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「やっぱり、まだ鈍ってるなぁ……」
練習場にて一人残り、制服で天上天下を振り続ける悠李。人もそこまでいないので、思い切り振れるのだが、彼自身が不満そうな顔をしながら剣を振っているのを、偶然通り掛かった千冬が目撃した。
剣道を習っていた千冬だが、悠李の我流の剣技は、とても流麗で、まるで蝶が舞っているかの様な剣裁きだった。
やはり創龍の息子。剣筋が彼と瓜二つ。彼に教わったのということがわかる。白騎士事件での、彼の剣技も美しく、力強かった。そこから色々と技を盗ませて貰ったのも懐かしい。
「一人残って剣の練習か。精が出るな」
「織斑先生。ちょっと、さっきの一夏との組み手で、改めて鈍りを感じてしまいまして」
「なるほど。確かに、こんな平和ボケした国じゃ、鈍ってしまうのも頷けるよ。悪魔も、暫く狩ってないんだろう」
「そうですね。1ヶ月くらいはヤってないですね」
風を斬り裂きながら、千冬と話をする悠李。彼は日本刀――閻魔刀もあった筈だ。二刀流こそが彼の真骨頂だと思うが、本人が一刀で振るっているのだから、おそらく違うのだろう。
一つ一つの武器を使いこなす。臨機応変の戦い方。リアルタイムに応じてスタイルを変えていたのは創龍も同じだった。
夕日の陽を、天上天下の刃が反射し、キラキラと剣の軌道を描く。常人の眼には最早このスピードは視認できまい。
「悠李くん。君は、いくつから剣を振っているんだ?」
「さあ?気付いた時から、既に剣を振ってましたよ。父さんが言うには、12年は振っているらしいです」
「通りで。私や、一夏や箒とはレベルが違うわけだ……」
「"剣道だったら"負けますよ。僕はルール知りませんし。ただ、"剣術だったら"、父さんやダンテ以外には負けません」
「剣道でも負けるだろうな。指導者の質と、才能が違う」
「才能なんて、いくらでも努力で埋められますよ。現に一夏やセシリアを見てご覧なさい。彼等は努力が実力だ」
手の平を縦にし、それに剣を平行にして回転させる。プロップ&シュレッド、という技らしい。風の音程が高くなり、千冬の髪を風が揺らした。そのまま背中に剣を背負うと、千冬に向き直り、話し続けた。
「かく言う僕も努力を積み上げてここにいる。どんな才能の持ち主であれ、延ばす努力をしなければ潰れますよ」
「フッ、説得力ある言葉だ」
最近、千冬の表情は柔らかくなった気がする。そんな長い付き合いではないのだが。恐らく勤務時間外はこんな性格なのだろう。
天上天下を体内に収納し、寮に戻ろうか、と悠李は千冬と共に歩き始める。だが、突如襲った違和感が、悠李の足を止めた。
――あの匂いか。
悠李が口角を吊り上げる。まるで待ち望んでいたかのように。千冬がそれに気付き、どうかしたのか、と聞くと悠李はデスイービルを取り出し、肩越しに撃った。
「久しぶりの、狩りの時間です」
「ほお……?二代目、君の力が見れるのか」
天上天下を仕舞って間違いだった。またもやそれを展開して、後ろの、角が生えた、黒い毛むくじゃらの、異形の怪物に対し、切っ先を向けた。
数はおよそ7体。眉も釣り上がり、楽しめそうだ、と悠李は呟き、剣を振りかぶりながら突っ込んでいった。
千冬にとっても、久しぶりの光景。10年前にも、同じようなことが起きたのだ。創龍の無双の強さ。それに眼を奪われた当時の自分。どれをとっても懐かしい。
「3分で終わるな」
一体、頭から腰まで一刀両断。身を屈めて打撃をかわし、開いた左手でデスイービルを放つ。零距離で放たれた60口径が頭に大きな穴を穿ち、そこから噴き出す赤い血ごと、ハイタイムという技で斬り上げた。
バックジャンプで飛び上がり、空中を踏み込んで、進みながら浮かせた敵に横凪ぎ一閃。胴から二つに分かれて、それらが地面にぼとりと落ちた。土に着いた瞬間物質が消え去り、血が結晶となって悠李の身体に取り込まれる。
剣を背負い、空中からの射撃。M500を片手に、急所をピンポイントで狙って引き金を引く。サイティングショットというらしい。見事命中させ、3体を屠り、剣を突き出しながら、1体に突進。スティンガーだ。敵が吹き飛びながらも、別の1体に天上天下を突き刺し、閻魔刀を取り出した。
――ついに、十八番の抜きが見れるか。
創龍仕込みの、雷速の抜刀術。しかも、それは物質を斬るのでは無い。空間の次元を斬るのだ。
柄に手をかけたと同時、暗黒の斬撃の球体が悪魔を飲み込んでは無尽に斬り刻み、物質そのものを消滅させてしまった。噴き出した血が地面を汚すが、その朱も消え、小さな結晶も悠李の中に入っていく。
残り一体。足で頭を踏み付けながら天上天下を抜き、刺さらない位置で、剣を突き出した。足を離して、剣を仕舞い、千冬の元に戻り、寮に帰りはじめる悠李。
「とどめは刺したんで、帰りましょう」
背を向けたのをチャンスと狙ったのだろう。悪魔は悠李の背中目掛け、醜い大顎を開き、噛み付こうとする。
悠李はにやりと笑い、指をぱちんと弾いて鳴らした。その瞬間だ。
キュンッ、という、機械の駆動音がした。それに伴って、悪魔に無数の風穴。断末魔の叫びすら上げられず、奈落へと落ちていく。
――なんだ、今の技は!?
