魔法科高校の鏡の魔法師   作:烏鷺烏鷺

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来訪者編 1

3学期初めの日の2時限目と3時限目の間の休憩時間。

USNA(俗称はステイツ、アメリカ)へ留学していった雫のあとにやってきた交換留学生の噂話で盛り上がっていた。

主にエリカが伝え聞いた伝聞が中心だったが、美少女ということで興味がわかなかったら嘘になる。

しかし幹比古が二高、三高、四高でもUNSAからの短期留学生の受け入れがあったというところでは、ため息をつきたくなった。

芝崎古流柔術道場でも魔法大学に通っている門下生はいて、共同研究の名目でUNSAから人材が来ていることまでは知っていた。

これはエリカのところも同じだったようで、幹比古の話から大学の件については語っていた。

そして毎度のごとくというかレオが

 

「じゃあA組の留学生もスパイっていうことか?」

 

「あんたねぇ……」

 

「……少なくとも大勢がいる場で言う言葉じゃないなぁ」

 

エリカに続いて俺が言った内容だが、レオが言ったスパイというのはあたっていると思う。

まさか高校生に扮してまでやってくるとは思わなかったが、『灼熱のハロウィン』に関するスパイだろうとは思う。

本来かかわりは無いはずだが、A組には深雪がいるから生徒会副会長ということもあり、留学生と行動することも多いだろうから、遠くない時期に会うことになるだろう。

こういう場合、諜報活動の専門家に聞くのがいいのかなぁと思いながら、たまにさぐりにきている、とある人物を思い浮かべていた。

 

 

 

その日のランチタイムに、学食で待っているのは灼熱のハロウィン以降から1名減った1-Eの達也、レオ、幹比古、エリカ、美月に俺で、田中裕子は昼食は、っというより達也を避けるようになった。

論文コンペで退治した相手の腕を斬ったことに顔色ひとつ変えずに行ったことからくる、暴力をふるう者に対しての拒絶反応だろう。

そういう意味で、美月がこのグループに残っていられるのは、希少な存在かもしれない

その他のメンバーは、何かしら魔法師としての教育を幼少から受けているらしいので、ある程度の耐性はあるのだろう。

そしてこの席に来たのは1-Aから深雪とほのかに、見知らない深雪の横に並んでも見劣りしない美少女だが噂にきく交換留学生だろう。

ほのかから隣に座った金髪の美少女に向きながら、

 

「達也さん、ご紹介しますね。アンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もうお聞きのこととは思いますけど、今日からA組のクラスメイトになった留学生の方です」

 

達也だけに紹介をしたので、他のメンバーにも再度紹介するというお約束はあったが、アンジェリーナはリーナで、略称は無しということもあり、こちらがわは各自の自己紹介からタツヤ、エリカ、ミヅキ、レオ、ミキ、ヒロとして覚えられた。

他には、リーナが九島閣下の弟の子孫だということがわかったぐらいか。

 

 

 

新学期が始まってから翌週の放課後。

風紀委員会本部へレコーダーを取りに行くと、珍しく大勢の風紀委員がいた。

大勢と言っても5人だから、俺自身を入れて6人は今の風紀委員のフルメンバーと同じ人数だ。

異なるといえば、森崎がいなくて金髪の美少女が見えることである。

あいさつだけしてレコーダーをとって胸ポケットに入れている最中に風紀委員長の千代田先輩から

 

「あっ、芝崎くん、チョッと」

 

「はい。何ですか?」

 

「こちら、シールズさんのことは知っているわよね?」

 

「ええ」

 

「シールズさんから風紀委員会の活動を見学したいって言われているの。日本の魔法科高校の生徒自治を見てみたいんですって。芝崎くん、今日当番でしょ? 彼女を連れて行ってもらえない?」

 

今この場にいる風紀委員は、風紀委員として正規の手順を踏まないメンバーばかりだ。

森崎がいればリーナとは同じクラスだし、正規の手順も実施しているから、そちらがいいのだろうが、このメンバーを見て断るという選択肢はなくなった……ような気がする。

 

「了解です」

 

経験上一番トラブルに遭遇していないルート……巡回すると2回に1回ぐらいはトラブルっというか確証はないが2科生である俺が風紀委員をしていることの嫌がらせだと思われるものに遭遇する……を今日は選択して、巡回したところトラブルに遭遇はしなかった。

交換留学生でとびきりの美少女に変なところを見せたくなかったというところだろうか。

美少女と2人っきりで歩いているといえばはた目からはうらやましいかもしれないが、さらに歩いていれば嫉妬のまなざしで、針のむしろに座らされている気分といえばいいのだろうか。

