やはり俺たちの高校生活は灰色である。〜古典部と奉仕部の邂逅〜   作:発光ダイオード

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俺たちの通う総武神山高校は県内でも有数の進学校であり、文芸部の活動が盛んなことでも知られている。文化祭目当てで進学を決める生徒もいるらしく、実際、雪ノ下姉が実行委員長を務めた一昨年の文化祭は近年稀に見る盛り上がりで、その年の入学試験の倍率もそれに比例して右肩上がりを通り越して滝登りだったそうだ。部活の数も年を追うごとに増え続け、去年までに文芸部の数は50以上になり、その他に運動部やそれ以外の研究会などを合わせた総数は100を超えるほどになるらしい。

らしいと言うのは、教師も正確な数を把握できていない小規模の部活がいくつもあるからだ。昔、学校及び地域の活性化という目的のために部活動の数を増やし活発的に活動をさせるという計画が実施された。当初はその効果が存分に発揮され学校地域ともに良い盛り上がりを見せていたが、月日が経つにつれてルールが曖昧に、部活の数が増えるほど管理も粗雑になっていった。そして今では精力的に活動している部活がある一方で、活動目的が不明だったり部員が一人しか居なかったり、酷ければ名前だけで部員はゼロなんていう部活もできあがってしまっていた。

そんな現状を見かねた教師たちは数ヶ月の職員会議の末に打開策をひねり出した。それが近日全校集会で校長から発令される事になった部活動選別宣言だそうだ。その内容を簡単に言うと、今ある部活の登録を全て無効とし、新たなルールのもと部活の登録をし直す、という事だっだ。

そして今朝、予想される全校集会当日の混乱を避けるため前もって生徒たちにその事が伝えられたのだった。

 

 

 

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「それならもう一度部活の登録をすればいいんじゃないスか。部員のいない名前だけの部活ならともかく、俺たち奉仕部にはあまり関係なくないですか」

 

みんな散々慌ててたからどれ程の事かと思ったがこれなら大して問題ないんじゃないか?そう思い平塚先生に尋ねてみる。

 

「確かに今のままならいいんだが問題は活動条件の改変にある。その内容によっては活動を続けられない部活も出てくるだろうからな、何かしら対策を取らないといけない」

 

なるほどそれで慌てていたのか。確かに条件を満たせず知らぬ間に廃部になってました…なんて情けなさ過ぎる。

 

「……活動条件の追加、変更内容はこのプリントに記載してある。目を通してくれ。奉仕部は大半の条件は満たしているが、新たに規定外の部分も出てきた。その条件を満たす事で奉仕部は存続する事ができる」

 

俺たちは先生からプリントを受け取り目を通す。そのA4プリント用紙には“新たに部活動を登録する際の活動条件”とタイトルが書いてあり、その下には細かな文字がびっしり敷き詰められていた。そして用紙の中央辺りに太枠で囲まれた所があり、そこに部活の活動条件が十余り書いてあった。

 

「このうち奉仕部が満たしていない条件………ひとつは〔部活動は教員一名と部員五名を最低活動人数とする〕、もうひとつは〔部活動の掛け持ちは三つ迄とする〕。このふたつだ」

 

平塚先生はそう言うと紅茶を口にした。

 

「最低五人てやばくない?あと二人も足りないよ」

 

由比ヶ浜は渡されたプリントを握りしめ雪ノ下にすがる。雪ノ下は由比ヶ浜をなだめながら一通りプリントに目を通す。

 

「そうね…。けれど、この条件が満たされない場合でも直ぐに廃部なんて事はないはずよ」

 

「その通りだ。とりあえず部費も出ているし今年度は大丈夫だろう。だが来年からは活動出来なくなるだろうな」

 

雪ノ下の意見に平塚先生は頷いて答える。ていうか、部費なんて出てたんだ…知らなかった。

 

「あ、優美子と姫菜に入部してもらうのはどうかな?」

 

由比ヶ浜は手をぽんと叩いた。確かにふたりに入部して貰えば問題は解決だが、三浦と同じ部活とか想像できない。というか、部室でも教室でもあの鋭い眼光に睨まれるとかなんの罰ゲームだよ。

 

「あまり気は進まないわね……。それに海老名さんは分からないけれど、きっと三浦さんも私と一緒の部活なんて嫌でしょう」

 

同じく難色を示す雪ノ下に、由比ヶ浜は複雑そうに首を傾げる。

雪ノ下と三浦の仲は悪い。由比ヶ浜もそれをなんとなく分かっているが、その一端を担っているのが自分だということに気づいているだろうか。

 

「うーん……そうかなあ」

 

戸塚の依頼の時に雪ノ下と三浦はテニス対決をしたが、漫画であるような戦いの後の友情なんてものはなく、依然ふたりの間には禍根が残っている。誰もが由比ヶ浜のようにすぐに他人と打ち解けることはできないのだ。

海老名さんのことはよく分からないが、三浦が入らないと言えば彼女もそうするだろう。

 

「じゃあサキサキは?」

 

サキサキ……ああ、川なんとかさん。確かに、三浦よりは幾分かマシだな。

 

「川崎さんももうバイトはやってないとはいえ、その分勉強や弟妹さんたちの面倒を見るのに忙しいんじゃないかしら?とても部活に構っている時間は無さそうだけれど……」

 

