる”って。それから先はさっき姉ちゃんが言ったことと一緒。扉を開けて入ったら、姉ちゃんが起きてた」
「・・・・・」
これを聞いて、姉ちゃんはどう思うだろうか。隠していた僕を恨むかな。自分の事が信じられなくなって自暴自棄になるだろうか。
「嘘みたいだけど、それでも事実だよ。そんで、ついさっきもソレが起きた」
「・・・・・・・・あなたが凝った嘘をつく訳ないし、なにより夏世ちゃんの慌て様」
「信じてくれる?」
「・・・・・・・ふぅ。信じるしかないでしょ。確かに嘘みたいな話だけど、あなたたちがそんなことをしないってことは、今までの付き合いから理解できる。なにより、レイが嘘をつくのは、人を巻き込みたくない・傷つけたくないって時だもの」
「・・・・・・姉ちゃん」
「この先も起こるかもしれないなら、どうすればいいんでしょうね。私もそう何度も倒れたくないし、なにより倒れるたびにあなた達に心配をかけたくないわ」
その時、僕は思った。姉ちゃんのこの現象は、憑依したが故に起きたんだと。つまりこの体から抜ければこれから先、姉ちゃんが倒れることも、夏世が困ることもないだろうと。それに姉ちゃんも言っていた。倒れるたびに心配をかけたくない、と。
だから僕は決意する。
元々の、あの時からずっと水槽の中で漂い続けているであろう本来の自分の体に戻ろう、と。
これ以上こんなことが姉ちゃんに起きないように。
本当はあの時にすべきだったのかもしれない。でもそれではあの研究所から逃げ出すことは叶わなかった。今もなお水槽の中にいたのかもしれない。
戻ったとしても今度こそ、確実に捕まるだろう。それは再びあの男と会うことを意味している。夏世を連れて行くことは、いや、“ついてきて”なんて言えない。口にすれば、夏世に迷惑がかかる。ひょっとしたら実験されてしまうかもしれない。行くなら、僕と姉ちゃんの二人でだ。
「姉ちゃん、戻ろう。自分の体に。そうすればこんなことはもう起きなくなる」
「理屈はそうかもしれないけど・・・・・本気で言ってるの?それは、あそこに戻るって事なのよ?今度こそ逃げ出せなくなるかもしれない。それこそあの男に実験体に使われるかも」
「それでも、いつまた倒れるかもわからない状況に怯えながら過ごすなんて嫌だから。もう夏世に困ってほしくないから」
「・・・・・・夏世ちゃんはどうするのよ?それこそついてきてもらう訳にはいかないでしょう」
「・・・・夏世には、知らせない。黙ったまま行こう」
「『置いていかないで』って、『一人ぼっちにしないで』って言われたばかりなのに?また、夏世ちゃんを悲しませるつもり?だったら私一人で行くわよ」
「夏世を一人ぼっちにする訳じゃない。それに何かあればきっと、固法先輩たちが夏世を守ってくれる。あの時、僕たち見つけてくれたみたいに。姉ちゃんを一人で行かせるのも、嫌だ。どうせ実験体に使われるなら二人でだ。それに、立案したのは僕だし、あの研究所には僕の体だってあるんだから」
「仕方ないわね。全く、自分勝手な弟を持つと苦労するわね」
「・・・・・・・ゴメン」
「謝る相手が違うでしょ。謝るなら夏世ちゃんに、よ」
「・・・・うん」
「まぁ、とはいってもどうせアンタ一人じゃ素直になれないでしょうから、その時には私も一緒に謝ってあげるわよ。だからちゃんと帰ってきましょうね」
「・・・・・・」
「じゃあ、準備しましょう?」
「うん」
そうして準備を済ませ、互いに最終確認をしてから扉を、寝ている夏世に一言告げる。
『夏世、――――――――で』
『夏世ちゃん、必ず――――――――から』
きっと、彼女は怒るだろう。一人にしないと約束したばかりでコレなのだ。ひたすら謝っても許してくれないだろう。ひょっとしたらそれ以上のことを言われるかもしれない。それでも彼女を巻き込みたくないから。
