やはり俺たちの高校生活は灰色である。〜古典部と奉仕部の邂逅〜   作:発光ダイオード

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「五つって多くないですかっ!先生どうするのっ?」

 

沈黙を破り由比ヶ浜が悲鳴を上げる。

 

「……なんでそんなに引き受けちゃってんですか」

 

「というより、そんな数の部活ちゃんと指導できないですよね?それだといくら顧問といっても本末転倒な気が…」

 

俺たちの非難に平塚先生はたじろぐ。

 

「みんな私がちゃんと指導できない状況である事を承知で、それでも頼んで来たんだ。生徒に真剣に頼まれたのに教師の私が応じなくてどうする」

 

平塚先生は右手をぐっと握りしめて答える。この少年マンガのような気概はまさに教師の鑑…しかしそれ故に婚期が遅れ、貫く必要のない独り身を謳歌する羽目になっているんだろう……。誰か早く貰ってあげて、マジで。

 

「先生の他に三つ以上顧問を掛け持ちしている教師は居るんですか?」

 

俺はふと疑問が浮かび尋ねてみる。

 

「もちろんだ。…特に文芸部のほうが掛け持ちしている教師が多いな」

 

「なるほど…まずいな…」

 

「何がまずいの?」

 

由比ヶ浜が不思議そうに聞いてくる。

 

「三つ以上掛け持ちしてるって事はそれだけあぶれる部活があるって事だ。しかし教師の持てる顧問の数も限られてるから必然的にその数にも上限ができる…つまり、これは部活同士の顧問の奪い合いだ」

 

何故他の生徒がああも慌てていたのかようやく理解したぜ。

 

「それじゃ、早くしないと部活登録できなくなっちゃうって事っ!?」

 

由比ヶ浜も理解したらしく、慌ててもう一度プリントに目をやる。その時、何かを見つけた様で声を掛けてくる。

 

「あっ、でもほらココ。研究会は顧問いらなくなるって書いてあるよ。奉仕部を研究会にしたらこのまま部活続けられないかな?」

 

「いや、研究会にしたら部活は続かないだろ。てか奉仕研究会っていよいよ何する所か分からないな」

 

俺は由比ヶ浜にツッコミを入れながらプリントに目を通す。確かそこには、今まで研究会を作る為には顧問が必要だったがこれからはそうでなくなるという旨の文章が記されていた。

 

「三人で一緒にいれるかって話でしょ。ヒッキー細か過ぎー」

 

ぶーと頬を膨らませてこっちを睨んでくる由比ヶ浜を他所に、雪ノ下はプリントを見ながら口を開く。

 

「確かに研究会は顧問が必要なくなるけれど、その代わりこれからは研究会をまとめて管理する先生達の承認が必要になるらしいわ。恐らく審査は厳しくなるでしょうし、これまでの奉仕部の実績を考えても一筋縄ではいかないんじゃないかしら。それに、仮に認められたとしてもこの部室も使えるとも限らないし、今まで通りという訳にはいかないでしょうね」

 

雪ノ下に言われプリントを見ると、備考の覧に見落としてしまいそうな程の小さな字でそう書いてあった。

 

「よく気付いたな」

 

俺は雪ノ下に思わず感心してしまう。

 

「でも、そしたら奉仕部を続けれるようにするしかないね」

 

由比ヶ浜は腕を組んで考え込む。確かにこいつの言う通り奉仕部を存続させるしかなさそうだが、それにはなんとしても平塚先生に顧問をやってもらわなくてはならない。

 

「ちなみに、先生が今顧問やってるのって何なんですか?」

 

俺が質問すると、平塚先生はこちらに居直る。

 

「そうだな、まず運動部がセパタクロー部に蹴鞠部。文芸部が鉱石ラジオ研究会に古典部、そして君たち奉仕部だ」

 

変な部活ばっかだ。

 

「変な部活ばっかですねー」

 

