やはり俺たちの高校生活は灰色である。〜古典部と奉仕部の邂逅〜   作:発光ダイオード

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平塚先生の話では、俺たち古典部と奉仕部の中に知り合いがいるらしい。

 

「それを俺が推理するってことですか?」

 

まだ状況をよく理解できていない俺は平塚先生に尋ねる。

 

「そうだ。君も推理する題材があればよかったんだろう?」

 

先生はにやりと笑う。

確かにそう言ったかもしれないが面倒な事この上ない……。仕方ない、適当に答えて終わらそう。

……里志と雪ノ下でいいか、データベースだったりユキペディアだったりするし。

 

「言っておくが、適当に答えて終わらそうなんて思わないことだ。理屈の通らない推理は認めないからな」

 

考えを先回りする様に平塚先生が言うので、とっさに俺は口を噤んだ。

 

「折木さん、どうですか。分かりますか?」

 

黙っていた俺は千反田の声に身体を強張らせる。見ると大きな瞳をキラキラと輝かせていた。その姿はまさに好奇心の猛獣、こうなってしまってはもうどうしようもない…。これまでの経験から、この状態の千反田を拒否し続ける事は極めてエネルギー効率が悪い。

俺は観念してため息をつき、それから推理をすると応えると千反田は由比ヶ浜と手を取り合って喜んだ。

そんな二人を他所に俺は雪ノ下を見る。

 

「雪ノ下、俺の推理がどれ程あてにならないか証明してやる」

 

「あら、随分捻くれた言い方だけれど…期待しているわ」

 

俺がそう言うと雪ノ下は一瞬鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしたが、不敵に笑って視線を返した。

不本意ではあるがこれは俺の今後の体裁に関わる重要な事だ。やると決めた以上、心して掛からねばなるまい。

 

 

 

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まずはこれまでの状況を整理してみよう。

俺たちがこの教室に入ってからしばらく経つが特に変わった様子はなかった。互いに自己紹介をして、多少のいざこざの後、平塚先生から問題を出された。

ポイントになるのはやはり先生からの問題だろう。このとき初めてこの中に知り合い同士がいる事を知った訳だが、逆を言えばそれまで俺たちは互いに初対面だと思っていたという事だ。

そう考えた所で俺はある矛盾に気がついた。

 

「仮に知り合い同士…奉仕部のヤツをX、古典部のヤツをYとしよう。これからそいつらが誰なのか推理する訳だが、まず俺たちの今までの会話にはおかしな点がある」

 

「別に普通だったと思ったんですけど、なにかおかしかったですか?」

 

千反田は不思議そうに聞いてくる。

 

「そう思うのは、最初俺たちは全員が初対面だと思い込んでいたからだ。だが先生の話を聞いて、この中に知り合いが居るとなった時点で今までの会話は不可解なものになる」

 

「どういうこと?」

 

由比ヶ浜も意味が分からず首を傾げる。

 

「つまり、知り合いが居たなら当然されるべき会話がなされなかったということだ」

 

千反田も由比ヶ浜も、はてなという顔をする。

 

「例えば、“おうX、久しぶりだな”、“なんだYか、元気にしてたか”。こんな感じだろう」

 

俺の例え話に二人ははっとする。

 

「確かに知り合い同士が初対面の様に振る舞うのは不自然ね」

 

雪ノ下も頷く。

 

「ではなぜ言わなかったのか。偶然と言うには都合が良すぎる」

 

「あんたに推理させるためでしょ?言っちゃったら問題にならないもん」

 

伊原が答える。

 

「故意に喋らなかったのだとしても、俺たちが先生から話を聞いたのはついさっきだ。問題の事を知らないのに喋らないでいる必要が無い」

 

伊原は頬を膨らませる。

 

「推論。XとYは問題の事を最初から知っていた。何故なら平塚先生とグルで、あらかじめこの問題を出そうと画策していたからだ」

 

「何のためよ」

 

「さぁな」

 

俺の適当な応対に、伊原の頬はますます腫れ上がる。

 

「面白い仮説だねホータロー。このままXとYも見つけ出すのかい」

 

里志にそう言われ、俺は少し考え込む。

XとYは俺たちに自分たちが知り合いである事を隠そうとした。なぜなら平塚先生からこの問題が出される事を知っていたからだ。これは間違いないだろう。どうやって知り得たかは平塚先生とグルだったとすれば説明がつくが、果たして本当にそうだろうか?それに何故こんな事をする?

