とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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お久しぶりの投稿ですね、前回から4週以上間隔が空いてしまいました。まずはすいませんと謝罪から始まります作者です。理由はアレです、今までにもあったような事情なのです(つまりは平常運転)
そして今回は視点が今までとは少し違うので私自身動揺してたりそうでなかったり(訳注:いつも通りですご安心下さい)


空っぽな存在を追いかけて

 「まぁ、誰もいる訳ないよね」

 

 「時間帯を考えれば、そうでしょうよ」

 

 「いやあの、そもそもこの実験自体が見られてたら困るんですけど」

 

 夜中の第19学区で動く影は4つ。そのうち2つは呑気に歩きながら笑っている。この中で唯一成人している男は周囲に人がいないか確認しながら歩いている。最後の1つはほか3人に対して無表情のままだった。

 

 「それで/どうしたらいいの?」

 

 「うん、今回は憑依してる状態でどのくらい優秀な手駒(イニシエーター)として使えるのか、今回はそれを示してもらう。相手はこの二人がするから存分にやってくれて構わないよ」

 

 「あーあー、どうせ私達は踏み台ですよ。ったく、いいわよねぇ期待されてる人って。何やっても許されるから!」

 

 「ホントホント!それに引き換えこっち(サンドバッグ)は壊れたらポイッ!・・・・・・・幾らでも換えがあるから心配すらされないのにさぁ!」

 

 「そんなこと言ってないだろう!?君たちのことだってちゃんと心配してるって!じゃなきゃ休暇を言い渡すなんてしないだろう!?」

 

 「・・・・・許してあげる」

 

 「報酬に免じて、だからね」

 

 「ハイハイ」

 

 周囲は相変わらず暗いまま、寧ろ増していて普段なら戦闘など避ける時間帯だが、今回は実験の内容上ありがたい。

 

 「じゃあ改めてルール説明ね。単純に戦闘能力を知りたいってのが目的なんだけどそのままやってもらうと命に関わるからね。ちょっと条件を設けるよ。流石に命を落とされると隠すのが手間だからね。で、その条件なんだけど、ハイこれ」

 

 そう言って、男は白衣のポケットから小さめの風船を取り出した。その数は全部で18。色は赤一色と統一されているがいずれもヨーヨーサイズである。

 

 「・・・・・・どしたの?」

 

 そこで男はリフとメイが自身を見つめていることに気がついた。一体どうしたのだろうと聞いてみたのだが。

 

 「えっ、いやその」

 

 「どうやって、そのしまってたの?」

 

 「・・・・・・・科学の神秘。木原だから為せる技だよ」

 

 どうやら収納方法が気になっていたらしい。それもそうか。パッと見、手帳とかしか入らなそうなポケットが脇腹あたりに2つあるとはいえ、風船が18個も出てきたら驚くだろう。この歳の子なら当然の反応だろうな。

 

 「いやいや、歳がどうとかじゃないから!?」

 

 「あと科学がどうとか木原がどうとか、そういう次元の話じゃないから!!」

 

 「で、戦闘なんだけど、あそこに見える廃ビルの中でやってもらうから」

 

 男が示す方向にはいくつもの廃ビルが建ち並んでいる。中でも指し示されているのは一番高い建物だった。

 

 「わかったら一人6個ずつ持ってって、両腕、両腿、腹部、頭部に付けてね。大丈夫、簡単にくっつくから」

 

 「無視するんじゃないわよ!」

 

 「話聞けっての!」

 

 「・・・・ほら、君たちも」

 

 「・・・・」

 

 愚痴りながらもなんだかんだで、二人は言われた通りの場所に風船を付けていく。そして残った風船を今回の実験対象である彼らに渡す。受け取った彼らはぎこちない動作で言われた通りの場所に風船を付けた。

 

 「じゃあ、行こうか」

 

 「さっさと答えてよ引きこもり!」

 

 「なっ!?」

 

 「事実じゃん!いっつも人に指示してばっかりで、自分はエアコンの効いた空間で待機・・・・なんだもん!ねっ、アナタもそう思うわよね!?」

 