由比ヶ浜が同じ感想を言う。

 

「つーかどれも研究会レベルじゃねぇか。鉱石ラジオ研究会はともかく、よく人が集まったな」

 

そう言ってから俺は自分の言葉がブーメランしている事に気付き、若干の虚しさを覚えた。

 

「蹴鞠って何となく文芸部っぽいけれど…意外ね」

 

雪ノ下は何か別の所に興味を引かれていた。

 

「蹴鞠って何?」

 

由比ヶ浜が袖をひっぱって尋ねてくる。

 

「ん?あー、昔のサッカーだな。サッカー部みたいなもんだ」

 

「え?サッカー部って隼士君たちがいる所じゃないの?」

 

「じゃあサッカー部のOBだ。葉山もいずれ蹴鞠部員になるんだよ」

 

俺が適当な事を由比ヶ浜に言っていると、平塚先生はさらりと言葉を続ける。

 

「ちなみにセパタクロー部はすでに条件をクリアし私の所にプリントを持ってきている。そして鉱石ラジオ研究会も人数を増やし、来年度からは鉱石ラジオ部として活動するらしい。必要なプリントも今日中に用意するそうだ」

 

またも一瞬時間が止まる。

 

 

 

 

「ちょっ、何でそういう大事な事さらっと言うんですか」

 

「つまり残りの三つの部活のうちひとつしか平塚先生に顧問になってもらえないという事ね」

 

「いや、冷静に分析してる場合じゃねぇよ」

 

「どうしようっ、どうしよう、ゆきのん、ヒッキー」

 

「お、落ち着け由比ヶ浜。ほら、まず…アレだ。ちょっと待ってろ、小町連れてくるから」

 

「いやいや、小町ちゃんまだ中学生じゃんっ。そこはまず先にサキサキでしょ」

 

「おぉ…そうだった。じゃあまずサキサキ呼んでくるから待ってろ」

 

「ねぇ比企谷君、何故川崎さんの事をあだ名で呼んでるのかしら」

 

「ホントだっ!ヒッキーずるいっ」

 

「あれっ?いつもあいつの事何て呼んでたっけ?」

 

「君たち少し落ち着きたまえ」

 

わたわたと慌てる俺たちの気持ちをなだめる様に平塚先生は言った。

 

「慌てるのは私の話を最後まで聞いてからでも遅くはないよ」

 

「最後まで聞いても慌てないといけないんですか?」

 

俺は少し落ち着きを取り戻し尋ねる。

 

「君は本当によく人の揚げ足をとってくるな…」

 

先生は、はぁ…とため息をつく。

 

「まぁ聞きたまえ。雪ノ下の言う様に、既にセパタクロー部と鉱石ラジオ研究会から申請を受けているため、私はあとひとつしか顧問を持てない。そして君たちを含め残りの三つの部活の中からひとつを選ばないといけないのだが、その中で蹴鞠部は部活動の申請をしないそうだ」

 

「なんでですか?」

 

由比ヶ浜はきょとんとした表情で聞いた。俺も不思議に思ったので平塚先生を見る。

 

「実は蹴鞠部員は全員三年生でね、すごく勢力的にという訳ではないが毎日楽しそうに蹴鞠をしていたよ。きっと仲間との時間が大切だったんだろう。だからか蹴鞠部を残す事に頓着がない様で、なくなっても構わないと言っているんだ」

 

「そうなんだ。でもなくなっちゃうのは少し寂しい気がするな…」

 

由比ヶ浜は複雑そうな顔をした。

 

「もともと自分たちで立ち上げた部活でもあるからな、彼らの蹴鞠部は彼らだけのものなんだろう」

 

「部活に対しての思い入れも人それぞれって事っスね。…まぁとにかく、そういう事なら後は古典部が条件を整える前にこっちが部員を集められればいいって事だな」

 