俺は奉仕部と古典部の面々を見回した。

……とりあえずこの事は一旦置いておいて、XとYについて考えてみよう。

 

 

 

まずはXだが、雪ノ下は校内で五本の指に入る程の有名人だ。会ったのは今日が初めてだが、俺でさえ噂は知っているんだから当然千反田たちも知っているだろうし、それほどの有名人ならば古典部の中に知り合いが居たとしてもおかしくない。

由比ヶ浜は格好から言えば古典部の連中とはあまり関わりが無さそうに見える。強いて上げるなら里志ぐらいだろうか…。しかしあのコミュニケーション能力の高さを見せつけられては、そんなものはおかまいなしと言う様にも思える。廊下ですれ違って、気付いたら友達になってたとしても何ら不思議じゃない。

そして比企谷……。うん、こいつはないな。

 

「…なんだよ」

 

じっと見ていたので、比企谷は訝しげにこちらを見返す。俺は手を振り何でもないと伝え、また考えに戻る。

 

次にYだが、千反田は雪ノ下同様有名人だ。学内に限らず学外にも知り合いは多い。加えて記憶力にも人並み外れたものがある。沢山の人の事を覚えているなら、奉仕部の中に知り合いが居たとしてもおかしくないだろう。

伊原は交友関係がそれほど広いという訳ではないが、こいつも由比ヶ浜同様知らない人間と顔を合わせてもいつの間にかと仲良くなっている。それに図書当番をやっていれば多くの生徒と顔を合わす事になるだろう。その中に奉仕部が居ても不思議じゃない。

最後に里志だが、こいつはいつもふらふらと歩き回っているし、自分の情報網を広げる為に手当り次第周りの人間に話しかけている。そうなれば奉仕部の人間と会話した事もあるだろう。

 

こうしてみると俺と比企谷以外XとYの可能性がある事が分かる。間接的に言えば、俺と比企谷に友達が少ない事が分かる……なんとも言い難い虚しさを発見した様で些か悲しくなる。

……いかん。こんな事を考えている場合じゃない。俺は頭を振りつつ平塚先生にひとつ質問をする。

 

「平塚先生、今朝HRで部活動縮小の話をする事はいつ決まったんですか?」

 

「いや、実は私も知ったのは今朝だ。今週末の全校集会で部活動選別宣言が発表される事は以前から決まっていたんだが、当日の混乱を恐れて、どうやら校長先生と教頭先生が昨日の放課後二人で決めたらしい。結果、我々は大した準備をできずに生徒にその事を伝える事になり、単に混乱の前倒しをしただけになってしまった」

 

平塚先生は申し訳無さそうに言う。別に先生が悪い訳じゃないが教師と言う立場上、少なからず責任を感じているんだろう。

俺はそんな平塚先生の言葉に考えを巡らす。

今日の出来事は急な思いつきから行われた予想外の出来事だ。

ならばなぜアイツはあんなことを言った?

それにあの行動の意味は何だ?

誰がXとY足り得る?

俺は改めてこれまでの古典部と奉仕部の事を思い返してみる………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

先程から何やら考えている折木を見ながら、俺は折木と初めて会った時の事を思い出していた。奇しくもそれは俺が奉仕部に入部した日でもあった。

 

その日、俺は平塚先生に職員室に呼び出された。理由は俺の提出した作文で、“青春とは嘘であり、悪である”というこれまでの自らの経験をもとに書き上げたものだった。俺的には改心の出来だったが、舐め腐った作文と評された挙げ句、心配という名の猛批判を受けた。先生は大声で話している訳じゃないが、職員室は比較的静かなのでよく声が通り嫌でも目立つ。気のせいか別の用事で来ていた女子生徒のクスクスと笑う声が聞こえる……とんだ羞恥プレイですよ。

恥に耐えながら十分ほどお叱りを受けていると、一人の男子生徒がやって来た。

 

「先生、担任が居ないみたいなのでこの作文預かって貰ってもいいですか」

 

声を掛けられた先生は俺への小言を止め、男子生徒の方を向く。

 

「あぁ、わかった……しかし、君が提出物を忘れるとは珍しいな」

 

そう言いながら作文を受け取る。俺はちらりとその作文を見て、そこに書いてある名前に思わず寒気を感じた。折本と書いてある様に見えた。俺のトラウマの一端となり、女子に対する警戒心と猜疑心を形成するというきっかけを作った名前だ。今でも当時の事を思い出しただけで地面をのたうち回り、ぎょえぇと奇声を上げながら悶え死にしそうになる。

 

「昨日書いたけど持って来るのを忘れただけです。おかげで同じ作文を二度書くハメになりました…」

 

反論する男子生徒を他所に平塚先生はさっと作文に目を通す。

 

「…しかし折木、君の作文はなんと言うか上辺だけで本心が見えないな。今時高校生が粉骨砕身なんて使わないだろう。それに君にそんな気概があるとも思えないな……」

 

先生は作文を片手にため息をつく。どうやらこの男子生徒は折木と言うらしい。先程“本”と見えたのは見間違いだった様だ。しかし、もう数年も前の話なのに未だ癒える事の無いこの傷は相当深い。