リーナからのチラチラと来る視線……本人は隠しているつもりだろうが、状況が異なるとはいえ論文コンペの時の尾行者より下手といえよう……は多分スパイ活動の一環だと思われるが、『灼熱のハロウィン』とはまるっきり関係ないんだけどなぁっと思いつつ、実験棟の端にある昇降口を降りて行くところでリーナが足を止めて話ことになった。

 

リーナが聞いてきたのは「Arternate(補欠)――二科生」であることの確認と、「キャノン(千代田先輩のファーストネームである花音だろう)から、一高でもトップクラスの実力者」だと聞いたとのこと。

 

「ヒロ、なぜ劣等生のフリなんてしているの? 劣等生のフリをしていて、なぜ簡単に実力を見せちゃうの? ヒロのやってることって凄くチグハグで、どうしてそんなことをするのか分からないわ」

 

「千代田先輩からの評価はありがたいけれど、劣等生というのはフリではなくて、事実だよ」

 

これだけでは、言葉が足りないというのは分かっているのでさらに続けて

 

「学校での評価基準は、魔法師としての国際基準と同じだから4系統8種、現代魔法の特徴である速度が重要視される。だけど、俺の魔法特性は偏っているから、学校の評価基準からみると劣等生であることは確かだよ。だけど風紀委員として評価されるのは、大抵は問題を起こした相手の実行力をなくさせる実力でね。その能力に優れているから、千代田先輩は一高でもトップクラスだと評価してくれているんだと思う」

 

「……試験での実力と、実戦の実力は別物だ、という意見にはワタシも賛成よ。ワタシも、学校の秀才じゃなくて、実戦で役に立つ魔法師になりたいと思っているの」

 

リーナの気配から闘気が沸き立つのが感じられる。

 

「なにをする気だ?」

 

「分かるのね。すごいわ」

 

日本の古流武術の流れをくんでいるのなら、ごく当たり前の技能なんだがなぁっと思いつつ、リーナが右手の掌底が俺の顎にめがけてきたので、暗器などを考慮されてたたきこまれている必要最小限の回避行動と、リーナの右腕をつかんでひねっている。

それでは終わらずに、リーナの『意気』……体内のサイオンの流れ……が右手の指先に集まってくるのがわかったので、羂索(けんさく)でサイオンノイズを流して、リーナの行おうとしているなんらかの魔法の邪魔をした。

 

「なにをしたのよ!」

 

「こっちの方が、何をしたかったのかって聞きたいが……古式魔法師がイギリスで集まって定義した用語としては『サイオン・ジャミング』だったかな。その術式の一種だよ。それで、何をしたかったのかききたかったんだけど」

 

「その前に放してくれないかしら。この体勢はチョッと恥ずかしいし」

 

ここは人気が無いとはいえ、他人がみたら、俺がリーナに無理やり迫っているようにみえるかもしれないと気がついて、放すことにした。

 

「行おうとしたのは、単なるサイオン粒子の塊を放とうとしただけよ。物理的な殺傷力なんてないわ。せいぜい、銃で撃たれたみたいな幻痛を感じる程度よ」

 

俺は別な意味で頭が痛くなってきた。

 

「ステイツの高校では異なるかもしれないが、実際にそれを発動したら、一高ではそれだけでも風紀委員の取締り対象だよ」

 

「分かった、分かりました。ご無礼をお許しください。ヒロさま」

 

俺はリーナが普段と違うので

 

「いいよ。それから普段通りにしゃべってくれないかな? そのような上品な態度をとられるとリーナじゃないように感じる」

 

「ワタシの何処が上品じゃないと言うのよ!」

 

「今まで見かけた態度と違うからねぇ?」

 

「それは……これでも大統領のお茶会に招かれたことだってあるんだから!」

 

「へぇ、大統領ねぇ」

 

その時、あきらかにリーナはしまったという顔をしていた。

魔法師は武器をもたずに殺害なども可能なので、UNSAの大統領に会える魔法師は限られてくる。

リーナのことを単純なスパイだと思っていたが、今まで考えていたより大物だということを認識しなおしたところで

 

「はめたのね……?」

 

「それは、いいがかりだと思うけど?」

 

リーナがにらみつけてくるだけだったので、最初の疑問に立ち戻って

 

「それで、最初にしたことの説明をしてくれないかな?」

 

「……ヒロの腕を知りたかっただけよ」

 

「俺の腕をねぇ……まあ、いいか」

 

「えっ……?」

 

「リーナが本当に知りたい人とは俺は違うだろうし、多分一高生でもないだろうからねぇ」

 

「……嫌な人ねぇ」

 

嫌には複数の意味をこめているのだろうが、もう付き合うつもりはなかった。

 




『サイオン・ジャミング』は造語です。
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