『あっ! やっちまったぁー!』
俺の心中でそんな考えが浮かんでいたのは、場所は国立魔法大学付属第一高校、日は入学式の翌日の放課後。やっちまったのは、魔法の使用。
『この場合は、正当防衛が成り立つよなぁ』
っと、現実逃避気味に考えは続いていた。
何がおこったのかというと、俺が通うことになった2科の同級生と、1科の生徒が対立している場所での当事者だ。
2科の同級生は千葉さん、レオ、柴田さんに、少し離れて俺こと芝崎浩(しばさきひろ)、さらに違う方向へ離れて達也と1科生だが達也の妹の司波深雪さん。1科生は司波深雪さんの同級生の面々で、司波深雪さんと同行したいが、2科生とは一緒では嫌だというわがままな相手だ。
ちなみに一緒に行動することになったのは、司波達也、芝崎浩、柴田美月と3人が同列で、そこに千葉さんが柴田さんと一緒に達也と話すのに、たまたま、俺の席も近くて話すようになったからだ。
そして互いにヒートアップした中で、ついに静かそうにみえていた柴田さんが声を荒げて、
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」
「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」
「ハッ、おもしれえ! 是非とも教えてもらおうじゃねぇか」
「だったら教えてやる!」
1科生の一人が小型拳銃に似たCAD、特化型CADの『銃口』と形式上言われている部分をレオに向け、すでに起動式を展開し始めていた。
それだけならば、手を出さなかったかもしれないが、1科生以外からもサイオン発動の徴候を感じてついつい魔法をつかってしまった。
行なった魔法は、相手である1科生の前面に鏡を形成すること。古式魔法の幻術の一環として、すでに習得している中で、一番早く出せる魔法だ。
そしてこれが、現代魔法の弱点のひとつである、対象物を認識できなければ、魔法を発動できない。大部分の現代魔法師は視認によって魔法の対象物を認識しているから、突然、自分の顔が標的として目の前に来れば、驚くことが多く、固定座標でも失敗することがある。
実践魔法師ならば、対象をすでに認識しているだろうから、これだけでは対処不可能だが、とりあえず1科生の魔法が不発だった要因の1つだろう。
そしてサイオン発動の徴候は、1科生の特化型CADは、はじき飛ばしていた千葉さんが警棒状の物を、その1科生の手の下側からあてていた。これがサイオン発動を感じたものだろう。レオは特化型CADにつかみかかろうとしていた手を、引っ込めていたが、こちらはサイオンとは無関係だが、この移動速度もはやかったので、特化型CADの自動補正機能がおいつかなかった可能性もある。
もうひとつのサイオンの徴候は俺の斜め後ろで、達也が右手を突き出していた。みた時にはサイオンを発動しようとしたのかさえわからないが、サイオンで何かしようとしたのは確かだ。失敗したのなら、体内や周囲に、サイオンの動きに不自然なところが残るはずだ。
そう。俺のサイオン感受性はかなり高いが、この時に司波深雪さんから、
「今の鏡は、光波振動系ではなく、ベクトル反転魔法ですか?」
さすがは新入生総代といったところで、使用した魔法の系統をイデアからの反動で種別まで判断したのだろう。高校生として入ったばかりで、そこまでできるのは、基本訓練だけではなさそうだ。
「その通りですが、さすがに光に対して、ベクトル反転を直接かけることはできないので、空間にそのような結果をもたらすようにしているだけですよ」
こんな受け答えをしていたので、1科生の女子が展開を開始しだしていたのを感知するのが遅れた。
しかし、それよりも遠方から、サイオン粒子状の弾丸がその女子の起動式を貫通させて壊していた。遠方からの射撃は、さすがは遠距離射撃の英才として有名な七草生徒会長といったところだろう。そして、その七枝生徒会長の横には別な女子がいて
「風紀委員長の渡辺摩利だ! 君たちは1年生だな。事情を聞きます。起動式は展開済みです。抵抗すれば即座に魔法を発動します」
『どうしようかな』
っと思っていると、達也が渡辺風紀委員長の前へと近づいていく。その後ろには司波深雪さんも一緒だ。
「なんだ、君は?」
「すみません。悪ふざけが過ぎました」
とまどっているのは渡辺風紀委員長だった。しかし、即座に質問をしていくのにはたいしたものだが、達也が1科生の特化型CADを使った生徒にたいしては
「森崎一門のクイックドロウを見せてもらうつもりが、つい手がでてしまった」
「1科生の女子の攻撃性の魔法は、閃光魔法で失明の危険性もないほど威力が弱かったので手をださなかった」
「実技は苦手だが分析は得意」
って、言いきっている。