僕らは静かに、扉を開けた。
既に周囲は暗くなっていた。点々と街灯が照らしているが、それでも暗いことに変わりはない。
「それで、場所は覚えるのかしら?」
「ぼんやりと、かなぁ。恥ずかしいことにあの時は色々と焦ってたし、建物も復旧してるしなぁ。いやぁ流石は学園都市、科学の発展速度が凄いのなんの」
「はぁ、大事なときに限って、ほんっと頼りにならないわよね」
「ゴメンって〜」
「仕方ないわね、ついてきなさい。途中までなら道は覚えてるから」
「さっすが〜」
姉に案内されるまま、暗くなっている学園都市を歩く。
基本的には普段から出歩いているために慣れているが、夜というだけで、学園都市の雰囲気は変わる。
昼は学生で賑わっているが、逆に夜は静まり返っている。
「正直な話、夏世ちゃんのことどう思ってるの?」
「・・・・急だなぁ」
「無言で向かうよりはいいでしょ。・・・・・・・それで、どうなの?」
「素直で優しいよね。いつも姉ちゃんと僕の心配してくれてるから、ありがたいよ。だからかな、巻き込みたくないって思うんだ」
「じゃあなんで彼女と民警をやることにしたのよ?」
「・・・・なんか、放っておけなくて。一瞬考えちゃったんだよ。今まで組んでいたプロモーターを失って、自分の生も終わるって時に、僕らの身勝手で生きる事になった訳じゃん。それって僕らが彼女の生きる意味を、尊厳を踏み躙ったって事だ。つまり、何を目標にしたらいいのか見失ってる彼女に、せめて見つかるまでは一緒にいるのが償いだって思って。それが例え、民警という形だとしても」
「・・・・・・・まだまだ夏世ちゃんの事解ってないわね」
「えっ、ひょっとして違うの!?」
「次に夏世ちゃんに会ったときに、直接聞いてみることね」
「・・・・答えてくれるかな〜?」
「そこは夏世ちゃん次第ね。まぁ安心しなさい、それ以前に間違いなく怒られるでしょうから」
「・・・・・・はぁ」
「ほら、止まってないでさっさ足を動かしなさい。と研究所は確か、第19学区・・・・だったわね」
「遠いなぁ、ちょっと楽していい?」
「そりゃあ、距離もあるから歩いて向かわずに済むなら、それに越したことはないけど、具体的にはどうやって行くのよ?」
「ふっふっふ〜、姉ちゃん床反力ってわかる?」
「聞いたことあるわ、確かアレよね。歩いてる時に、足底とか直接身体と床が接している部分から体の方向に向かって生じている反力ってやつ」
「そうそれ。その床反力を能力で増幅させて利用しようかなって」
「方法は理解したけど・・・・・・・ちなみに今までに試したことは?」
「・・・・・・・・・・・いやぁ、綺麗な夜空だね〜」
レイは急に焦りだした。
視線もあっちこっちだし、何より落ち着きがない。これでは嘘をついていると言わんばかりだ。
「おいコラ目を逸らすな。タダでさえバレやすい性格してんだからどうせ誤魔化すなら、目を見て話しやがりなさいよ」
「・・・・・辛辣だな〜」
「事実を口にしたまでよ。・・・・・それで、安全なんでしょうね?」
「それはうん、保証する」
「じゃあそれでいいわ。それで、私はどうしたらいいの?」
「特に何も身構えなくていいって。僕に大人しく背負われててくれれば・・・・・」
それを聞いた途端私の思考は停止した。
「えっ・・・・・背負うの?」
「うん」
「誰が・・・・誰を?」
「僕が、姉ちゃんを。能力使うんだから当たり前じゃん」
「別の体勢とか・・・・ないの?」
「ないこともないけど、別の体勢となると、正面で抱きかかえて、いわゆる『お姫様抱っこ』になるけど」
どっちも恥ずかしい。何が恥ずかしいって、レイに抱きかかえられるのが、だ。いやどっちにしろ恥ずかしいならせめて、ダメージが少ない方を選ぶべきだ。うん、それがいいに決まってる。