「けれど川崎さんに頼んだとして、運良く引き受けてくれたとしても小町さんが入部できるとしても来年よね?それで間に合うかしら」

 

雪ノ下の言う事はもっともで、小町が入学するまで古典部が待っててくれるとは到底思えない。

 

「入学兼入部見込みなんてのは…」

 

俺は恐る恐る平塚先生に尋ねてみる。

 

「うむ、当然無理だろうな」

 

ですよね。

 

「でもさっ…、もし私たちが部活できたら古典部はできなくなっちゃうんだよね」

 

由比ヶ浜は俯いて声を漏らす。まぁ、他の教師に顧問を頼むという方法もあるだろうが可能性は低そうだ。

 

「そんなこと言ってもな…、てか今は俺たちの方がピンチだからな」

 

「うん…それはそうなんだけど…」

 

由比ヶ浜は煮え切らなそうに言う。例え自分と対立する様な事になっても、ちゃんと相手の気持ちを考える事のできる由比ヶ浜は、本当に心の優しいヤツなんだなと思った。やはりこいつは勝負事や競い事には向かない性格の様だ。

そんな事を考えていると、平塚先生がおほんと咳をしたので俺たちはそっちに視線を向けた。

 

「あー、そんな君たちにひとつ提案なんだが…」

 

先生は俺たち全員を見渡して言葉を続ける。

 

「古典部と合併する気はないか?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

現在、奉仕部部室には俺と雪ノ下と由比ヶ浜の三人が静かに椅子に座っている。さっきまでいた平塚先生は古典部を呼びに行くと言って出ていってしまった。

聞く所によると古典部は伝統のある部活らしいが、長い歴史の中で部員がいなくて消滅の危機に陥った事が何度かあったそうだ。そして今回の件でも部員が足りないらしく、俺たち奉仕部と似た様な状況らしい。ちなみに現在部員は四人で、全員俺たちと同学年ということだった。

平塚先生は、奉仕部と古典部は活動パターンが似ているから上手く部活を合併できるんじゃないかと考えているらしい。

似ているのは名前を聞いただけじゃ何をやってる部活か分からないという所ぐらいしか無さそうだが、とりあえず話だけでも聞いてみようという事になり、俺たちは部室で古典部が来るのを待っているのである。

 

 

 

 

「そういえば、あなたたちは古典部について何か知っているかしら?」

 

平塚先生が出て行ってから静かになった部室に雪ノ下のささやく様な声が広がる。普段ならこういう時最初に会話を始めるのは由比ヶ浜だが先程から大人しくなってるので、きっと雪ノ下も気を遣ったのだろう。

 

「いや、知らないな。ていうか初めて存在を知ったくらいだ」

 

俺の言葉に雪ノ下はやれやれという様に肩をすくめた。

 

「私ちょっと知ってるよ。去年の文化祭の時、色んな部活から物が盗まれるって事件があったじゃん?なんだっけ?怪盗…じゅ…十字架?」

 

「たしか十文字(じゅうもんじ)だったはずよ」

 

「そうそう“じゅうもんじ”。それでその怪盗が最後に狙ったのが古典部だったんだって」

 

そう言われるとそんな事あった気もするが、なにせ去年の事なので記憶が定かではない。今年の文化祭だって実行委員を手伝わされた事で辛うじて覚えているくらいだ。人は嫌な事は忘れると言うくらいだから、恐らく俺は去年の文化祭でも辛い目に合ったんだろう。あぁ、可哀想な俺…。

 

「それでその後どうなったんだ?」

 

俺が聞くと由比ヶ浜は思い出しながら答える。

 

「えっと…お客さんたちと一緒に見張ってたんだけど突然机が爆発して、任務完了?って書かれた手紙が置いてあったんだって。周りの人もびっくりして倒れて、何人も保健室に運ばれたらしいよ」

 

「まじでか…随分おっかねぇ部活だな」

 