 「別に/どうでもいいし」

 

 「ねぇホントに辞めてって!これでも悪いと思ってるんだからさ!」

 

 「どーだか!?」

 

 「それにさっきのポケットだって、結局ホントのこと教えてくれないんだし、信じろって言われてもねぇ」

 

 「だから本当に科学の神秘なんだって!」

 

 夜中にも関わらず、四人は賑やかなままで廃ビルへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リフとメイ、そして彼らが互いに離れたのを確認する。

 

 「じゃあそろそろ始めようか。ルールは全ての風船を割った方の勝ち。対戦形式はリフとメイ対彼ら。戦闘の際は必ずプロモーターとしての力を使うこと。階層を跨いでもいいし、このビル壊しても全然いいから」

 

 「ねぇねぇ」

 

 今まさに始めようとしたところでメイが口を挟む。

 

 「うん?」

 

 「いつまでも『彼ら』って呼び方じゃ不便じゃない?もうちょっと名前っぽいの、なんかないの?」

 

 「それ私も思ってたー・・・・・でも無理か。アンタ、ネーミングセンスないもんねぇ。候補があったとしても全部ダサそうだし、長いから結局略さないと言いにくいし」

 

 更にはリフまでも便乗してきた。

 

 「んなっ!?」

 

 そんなバカな!?この二人の名前だってあの姉弟(ふたり)と対になるように必死に考えたんだぞ!そ、それを、人が丸2日考え抜いた名前をダサいだと!?

 

 「・・・・・虚ろな嘘つき(ホロウライン)とか、どう?呼びやすくホロウとかいいと思わない?」

 

 「ダッサ!」

 

 「・・・・ないわぁ」

 

 ・・・・・・・言葉が出ないとはこの事か。全否定されたあまり、もう何を考えたらいいか解らくなってきて。

 

 「じゃあ、君たちならいい名前を考えられると、そう言いたいんだな?」

 

 「・・・・・・じゃあ始めよっか」

 

 「・・・・・えぇそうね。ねぇもう始めたいから早く合図出しなさいよ」

 

 「・・・・ハイじゃあスタートー」

 

 なんかもう・・・・・諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合図と同時に3人の瞳は赤くなる。どうやらルールは守ってくれるらしい。憑依してるとはいえ、3人の体はイニシエーターのそれだ。普段こそ控えさせてはいるが単純な戦闘力としてなら、そこそこ使い勝手がいい。特に今回はホロウの戦闘力を知りたいという目的だから条件は同じにしなければ測りようがない。

 先に動いたのはメイ。メイが保持しているのはカメレオンの因子。因子元となった動物同様、自身の姿を背景に合わせて溶け込んでいく。元々天敵から姿を隠すための擬態であったが、メイ自身が活発ということもあり、彼女の場合は攻撃する際の手段として使われる事が多い。

 そして開始の合図があったにも関わらずリフは動かない。これは保持している因子によるものだ。保持しているのは鷹の因子。鷹は空を飛び回る印象が強いが、獲物を狙うときは精確に仕留める。それこそ鷹狩りというものがあったくらいだ。リフもそれに違わず、確実に仕留めようと狙っている。

 メイが撹乱させて、リフが仕留める。これが彼らの戦闘スタイル(いつもの遊び方)だった。

 さて、ではホロウはなんのイニシエーターなのかという話なのだが、これは先程姉弟(ふたり)が憑依する前に調べておいた。どうやら鮫なのだそうだ。それも凶暴な鼬鮫だとか。器自体はリフとメイに用意してもらった訳だが、予め因子を指定していた訳ではなく、彼女たちの直感に任せた結果だ。確かに『実験に使うから五体満足な状態で用意してほしい』という、いつもと比べれば無茶な注文だったから別に拘りはなかった。ただまぁ、多少攻撃性の高いのを持ってきてくれるといいなぁとは思ったりしたが、これは完全に予想外だった。まさか彼女たちの直感がこれほどのものだとは、思いもよらなかった。

