◆◇◆◇◆◇
「大丈夫ですの?」
「ああ……」
昼休み。鈴の登場で、色々と考えていた箒の頭には、今日5回ほど頭を千冬に叩かれたあとが残っていた。セシリアが気にかけてやるが、箒は頭を押さえながらも大丈夫と言う。
あいつのことも気になるし、ブラックモアとは話し辛いし、今日は本当に最悪だ。一夏が後ろから声をかけ、一緒に昼食を誘ってくれたので、それに乗るが、それでも悩みは解消はされない。
食堂に行っても、悠李の姿は見当たらなかった。いるのは鈴のみ。一夏と鈴が同席し、二人の関係を一夏が話す。
「ああ、箒がファースト幼馴染みで、鈴がセカンド幼馴染みだな」
「ファースト……!」
「ネームセンスの欠片も感じられないねェ」
「ラグナ、どこいってたんだ?」
「ちょっと電話してただけさね。んで、セカンド幼馴染みさんとファースト幼馴染みさんが一夏を狙って協定締結かい?」
「なんで俺?」
すうっと現れるはいつもの悠李。今朝の事など微塵も感じさせないその態度。彼にとっては些細な事らしい。
彼が現れた途端、セシリアの顔が明るくなった。箒とは何かあったのだろう、と気付いていたのだ。
「因みにラグナ、どんな電話だったんだ?」
「GWにヨーロッパスイーツ選手権出ねえ?って親父が」
「おおっ、それ世界生中継する奴じゃん!出んの?」
「無論出るけど?」
「スイーツ!!甘そうな響きが……」
「現地で見てもいいかもね」
こんな話をしていても、箒がどこか浮かない顔をしている。悠李は箒の背中を叩いて、注意をこちらに向けさせた。
「な、何をする!?」
「やっと元に戻ったねぇ」
「はっ?」
「ぼーっとしすぎだぜ、今日の箒は。だから千冬姉にあれだけ叩かれるんだ」
「だから気合いを注入してやったわけ。篠ノ之さんはいっつもムスッとしてるのが似合ってるからさ」
「ムスッとしてて悪いかっ!」
「いんや別にぃ。じゃ、僕用事有るから」
「おいラグナ、メシは?」
「後で食べるからいいよ」
いつも通りの箒だ。悠李はその場から足早に立ち去り、人気のなさそうなところへ向かう。
「なあ箒。お前、ラグナと何かあったのか?」
「人かどうか疑って、胸倉を掴んだ挙げ句、あいつの手を傷付けた」
「あー、なるほど。でもあいつ、そんなこと気にしないだろうよ」
「だが」
「お前が気にすると、あいつも気になるだろうが。だから忘れろ
って」
何故かその言葉を信じることが出来る。恐らく、ラグナと一夏が、かなり深い絆で結ばれている親友だからだろう。その親友が胸を張って言っているのだ。
箒はその言葉の通り、今朝の事を出来る限り忘れることにした。悠李の気を害したくもない。ましてや自分を無意味に追い込みたくもない。
◆◇◆◇◆◇
午後の授業も終わり、放課。いつもの様に一夏の練習に付き合い、軽食のおにぎりを食べながら、ルーズリーフにレシピを書き込む悠李。脇でレシピを見ていたセシリアが覗いて、「美味しそうですわね」と言う。
お菓子作りは趣味だ。悠李はイメージを膨らませ、飴細工を駆使して芸術でも作ろうかと考える。白鳥なんかどうだろう、とか、薔薇なんて綺麗じゃない?とか、頭の中がそれでいっぱいになる。
「うーん、アイデアに欠けるねぃ。一夏、右半身力みすぎ」
「よくわかるな?」
「筋肉の動きでわかるさ。セシリア、教えてあげて」
「はい」
セシリアも大分扱いやすくなったものだ。レシピを一旦しまって、一夏の為のルーズリーフを作ってやる。彼の特長、弱点などをきめ細やかに書き込んだノートだ。
カリカリと見ながらペンを走らせていると、練習場に先程入ってきたと思われる鈴が悠李に近付いてきた。
「一夏は練習?」
「ああ。あいつはまだトーシロだからさ。だから代表候補生さんと僕と、時々織斑先生で、あいつにレクチャーしてるんだ。今は動かし方の練習だね」