創龍でもあんな技は使わなかった。まるでマシンガンで開けた様な穴。いや、それよりも細かい穴だ。
「ビリオンパイクス。親父には無い、僕のオリジナル技ですよ」
「……流石だ。鳥肌が立ってしまうほど、素晴らしい」
どこが鈍っていたというのか。逆に腕が光り輝いているように見える。これこそが、努力の差か。いや、努力ではどうにもならない域の技だろう。
冷や汗すら下着に染みてしまっている。この力に恐怖し、興奮してしまっている証拠だ。この強かさがあるから、この神威悠李が、人間として好きなのだ。
「やはり、人生は面白い」
「想定外の物があるから、ですか」
「そうだ。君みたいな想定外の存在がいるから面白いし、憧れる」
「平凡が一番ですよ。僕は、幼馴染みと平穏に過ごしたかったですし。でも、IS学園の生活は楽しいです」
二人の人生は、今、かなり充実している。
「……(なんだあの化け物!?てか、ち、千冬さんがブラックモアと!?ていうか悠李って誰だ!?偽名か!?)」
一人、偶然に通り掛かった剣道大好きポニテ女子は、盛大に勘違いしていたが。
◆◇◆◇◆◇
千冬と寮で別れ、部屋で制服を脱いで、ワイシャツで食堂に向かう。向かうついでに上着をランドリーにぶち込んで、食券で最近のお気に入りの牛丼定食を頼んで、たまたまいたセシリアと本音達と一緒に食事をした。
とても綺麗な箸使いに、イギリス人とは思えない、と皆が声を揃えて言う。が、悠李はそう?と不思議そうに言った。生卵を上から丼にかけ、野菜多めの豚汁を上手に箸で具を取り出す。
「らぐなんって日本人なんじゃないのー?」
「まさかぁ。僕ん家では和食も食べてたからねえ。英仏伊独米露にメキシコ、ブラジル、スペイン。旅行も行ったし食べ歩きまくったし」
「うわぁ贅沢!!」
「儲かる職業に父さんが就いているからね。ボクも時々手伝うんだよね。町の便利屋さんでさ」
「オールマイティですものね」
別に間違った事は言ってない。水道修理や浮気調査、またはドイツ軍のある人間へ漫画の配達。普段はそういう仕事で生計を立てている。
「月収は7万ユーロくらいかな。日本円で800万円。そんで国際企業で、非課税契約を結んでるから」
「年収1億円の計算だよねそれ?無茶苦茶お金持ちじゃん」
「しかもかなり貯金してる。あと募金かな」
「ほえー、便利屋って儲かるってはっきりわかんだね」
悪魔狩りの報酬を加えたら年収は優に1億を超える。時々馬鹿みたいに金を注ぎ込む人間がいるので、そういう人間が多ければさらに収入は1億増える。最早恒例となったデザートのストロベリーサンデーを5個平らげ、上着を取って自室に向かう。ドアを開け、ベッドに向かうと鈴はいない。隣の部屋か、一夏と遊んでいるのだろう。
「元気な子だねい……」
『一夏ぁっ!!』
「って、なんかすっごい音したなぁ……」
大丈夫かな?と悠李が心配する。その心配通り、一夏はSOSを出し、上着をハンガーにかけ、アンダーウェアとスラックスのまま、隣の1017号室に入った。
目の前に広がる光景は、鈴がISを部分展開し、一夏を追い詰めている様子。ストッパーとなる箒はいないのか。取り敢えず、悠李は一夏から鈴を引き離し、落ち着くように制した。
「はいはいどうどう。何があったの?」
「何もくそもありゃしないわよ!あんたったら、女の子の気持ちを踏みにじって?」
「だって、酢豚がどうとかこうとか……」
「毎日味噌汁飲んでくれるパターンのあれっスか、鈴さん」
「味噌汁?」
「そうそう、流石ラグナ。女の子の気持ちをわかってる、ってのにこいつは……」
「酢豚と約束なんて、断片的に言われたってわかんないよ」
鈴も来て早々、手が早い。まさか一夏に"プロポーズ"宣言をするとは。だが、こんな比喩を使ったって、鈍感な一夏には無意味だろう。
