昨日の放課後のことはすっぱりと忘れることにして、今朝は昨日と同じ時間に教室へ来ると、すでに達也、レオ、エリカ、美月がそろっていた。しかし、朝からなにやら雰囲気がちょっと重たいのだが、
「4人とも、なにかあったのかい?」
「いや、生徒会室で昼食をとることになってね」
「4人とも?」
「達也と浩だけ」
「なに?、聞いていないぞ!」
「今朝聞かされたことで……学校内のメールアドレスに送付されるって言ってたわよ。断ることもできる。っぽいかも?」
そこで美月さん、なぜに、疑問形なんだ?
達也の雰囲気が重たいというのは、なんとなくわかる気はする。なんせ自分も気が重たい。
メールの話もあったので、そのまま席について端末にIDカードを入れてメールのチェックをすると、七草生徒会長からメールが到着していた。
「あっ。確かにメールがきている」
エリカの機嫌が格段に悪くなったような感じはするが、まわりからのつっこみはないので、生徒会室へ昼食にいくかどうかの話はせずに、話題をかえることにした。
「今日の午後は実習授業があるんだよな」
「そうだった」
レオが話にのってきたので、
「やっぱり受験の時に使ったのと同じなのかな?」
「普通に考えるとそうだろうなぁ」
「あのタイプのCADって苦手なんだよなぁ」
「どういうことだ?」
「誰でも使えるようになっているから、起動式を受け取る時に、個人用と違うサイオン派の余分なところは、余計なノイズとして感じとるから、苦手なんだよねぇ」
「そういうものか。それで、実力を発揮できないとか?」
なかなか、するどいつっこみだ。普通科目においても難関高校としてみられている一高に2科生とはいえ受かっているだけはある。
「それを口実にしてしまうと、魔法師のライセンスは永久にCランクより上は狙えないよ」
そこで、予鈴がなったので各自の席に戻っていくことになったから、七草生徒会長のメールに目を通して、行くかどうか悩むことになった。
まわりに相談していれば、エリカがきっぱりと断ったことがはっきりとわかったのであろうが、そういうことをその場では思いつかずに、生徒会室にうかがわせていただく旨の返信をしたら、そのあとの休憩時間に、エリカが断ったことがわかって自分も断ればよかったとショックだった。
昼休みは、達也が妹の深雪と一緒に生徒会室へ向かうというので、生徒会室の前で待ち合わせて入ることにした。
生徒会室には、深雪、達也、俺の順番で入ったが、深雪の最初のあいさつがとても丁寧すぎて、生徒会役員側が雰囲気にあっぱくされている感じがする。
生徒会室にいたのはちなみに、七草生徒会長、会計の市原鈴音、風紀委員長の渡辺摩利、書記の中条あずさに、この場にはいないが副会長の服部っということで、今回の俺は末席で中条先輩の前に座ることになった。
昼食は多少の茶々入れなどもあったが、学生生活の話とかでおだやかに進み、そのあとは本来の用件ということで、深雪が生徒会役員へ招かれたというところだが、ひと悶着があった。深雪が達也の生徒会役員入りの提言があったのだ。そこで、達也の入試での成績が七教科の平均96点でダントツのトップということで、頭はよさそうだが、そこまで良かったとは思いもしなかった。
あと、それにしても、入学してそうそうに生徒会役員って指名されるものなんだっと思って、他人事のように聞いていたけれど、次の発言には多いにびっくりさせられた。
「ところで、摩利。生徒会からの風紀委員枠からは達也くんか浩くんを考えているのだけど、どう?」
その話を聞いた時に
『あっ頭が痛い。風紀で取り締まられることはあっても、取り締まる方なんてにあわないぞ』
それと
『昨日の七草生徒会長の覚えておくとかの発言はこのことを考えていたのか』
とも思ったりしていると、達也が風紀委員とは何をするものなのかを聞いてくれていた。
要は『一高内の警察』みたいな役割らしいが、達也のひとことがすべてを物語る。
「俺は実技の成績が悪いから2科生なんですよ」
『達也と同じ』っと言いたいが、昨日は鏡(正式には明鏡)の古式魔法を見せてしまったからなぁ。
けど、言うだけ言ってみるか。
「俺も、実技が悪かったから、2科生なんですけど……」
