とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社 作:怠惰ご都合
さて気を取り直して、お久しぶりですね作者です。そんなわけで今回もよろしくお願いします。
偶発とホロウの後に続き案内された場所は研究所の外。建物を出て少し歩いた先にある廃工場。研究所自体が居住区から離れているし、そこから更に遠いここなら騒ぎにならないと、そういうことなのだろう。
「ここなら周りを巻き込む事も無いし、距離も離れてるから派手に騒いでも全然構わない、存分に暴れても誰にも迷惑はかからないよ」
「どこまで暴れていいのさ/やれと言われたなら従うけどね」
ホロウは諦めたように体勢を整える。さっきまで、あれだけ覚悟していたのに、いざ対面するとこんなにも体が動かなくなるというのか。怖い、お二人と対峙する事がこんなにも苦しいだなんて。痛い、今尚無理矢理にでお二人の意思を無視しようとしている心が、こんなにも辛いだなんて。
「約束・・・・守って下さいね」
「勿論さ。じゃあ十秒数えたら始めるよ」
男が壁技まで離れて、それをきっかけに静まってしまう。
「君も大変だね/あんなやつに関わったばかりに痛い思いをするなんて」
「・・・・・・別に、どうという事はないですよ。慣れてますので」
「そう、できるだけ苦しまないようにするからね/せめて、痛くないようには気をつけるから」
「この期に及んで、痛いとは言いませんよ」
あなた達の事を思えば、比べられる筈も無いんですから。
「10・・・・9・・・・8・・・・7・・・・」
男のカウントダウンだけが響き渡る。
「6・・・・・5・・・・・4・・・・・」
ホロウが真っ直ぐ見つめてくる。まるで、これから消えていく相手を心に刻もうとするかのように。
「3・・・・2・・・・1・・・・始め!」
瞬間、一気に詰め寄って来たホロウによって首を掴まれ、そのまま持ち上げられてしまう。
「がっ・・・・・・・ぁ!?」
息が苦しい。指先の力が抜けてしまいそうになる。だけどそれでも、未だに手放していないショットガンの引き金を引いた。銃口は床に向いたままだけど、だからこそ発砲した。跳弾したそれらはホロウと私に、見境無く襲いかかる。自分に跳んでくるのは少なくなるように計算したが、それでも怪我したことに変わりはない。残念なのは、引き金に手をかけた時に生じた僅かな音を聞き取られ、躱されて、致命傷には至らなかった事。
「・・・・・やってくれるじゃん/油断しちゃった、痛いなぁ」
そうは言いつつも、ホロウの表情は変わっていない。これで、一気に距離を詰められて捕まる事は無くなったが、同時に同じ手は使えなくなった。次はない。今度こそ、仕留めに来るだろう。元々戦闘向きではない私に、最速で迫るそれを避ける術は失われた。
「そう思うなら、今のは避けないで欲しかったですね」
「嫌だね/痛いのは勘弁」
「全部受けてくれたら痛いのも一瞬でしたのに」
そう口にした途端、ホロウの雰囲気が変わった。
「・・・・・この引っかかる感じ、気に入らない/解った、キミは自分と似たような攻め方をするんだ」
その言葉を聞いて、嬉しくなる。今は本来の意思や記憶を持っていないとはいえ、お二人に褒められたような・・・・そんな気がした。
えぇ気に入らないでしょうとも。だってこのやり方はお二人のを参考にしているのんですから。
えぇ似ているでしょうとも。だってずっと見てきましたからね。だからこそ、負けたくないんです。あなた達のやり方を以って、あなた達の自由を
「・・・・楽に勝てるとは思わないで下さいね」
理想は当然、勝つこと。だけどそれ自体が大変だという事はわかっている。だから、負けるにしても重症を負わせられさえすれば、それで構いません。
「ふーん、そう/知らないから、ね」
瞬時に向かってきたホロウに対抗できる術など持っていない私には、せめて直撃しないようにガードするしかできません。ですが、衝撃が来た方向は真正面からではなく、左。ガードしたことで、視界が狭くなっていた私は吹っ飛ばされた後にそれを理解できた。ガシャーンという音と共にドラム缶の山に吹き飛ばされそのまま壁際まで体が飛ばされた。ガラガラと壁から欠片が私の目の前を落ちていく。
「あーあ/警告はしたよ」
ゆっくりと近づいてくるホロウの表情に変化はない。やはり力勝負では勝ち目がない。これから自分のやることが無駄に終わるとしても、絶対に・・・・・諦めたくない。あと少しのところまで近づいてきたホロウはしゃがんで、顔を覗き込んできた。
「だから言ったのに/大人しく諦めて」
絶望的な状況だけど、仕掛けるならここしかない。今回ばかりは、負けませんよ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ゙!」
建物全体を、正確には金属を狙って反響させる。
「・・・・ッ!?/・・・・くぅ!?」
周囲には金属類やドラム缶、コンテナに重機と音を反響させる物は揃っている。中にはそれ以外にも、反響させにくい物も含まれているが、割合的に言って、反響しやすい物が散らばるっているこの条件なら、単なるヒトの発する高音であったとしても、周波数が変化して、空気を振動させ近くにいるものに襲いかかる。そして、突然高音に襲われた者の反応は、似ている。顔をしかめ、耳を覆い、果ては倒れる。中には倒れずに耐える者もいるが少なくとも、行動を阻害することはできる。
「これでもまだ、私に勝ち目はないと言うつもりですか?」
