やはり俺たちの高校生活は灰色である。〜古典部と奉仕部の邂逅〜   作:発光ダイオード

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「私たち古典部の活動内容は、文化祭で文集を出す事です」

 

千反田は奉仕部の三人に向かってそう言い、それから教室はしんと静まり返った。三人はその後に言葉が続くものと思っていた様だが千反田はそれっきり喋らなかったのだ。何故なら他に説明すべき事がないからである。

 

「えっ、それだけ?」

 

「俺たちも大概だけどな…」

 

由比ヶ浜も比企谷も驚いた顔で俺たちを見る。まぁ俺も奉仕部に対して同じ感想を持ったし、ここはあえて何も言うまい。そう思っていると里志が返答する。

 

「本当はもっと他にあるかもしれないけどね。なにせ去年僕らが入部するまで部員はゼロだったんだ。今分かってるのはこれだけさ」

 

いや、去年千反田と伊原が散々調べたが何も出てこなかったし、文集にもそれらしい事は書いていなかった。里志め、こんなとこで見栄を張るとは一体何を考えてる。

俺が睨んでいるとこっちに気付き、舌を出してウィンクをしてくる。気色悪い…。

 

「そうなんだー。でも一年かけて文集作るのって凄いね」

 

由比ヶ浜は感心した様に言う。

 

「いえ、掲載する内容はいつも考えているかもしれませんが思いついたら程度ですし、実際作業するのは三ヶ月くらいですかね」

 

「それ以外の時は何をしているの?」

 

雪ノ下はもっともな質問をする。

 

「僕は手芸部もあるし、そっちに行ってるよ。あとは総務委員会かな」

 

「私も図書委員の仕事に行ったりしてるわ」

 

里志も伊原もそれぞれ答える。古典部くらいの活動内容なら兼部していてもおかしくない。むしろ、端から見れば本腰を入れる部活の片手間にやる様な部活だ。しかし千反田は古典部に入るのが目的みたいな所があったし、俺に至っては姉貴に命令されなければ部活にすら入らなかっただろう。

 

「本を読んでるな」

 

「本を読んでますね」

 

千反田も同じ様に答える。詰まる所、古典部は基本暇なのである。いや……こう言うのは少し正しくない。放課後に退屈を感じれば部室を訪れ読書をする。千反田もいるが一緒にいて疲れる訳でもないし、俺としてはそれなりに居心地のいい場所である。

 

「部室で二人っきりなのに本を読んでるだけか?」

 

比企谷は俺を見て意地悪く言ったが、先に反応したのは千反田で顔を赤くしてブンブンと首を振る。

 

「ちっ、違います…じゃなくて、そんなんじゃありませんっ。あのっ、私っ」

 

「本気で言ってるのか」

 

「冗談だよ」

 

俺が聞くと比企谷は少し慌てた様に答える。こいつも千反田が反応して来る事は予想外だったんだろう。

 

「異性の友達はおろか同性の友達すらいない男の考えは浅ましいものね」

 

「ヒッキーサイテー」

 

「ほんっと、デリカシーがないわね」

 

女子の面々に怒られる比企谷。先程までは雪ノ下と由比ヶ浜に言われていたが、そこに更に伊原も加わる事により相乗効果が生まれ、罵りの最適化、効率化が発揮されている。あぁ、哀れ比企谷…。

 

「千反田、こいつは適当に言っているだけだ。気にしないで続けろ」

 

「あっ、はい。そうですね……では部活動の説明はここまでにして次は部員の紹介をしたいと思います」

 

俺の言葉に千反田は気を取り戻し、まだ頬を少し赤く染めながら話を進める。

 

「私が古典部部長の千反田えるです。えっと………」

 

「どうしたの?」

 

再び言葉を詰まらせる千反田に、由比ヶ浜が顔を覗き込む様に尋ねる。

 

「いえ…先程の比企谷さんじゃないんですけど、いざ自分の事を話そうと思ってもなかなか言葉が出てこないものですね…」

 

そう言いながらはにかむ千反田を見て、里志が嬉々として話しだす。

 

「それなら僕が千反田さんの事を紹介しようか?」

 

「いいんですか」

 

里志の申し出に千反田は安心した様に喜ぶ。

 

「もちろんだよ。ホータローも摩耶花もどうだい?」

 