 

 メイが姿を消したことで、彼女の姿を認識するのは彼女の攻撃が通った瞬間に限られる。

 恐らくホロウが動こうとしないのはそれを狙っているからだろう。敢えてメイの攻撃を受けることでどこにいるのか探るためだ。目に見える距離にいるが動かないリフと、姿が見えずどこにいるかも判らないメイ。どっちを警戒するか明白だ。

 

 この膠着状態がいつまで続くのか、それを考えているとホロウの右腕に付いていた風船が割れた。しかし姿は見えないままだ。それでもホロウは割れた風船の、更に外側に左手を伸ばした。つまり、メイがそこにいると確かめたからこそ動き出したのだ。

 

 「ヤバッ!?」

 

 そしてメイの姿が露わになる。メイは視覚的には姿を消すことは出来るが、実際に透明になれる訳ではない。自身の色を背景に合わせることであたかも消えたように錯覚させているだけだ。つまり実体はあるし掴まれたもする。本人が動揺すればその迷彩も解けていく。それこそ今のように。

 ホロウはさっきまで姿を消していたメイの肘を掴み、彼女の右腕の風船を狙う。左手が風船までもう少しの距離に迫ったその時、遂にリフが動いた。ただ動いたのではなく急接近。鷹の因子を有しているとはいえ、生物学上人間(イニシエーター)であるリフは翼を生やせる訳ではないから飛べない。その代わり、鷹を彷彿とさせる速度での急接近が可能である。そしてリフはその速度をもってしてホロウの左腕に付いていた風船を割った。ホロウが伸ばしていたから狙いやすかったというのもあるだろう。結果的に風船を割られたことでホロウの動きは止まり、メイは離脱出来た。

 

 「・・・・・助かったぁ、ありがとリフ」

 

 「油断してるからそうなるのよ。少しは懲りなさいよ、じゃなきゃ、次痛い目に遭ったとしても助けてあげないんだから」

 

 「だってさぁ、新入り脅かさないなんてつまんないじゃん!やっぱ圧勝してこそ先輩としての意地を誇示出来ると思うんだよ、うん」

 

 「・・・・・中身は一応、大先輩よアレでも」

 

 「つっても空っぽでしょ?記憶もなければ自分たちの意志だってない。お人形って名乗ったほうがお似合いだよ。スカしてて生意気だし」

 

 「思いっ切り私怨じゃないの・・・・・・・ちょっ、前!?」

 

 「え・・・・・・・っ!?」

 

 距離を取ったことで安心していた二人だが、その表情が驚愕に塗り替わった。

 それもそうだろう。ついさっきまで突っ立っていた筈のホロウが自分たちの風船を割らんと一瞬で迫ったからである。速度を維持したまま二人の頭に付いている風船目掛けて手を伸ばす。二人は慌てて防ごうと腕で遮る。しかしそれが仇となった。ホロウは防がれることすら想定していたのか、構わず二人の間を通り過ぎた。

 

 「・・・・はぁビビった!ったくなんなんだよ、お人形の癖にビビらせるとか生意気だっての!?」

 

 「びっっっっっくりしたぁ!ねぇこれ怒ってるんじゃ・・・」

 

 しかしリフはそこで気が付いた。メイの左腕に付いていた筈の風船が、なくなっていたのである。

 

 「ん、どしたの?」

 

 「あ、アンタの左腕、・・・・見てみなさいよ」

 

 「はぁ、風船の事?さっき防いだし・・・・・・・嘘、ないんだけど!?」

 

 「私も、右腕のがなくなってる!。まさかまさか、さっきのはフェイントで本命はこっち!?防ぐことすら読まれてたっていうの!?」

 

 「うるさい/どうでもいい」

 

 ホロウは両手に持っていた風船を割りながら抑揚のない声で答える。まるで二人の相手をするのがつまらないかの様な反応が、当の二人を煽る。

 

 「・・・・・言ってくれんじゃん、人形の癖に」

 