学校のトラックの様な地面に、一夏がバランスを崩して倒れる。ゆっくりと歩いて、一夏を起こしてやると、はははっと笑って一夏はごまかした。
「なによアンタ、そんなんで私の相手が勤まるわけ!?」
「ああ、代表戦だっけ。一夏がデザートの為に戦うやつ」
「め、面目ない……」
「来週でしたわね、確か。間に合うようにはしてみせますけど」
来週で間に合うのだろうか?少し心配ではある。今から少しだけ、戦闘技術を教えた方がいいかもしれない。
ドレッドノートを展開し、天上天下を抜く。一夏がどうした?と話し掛けると、悠李は自分の考えを伝えた。
「なるほど」
「ということだから、少し席を外してくれないかな、鈴さん」
「別に構わないわよ。ま、アンタが何を仕込もうが、私が勝つけどね」
自信に満ち溢れた声。確かに、鈴の方が一夏より何枚も上手だろう。
だが、こちらとて、戦闘のプロフェッショナルだ。甘く見られたくはない。鈴の姿が見えなくなると、悠李は天上天下を構え、一夏に言った。
「この前のセシリア戦、逃げるのは上手かったじゃないか」
「ああ、お前のおかげで」
「それに、君は今、基本的な動かし方も知っている。なら、次にすべき事は、戦い方のマスターさ。抜き身のそのビームサーベルで、僕と斬り合おう」
「ん、わかった」
ゆっくりと剣を振りかぶる悠李に、一夏がそれに対応するように雪平弐型を展開した。切っ先を悠李に向け、力を入れて振り切った。
身をくるりと回転させ、刀身を避けると、すぐさま懐に入り、回転斬りをお見舞いする。悠李の真似をし、一夏も身体を回転させると同時、雪平も振り回し、剣を弾いた。
「ぐうっ、重い斬撃だ!!」
「これをかわす!やるね。近接戦闘の基本は、如何に自分の間合いに引きずり込んで戦うかだ。君のその動きは正解」
「なら、相手の間合いを掌握しちまえば……!!」
調子に乗った一夏。手を忙しなく動かしているのが証拠だ。無論、近距離は悠李の間合いでもある。剣で受け流し、カウンターとして腹部に脚を突き入れた。なるほど、剣の他に、武器は五体ということか。
「剣だけで戦うわけじゃない、って事か」
「御名答。四肢をフル活用して戦う。これも基本だね」
「なるほど……じゃあ、こういうことかっ!!」
一夏が雪平を突き刺す様に突進してきた。ひょいと悠李はかわして、すれ違い様に腹部に当て身を放つが、一夏がそれを手で受け止め、捻ろうとした。感触でわかり、すぐさま拳を離し、回し蹴りを当てようとするも、距離が足らず、当たらない。
「へえ、マシになったなぁ」
「でも、本気モードじゃないんだろ?俺は本気で今やってるけど」
「本気だったら、5秒に3回落としてるよ」
この前の、両足の真空刃"蛇の顎"を、20%で放たれて、掠っただけでエネルギーの半分を持って行かれているのだ。本気だったら、白式ごと真っ二つになっているだろう。
「どうだ、一夏。ブラックモアから、何か教わったか」
「千冬姉。今教わってるところだよ。近接戦闘での戦い方だって」
「なるほど。剣でなく、体術のテクニックまでも教わったか」
白いジャージに、竹刀を持って、薄く笑みながら練習場に入ってくる千冬。悠李が「お疲れ様です」と挨拶すると、「君もな」と彼女は返した。
そういえば、この人は、
この雪平一本のみでISの世界大会"モンド・グロッソ"の初代覇者になったんだっけ、と悠李は思い出した。彼女の弟なら、それを極めた方がいいだろうが、近接の簡単な小技を教えてやれば、戦闘力は軒並みアップする。
「どれだけになったか、見せてもらおうか」
「いいですよ。一夏、続きだ」
「ああ!」
実の姉の目の前なのか、少し張り切っているようだ。悠李はふっ、と笑い、一夏に突進する。
「じゃあ、ちょっと力を出していくよ」
「おし、こい!」