里志は楽しそうに笑う。

 

「私は自分でするから大丈夫よ」

 

「俺も遠慮しておく。お前にある事ない事言われちゃたまったもんじゃない」

 

「そうかい、残念」

 

俺たちが拒否すると、里志はこれっぽっちも思っていなさそうな表情で肩をすくめ比企谷たちに話し始める。

 

「僕たちが住むこの県に旧家名家は少なくないけど、その筋で有名なのがアレクス神社の十文字家、書肆百日紅家、豪農千反田家、山持ちの万人橋家さ。この四つの家は、数字が一桁づつあがっていく事から“桁上がりの四名家”と呼ばれているんだ」

 

里志は口上の様に述べる。さっきの雪ノ下の時もそうだったが、こいつはこの手の話を度々する。初めて聞いた時は気にも留めていなかったが、どこで布教活動したのか最近では教室で本を読んでいてもクラスの連中が“桁上がりの四名家”と言う言葉を発しているのを耳にする。一年掛けて提唱者になった様だが、全くエネルギー効率の悪い事をしているもんだ。

 

「そして千反田家の長女は、成績優秀眉目秀麗、深窓の佳人として知られているんだ。生雛祭りでは近年雛役を勤め、今年の祭りで不測の事態が起きた時も、彼女の鶴の一声で無事に執り行われることができたんだ。学力テストでも……雪ノ下さんがいるからそこまで目立ってないけど、普通科でありながら常に成績上位者に名を連ねているよ」

 

「千反田さんすごいんだねー。ゆきのんは知ってた?」

 

「いいえ。初めて聞いたわ」

 

「そうなんだ。私は噂は聞いた事あったけど、ヒッキーはどうだった?」

 

「俺も噂で聞いたぐらいだが、まさか古典部だったとはな」

 

感心した様に千反田を見る奉仕部の面々。

 

「私なんて大した事ありません。もう止めましょう。次ですっ、次にいきましょう」

 

千反田は慌てて話を進めようとする。里志は特に誇張表現している訳ではないが、そのあまりの誉め称えっぷりにさすがに恥ずかしくなった様だ。伊原もそんな千反田の意を汲んでか、話し始める。

 

「伊原摩耶花です。クラスは2年C組で図書委員をやってます。部活は、前は漫画研究会を掛け持ちしてたけど今は辞めちゃって古典部だけです。あとは……責任感の無い人とか、不誠実な人が許せません」

 

そう言って伊原は比企谷を鋭い目で見つめる。すると比企谷は即座に目を逸らして紅茶を飲んだ。

 

「摩耶花は一言で言えば正義だね。自他ともに厳しく、物事に妥協を許さず、責任感も強い。ホータローはどう思う?」

 

そんな伊原に対して里志が喋りだす。しかも俺に話を振るなんて余計な気遣いを回してくる……伊原の性格と言えば“怒りのエキスパート”だろうが、まぁそう言えば確実に怒ってくるだろうな…。

 

「…アクは強いが根はいいやつだな」

 

俺がそう言うと伊原はキッと睨んでくる。聞かれたから答えただけなのに理不尽である。

 

「伊原さん漫画描けるの?すごいねっ」

 

「えっ、うん。下手の横好きだけどね」

 

由比ヶ浜の声に少し驚いた様に伊原が答える。

 

「でも私なんて絵とか全然だし、描けるだけですごいよっ。慢研辞めちゃっても描いてるんでしょ?今度読みたいなー」

 

由比ヶ浜に言われ、伊原は少し照れながら笑った。

 

「…わかった。完成したら持ってくるね」

 

「わぁ、ありがとー伊原さん」

 

由比ヶ浜の笑顔につられてか、伊原もにっこりと笑う。いつも厳しい顔(俺に対して)の伊原だがこんな表情もするんだなと感心しつつ、俺は改めて由比ヶ浜のコミニュケーション能力の高さに驚いていた。先程本人も言っていたが、本当に誰とでもすぐ仲良くなれる様だ。

 

「ひとつ質問なんだが…」

 

そう思っていると、比企谷が伊原に声を掛ける。

 

「んっ?何よ」

 

「お前はハッピーとサニーとピースとマーチとビューティ、どれがいいと思う?」

 