 「気後れしてるんじゃないかと思って心配してあげたってのに、何を『自分の力でやりました』って顔してんのよ。あんまり調子に乗ってんじゃないわよ」

 

 「だって/どうせ勝つし」

 

 「うっざ!」

 

 「絶対泣かす!」

 

 メイは再び姿を消しリフは急接近する。しかしやはりホロウから動くことはなかった。自身に迫ったリフの腕を特に気にした様子もなく防ぎ、逆に頭部の風船を狙う。

 

 「もうその手は通じないから!」

 

 先程と同じフェイントだと思ったのだろう、今度は身体を後ろに引いて風船を割られない様に対応する。しかし、それがいけなかった。身体を引いたことで頭部の風船が隙だらけとなったのだ。

 

 パンッ!と弾ける音が響く。

 

 「やっぱり拍子抜け/というより見掛け倒し?」

 

 そして、状況を理解したリフの表情が驚愕から憤怒へと変わった。

 

 「こ、のっ!?」

 

 必死に振り解こうとするも、それは叶わない。そんなタイミングでリフの視界には、突然メイが現れた。

 

 「新人は、大人しくしてなよっ!」

 

 「ほら/釣れた」

 

 メイが真後ろから襲いかかったにも関わらず、ホロウは少しも動じない。それどころかリフの手を受け止めたまま、その腕を振り回しメイにぶつけた。

 

 「・・・・っあ!?」

 

 「きゃっ!?」

 

 そのまま勢いが止まることなく二人は壁に向かって飛んでいった。凄まじい音と共に煙が舞う。パラパラとコンクリの材質が欠けていく。夏特有の蒸し暑い風が吹き込み、煙を何処かへ運んでいく。露わになった柱には・・・・・誰もいなかった。

 

 「どこに/消えた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホロウが近寄っても、やはり何もいない。透明になっているだけかと手を伸ばせど、空を切る。そう、そこにいたはずの二人の姿がなかったのだ。

 

 「逃げた?/隠れた?」

 

 ホロウは不思議そうにしているが、今までの攻防を、そしてリフとメイ(あのふたり)の性格を知っている白衣(木原)の男には解る。あの二人はどこかの姉弟(ふたり)に負けず劣らず負けず嫌いであるということを。

 パンッ!とホロウの右腿に付いていた風船が割れる。しかし、肝心の姿を捉えられない。そう、いるのは判るけど捉えられない。二人揃って姿を消したのかとも思ったが、それはないだろう。イニシエーターは自分以外に能力を付与することは不可能なのだ。それに視界の端でほんの一瞬だけ、何かが映ることがある。ということは、その方法は凡そ予想できる。メイが姿を消したのは解るが、重要なのはその先である。景色に溶け込んだメイをリフが持ち上げ、そのまま素早く動き回る。持ち上げることで攻撃手段は失われるが、それは持ち上げられたことで四肢がフリーとなったメイが補う。つまりは役割分担なのである。そしてこれはリフとメイ(あのふたり)にとって初めてのことであった。メイが撹乱させて、リフが仕留める。普段の戦闘スタイルと変わらないが、明確な違いがあった。そう、普段とは異なり直接的に協力しているのである。普段のは、それぞれが自分優位に餌を仕留めようとしていたが故、つまり間接的な協力であった。しかし今回は役割分担、互いの長所を活かした直接的な協力であった。

 

 「・・・・・・」

 

  (木原)の心は躍っていた。あの二人が、互いに力を合わせるのを嫌うリフとメイが、自分たちの存在を脅かす新人(ホロウ)を仕留めるために手を結ぶ。その成長している様を実感するのが楽しくて仕方なかった。

 

 「いい加減/引っ込んで」

 

 何度吹き飛ばされようと尚も向かってくる二人に嫌気が差したのかホロウの口調は荒くなる。

 あの二人もまさか協力することになるとは思っていなかっただろう。稀に見える驚愕の表情がそれを物語っている。

 

 「それはその通りなんだけどさ」

 

 「やられっぱなしも嫌だから、ちょっとくらい苦しんでってもらうわよ!」

 