一夏に斬り払いをするも彼は避け、同時にカウンターで雪平で悠李の腕を狙う。悠李は斬り払った慣性を生かし、身ごと回って剣で防ぐ。一瞬だけ悠李は剣を離し、顔面に緩く蹴りを放つが、一夏は腕でそれを受け止め、スラスターを吹かし、悠李の鳩尾に肘鉄を叩き込んだ。
咄嗟に平手で肘を受け止め、天上天下を一夏の喉元に突き付ける。勢いのまま雪平弐型で天上天下の刀身を振り払おうとするも、逆に天上天下で弾き返された。シールドがあろうと、ここを突かれたら、絶命だ。
「お見事ですわ」
「うむ、ゼロクロスで、力を抜いたブラックモアにそれだけ戦えるとはな」
「次は移動攻撃ですかね。織斑先生の十八番の、瞬時加速(イグニッション・ブースト)からの、零落白夜で一撃必殺でしょうか」
瞬時加速。悠李が、代表決定戦で一夏と戦ったときに見せたものだ。スラスターからエネルギーを放出し、それを取り込み、爆発させた勢いで、瞬時にトップスピードを得る。悠李は物理的な思考からこれを思い付いたのだが、簡単に出来るものではないらしい。
「さあ一夏、エネルギーをスラスターに」
「こういうことか?」
眩しい光が一夏の背中から発せられる。すぐに取り込まないとエネルギーは霧散してしまうだろう。案の定、上手くコントロール出来ず、空気にエネルギーを撒いてしまった。
「難しいな……。よく出来たな、お前」
「まあね。これは理論より、イメージとフィーリングが大事だよ。簡単なイメージとすれば、アーチェリーだね」
「ほう、確かに上手いイメージだな」
「なるほど、大体判りましたわ。矢は、ギリギリまで引っ張ってから放ちますものね」
「そう。ビリヤードでもいいね。自分が打ち出されるイメージ」
「おっ、大体掴めてきたぞ、こうだな!」
エネルギーを弓矢に見立てる。外界に出るギリギリまで引っ張り、"弦"を離すと、スラスターの炎とエネルギーが小爆発を
起こし、身体が思い切り前へと突き飛ばされた。
「やりますわね、流石、織斑先生の弟です」
「そう褒めてやるな、アイツが天狗になる。だが、確かによくやったな」
「褒めて伸ばすのが、僕のスタンスなんで。一夏、それが出来たら、とっておきの一撃を教えてあげるよ!」
空中でドレッドノートを解除し、剣をプロペラの様に回して、ゆっくりと地上に降り立つ。一夏も大地に足を付け、悠李に近付いた。
天上天下無双剣は、まだ展開したままである。どうやら、剣の技らしい。一夏とセシリアにとっては、初の悠李の剣技である。
「どうってことはない、只の突進突きなんだけどね。かなり高威力だし、使い勝手もいいから教えておくよ」
そう言った直後だ。悠李は土の地面を思い切り蹴った。片手で剣を持ち、もう片手を剣に添えた。猛スピードで10m程進んで、右ストレートを打ち出すように、剣を突き出した。蜂の針の様な、鋭い一撃が、空気を刃と化し、また暴風を生み出す。
悠李の進路上には、靴の轍と、砂埃。踏み出した地点には、30cm程の穴が空いている。
「スティンガー。僕はそう呼んでる」
「人を殺せるレベルの技だな、それ」
「IS着てんだから死なないっしょ。瞬時加速で、同じ事が出来る筈さね」
一夏にとっては、必殺の一撃。なぜなら、千冬もこれを使っていたからだ。悠李がこれを完全にコピーし、改良した、と一夏は感じた。
だが、実際は、悠李がオリジナルなのだ。更に言えば、悠李の父、創龍の十八番。
「懐かしい技だな。思わず回想してしまうよ」
「ああ、千冬姉がオリジナルだからな」
「シンプルイズベスト、それを体言した技ですわね」
「いや、オリジナルは、私じゃない。ブラックモアの父親だ」
「はへ?」
「御祖父様から受け継がれた、歴史ある技ですからねえ。親戚一同、これを使ってますよ」
そのカミングアウトに驚いたのは、一夏とセシリアだけだった。