俺では起動式のサイオンの特徴から振動系の魔法とまでしかわからなかった。しかし、そこまで分析できるものかと不可思議に思ったが、自分の鏡の魔法がベクトル変換で作用させるというのは、一般的ではないから、他の分野でもそのようなことがあるのかもしれないと思いなおすことにした。
そのタイミングで司波深雪さんが、
「兄の申したとおり、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げて、 渡辺風紀委員長は毒気を抜かれいる感じのところで、
「摩利、もういいじゃないですか。達也くん、本当にただの見学だったんですね?」
達也が頷くと、七草生徒会長は
「生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは1学期の内に授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」
「……会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように」
俺を含めた1年生の皆は姿勢を正して、一斉に頭を下げた。その俺らに見向きもせず、渡辺風紀委員長は踵を返した。そう思ったら、一歩踏み出したところで足を止め、顔だけを達也にむけて、
「君の名前は?」
「1-E、司波達也です」
「覚えておこう」
ここで、終わりかと思ったら、七草生徒会長が俺を見ながら
「名前を教えてくれないかしら?」
なんとなく悪い予感はしながらも、
「同じく1-E、芝崎浩です」
「浩くんね。面白いところを見せてもらったわ」
そう言ってから去っていく十師族でもある七草生徒会長に、有名な森崎一門のクイックドロウより早く魔法を出せるということを知って何か考えがあるのだろうかと、『やっぱり、やっちまったなぁ』と後悔したが先人の言葉にある以上のことは言えないなぁ。
七草生徒会長と渡辺風紀委員長が去って行ったあとには、俺たち1-Eの5人と、司波深雪さんの1-Aの生徒が残っている形となった。その中で、先ほど特化型CADを抜いた森崎が、達也にむかって、なにかしら言っていたが、森崎が言いたかったのは
「司波達也、俺はお前を認めない。司波さんはブルーム。ウィードの中ではいずれ枯れてしまう。彼女は俺らといるべきなんだ」
なのだろう。こう言って、去っていこうとする森崎に達也は
「いきなりフルネームで呼び捨てか」
森崎がレオや千葉さんに俺へあたるより、達也へ向かったのは司場深雪さんが兄妹だからだろう。
森崎の捨て台詞のあとは1-Aの大部分がついていったので、俺たち1-Eの5人と1-Aの司波さんと一緒に帰ろうとすると、振動系魔法、達也によると閃光魔法を放とうとしていた女子生徒が、達也の前にきて素直にあやまってきていた。
俺たちは少々とまどったが結局は受け入れて、名前の呼び方で、その子たちも達也と呼ぶことになって、それで、魔法を放とうとしていた光井ほのかさんはほのか、その友人との紹介があった北山雫(きたやましずく)さん。光井さんのことをほのかというようになったので、その拍子で千葉さんはエリカに、柴田さんは美月へと、司波深雪さんは深雪へとなっていた。レオや俺もそれに巻き込まれた感じで、彼女らと下の名前で呼び合うことになったのだが中学時代はこんなことは無かったので新鮮だった。
帰りの話の流れは、司波さんのCADの調整を達也がおこなっていて、それに感心しているところだ。さらに感心させられたのは、エリカの警棒っぽいと思われたものが、やはりというかCADだったということだ。しかもサイオンのシールド処理をされているものだと。これだと俺のサイオン感知では、はっきりとCADだとわからなかったわけだ。
さらにエリカから、その警棒型CADのサイオン注入の仕方で
「兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」
それって剣の奥義を日常的につかっているっていうことで、エリカだけが頭に『?』を浮かべているところに深雪さんが
「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど」
「そうだね。剣術や剣道においてごく一部の高段者が使うものだと思っていたけれどね」
そう茶々を俺がいれたところで、エリカがあたふたし始めたが、美月が
「達也さんも深雪さんもすごいけど、エリカちゃんもすごい人だったのね……うちの高校って、一般人の方が珍しいのかな?」
ナチュラルに俺は無視されているが、森崎一門のクイックドロウがどれだけのスピードなのか、まだ理解していないのだろう。
ぼそりと北山さんが
「魔法科高校に一般人はいないと思う」
美月のまわりに魔法師と一般人の区別をする人はいなかったんだろう。その発言で、その場はうやむやになり、そのままプラットホームでわかれることになった。