 二人の風船は残り1つずつ。どちらも無事なのは頭部の風船だけだった。対するホロウの風船は残り4つ。結果だけを見ればどちらが優勢なのかは明白だが、状況で考えたら押しているのは二人だった。そしてリフのスピードは、速さを増す。それは攻撃回数が増えるのと同義。結果、ホロウは避けざるを得なくなる。

 右、左、正面、真上と柱を背にするホロウに対して二人はあらゆる方向から攻める。ホロウが避け損ねる度に風船は割れていき残ったのは2つ、頭部と腹部だけだった。

 

 「これで終わりにしてあげる!」

 

 「まずは先輩への口のきき方からお勉強するのね!」

 

 二人は勝ちを確信した。あと一歩、その考えが二人の思考を単純なものにしてしまった。

 

 「そんな・・・・・・っ!?」

 

 「どうして、位置が!?」

 

 ホロウの風船が割れることはなかった。頭部と腹部を狙った二人の攻撃は、ホロウによって防がれた。

 

 「そんなの/解り切ってる。音が聞こえてから風船が割れるまで数秒の間隔がある/それに残った風船は2つだけ。だからどこの風船があとどのくらいで割れるのか/風船の数が減ればそれだけ狙われる部位が限られる」

 

 故に防げたのだと、ホロウはそう結論づける。それは風船をわざと割らせたということだ。しかしそれは言葉にするのは容易いが実際に行うのは困難と言える。今回は偶然だった。日頃、直接協力することを嫌う二人がホロウ(共通の敵)に勝つために仕方なく協力したため、攻撃の方法も手段も限られていた。慣れていれば別のやり方もあっただろう。つまり、ホロウが防げたのはそれが理由だった。

 

 「仮にも先輩を名乗るなら/もう少し頭を働かせて欲しい」

 

 掴んだ腕を引き寄せ二人を柱にぶつけようとする。二人がギリギリのところで堪えるのも予想していたホロウは、それすらも構うことなく柱に叩きつけ、二人に残されたそれぞれ1つずつの風船を呆気なく割った。

 

 「・・・・ふん/・・・・じゃあね」

 

 壁に叩きつけられたままの二人に目もくれず、静かに二人から離れる。

 

 「・・・・・うぅ」

 

 「・・・・なんで」

 

 負けた二人は未だに信じられないかのように座り込んでいる。それもそうだろう。最初は圧勝して自分たちの方が上であると証明しようとして、にもかかわらずあっさり追い込まれて。初めて協力して止めを刺そうとして、でも負けたのは自分たちで。今までモノリスの外で狩る側だった(遊んでいた)自分たちが初めて味わうことになった敗北。

 

 「や、お疲れ様」

 

 落ち込む二人がいじらしく思えて、励まそうと声をかけるも、二人はぷいっと顔を背けてしまった。

 

 「あれれ、どうしたの?ひょっとして流石に悔しかったりするの?」

 

 「・・・・・うっさいな!」

 

 「ほんっと、知ってて聞いてくるんだから迷惑なのよ!」

 

 「でも、珍しいというか初めてだったよね、君たちが直接協力したの。どういう風の吹き回し?」

 

 「・・・・・・・どうせ知ってる癖に」

 

 「わかってるでしょっ!?負けたくなかったからよ!だからあそこまでしたっていうのに、あーもう!!」

 

 二人は怒りを露わにしながら素早く立ち上がる。まるで一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりの表情を向けてくる。

 

 「もう、行くから」

 

 「いいんでしょう!?数日憂さ晴らししてきても!」

 

 数日なんて言った覚えはないけど、こっちの用事に付き合ってくれたし、二人には息抜きも必要だろうし、あとはこれ以上嫌われたくないし、まぁいいか。

 

 「うん、勿論だよ。私情に付き合ってくれたし、約束破るほどアレな人間になったつもりもないからね。気が済んだら戻っておいで」

 

 二人は何も答えずさっさと歩いていってしまった。あぁ、やっぱりいじらしいね君たちは。例えどんな実験に使われようともその純粋さがいつまでも続いてくれる事を願わずにはいられない。