対する一夏もフラストレーションが溜まっているようだ。悪いのはこいつなのに、と鈴が呟く。どっちもどっちだろう。悠李は呆れて鈴を引きずり部屋に戻ろうとするが、まだこの二人は言い合っている。
「貧乳」
「ひ、ひ……。言ったわね!言ってはいけないことを、言ったわね!!」
「一夏のバカぁ。そりゃあ、女の子は傷付くよぅ」
一夏の心ない一言に、眼に涙を溜める鈴。それを見て、流石に悠李も、一夏に対して怒らざるをえない。
「はあ、謝りなよ。いくらなんでもそれは酷い」
「言ってきたのはそっちだろ?」
「だからって、女の子を泣かすなよぅ。ガキじゃあるまいし」
「うっ、ごめん……」
「鈴さん、先に部屋戻ってて」
「ラグナ、面倒かけてごめん……」
鍵を渡し、鈴と一夏を離れさせる。隣から、がちゃんというドアの音。一夏に悠李が近寄ると、少し怖い顔をして一夏を見た。
「君が女に鈍いのはわかる」
「鈍い?」
「だけど、心許ない発言は慎めよ。鈴さん、泣いてるぞ」
「だから、わけがわからねえよ。いきなり泣き始めてさ」
「泣かせたのは君なんだよ。身体の侮辱は、その人の親への侮辱だよ?産んでくれたお母さんへの侮辱だよ。作ってくれたお父さんへの侮辱だ」
「あ、ああ」
成長してもなかなか熟しない部分もある。それをコンプレックスとして生きている人間もいる。そういう者でなくても、発言は考えて行うべきだ。
「ま、後で謝りなさいよ?」
「ブラックモア。話がある」
「あ……はいはい。じゃ、ちゃんとしなさいよ」
部屋に、重苦しい顔で入ってくる箒。一言残しつつ、悠李は箒に付いていく。付いた先は、人の少ないロビー。食堂の近くにあるところだ。悠李は自販機に寄り掛かり、箒の話を聞く。
「話って何さね」
「……ユーリ」
「ん?」
「貴様、何者だ。私や一夏らを騙して、何を企んでいる」
「何のこと?」
「とぼけるな」
箒は悠李を睨みつけた。携帯を取り出し、千冬とともに映る悠李、そして背中に映る、血で汚れた天上天下無双剣。片手には、発砲したのにも関わらず、弾丸が残っている。
「二代目。悪魔狩り。貴様がラグナ・ブラックモアではないということはわかっている」
「なかなか面白いことをいうじゃない。その根拠は?このパスポートは、正真正銘、ラグナ・ブラックモアであることを示して――」
「私が付けた傷は、もう跡形もなく無くなっているのにな」
「あちゃー」
マズい。これは流石にマズい。機密事項を知られた自分が迂闊であったし、この体質を見破られては、大問題になる。悠李もしくは箒が、この学園での立場が危うくなるだろう。
はあ、と溜息を付き、悠李は箒を見た。彼女の肩に両手を置き、軽く引き寄せた。
「触れるな!」
「本当の話をしようか」
「手を退け……うっ!」
「なんてね。知られちゃいけないんでね、ゴメンね」
素早く、箒のみぞおちに拳を叩き入れた。彼女は気を失って、悠李にもたれ込む。おぶって一夏の部屋まで運び込み、制服のままベッドに寝かせると、1016号室に戻り、未だ怒りが収まらない鈴の愚痴を聞いてやった。
「あの唐変木……!!今度の代表戦、絶対に懲らしめてやるんだから!」
「なら、忠告はしておこうか。一夏と零距離で組むのは危険だよ」
「どんなレンジでもあいつには負けないわよ!!絶対にボコって、約束を思い出させてやるんだから!」
ショック療法、というやつか。なるほど、それはいい。悠李は頷く。段々とすっきりしてきたようだ。鈴が悠李の許可を得て冷蔵庫を開け、500mLペットボトルの烏龍茶を飲むと、そのまま布団を被って寝てしまった。
「はぁ……。どうすっかねぇ、色々と。僕の仕事無くなっちゃうよ」
聞いていないと信じ、悠李はぼそりと一人漏らした。