雪ノ下は若干表情を和らげるが、その答えにあまり変化はない。

 

「まあ、訊くだけ訊いてみればいいんじゃねえか?名前くらいは貸してくれるかもしれないし」

 

俺がそう言うと、雪ノ下は意外そうな表情をする。

 

「それに、案外普通に入部してくれるかもしれないぞ」

 

「どうして?」

 

「川崎は進学希望だ。なら部活はやってないよりもやってた方がいい。それに、活動っつっても月のほとんどは何もしてないから来るのも自由だし、部室も静かだから勉強するのに向いてる」

 

そしてなにより、以前依頼を解決したという貸しもある。

雪ノ下は口許に手を当てて少し考える素振りを見せた後、

 

「そうね……訊いてみる価値はあるかもしれないわね」

 

と言ってうっすら微笑んだ。

 

「後は……ヒッキーの友達の材木屋さん?とか?」

 

「比企谷君、あなた友達がいたの?というか木材業者の友達って何?」

 

「材木座な…。友達じゃねぇよ、ただ体育の授業でペア組んだってだけだ。あいつはウザいからダメだ。部室で毎日顔を合わすとか考えられん。どうしても人が集まらなかった時の最終手段だ」

 

「確かにそれは嫌かも…」

 

二人とも材木座の居る部室を想像したのか、ものすごくテンションが下がっていた。

 

「とりあえず川崎に頼んでみて、今年は部員をなんとか四人にしよう。来年になれば小町が入学して来るから小町にも入部して貰う、それで五人だ。来年度までに五人になれば大丈夫なんですよね?」

 

俺は雪ノ下たちに言い、先生を見る。

 

「…確かにそれなら問題はないな」

 

「それいいじゃんー、さすがヒッキー」

 

「だろ?」

 

先生の言葉に由比ヶ浜が安心すると、雪ノ下は確認するように聞いてきた。

 

「仮にそうだとするなら、小町さんが入学できるかどうかが問題ね。彼女勉強はできるのかしら?」

 

雪ノ下は若干不安そうに聞いてくる。

 

「自慢じゃないがあいつは頭は良くない。でも大丈夫っ、小町可愛いし」

 

可愛いは正義だ。小町の可愛さがあれば入試もなんとかなる、俺はそう信じてる。

 

「ヒッキーキモい!いやマジキモい」

 

途端に由比ヶ浜から罵声が発せられる。

 

「だから雪ノ下、小町に勉強教えてあげてくれ」

 

俺は騒ぐ由比ヶ浜を無視して雪ノ下にぺこりと頭を下げた。

 

「比企谷君、貴方の気持ち悪さには嫌悪感が抑えられないのだけど……でもいいわ、その時には私が勉強を教えましょう」

 

「ゆきのん、あたしも手伝うよっ」

 

由比ヶ浜はまず自分の学力をどうにかした方がいいと思うがそれは置いておいて、取り敢えず一つ条件はクリアしたと言っていいだろう。もう一方は……。

 

「先生、もう一つの条件の〔部活動の掛け持ちは三つ迄とする〕ですけど、これって俺たち関係あるんですか?全員奉仕部しかやってないんですけど」

 

俺がプリントに書いてある一文を指差すと、まで普通に話しを聞いていた平塚先生は身体をピクリを反応させた。

 

「と言うか、それ以前に部活を三つも掛け持ちする人なんているのかしら」

 

「だよな……普通真面目に部活やってりゃ掛け持ちなんてしないだろ。できても二つが限界じゃないか?」

 

俺と雪ノ下は頭を悩ませた。部活の掛け持ちなんて面倒な事絶対やりたくない。何故無理をしてまで人間関係の幅を自ら増やさなければいけないのか。全く持って考えられない、やるとすればリア充ぐらいだ。

 

「私の友達で部活三つ掛け持ちしてる子いるよ。メインの部活以外に息抜きする部活があるんだって。あ、でも一つは名前貸してるだけって言ってたかも」

 

さすが由比ヶ浜。俺や雪ノ下が理解できない事でも容易に想像できている。さすがリア充のなせる技だ。きっと周りにもそんな奴らがわんさかといるんだろう。

 

「由比ヶ浜の言う通り、真面目に部活動する以外に名前を貸したり、息抜きや遊び感覚でいくつも登録する生徒もいる。学校側が改めようとしているのはそういう部活さ」

 

確かに学校からすればそんな無意義な部活を認める訳にもいかないだろう。

 

「で、それが俺たちとどう関係するんですか?」

 

「うむ、実は少し厄介な事になってな…」

 

平塚先生は言いにくそうに言葉を噤んだが、すぐに言葉を続ける。

 

「……実はこの条件は教師にも適応されるんだ」

 

「それってどういう意味ですか?」

 

由比ヶ浜はその不穏な答えの意味を理解できずに聞き返す。

 

「つまりだ、私も部活の顧問を三つまでしか持てないという事になった」

 

なんだかものすごく嫌な予感がする。

 

「ちなみに…先生は今いくつ顧問を持ってるんですか?」

 

俺が恐る恐る聞くと先生は俯いて目を逸らし、まぁ待ちたまえとでも言う様にすっと手のひらを見せてきた。

 

「……五つだ」

 

平塚先生の発言に俺たち言葉を失い、部室ははしばらく静寂に包まれた。

 

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