そう思っている側で、平塚先生は折木に小言を言い続ける。

 

「…今はそいつが怒られてたと思うんですけど、何で俺まで怒られなきゃいけないんですか」

 

そう言いながら折木はこちらを見てくる。

 

「残念だったな。俺の説教はさっき終わって今はお前の番だ」

 

俺がフンと鼻を鳴らすと、折木はこちらをブスっとした目で見てくる。

 

「私は君たち二人に言っているんだっ」

 

先生の言葉に俺たちは身体を強張らせ、しばらくの間一緒に説教を受ける事になった。気のせいか別の用事で来ていた女子生徒たちがこちらを見てひそひそと話をしている……マジで羞恥プレイですよコレ。

それから程なくして俺たちは解放されたが、何故か俺だけはこれから何処かに連れて行かれるらしく廊下での待機を命じられた。

職員室を出た俺に、折木がため息まじりに話しかけてくる。

 

「お前のせいで余計な可処分エネルギーを消費する事になったじゃないか」

 

「いや、お互い様だろ…こっちだってお前が来なけりゃあと五分は早く終わってた」

 

俺たちは数秒にらみ合ったが、ふうっと互いに息を吐く。

 

「…やめよう。これ以上は浪費以外の何ものでもない」

 

「だな……。お前もう行った方がいいぞ。ここに居ちゃあの先生に何処か連れてかれるぞ」

 

「そうさせてもらう…」

 

それから折木は、まぁ頑張れと言い残しその場を後にした。そしてひとりぽつねんと待っていた俺は職員室から出てきた平塚先生に腕を掴まれ何処ぞへと連れて行かれ、そのまま奉仕部に強制入部させられたのだった。

 

折木とはそれ以来会話をしていない。

廊下で見かける事はあっても特に何事もなくすれ違う。向こうも気付いているだろうが話しかけてくる訳でもないし、こっちとしても話す気も理由もない。ただお互いの存在を認識する、それだけだ。

 

だから今回平塚先生の言う様な知り合いという関係ではない。全く知らない訳ではないが、知り合いという程相手の事を知っているとも言えない。これを知り合いとするのは、福部の言葉を借りるなら高慢というやつだろう。

現に折木だって部室で会った時なにも言わなかったし、俺も言うつもりもなかった。

 

 

 

 

「その顔は、何か分かったねホータロー」

 

福部の言葉にはっとなり折木を見ると、何やら神妙な顔つきで前髪をいじっている。

 

「えっ!先生に質問しただけなのにもう分かっちゃったのっ?」

 

由比ヶ浜はかなり驚いた様に言う。

 

「まぁ大体はな……。だがその前に…雪ノ下、ひとつ質問していいか」

 

「…えぇ、どうぞ」

 

折木に尋ねられ、雪ノ下は身構える。

 

「お前の姉、雪ノ下陽乃は厄介な性格なのか?」

 

予想外の質問に一瞬動きが止まる雪ノ下。

先程福部が話題に出してはいたが、何故ここで雪ノ下姉の話が出てくる?

 

「折木さんっ!」

 

「なんでそんな事聞くのよ」

 

千反田と伊原が声を上げる。

 

「それはこの問題を解くのに必要な事なのかしら」

 

雪ノ下は少し遅れて、折木の質問に質問で返す。

 

「まぁな」

 

折木の曖昧な返事に眉をひそめた雪ノ下は、数秒考えた後しぶしぶ口を開く。

 

「優秀な姉よ。私と違って社交性もあるわ。姉さんに会った人はみんな姉さんを手放しで褒めるわ。その底知れなさに気付く事なくね……。折木君の質問に答えるのなら、とても厄介な性格、かしらね」

 

雪ノ下の答え方から、姉に対する複雑な思いが伝わってきた。古典部の連中も具体的には分からないだろうが、少なくとも雪ノ下姉妹の仲があまり良くない事は感じたはずだ。

 

「参考になったかしら?」

 

「…あぁ、気に触る事を聞いて悪かったな」

 

雪ノ下に聞かれ、折木は気まずそうに答える。

 

「それでホータロー、XとYの正体は分かったのかい?」

 

福部が沈んだ空気を変える様に言う。

 

「……今ので大体の謎は解けた。XとYについても説明できるだろう」

 

「そうなのっ!?誰々?」

 

折木が答えると、由比ヶ浜が身を乗り出して折木に尋ねる。同時に千反田や伊原も迫る様に折木を見つめる。

 

「折木君、説明してもらえるかしら」

 

雪ノ下の言葉で部室内の空気は落ち着きを取り戻し、折木は俺たちを見回した後ゆっくりと話し始める。

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