比企谷は何やらよく分からない事を聞きだした。

 

「えっ?ち、ちょっと意味わかんないんだけど……何よそれ?」

 

伊原は少し驚いたが、当然理解できない様で比企谷に聞き返す。

 

「…いや、何でもない。忘れてくれ……」

 

そう言って比企谷は黙ってしまう。こいつは一体何が聞きたかったんだろうか……。

 

「…で、では次は福部さん、お願いします」

 

おかしな空気に戸惑いつつ千反田が言うと、里志は待ってましたとばかりに喋りだす。

 

「福部里志です。2年D組で、古典部の他に手芸部にも入ってます。あと一応、総務委員会副委員長もやってます。これと言って特別な才能があるわけじゃないけど、雑学には多少の自信があるかな。現代史から推理小説、学校の怪談から山村の地名まで何でもござれさ」

 

「どうでもいい事までよく知ってるけどな」

 

俺がそう言うと、里志は違いないと笑う。

 

「僕には深遠なる知識の迷宮にとことん分け入っていこうという気概が決定的に欠けているからね。色んなジャンルの玄関先をちょっと覗いてパンフレットにスタンプを押して回る、それが僕に出来るせいぜいの事さ。まぁ頭の良さじゃ雪ノ下さんや千反田さんに到底及ばないけど、知識の幅の広さならけっこういい勝負ができるんじゃないかな」

 

「福部、お前雑学に自信がある様だがうちのユキペディアさんだって相当なもんだぞ」

 

「比企谷君、人の事を変なあだ名で呼ぶのは止めてもらえないかしら。通報するわよ」

 

里志の話に意見した比企谷だったが、雪ノ下のお叱りをうけて慌てて話を変える。

 

「そっ、そういえば福部、お前手芸部って言ってたけどひょっとして去年の文化祭で土星のコスプレしてたか?」

 

そう聞かれ里志はぽんと手を叩く。

 

「そうだよ。いやー、覚えててくれる人がいたなんてっ。あれはいい出来だったよ。でもそれがどうかしたかい?」

 

「やっぱりお前だったか…。去年の文化祭、体育館で演目を見てた俺は途中からお前の馬鹿でかい頭を見続けるハメになったんだよ」

 

「そうだったんだ。あんまり覚えてないけどそれは悪い事したね……でも確か、あの時は邪魔にならない様に出入り口の付近から見てたと思うんだけどな」

 

「俺もそこにいたんだよ。だいたい……」

 

「二人とも、関係ない話で盛り上がるのなら他所でやってくれないかしら」

 

話が逸れ始めた二人の会話を雪ノ下が遮る。

 

「おっと、ごめんよ雪ノ下さん。じゃあ僕の話はこれくらいにして、最後はホータローだね」

 

そう言って里志は話のバトンを俺に預ける。図らずもトリを務める事になってしまったが、はて何を話すべきか…。

 

「2年A組、折木奉太郎だ。よろしく」

 

聞いている時はそうでもなかったが実際に自己紹介をしようと思うと、確かに千反田が言う様に丁度いい言葉が見つからない。

 

「ちょっと折木、ちゃんとやりなさいよ」

 

伊原が睨みながら言ってくるが、取り立てて言う程の事もないのだからちゃんとしようがない。どうしたものかと考えているとやはり里志が、しかたがないなぁと楽しそうに話を持っていく。

 

「勉強にもスポーツにも色恋沙汰にも後ろ向き、いわゆる灰色というのを好む人間、折木奉太郎。面倒で浪費としか思えないことに興味がもてない。そのモットーはすなわち“やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に”」

 

里志がちらりとこちらを見たので睨み返してやったが、気にせず話を続ける。

 

「しかし、省エネ主義者の彼には類い稀な才能があった。洞察力と推理能力に優れ、入学以来様々な難事件を解決してきた。僕ら古典部の文集“氷菓”に纏わる秘密や去年の文化祭での怪盗事件など。ものの見事に解決する様は、まさに快刀乱麻を断つ名推理!……てのはどうかな」

 

「何がどうかなだ。勝手な事を言うな」

 

「折木君てなんか良く分かんないけど凄いんだねー」

 

反論している俺に、由比ヶ浜がふわふわした感想を言う。

 

「怪盗事件って怪盗十文字の事か?」

 