「・・・・背負う方で」
「は〜い、じゃあほら善は急げだよ?」
レイはその場に止まり背を向ける。
「・・・・・・重いとか言ったら蹴り飛ばすから」
「言わないって」
「・・・・ほら、乗ったわよ」
「んしょ・・・・・・・・あっ、意外におm、ぐぅぇっ!?、く、首がっ、姉ちゃん首がぁっ!?」
「下らないこと言うつもりなら圧し折るわよ」
「・・・・・ふぅ。あぁ助かった。全くちょっとした冗談なのに」
「なら次は、もうちょっとマシな嘘をつくことね。ほらさっさとしてよ、恥ずかしいんだから」
「はいはい、じゃあいくよ。ちょっと浮遊感あるから気をつけてね・・・・・・よっと!」
「はっ!?ちょっ聞いてな、いいっ!?」
直後、ふわっと体が宙に浮く感覚に襲われる。
体験したことのない感覚に、思わず目を閉じてしまう。
「あ、見て見て姉ちゃん!」
「なっ何よ一体!?今それどころじゃ・・・・」
「いいからほら!」
「ああっもう!何よ一体・・・・・・・うっわぁ!?」
珍しく興奮しているレイに勧められ、諦めて目を開けるとそこには、暗闇に包まれつつも、点々と配置されている街灯とビルの灯りによって照らされている学園都市があった。
いつもの景色とは違って、その光景は眩しく輝いて見える。確かにこの景色は、今この瞬間しか見られないだろう。レイが興奮しているのも頷ける。
「綺麗・・・・・ね」
「だよねだよね!普段は上から見ることなんてないから新鮮でいいね!」
「ほんとね。上から見るとこんな感じなのね。今まで考えたこともなかったわ。まるで・・・・・」
「あっ!ごめん姉ちゃん。ちょっと勢いつけるから、ねっ!」
「ひゃあぁぁぁぁぁあああああぁぁっ!?」
しかし、またしても突然襲いかかった感覚が再び、ライの目を閉じてさせる。近くの壁を蹴るために空中で体を捻り向きを変えるというレイの行動が、彼女の叫び声を誘う。
普段は意識体ということもあり、重力のことなど考えたこともなかったが、今回は実体での行動だ。地に引き戻そうとする重力に逆らう事で、ふわっと体が宙に浮く感覚が迫りくる。加えて今度は横方向への加速。走るのとは違う、また別の感覚がライを襲う。
この日この瞬間、ライは2つのことを思い知る。
1つ目は、学園都市には未だに自分の知らない素晴らしさがあるということ。
そして2つ目は、実は自分はそんなに高いところが得意ではないということ。
加えて、嬉しそうにはしゃぐレイを見て、『もうちょい人の事気遣えこの野郎』とか『手加減って言葉の意味を刻みつけてやろうか』とか思ったり、思っていなかったりする。
それでも『レイが嬉しいならいいか』と思うことも・・・・
「ね、ねぇレイ。はしゃぐのは構わないんだけど、せめてもう少し緩めてくれても」
「たっのしい〜!速度上げるよ姉ちゃん!・・・・あれ、何か言いかけた?」
『いやぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁっ!?』
いや、皆無だろう・・・・というよりその余裕がないと言った方が正しい。
夜の学園都市に、レイの歓喜の声と、そんな弟に振り回されるライの叫び声が響いた。
前回は佐天が能力者になりましたが、深夜テンションで書き上げたために、今後の事はあまり考えてなかったりしますが、そんな作者の不安は読んでくれている方には内緒です・・・・・・ハッ!?
次回以降も割とシリアスめな状況が続きますので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
最近は月一投稿ですが、ひょっとしたら、気が向いたらこっそり投稿してるかもです。
それではまた次回。