そこで、昼休みもおわることだし、続きは放課後ということになってしまった。
午後の授業は教育用の据え置き型CADを使った実習だ。
CADは両手を置くタイプで、各種の教育実習や、入学試験もこのタイプだったが、この部屋にあるのは5台だ。
それでも、授業には教師がつかないので、適当に列ができあがり、その中でここのところ一緒にいる皆といたのは、必然だったのかもしれない。
俺がレオの後ろにならんでいると、達也の背中をつついているのが見えた。
「達也。生徒会室の居心地はどうだった?」
「奇妙な話になった……」
エリカが口をはさみ
「奇妙、って?」
「浩か俺に風紀委員になれ、だと。いきなり何なんだろうな」
そこに俺が口をはさんで、
「達也の場合は、あの話の流れからみると、入試の筆記テストが良かったから、いれたいんじゃないのか?」
「風紀委員の性質からみると、実技が重要だろう。なら、昨日の魔法の発動速度から、浩は適任かもしれないが」
「俺のイメージには、風紀委員につかまるイメージしかないんだよなぁ」
冗談で話を濁して、それぞれが授業用CADの感触を確認していた。
そして放課後は、生徒会室前で司波兄妹をまってから一緒に入ると、一人の男子から敵意にも似た視線を感じたが、それも一瞬で、すぐに目をそらされた。昼食にはいなかった服部副会長であろう。
その中では渡辺風紀委員長が
「真由美、2人を下へ連れて行ってもいいんだよな?」
「後で判断をきかせてね」
「じゃあ、2人とも行こうか」
2人というのは、達也と俺を指しているのは渡辺風紀委員長の視線でわかるがそこで、
「渡辺先輩、待ってください」
服部副会長が話にわりこんできたのだ。
「2科生は実力が劣るから風紀委員に向かない」
その言葉にカチンときたが、ここは生徒会室ということもあり、おとなしくしていた。
服部副会長と渡辺風紀委員長が主に話をしている中、
「浩くんには相手が起動式を発動させたあとからでも魔法を先に完成させる実力があるし、達也くんには展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある」
「……何ですって?」
『七草生徒会長だけではなく、渡辺風紀委員長にもみられていたのか』ってのが正直なところだが、2科生でも能力の一部に特化しているのはよくあることなのだろう。
そのあたりにはふれられずに、服部副会長が七草生徒会長に
「司波達也と芝崎浩の風紀委員就任に反対いたします」
ここまで自信があるとはたいしたものだが、特に風紀委員になりたいわけではないので、黙っていることにした。
そうした中で深雪が
「僭越ですが副会長、兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適合していないだけのことなのです。実戦ならば、兄は誰にも負けません」
「達也が実戦で誰にも負けないかは置いとくとして、実技テストと実戦は別物っていうのには賛成ですね」
つい、俺も深雪の言葉に悪乗りしてしまい、続けて
「何なら、服部副会長との模擬戦と、さらに達也との連戦なんていうのはいかがですか?」
この悪乗りに周りは冷静さを取り戻したが、ただ一人の例外がいた。
「思い上がるなよ、補欠の分際で!」
「その補欠の一芸を受けてみる覚悟はおありで?」
俺自身でも悪乗りのしすぎはあると思っていたが、
「……いいだろう。身のほどをわきまえることの必要性をたっぷり教えてやる」
そこですかさず、七草生徒会長が
「私は生徒会長の権限により、2年B組・服部刑部(ぎょうぶ)と1年E組・芝崎浩の模擬戦を、正式な試合として認めます」
「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、2人の試合が高速で認められた課外活動であると認める……それから、その勝者の発動する魔法の起動式が何であるのか、司波達也の能力の確認をしたい」
「それもいいわね。摩利」
そうしてなし崩し的に、達也も巻き込んだ形ではあるが、服部副会長の実力は昨年の九校戦よりどれぐらいあがっているかが勝敗の決め手かと、取らぬ狸の皮算用をしていた。