ゆっくりと立ち上がり、倒れているホロウを見下ろしショットガンを突きつける。
「いくら後衛向きの私でも、流石にこの距離は外しません。安心して下さい、痛いのは一瞬ですから」
静かに銃口を突きつけ、引き金を引こうと指に力を込める。その瞬間、ホロウの顔を見てしまった。無気力に見上げてくる表情に変化はないが、額からは血が流れていた。そして、それが失敗だということに気づいたのは手が震え始めた後からだった。さっきまで重症を負わせてでも止めると息巻いていたのに、いざ目にすると覚悟していたのに、ここまで来ておいて、今更怖じ気づくだなんて、そんな気分次第で変えられるような都合のよいモノだったのか。
「随分と余裕なんだね/考え事してる暇、あるの?」
その声が、私を思考から切り離した。ホロウの瞳がより赤くなっている。今までには無かった反応なだけに警戒してしまう。それが間違いだった。もし距離を取っていれば、この一瞬で組み付かれる事は無かったのに。
「・・・・ッ!?」
ショットガンは蹴り飛ばされ、口は押さえられる。
「これならもう叫べないね/もう、楽にしてあげる」
震える手を伸ばし、ホロウを押し退けようとするも、あっさり振り払われる。
「だから無駄だっての/ホントにしつこいね」
今まさに振り下ろされようとしている手と、何も映していない赤い瞳が、私を無気力にさせる。
もう、いいや。勝てないことは最初から解っていたのだ。ここで諦めても誰も文句を言いはしないだろう。・・・・・いや、言ってくれる人など、とっくにいないのだから。
『・・・・・・ったく、こういう時ばっかり大人しくなってんじゃねぇよ。普段あんだけ諦め悪いのに、見てらんねぇな。
耳元で将監さんのため息が聞こえた気がした。
振り払われたままになっていた手に再び力を入れる。掴むのはホロウではなく、自分自身のの首元に巻いているドルフィンマークの描かれたスカーフ。今度は弾かれなかった。どうやら直接
躊躇うことなくスカーフを取る。勢いよくスカーフを取った瞬間、カキンッという乾いた音が鳴り響き、
「ぐ・・・・っ!?/あ・・・・・っ!?」
「・・・・・・・・・っ!」
流石に自分も巻き込んでしまうが、そんな事は後回しだ。口を抑えていた手が離れ、ホロウの気配が少しずつ遠くなっていく。動きが遅いのは恐らく、フラッシュバンの効果があったからだと思いたい。咄嗟に目を瞑ったが、耳までは塞げなかったから立ち上がるのに時間がかかる。平衡感覚をやられたがそれでも壁を伝って立ち上がる。
ホロウはかろうじて立っているが、それでもフラフラしており少し押すだけで倒れそうだ。
「・・・・・っ!!」
未だに足元は安定しないし力は入りにくいが、チャンスは今しかない。しっかりと足に力を入れ脚を振り出し、怯んでいる隙に精一杯の力で頭突き、更によろけたところを狙い拳を横から振り抜く。振り抜いた拳は顎を掠め、脳震盪を起こしたであろうホロウはドサリと倒れ込んだ。
ホロウの反応が遅れたのも、半分賭けのようなものだった。今までの攻防でホロウは、自身に対して危害を加えんとする相手の行動を封じてきた。にも関わらず、不意の行動には遅れを取っていた。良くも悪くも純粋なホロウは想定外の動きに翻弄されやすい。例えば銃を向けられるという分かり易い行動には避けたり弾いたりできても、耳元での反響音などの想定外には対処出来ていない。
とはいえ、想定していた身であっても流石に反動まではカバー出来ず、立っていることすらもしんどくなってきた。
脚を前に出そうにも限界だった。膝から崩れ落ちる自分の体は重力により余計に重く感じてしまう。無理矢理立とうとしても直ぐに倒れ込む。
視界に映るのは憎たらしい程、満足げな木原の表情。耳栓とサングラスを外しながらゆっくりと近づいてくる。
「な・・・・・ん、で」
「
「・・・・・ぅ」
「まぁ約束したからね、守らない訳にはいかないし。それに、ホロウもここまでされたんじゃ、当分の間使い物にはならないだろうし、仕方ないかな。こっちとしても当面の目標は達成した訳だし開放してあげよう。なにより、
倒れてるホロウと夏世を見下ろしながら満足そうに呟く。ほんの一度だけ、ホロウの動きが今までと比べられない位素早くなったのは、彼女のモデルが関係しているのだろう。鮫は血の臭いに反応し凶暴化するというから、今回のは恐らくそれがしていると考えていい。
「だから、これはオマケだよ」
偶発はポケットから錠剤を取り出した。夏世は知らないが、それは嘗て、偶発が初めて実験に関わった時に会った時に、
その錠剤を静かにホロウの口に入れた。
そのまま水槽のある部屋まで運び込む。
ホロウが錠剤を飲ませられてから少しして、水槽内でコポリと音がしていた。それは
だが、施設から離れた場所にあるこの廃工場で、自力で立てないほど衰弱した夏世にそれを確かめる術も気づく術もない。
「・・・・・・・・」
そして、偶発が何かを言っているがそれを聞くより先に夏世の意識が限界を迎えた。
「よっ・・・・と!」
夏世と
流石に二人同時に抱えるのはキツいのか、その足取りは重い。しかし面倒そうな表情を浮かべながらもどこか嬉しそうに見えるのは、彼が『木原』だからだろうか。
相変わらず謎な言動してばっかりな木原は、知らず知らずのうちに周囲から言葉で攻められるようになりますが、実はそれも仕事のうちで、周囲の成長によるものだと勘違いしてたりします。
深夜テンションで作るから設定がどんどん変な方向に偏ってる気がしてならないですね(まぁやめるつもりはないですが)
それでは、また次回。