 廃ビルを出ようと出口に向かって歩くと外は少し明るくなり始めていた。二人の姿はすでに見当たらない。僅かな寂しさを感じつつ、後ろに声をかける。

 

 「態々ありがとね、手間だったでしょ色々と」

 

 「別に/どうでもいいし」

 

 「ふぅん。まぁ、まだまだ付き合ってもらうから、よろしくね」

 

 「・・・・ん/・・・・そ」

 

 今回は『呪われた子どもたち』を相手にしたときのデータが取れたから、今度は魔族相手にどこまで通じるのか見てみたいかな。流石に能力者を相手にするとなると、色々と手間がかかるからね、今回それは無しかな。

 幸いなことに夏休みは終わっている。日付は確か9月の頭くらいだったかな。日中は人の目も少ないし、多少派手にやったとしても困らないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、昨日はお二人を見つけることは出来なかった。固法さんも、初春さんも、白井さんも学生であるため夜中まで手伝ってもらうことは叶わず、それでいて手がかりらしい手がかりも見つからなかったため解散した。ひょっとしたら眠っている間に帰ってきてくれるかも、なんて僅かな希望を抱きながら瞼を閉じるもそれで不安が無くなる訳でもなく、大して眠れる筈もない。

 

 「・・・・・・・」

 

 当然、目を覚ましたところでお二人の姿がある訳でもない。朝になっても私は一人のままだった。一人寂しく食事を済ませ外に出る。宛があるわけでも、お二人がいるなんて確証があるわけでもない。でも、探さない訳にはいかなかった。

 今は9月ということもあって一人で出歩いたとしても特に怪しまれることはない。新学期というのもあって見かける学生たちは皆なんとも言えない表情で足を動かしていた。あと数十分でも外に出る時間帯が遅れていたらどうなっていただろう。ひょっとしたら迫害されていたからもしれない。普段はお二人とともに行動することがあるからそうなったことはないが、前に見かけたことがある。たった一度だけだったにもかかわらず覚えている。それは酷い光景でとても言い表せられる内容ではなかった。あの時はお二人がすぐに駆けつけたから迫害されていた『呪われた子どもたち』は一命を取り留めたが、もし間に合わなかったらどうなっていたか解らない。

 

 「おいっ、いたぞ!」

 

 そう、例えばこんな風に。

 どこかで誰かが追われている、そう思って顔を上げたら男が5人程、私を取り囲んでいた。

 

 「・・・・・・・・・え?」

 

 あまりに突然過ぎて何も答えられなかった。

 

 「なぁ、本当にこいつか?なんか違くないか?」

 

 「馬鹿言え!『赤目』なんざどいつもこいつも同じだ!」

 

 「そうだそうだ!どうせこいつも俺たちから大切なものを奪うに決まってる!」

 

 「だから、そうなる前にここで痛い目見てもらうってんだ!」

 

 驚く私を他所に大人たちの憤りは増していく。彼らが見ているのは『呪われた子どもたち』であってわたし(千寿夏世)じゃない。ただ赤目というだけで『奪われた世代』にとっては恐怖の対象でしかない。

 一刻も早くここから逃げないとどんな目に遭わされるかわかったものではない。普段なら冷静に対応できただろうに、あの家族(ふたり)が見つからないというだけで、こうも気が逸ってしまう。カツン、と気づけば小石を蹴ってしまっていた。

 構わない、1秒でも早くお二人を見つけないといけない。だから男たちが喚いていることなど気にも留めず私は走った。

 

 「おいっ、逃げんなって!?」

 

 「クソっお前らがもたついてっからだろうが!」

 

 「喧しい!んなこたぁ後でいいから、早く追いかけろよ!?」

 

 男たちは騒ぎ立てる声は一向に離れてくれない。

 建物を経由し、裏路地に逃げ、物陰に隠れ、学区を跨ぐがそれでも男たちは追ってくる。次第に分岐路は減っていき、最後には一本道になってしまうが、それでも男たちの声は追いかけてくる。そして、行き止まりに辿り着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛いのに声が出ない。寂しいのに言葉にできない。所謂私は『呪われた子どもたち(彼らにとって恨みの対象)』でしかないのだと、そう大人たちが視線で訴える。

