学校の帰り道に入った喫茶店は、5月からよく利用している『アイネブリーゼ』で、達也は女子4人の中央でカウンターに座りエリカはレオ、幹比古、俺と一緒にカウンター席に近い4人がけのテーブルに陣取った。
俺は情報端末に文字を打ち込んで、同じテーブルに座っている皆に見せる。
『尾行していた人物を相手にするのか?』
テーブルに座ったメンバーは軽く首を縦にふっているので、もう2人の存在に気がついていないなぁ。
下手な尾行者を相手にするか、その後方にいたもう2人の相手をするかを考えて、結局はすぐに気がついた方の尾行者を相手にすることにした。
先に行動を起こしたエリカとレオのあとに
「急用のメールが入っていたので、お先に失礼します」
そういって、勘定をすませてから店をでた。
幹比古によるレオとエリカの認識をかなめとした古式の認識阻害魔法は、レオとエリカがいる場所を無意識にさけさせる魔法だが、レオとエリカが居ると知っているならば、その効力がかなり弱くなる。
それで、認識阻害魔法結界の中で隠形をおこないながら、出番を待っていた。
出番は案外はやく
「助けてくれ! 強盗だ!」
隠形を解いて、特化型CADを持ちつつレオの背後から近づきながら
「どこに強盗がいるのかな?」
そうとぼけての登場だ。
エリカから
「あたしたちの『認識』をかなめにして作りあげた結界だから、あたしたちの意識を奪わない限り抜け出すこともできないよ?」
それを聞いて、自分たちの相手をしろと言っているようなものだと思ったら、相手である中年だろう男がボクシングでいうヒットマン・スタイルをとった。
これで、正当防衛成立(するかなぁ?)とばかりに、自己加速魔法をかけるが、男がフリッカージャブを主体に打ってくるのならば、通常は問題ない。
距離が離れた場所から打たれるのと、ボクシングではグローブを着けているからこその打撃力になるが、グローブがなければしょせんは手打ちなので、打撃力はそこまではない。
恒常的に自己加速魔法を使うタイプの魔法師にとっては、視認してから実際に動きだせるまでに届かない攻撃は脅威にはなりにくい。
そのことを察したのかどうかわからないが、最初に向かっっていったのはレオに対してで、ポジションを低くして入ったのか、レオの身体に隠れて見えない。
そこから聞こえるパンチの音は魔法を使っている形跡がないのに、打撃音が短く重たい。
だが、男は勘違いをしているのだろう。
魔法師の中でも一部には視認しなくても相手に魔法をかけられるということを。
俺は音を聞き始めて1秒とせず加速・振動系複合魔法を男に放ち、脳が揺さぶられるようにして倒れてもらった。
レオが、さらに追い打ちをかけるように蹴りを入れて、
「感触からしてケミカル強化人間かな」
その行動と分析に、俺は半分あきれていたが、それで男の尾行していた目的を聞き出したが、『魔法科高校生徒を経由して先端魔法技術が東側に盗み出されないよう監視』が主目的のようだ。
他にも話はあったが、こちらの油断から相手が拳銃をエリカに向けていた。
しかたがないのでCADは放り捨てるにしながらも、俺はこっそりと体内のサイオンを操作し、空気塊を銃口にかけてから、話しかけた。
「終わりたいのはやまやまなんだが、あんた以外にもついてきている相手は、味方か?」
「なに?」
この反応がみせかけでないのならば、この男の敵にあたるが、そいつがこちらの味方とは限らない。
レオとエリカも言葉は発していないが、驚きを隠せないようだ。
世の中、敵の敵は味方というわけにはいかないもんなぁ、と思いながらも
「ふーん、あんたより気配の消し方は、はるかに上だな。それはともかく、その銃口に空気塊をしかけたから、打てば暴発……腔発(こうはつ)と言うのが正しいのかな。形勢逆転だが、聞きたいことは聞いたような気はするんだが?」
レオはあっさりとうなずき、エリカもしぶしぶながらも幹比古の結界の解除を口にしたところで、
「その空気塊は、あと1分ぐらいで消えるから、安心してくれ」
男は黙って逃げ去ったが、もう2つの気配はそっちをおいかけていった。
俺は、そこでわかれてまっすぐにプラットホームへ行くことにした。
『アイネブリーゼ』では緊急のメールが来たことになっているし、2つの気配が、今の男をおいかけていったのを言うと、エリカはこのまま不機嫌そうな雰囲気をたもっているかもしれないのにつきあうのは、ちょいとばかりごめんだ。
翌朝の教室にいたところ、エリカが難しい顔をして入ってきたが、触らぬ神い祟りなしときめこんだが、昼食時のフルメンバー……帰りのフルメンバーに、俺と実技でよく組んでいる裕子も一緒……となっても難しい顔をしたままというのは、記憶にある限り初めてではなかろうか。
それも周りも気にかけたのか、深雪が代表してかのように聞いてエリカからの返答は
「逃すことになったことを気にしているんじゃないの。アイツが言ってたことが気になってさ……。学校の中だからといって安心はできない、って、まさか生徒に……」
エリカが、春のブランシュの件で壬生先輩が利用されていたことを気にかけていることに、ようやく気がついた。
俺よりも事情を知っていそうな達也からは
「ああいう後味の悪いことを繰り返すのは俺もごめんこうむりたいけどな」
レオはレオで直接なぐってくるのはともかく空き巣とかのぞき見の類は、手に負えないことを言ってたが、結局は達也がその場をおさめていたが、エリカはともかくレオも不満気な感じが残っていた。
翌週の月曜日の朝の教室には、なぜか俺よりも早くエリカとレオが席についていた。
エリカがへそを曲げているところを、美月がなだめていて、幹比古がおろおろしていて、レオは後ろ向き座りながらも苦虫をかみつぶしているところだ。
これは、先週の金曜日と土曜日にレオとエリカがいなかったことにたいして、美月が話をして、幹比古が地雷を踏んだかしたのかな?
幹比古が助けを求めてきたので、2人の気と体内のサイオンの様子をみてみて、
「レオの気が少なくなっているのにサイオンが活性化しているのと、エリカの方は変わっていないから、エリカにしごかれていたという、達也が金曜日の昼食時に冗談で言っていたのが、真相にちかいんじゃないのか?」
これで、結局はエリカの機嫌もなおったのだが、幹比古が学内でスパイ活動をしていた1年生の平河千秋(ひらかわちあき)と、3年生で風紀委員でもある関本勲(せきもといさお)のことをちらっと話してきた。
論文コンペのメンバーと打ち合わせでもあったのか少し遅めにクラスへ入ってきた達也もまざりながら話はすすみ、エリカが
「実行犯は捕まったけど、その背後の組織はつかまっていないのよ」
「俺的には、どうして関本先輩がスパイになったのか、聞いてみたいところだね」
平川千秋の動機などは、先週のうちに千代田先輩から風紀委員用の認証を使ったメールが届いていたので、仕方がなく風紀委員会本部内の通信にしか応答しないデータベースへ報告書として入れたのと、その日の帰り道レオとエリカの代わりになる形で千代田先輩と五十里先輩が一緒に帰る道すがら達也が千代田先輩に聞いていたので、達也への個人的恨みがベースになっているのはわかるが、関本先輩の件については、日曜日に起きたことなので学校内にいなかったので、そのあたりの話は不明だ。
「だったら本人にきいてみちゃどうだ?」
レオが気軽に言った方法に、エリカの特殊鑑別所に忍び込む発言もあったが、達也のもっとごく普通な手段の提示があったので、それにのっかることにした。