爆発とか任務完了とか、どこぞのガンダムパイロットだろうか…。古典部なんていかにも平和そうな部活の癖に、なかなか厄介な事に巻き込まれてる様だ。

 

「いいえ由比ヶ浜さん、多分それは嘘の情報よ。今年の文化祭実行委員会の時に過去の資料を見たけれどそんな事どこにも書いてなかったわ」

 

「えっ!そうなの?」

 

雪ノ下のきっぱりとした否定と断言に由比ヶ浜は驚いたが確かにその通りで、人が倒れるほどの事件であればもっと騒がれているはずだ。それにそんな事があれば今年の文化祭でも何かしらの勧告があったはずだがそんな覚えもない。

 

「恐らくちょっとした騒ぎがあって、噂が流れるうちに尾ひれが付いたんでしょう」

 

「なるほどねー。確かに人が倒れるのとか危ないしね」

 

由比ヶ浜はうんうんと頷く。どう納得したのか知れないが、確かに人が倒れるのは危ない。みんな気をつけて。

 

「他には何かないのか?」

 

俺はもう少し古典部の情報が欲しくなったので由比ヶ浜に尋ねる。

 

「そうだなあ……あっ、そいえばクイズ研のイベントに出てた気がする」

 

「…よくそんな事覚えてんな」

 

由比ヶ浜の記憶力に感心する。意外だが。

 

「うん、頭にすごくおっきい土星乗っけてる人がいて、その人が“古典部でーす”って言ってたからけっこう覚えてたかも。あと…お料理研のコンテストで優勝してた気がする」

 

由比ヶ浜に言葉に俺の中の遠い記憶が甦る。

去年の文化祭で、俺が体育館で行われている演目を入り口付近からひっそりと眺めていると、急に目の前が真っ暗になった。照明でも落ちたのかと思ったが、どうやら目の前に現れた謎の物体が俺の視界を塞いでいるんだと気付いた。しかも身体を左右に動かしても全く意味が無いほどに馬鹿でかい。周りにも人が居たためその場を去る事もできず、結局演目が終わるまで、俺は目の前の闇を見続ける事になった。そして体育館から出た時はじめて、その闇の正体がコスプレをした生徒だったと知ったのである。まさかあの時の土星野郎が古典部だったとは…。

 

「しかし、ますます何の部活だか分かんねぇな…そいや古典部自体は文化祭で何してたんだ?」

 

「さぁ?」

 

由比ヶ浜は首を傾げる。

 

「さぁってお前…」

 

せっかく色々と覚えているのに、肝心な所が抜けている。

 

「確か文集の販売をしていたはずよ。今年も出していたわ」

 

雪ノ下が答える。さすが他称(主に俺)ユキペディアさん、何でも知っている。

 

「文化祭に文集を出すのか…文集以外にはどんな事してるんだ?」

 

「さぁ?」

 

雪ノ下は首を傾く。

 

「さぁってお前…」

 

前言撤回。しかし、ユキペディアともあろう者がこうも簡単に自分のアイデンティティを放棄するとは如何なものだろう。

 

「何れにしてもこれから会って話をするのだし、聞きたい事は直接聞けばいいんじゃないかしら」

 

言われてみればその通りである。確かに俺が悪うございました。すみませんでした。

それからしばらく雑談をしながら待っていると、コンコンと部室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

そう言って雪ノ下が呼び入れると、少し間を置いて扉が開き四人の生徒が入ってくる。女子が二人に男子が二人である。そしてその後ろから平塚先生が入ってきて扉を閉める。どうやらこいつらが古典部の様だ。

先頭で入ってきた女子生徒はすっと姿勢を正し俺たちを見る。その佇まいや整った清楚な容姿は、雪ノ下とは違うがお嬢様の様な雰囲気を感じさせた。

 

「こんにちわ。今日はよろしくお願いします」

 

女子生徒は軽く頭を下げ、にっこりと笑った。

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