 何度蹴られただろう、何度打たれただろう、何度心を踏み躙られただろう。

 蹴られたところが痛かった。打たれたところが熱を持った。何より心が寒かった。

 突然いなくなった家族を探そうとしただけなのに、意識が遠くなりつつある中、家族(ふたり)の顔が浮かんだときだった。

 

 「ねぇ、どうしよっか」

 

 「ちょっとせっかくマシになってきたっていうのに、またストレス抱えさせる気?別にありきたりな光景なんだから特に考えることじゃないでしょ」

 

 どこかで聞いたことのある声が、私の意識を引き留めようとする。

 

 「いやでも一応知ってる顔だし、ここで放っておいて次会った時には手遅れでした・・・・って、知った時の方が面倒じゃない?それにほら、せっかくコレ拾ったんだし、使ってみたい」

 

 「・・・・・・はいはいご勝手に」

 

 「冷たいなぁ」

 

 しかし、声の主の顔を見るより先に、私の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・・ぅ」

 

 「あ、起きそう」

 

 「・・・『起きた』は解るけど、『起きそう』とか初耳なんだけど」

 

 「えぇ、だって実際そうだし」

 

 「違和感しかないんだけど」

 

 「お勉強足りないだけじゃん?」

 

 「へぇふうんあっそう、そういうこと言うんだ?」

 

 「いやごめんよ言い過ぎたよウン。ちょっと調子に乗り過ぎただけじゃん。そう冷たくしないでよ。寂しくなるじゃん」

 

 話し声が大きくなり、同時に私の意識もはっきりしてくる。1回、2回と瞬きを繰り返し、少し離れたところで言い合っている二人を見る。

 

 「おはよ・・・・・って言っても昼だけど」

 

 「自己紹介する必要、ないわよね。一応前にしてる訳だし」

 

 そこには以前ほんの少し会話した、リフさんとメイさんが座っていた。でも、前回とは雰囲気が少し違うような気がするのはどうしてなんでしょう。

 

 「助けて頂いた・・・・・んですよね」

 

 「そうなるね」

 

 「何、放っておいて欲しかったとか言わないでよ?」

 

 「いえ・・・・ありがとうございます」

 

 「ごめんね、リフってば苛ついてて今は誰にでも当たりがキツイの。でもすぐに収まるから特に気にしないで」

 

 「・・・・・人を情緒不安定なキャラみたいに説明してんじゃないわよ」

 

 「それでえっと、あの人達は?」

 

 一瞬だったが二人が固まった。

 

 「・・・・・どうかしましたか?」

 

 「いやだって、まさか聞かれるとは思わなかったから」

 

 「あの、それはどういう・・・・」

 

 「自分を気絶するまで傷つけた相手を心配するお人好しだとは思わなかったって、そう言ってんの!」

 

 「ちょっとリフ、それは言い過ぎだって!」

 

 「事実を言ったまでよ。何も間違った事を言ったつもりはないからね」

 

 「・・・・・・・」

 

 「気にしないでね。これでも少しは後悔してるから」

 

 「私は別に後悔なんて・・・・・・」

 

 「お構いなく。私だって人道的に間違った事を言ったつもり、ないですから」

 

 私達がいるここ(学園都市)は、『呪われた子どもたち』以外にも多くの魔族や能力開発を受けている学生が住んでいる。とはいえ、偉い人が東京という地を三分割し、それぞれの生活する場を分けているため、直接的に関わるのは学校とか公共の場。協力することは認められていても互いに危害を加えるのは禁じられているし、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)はそれを未然に防ぐことを定められている。

 つまり、あの人たちの行動だって何かしらの理由があっての事だと、私はそう思う。

 

 「言ってくれるじゃない・・・・・ちょっとメイ、何ニヤニヤしてんのよ?」

 