「比企谷君、あれは“じゅうもんじ”じゃなくて“じゅうもじ”と言うんだよ」

 

比企谷の質問に対し、里志が訂正する。

 

「マジかよ…。雪ノ下、俺らを騙したのか…」

 

どうやら比企谷は雪ノ下から怪盗十文字の話を聞いていたらしい。

 

「あら、人聞きの悪い事言わないでくれるかしら。第一、比企谷君だけならともかく私が由比ヶ浜さんを騙す様な事言うはずないでしょう」

 

雪ノ下が素知らぬ顔で比企谷に言い返していると、由比ヶ浜が里志に質問する。

 

「怪盗十文字ってどんな事件だったの?」

 

「由比ヶ浜さんは知らないのかい?それじゃあ一席聞いて貰おうかな、十文字事件の話を…」

 

そう言って里志は去年の文化祭の話を語り始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

里志が語り終えると、じっと話を聞いていた由比ヶ浜はこちらを見てくる。

 

「凄いね折木くんっ。ホントに探偵みたい!」

 

手放しで褒めてくる由比ヶ浜に、若干気恥ずかしくなる。

 

「どんな思考をしているのか、頭を切り開いて見てみたくなるわね」

 

雪ノ下は恐ろしい事を言っている。

 

「偶然の閃きだ。たまたま運が良かったに過ぎない」

 

こんな事で切り開かれては、頭がいくつあっても足りない。

ふと、クスクス笑う千反田に気付いた。

 

「随分楽しそうだな」

 

俺が言うと、千反田ははっとして口を抑える。

 

「いえ…みなさんが折木さんの事を知ってくれて嬉しいなと思いまして…」

 

その言葉に何だか一瞬どきりとする。しかしその正体が何なのか考える間もなく雪ノ下が言葉を重ねてくる。

 

「ならば折木君、あなたの推理力がどれ程のものなのか今この場で見せてくれないかしら」

 

「面白そうっ、私も見たいなー」

 

雪ノ下の提案に由比ヶ浜も食いついてくる。

 

「馬鹿な事言うな。そんなのできるわけないだろう」

 

推理なんて屁理屈だ、何にだって理由をつけられる。言ってしまえば、何でも無い日常の事だって事件に仕立て上げられるのだ。

 

「やってみましょう、私もっと折木さんの事みなさんに知ってもらいたいです」

 

「気が進まんっ」

 

「ちょっと折木、やってあげなさいよ。たまには頭使ったら」

 

くっ、千反田も伊原も勝手な事を言う。だいたい運が良かっただけだと言っているのに何故誰も聞く耳持たない。それなのに推理をしろと?ご冗談を。

助けを求めようと里志を見るとにこにこと笑っているので、これは傍観を決め込むつもりだと諦めた。さらに煽る様に雪ノ下が言葉を重ねる。

 

「それとも、あんな大層な話をしておいて自信が無いのかしら」

 

勝手に話をしたのは里志だし、俺はたまたまだと言ってるじゃないか。

 

「仮にするにしても推理するものが何も無い」

 

俺がそう言うと、方々から声が飛んでくる。

雪ノ下の口撃、好き勝手騒ぐ由比ヶ浜と千反田、呆れた様に文句を言う伊原、それらを傍観する里志と比企谷。もう騒がし過ぎて収拾がつきそうも無い。

 

「少し落ち着きたまえ」

 

言葉の雑踏をかき分け言葉を発したのは平塚先生だった。今までずっと黙っていたので存在を忘れていたが、この人ならこいつらの突拍子もない申し出を一掃してくれるかもしれない。

静寂を取り戻した俺たち七人が囲む机から少し離れた所に足を組んで座っていた先生は、手にしていたカップに注がれた紅茶を一口飲んでから俺たちを見回した。

 

「君たち奉仕部と古典部は今日会うのが初めてだから互いの事を知ろうと思うのは当然だろう。なのでここはひとつ、私が君たちに問題を出そう」

 

ん?なんだかこの教師は俺の期待とは裏腹な事を言っている様だがどういう事だろうか。

 

「実は君たちの中に以前から知り合いの者たちがいる。その二人が誰なのか当てる、というのはどうだろう」

 

「は?」

 

思わず俺は声を漏らした。

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