 「いやだってさぁ、リフに対して正面からここまで言い返した人、初めて見たんだもん。それに、リフの悔しそうな顔とか久々に見たし」

 

 「ああもう、うるさいっ!」

 

 「ほらぁすぐ怒る。悪い癖だよ、そうやってツンツンすしてると嫌われるって。あぁごめんね中断しちゃって。えっとあの男たちはどうなったかだったよね」

 

 「・・・・・はい」

 

 「何もしてないよ。その証拠にほら」

 

 そう言ってメイさんが取り出したのは深緑色の生地に複数の白い横線と真ん中に盾のマークが入った物、所謂風紀委員(ジャッジメント)の腕章だった。

 

 「いやぁなんとなく使えるかなって拾っといたんだけどさ、思ったより効果あるんだねコレ。見せた人だいたい逃げてくもん」

 

 確かにあの時も姉弟(ふたり)が腕章を見せたら解決した。今回もそれと同じだということなのだろう。

 

 「つまり、あの人たちには危害を加えていないと、そういうことですよね」

 

 「そうだよ。だってやり過ぎて後々トラブルになっても面倒なだけじゃん。それに仕事でもないのに仕留めるのは、ちょっと、ねぇ」

 

 「・・・・・・・私は何もしてないけどね」

 

 「まぁまぁ。それで、確か夏世だっけ。どうしてあんなことになったの?大人しく学生寮なり知り合いの風紀委員のところに籠もってればあんなことにはならなかったんじゃない?」

 

 「人を・・・探してるんです。急にいなくなった家族を」

 

 「それってあの姉弟(ふたり)?」

 

 「・・・・・はい。何か心当たりとかはないですか?」

 

 家族(ふたり)がいなくなったのは、彼女たちが来て暫くしてからだ。彼女たちが来て以降、家族(ふたり)があまり笑わなかった。そうなれば、姉弟(ふたり)がいなくなったのは彼女たちが関係していると思えて仕方がない。

 

 「うーんごめんね、わかんないや。私たち一緒に行動してたけど、それっぽい姿は見てないよ」

 

 「アナタからすれば私達が怪しいのは解るけど、今回ばかりは残念ハズレ」

 

 「・・・・・・・そうですか」

 

 「えっ、ちょっと?」

 

 これ以上この二人に聞いたところで、状況は何も変わらない。そう思って立ち上がったらメイさんが見上げてくる。

 

 「お世話になりました」

 

 「・・・・・何、また一人で探し回るつもりなの?」

 

 「そうすれば、これ以上ご迷惑おかけしなくて済みますから」

 

 「それを口にしてる時点で迷惑なんだけど」

 

 リフさんが静かに立ち上がり、メイさんもそれに続く。

 

 「頼んでませんけど」

 

 「安心しなさい、別に頼まれた訳でもないから」

 

 「ならっ・・・・・」

 

 「まぁまぁ頼ったらいいんじゃない?滅多にないリフのデレなんだし」

 

 「誰がデレたって!?」

 

 「きっと、『さっきは言い過ぎてごめんね』っていう意味だから。素直に協力してもらったら?」

 

 「聞きなさいよ!」

 

 「・・・・別に期待してませんから」

 

 そうです、これは家族(ふたり)を探すために仕方なく、なんですから。元々一人で探すつもりでしたし、決して寂しい訳ではないんです。だから、この二人が協力してくれるのだって、私から頼んだわけじゃなくて、勝手に付いてくるって言われただけなんですから。

 

 

 

 

 

 

 




前回の後書きで主人公たちのテンション云々とか書いてましたが、訂正です。キャラ自体が振れに振れて、1話ごとに別人レベルにまで変わって私自身困惑してます(全ては深夜テンションによるもの、そうに違いありませんハイ)
そんでもって書いてて思いました。ホロウの話し方普通に考えたらどうなのかと、伝わりにくいんじゃないだろうかと。きっと深く考えたら駄目なやつですね、なにせ深夜テンションですからねウン(諦めの境地)
それではまた次回。
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